ダフニスとクロエ (ラヴェル)

モーリス・ラヴェル(Maurice Ravel, 1875~1937)作曲のバレエ音楽『ダフニスとクロエ』について、解説とおすすめの名盤をレビューしていきます。

第2組曲が有名で人気があります。吹奏楽でも良く演奏されます。

解説

ラヴェルの『ダフニスとクロエ』について解説します。

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作曲からバレエリュスによる初演まで

バレエ『ダフニスとクロエ』は、古代ギリシャのロンゴスによる物語「ダフニスとクロエ」を元にした全3場からなるバレエです。

バレエリュスにより1912年に初演されました。振付は直前に『ペトルーシュカ』や『火の鳥』も手掛けたミハイル・フォーキンでした。指揮は『春の祭典』の初演指揮者でもあるピエール・モントゥーが務めました。初演のあと、パリ・オペラ座のレパートリーに加えられています。

この公演では、ニジンスキー振付によるドビュッシーの『牧神の午後の前奏曲』が衝撃的で注目が集まり、『ダフニスとクロエ』の方は少し影に隠れた格好になりました。

また、バレエリュスは、1913年にはドビュッシー「遊戯」とストラヴィンスキー「春の祭典」を初演するなど、名作が次々と生まれていく時期でした。

「パストラル」バレエ

題材を古代ギリシャに求めており、牧人たちやニンフ、半獣神らが登場します。1600年ごろの「パストラル(田園)」をバレエに取り入れたものと考えられます。

「ダフニスとクロエ」の他にはドリーヴ「シルヴィア」(原作はトルクァート・タッソの「アルミンタ」)も近いものがあり、原作の筋書きも似ています。

「パストラル」とは、ベートーヴェンの田園のページで説明したとおりです。文学、絵画、音楽など、分野をまたがって、ギリシア的なパストラル(田園)を描いた一つ芸術分野ですね。初期のオペラはギリシャへの回帰ということもあって、「パストラル」で始まりました。そういう意味では、新古典主義的な位置づけも感じられます。

あらすじ

『ダフニストクロエ』のあらすじを書いていきます。

1幕のバレエですが、3場から構成されています。ギリシャ神話がベースですが、少年と少女の恋愛物で、恋愛の方法をまだ良く知らない2人が主人公です。筋書きは原作よりシンプルなものですが、ギリシャ神話らしいもので、ドリーヴの『シルヴィア』とよく似ています。

登場人物

ダフニス:主人公の青年、羊飼い
クロエ:ヒロイン、羊飼いの少女
ドルコン:ダフニスの恋敵
リュセイオン:ダフニスを誘惑する人妻
ブリュアクシス:海賊の首領
パン神:上半身が人間、下半身が馬の半獣神

あらすじ

■第1場:午後の神聖な森の牧草地
舞台はニンフの神殿がある神聖な森の牧草地です。春の日に、若い牧人たちが供物をニンフの祭壇に供えています。
牧人の中に恋人である美少年ダフニス少女クロエも居ました。2人はダフニスが15歳の時に出会って恋に落ちました。

牧人たちは踊りを始めますが、少女クロエに心を寄せる牛飼いのドルコンがクロエに迫ります。ダフニスは嫉妬という感情に目覚めます。そして、ドルコンと舞踏の腕を競うことになります。結果はダフニスの勝利でした。

今度は美少年ダフニスが、好色な人妻リュセイオンに誘惑されます。リュセイオンはヴェールを一枚ずつ落としながら踊り、ダフニスは困惑しますが、リュセイオンはからかっただけで去っていきます。

そこで突然舞台は騒然となります。海賊が襲来したのでした。ダフニスはクロエを守ろうと駆け出しますが間に合わず、クロエが海賊に誘拐されてしまいます。ダフニスはショックのあまり倒れますが、3人のニンフが現れてダフニスを生き返らせ、パン神に祈らせます。

■第2場:海賊の野営地
略奪に成功した海賊たちが宴を催しています。
海賊の領主ブリュアクシスは、クロエに踊りを踊らせます。クロエは「哀願の踊り」を踊りつつ脱出しようとしますが、隙がありません。クロエはブリュアクシスに手籠めにされそうになります。
そこにパン神の巨大な幻影が現れ、海賊達は仰天して逃げ去っていきます。

