ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン (Ludwig van Beethoven, 1770~1827)作曲の『エグモント』序曲 Op.84の解説、名盤のレビューをしていきます。
解説
ベートーヴェンの劇音楽『エグモント』とその序曲を解説します。
劇音楽の作曲と初演
エグモントとは16世紀にオランダの独立運動に際し、体制側に反発して活躍した軍人・貴族・政治家の名前で、実在の人物です。1787年に文豪ゲーテが戯曲にしました。
ベートーヴェンは1809年にウィーンの宮廷激情の支配人だったヨーゼフ・ハルトルから依頼を受け、この戯曲に対して音楽をつけることになります。
そして序曲を含む10曲の劇付随音楽が作曲されました。
劇音楽『エグモント』は1810年5月に初演されますが、おそらくベートーヴェン自身が指揮をしたということです。
序曲について
序奏付きのソナタ形式です。フォルテのロングトーンから始まる音楽は大胆であるとともに、この戯曲の精神的な力強さを表現しています。コーダの盛り上がりと解放感もありますが、とにかく力強いです。これから始まる戯曲を想像させる音楽です。
スコアを見ればすぐわかることですが、小規模な作品の中に多くの要素が詰まっています。演奏も特に指揮が難しく、初級者の指揮の練習にもよく使われる曲です。
レオノーレの3番と共にベートーヴェンを代表する序曲の名作です。
おすすめの名盤レビュー
ベートーヴェンの『エグモント』序曲について、おすすめの名盤をレビューしていきます。
本来は、ヨッフム=バンベルグ交響楽団の序曲集も聴いてみたかったのですが、CDも持っていないし、音源も見つからなかったので、またいずれレビューしたいと思います。全曲版のマズア盤が一番良い演奏です。ジョージ・セル盤も好感がもてる名盤です。
クラウディオ・アバドとウィーン・フィルの録音です。とても真摯で真面目な演奏です。それに加えて、曲のプロポーションを壊さない程度の熱気も感じられます。
テンポ設定がとても良いです。少し速めではありますが、アバドは軽々と余裕たっぷりな雰囲気です。
誇張がないので、自然に聴けます。ただ、本来は熱気というか、意思の強さが表現されているといいと思います。
いずれにせよ、信頼のおける序曲集です。
カラヤン=ベルリン・フィル
カラヤンとベルリン・フィルの1960年代の録音です。冒頭のロングトーンの迫力、その長さがもう全てを物語っています。極めて力強く精神的な強力さもあり、ベートーヴェンの一つの理想的演奏といいたいところですけど、ちょっとやり過ぎです。
序曲のみの演奏なので、いいかも知れませんけれど、一応劇音楽の序曲なのだし、力強さの方向性はあっていると思いますが、やはりこういう演奏を聴くとピリオド奏法や古楽器オケの演奏は、一種の歯止めとして働くのかも知れませんね。
テンシュテット=ロンドン・フィル
テンシュテットというと熱演しか聴いていなかったので、この演奏は意外に落ち着いていてかえって新鮮でした。ロングトーンなどテンシュテットらしさはあります。
確かにスケールは大きいし、情熱的な個所もあるのでテンシュテットらしいのですが、落ち着いた語り口の部分が多く、この後に劇音楽が続いても不自然さはありません。
実際のライヴでは、交響曲第6番『田園』が続きます。ちなみに、この『田園』は速いテンポで割とすっきりまとめた演奏です。こちらはまたいずれレビューしたいと思います。
1991年の録音とあるのですが、ライヴであることは拍手が入っているので間違いありませんが、録音状態が悪いようでノイズが多い気がします。
パーヴォ・ヤルヴィ=ドイツ・カンマーフィル
エグモント序曲は非常に力強い音楽です。パーヴォ・ヤルヴィ=カンマーフィルはピリオド奏法と小編成で臨んでいます。そのため、どうしてもパワー不足に聴こえてしまいます。
この曲の場合は、これから力強い戯曲が始まるわけで、序曲はそれを現したダイナミックで大胆なロングローンから始まる位です。おそらくは、ベートーヴェンの時代のオーケストラでは力不足だったのではないかと想像します。
この序曲集は、そういうベートーヴェンの理想通りに行かないところを明らかにすることも大事な役目だと思います。演奏のクオリティは高く、耳が痛くならない程度にティンパニを強打して迫力を出そうと努めています。でもはやり現代の大編成のオケのほうが、むしろこの曲には合いそうですね。
ハーディング=ドイツ・カンマーフィル
こちらは指揮者がハーディングの若いころのディスクです。カンマーフィルが好きな管理人だな、と思った方もいるかも知れませんが、別にそうではなく、CDラックを見ていて自分でも驚いたところです。
当時、ハーディングが活躍し始めたころだったので、どんな演奏か聴いてみようと購入した気がします。その時はあまり印象に残らなかったのですが、今聴くともう少し知的に聴こえます。P.ヤルヴィと同じようにピリオド奏法を使った演奏です。
最初のロングトーンから迫力が不足していて、ちょっと物足りない感じがします。細かい所で音を抜いてみたりと工夫が見られ、知的なところはあるな、と思いますが、何か中途半端な感じは拭えません。
主部は比較的しなやかな感じで進みます。もちろんスフォルツァンドが出てくれば、かなりシャープにアクセントをつけていますけれど。
後半は盛り上げようとしています。金管を鳴らしてスケールの大きな音楽を作ろうとしているように見えます。しかし、小編成でピリオド奏法ではなかなか難しいですね。ここはもっと違った方法で迫力を出すことを考えたほうが良かった気がします。
もっとも、あのパーヴォ・ヤルヴィでも迫力不足なので、活躍し始めたころのハーディングだと仕方がないかも知れません。
音質はなかなかです。
劇音楽全曲
劇音楽『エグモント』全曲が入ったCDをレビューします。
クルト・マズアとニューヨーク・フィルの録音です。序曲はなかなか重厚な名演です。マズアらしく、適度なテンポ設定でリズム感が良いです。
クルト・マズアというと、音楽的にはあまり評価されていない傾向がありますが、筆者は結構いい指揮者だと思っています。少し変わったところがあり、凄い名演というのはないですが、過度に感情的だったり、ストレート過ぎるアプローチではないので、本来の曲の良さが出ていることが多いと思います。
このディスクは、序曲ではなく、劇音楽『エグモント』が収録されています。なので、あまり長い劇音楽ではないようですが、全10曲入っています。実は筆者も始めて聴きました。
新しい録音で音質も良く、楽しく聴くことができました。肩の力が抜けた良い演奏です。バランスの良い演奏で、ほどよくドイツ的ですが、軽快なリズム感も良く出ていて、劇音楽として色々な表情を上手く演出しています。わざとらしさもありません。
セル=ウィーン・フィル
ジョージ・セルは、楽譜をしっかり読みこんで端正な演奏をする指揮者だと思います。
モダンオケのベートーヴェンの序曲集だと、誇張し過ぎてダイナミック過ぎる演奏が多い中で、セルの演奏は端正に聴こえますね。実際は古楽器オケなどに比べればダイナミックな演奏なのですが、他のモダンオケの演奏に比べれば、変に誇張していないので、曲の良さがそのまま伝わってきます。録音も新しくはないはずですが音質は良く、古さは感じません。
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楽譜
ベートーヴェンのエグモント序曲の楽譜・スコアを紹介します。
ミニチュア・スコア
ベートーヴェン:《エグモント》序曲 作品84 (zen-on score)
レビュー数:1個
残り3点
大型スコア
Beethoven: Six Great Overtures in Full Score
レビュー数:12個
残り1点
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