■第3場:夜明け前の神聖な森の牧草地
舞台は第1場の牧草地に戻ります。ここから最後までが第2組曲として抜き出され、管弦楽曲となっています。

クロエは脱出し戻ってきました。ダフニスとクロエは再会を喜びます。老いた羊飼いのラモンは、
「クロエを救ったのはパン神であり、かつてシリンクスへの愛を思い出し、クロエを救い出したのだ」
と教えます。

そこで2人はパン神とシリンクスの物語をパントマイムで再現し、パン神に感謝します。ここでパン神の楽器であるパンフルート(パイプオルガンの遠い祖先)を模したフルートのソロが入ります。そしてダフニスとクロエはニンフの祭壇の前で愛を誓います。

最後は牧人たちが「全員の踊り」を踊り、大団円となります。

親しまれる第2組曲

ラヴェルは第1組曲と第2組曲を編纂(へんさん)しています。特に第2組曲が人気があります。第1曲のパストラル風の世界、第2曲のフルートソロ、第3曲のバッカス風の祭典など、面白い音楽をひとまとめにしたような組曲です。

オーケストラでも演奏されますが、吹奏楽で非常に良く演奏されます。もちろんラヴェルは難しいので、相当レヴェルの高い団体でないと演奏困難だと思いますけれど。ただ第3楽章のノリがジャズみたいになっている演奏が多いですね。これってギリシャ神話なんですよ!

おすすめのCDレビュー

ラヴェル『ダフニスとクロエ』おすすめの名盤をレビューしていきます。

ブレーズ=ベルリン・フィル

ブレーズが描き出す淡く色彩的なパストラル
  • 名盤
  • 定番
  • 透明感
  • 色彩感
  • ダイナミック
  • 高音質

超おすすめ:

指揮ピエール・ブレーズ
演奏ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
合唱ベルリン放送合唱団

1993年3月,ベルリン (ステレオ/デジタル/セッション)

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ブレーズとベルリン・フィルによる演奏です。ブレーズの懐が深く緻密な指揮のもと、ベルリン・フィルは最大限に機能性を発揮して、パストラルの世界を表現しています。ベルリン・フィルはドイツ的な響きから離れ、とても淡い色彩感を表現しており、ブレーズのラヴェル演奏の中でも出色の出来栄えです。録音の音質の良さも特筆できます。

冒頭の静けさからスケール大きく盛り上がり、最高潮ではベルリン・フィルらしいモダンな響きを聴かせてくれます。ブレーズは、ベルリン・フィルの良い面を生かしながらも、パストラル風の淡く色彩的な音楽を紡ぎだしていきます。木管のソロの上手さも別格ですね。

表現は多彩で特に妖艶さの表現が素晴らしいです。鮮度の高さも素晴らしく、合唱が入るとまさギリシアの神々の世界を髣髴とさせます。

第2部に入ると、色彩感抜群でクレッシェンドしてくるとベルリン・フィルらしいモダンでダイナミックな響きです。ブレーズはベルリン・フィルがダイナミックに演奏してもしっかりコントロールしており、緻密にフランス的な色彩感、妖艶さを引き出し、ギリシア風の響きです。

フィナーレも非常に迫力があると同時に、アンサンブルのクオリティが高く、随所に妖艶な響きが散りばめられています。リズム感もシャープで、金管・パーカッションのダイナミックさに圧倒されます

全体的にブレーズの真骨頂を聴くことができ、昔から親しまれてきたクリュイタンス盤と並ぶ超名盤です。

ロト=レ・シエクル

ピリオド楽器が紡ぎだす色彩的なパストラル
  • 名盤
  • 定番
  • 色彩感
  • 壮大
  • ダイナミック
  • 高音質

超おすすめ:

指揮フランソワ=グザヴィエ・ロト
演奏レ・シエクル管弦楽団
合唱アンサンブル・エデス

2016年 (ステレオ/デジタル/ライヴ)

ロトとピリオド楽器オケのレ・シエクルの演奏です。『ダフニストクロエ』全曲の演奏には、とても相応しい響きとなっています。音質は非常によく、ピリオド楽器と言っても現代の上手い演奏です。昔の楽器を使っていてもアンサンブルのクオリティは高いです。おそらく初演当時よりもずっと良い演奏だろうと思います。

冒頭から昔ながらのフランスの柔らかい音色が印象的です。木管ひとつとっても今のはっきりとした音色と異なり、少し曇ったような音色で、音も細いです。例えばファゴットではなくバスーンを使っているのでしょうね。それだけに普通に演奏しても自然とフランス的な芳香が感じられます。そして楽器が増え、トゥッティになったときの響きはまさにフランスのオケの音色です。低音域はまだ楽器が大きくなく、中音域より上が充実した響きで、とても色彩的です。

ロトとレ・シエクルは普通に演奏しているようなのですが、自然とそういった響きになるため、まさにラヴェルが狙った妖艶でギリシア的な響きが自然と紡ぎだされてきます。木管のソロも線の細い音色がむしろ妖艶な雰囲気を醸し出しています。現代のオケがフランス風になるように工夫して演奏していることを考えると、なんだか不思議な感じすらしますね。

後半レ・シエクルの演奏技術の高さがよく分かります。木管のアンサンブルはクオリティが高く、擬音なども上手く演奏して雰囲気を出しています。スケール感はモダンオケの方が上かも知れませんが、この柔らかい響きはまさにパストラルで、ラヴェルのオーケストレーションの凄さを改めて認識させられます。フルートソロも上手く、その後のアンサンブルも宝石箱をひっくり返したような響きです。フィナーレはリズミカルで非常に躍動感があります。金管やパーカッションの上手さとダイナミックさが素晴らしく、ピリオド楽器だからといって物足りないことろはありません。金管・パーカッションに合唱が加わり熱狂的に曲を閉じます

クリュイタンス=パリ音楽院管弦楽団

全編を覆うフランスのエスプリ
  • 名盤
  • 定番
  • 色彩感
  • 芳醇
  • フランスの香り

超おすすめ:

指揮アンドレ・クリュイタンス
演奏パリ音楽院管弦楽団
合唱ルネ・デュクロ合唱団

1962年6月1、4-8日,サル・ワグラム (ステレオ/アナログ/セッション)

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ラヴェルの「ダフニスとクロエ」は、神秘的でギリシア的な音楽であり、内容も充実しています。同じフランスの指揮者クリュイタンスがパリ音楽院管弦楽団を指揮した「ダフニスとクロエ」全曲は、フランスのエスプリに満ちた名盤です。全編がフランスんのエスプリで覆われています。ちなみにフランス的というのは、気品があるとか、透明感があるなどとは少し違います。フランスの音楽というのは、非常に個性的で個性を大事にする部分があるんです。

クリュイタンスは「ダフニスとクロエ」のパストラル的な性格をよく表現していると思います。明るく淡い色調というか、「ダフニスとクロエ」はギリシャの物語なので、ギリシャの古代遺跡にイメージが飛んでしまう演奏家もいるようですけど大分違います。ラヴェルは画家フランソワ・ブージェのようなパストラル的な世界観を持っていたようです。

パリ音楽院管弦楽団の演奏技術やアンサンブルに不足を感じないことですね。むしろ、パリ音楽院管の良いところが前面に出ていて、とてもフランス的で柔らかい色彩感に満ちた響きを聴くことが出来ます。今のフランスのオーケストラからは失われて久しいので、貴重な録音です。

難しい曲なのですが、クリュイタンスのおかげなのか、最後のダンスも盛り上がって終わります。

デュトワ=モントリオール交響楽団

高音質による透明感とオケの上手さによる躍動感
  • 名盤
  • 定番
  • 透明感
  • 色彩感
  • クオリティ
  • 高音質

おすすめ度:

指揮シャルル・デュトワ
演奏モントリオール交響楽団
合唱モントリオール交響合唱団

1980年8月,1981年7月,1983年7月,モントリオール(ステレオ/デジタル/セッション)

デュトワ=モントリオール交響楽団は、高い技術と透明感にあふれたサウンドで、現代の「ダフニスとクロエ」の定番といえると思います。クリュイタンスに比べてしまうと、技術的には圧倒的に勝っていますが、雰囲気が少しクールかも知れません。ラヴェルの書いたスコアにしっかり向き合い、そのオーケストレーションを高いレヴェルで具現化した名盤です。

モントリオール交響楽団の弦の色彩感と透明感、木管のしなやかさ、金管の上手さは際立っており、アンサンブルのクオリティは高いです。終曲でのリズミカルな躍動感は他の演奏では聴けないレヴェルに達していて、録音も高音質で、とても聴きごたえがあります。

モントゥー=ロンドン交響楽団

初演指揮者によるギリシア的演奏
  • 名盤
  • 歴史的名盤
  • 色彩的
  • フランスの香り

おすすめ度:

指揮ピエール・モントゥー
演奏ロンドン交響楽団
合唱コヴェント・ガーデン王立歌劇場

1959年4月,ロンドン,キングスウェイ・ホール (ステレオ/アナログ/セッション)

モントゥーも生粋のフランス人です。一見、職人的に見えますし、確かにそういう所もあるのですが、モントゥーの演奏はユニークなところも沢山あります。モントゥーは何といってもバレエ『ダフニスとクロエ』初演指揮者です。ラヴェルと言葉を交わしながら音楽を作っていった訳で、今聴くと新しい発見に満ちています。随所にうまいなぁと感心させられる表現があります。

オケはイギリスのロンドン交響楽団で、とてもダイナミックで上手いのですが、フランス的とはいえないサウンドかも知れません。しかしモントゥーとロンドン交響楽団は多くのディスクを残していて、モントゥーの手兵とも言えます。

冒頭スケール大きく盛り上がり圧倒されます。ここまでダイナミックな演奏はなかなか無いと思います。劇場で聴いているかのようで臨場感があります。その後もバレエのシーンに相応しい表現が第2場の夜想曲~間奏曲などは懐が深く、落ち着きの中に味わい深さがあり、劇場的な表現はさすがです。とてもダイナミックで劇場で聴いているかのようなスケールの大きな演奏が繰り広げられていき、飽きさせることがありません。フィナーレは中庸なテンポですが、ロンドン交響楽団の重厚なサウンドを活かして盛り上がり熱狂的に曲を締めます。

クリュイタンスやブレーズをじっくり聴いたら、是非モントゥーを聴いてみると良いです。全然、違いますし、目から鱗がおちる所が結構あります

P.ジョルダン=パリオペラ座管弦楽団

バレエの伴奏を務める劇場オケの録音
  • 名盤
  • 高音質

おすすめ度:

指揮フィリップ・ジョルダン
演奏パリオペラ座管弦楽団&合唱団

2014年10月16,17,20日,オペラ・バスティーユ,大ホール (ステレオ/デジタル/セッション)

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P.ジョルダンとパリ・オペラ座管弦楽団の演奏です。パリ・オペラ座管弦楽団は、ガルニエ宮などでバレエの伴奏を務めたりもする劇場のオーケストラです。また、パリのオーケストラの中では外国人指揮者の影響をあまり受けず、フランス的な演奏スタイルを今でも保っている数少ないオーケストラと言えます。新しめの録音で音質も透明感があって良いです。

冒頭はP.ジョルダンらしい透明感溢れるクールな響きですが、パリ・オペラ座管は昔のフランスのオケのように早めにクレッシェンドして盛り上がっていきます。あまり抑制的でなく、古き良きフランスを感じる演奏です。

全体的にスケールが大きく、モントゥーの演奏にも通じる所があります。劇場オケらしいダイナミックさで、筋書きを読みながら聴いていくと、メリハリがあって物語が分かり易いです。第3場の冒頭の音楽なども非常にスケールが大きいです。フルートのソロなどもレヴェルが高いです。

高音質なディスクはブレーズ盤デュトワ盤など強者揃いですが、P.ジョルダン盤は劇場の臨場感がある演奏で楽しめます。

「ダフニスとクロエ」バレエ版

もともとバレエ音楽ですからバレエ版のDVDなどがあっても良さそうですが、まだ見つけられていません。その代わりにYouTubeで見つけましたので貼っておきます。

ロイヤル・バレエ

ロイヤルバレエなのだから、DVDでも入手できそうですけれど、何故か全編アップされているので紹介します。既にニンフも出てきていますね。「パストラル」風の演出です。ロイヤル・バレエですから、もちろんレベルの高い舞台です。出来れば舞台装置がもっと凝っていたら良かったですね。

パリ・オペラ座バレエ

ギリシャ風というところで、白い衣装を使うのはパリ・オペラ座の特徴でしょうか。オッフェンバックの「天国と地獄」でも天国のシーンは神々は全員白い衣装でした。

でも白い衣装というだけで、これだけギリシャ風になってしまうなんて、面白いですね。ギリシャだって、その時代には色があったはずですが、アテネの神殿が白いので、その印象が強いんでしょうね。

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楽譜

ラヴェル『ダフニスとクロエ』の楽譜・スコアを挙げていきます。

ミニチュアスコア(第2組曲)

大判スコア

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