アントニオ・ヴィヴァルディ (Antonio Vivaldi,1678-1741)作曲の『4つのヴァイオリンのための協奏曲』RV580(調和の霊感 作品3) (Concerto for 4 Violin RV580(L’estro Armonico Op.3))について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。最後に楽譜・スコアも挙げてあります。作品3の中でも第10番は非常に人気があり、アマオケでは弦楽アンサンブルの定番曲です。
このページでは最も有名な『4つのヴァイオリンのための協奏曲』RV580を中心に『調和の霊感』作品3について書いていきます。『調和の霊感』作品3は合奏協奏曲集で、全部で12曲から成り立っています。ヴィヴァルディは作品が多すぎるので、RV番号で検索するのが便利です。
有名な曲も沢山あります。第3番RV 310も有名です。第6番RV356はヴァイオリンを弾いている人ならスズキ教本に載っているので弾いた人は多いと思います。第10番RV580が最も有名ですね。アマチュアでも非常に良く演奏されます。第11番RV565も有名では対位法を使った名曲です。第8番RV522はエキゾチックな名曲です。他の曲もどこかで聴いたことがあるものが多いですね。
解説
ヴィヴァルディの『4つのヴァイオリンのための協奏曲』RV580(調和の霊感 作品3)について解説します。
ピエタ孤児院のために作曲
ヴィヴァルディは最初ベネツィアの1703年からピエタ孤児院(ピエタ慈善院付属音楽院)の音楽教師をしていました。このピエタ孤児院は当時最盛期のベネツィアで多く発生した孤児を預かる施設です。男子は手に職をつけて自立できるようにしました。女子は楽器を覚えさせ、貴族などにもらわれていくことになります。ヴィヴァルディとピエタ孤児院の関係は、1709年に契約が更新されなかったことで一旦終わったように見えますが、実際は死の前年までピエタ孤児院の依頼で作曲しています。
そこで、女子を子供の頃から楽器の教育をして、そのための協奏曲を作っていました。そして、年頃になると貴族などを招いてコンサートを行い、貴族たちは気に入った女子をもらって帰るという訳です。コンサートの時には会場を暗めにし、仮面を被っていたということです。地中海の貿易の中心地ベネツィアですから、色々な肌の色の子供がいたと思います。
そんな女子達に合うような技術の曲を作曲していましたので、沢山の合奏協奏曲が作られました。中には非常にハイレヴェルなヴァイオリン演奏をした女子もいて、そのままピエタ孤児院で音楽活動をしていました。またヴィヴァルディ自身がソロを担当する曲も書きました。そのためにレヴェルの高い曲も書かれています。これらは散逸してしまったものも多いですが、その中から12曲選んで出版したのが1711年に出版された『調和の霊感』作品3と言われています。
色々な作風の作品があり、楽章も3楽章形式と4楽章形式があります。またソロパートも1つのヴァイオリン、2つのヴァイオリン、4つのヴァイオリンなど色々な編成があります。まだ『四季』のようにヴィヴァルディの作風は完成していないのですが、情熱的な曲が多いのが特徴です。この情熱的な所は、ロマン派などとも共通する所があり、時代的にはバロック楽器が相応しいですが、モダン・ヴァイオリンで演奏してもサマになります。
ピエタ孤児院の女子達は生きるために楽器を演奏したんです。ヴィヴァルディのエキゾチックで情熱的な作風は、ピエタ孤児院の女子を魅力的に見せるために成立した作風だったと思えてなりません。
12曲からなる合奏協奏曲集
12曲(1ダース)の合奏協奏曲をまとめて出版するのはコレッリのヴァイオリン・ソナタや合奏協奏曲 作品6から伝統です。コレッリはヴァイオリンを使用した器楽曲を芸術の域まで高めた音楽家と言われています。そこで後世の作曲家はヴィヴァルディもヘンデルも12曲をセットにして合奏協奏曲を出版しています。
4楽章形式と3楽章形式がありますが、4楽章形式はコレッリの流れから来た教会ソナタ(ソナタ・ダ・キエーザ)です。3楽章形式はアレクサンドロ・スカルラッティの流れのコンチェルトやシンフォニアです。
以下に構成を書いておきます。ヴァイオリン・ソロの数が4⇒2⇒1と並並ぶように配置してあります。
第1番(RV549):
4つのヴァイオリンとチェロのための協奏曲 ニ長調(3楽章形式)
第2番(RV578):
2つのヴァイオリンとチェロのための協奏曲 ト短調(4楽章形式)
第3番(RV310):
(1つの)ヴァイオリン協奏曲 ト長調 (3楽章形式)
第4番(RV550):
4つのヴァイオリンのための協奏曲 ホ短調 (4楽章形式)
第5番(RV519):
2つのヴァイオリンのための協奏曲 イ長調 (3楽章形式)
上のYouTubeの曲です。第3楽章が特にスリリングな曲になっています。
第6番(RV356):
(1つの)ヴァイオリン協奏曲 イ短調 (3楽章形式)
スズキのヴァイオリン教本に掲載されている有名な曲です。
第7番(RV567):
4つのヴァイオリンとチェロのための協奏曲 ヘ長調 (4楽章形式)
第8番(RV522):
2つのヴァイオリンのための協奏曲 イ短調 (3楽章形式)
ジプシー風でエキゾチックなメロディが印象的な曲です。
第9番(RV230):
(1つの)ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 (3楽章形式)
第10番(RV580):
4つのヴァイオリンとチェロのための協奏曲 ロ短調 (3楽章形式)
最も有名な曲で誰でも知っているメロディと思います。
第11番(RV565):
2つのヴァイオリンとチェロのための協奏曲 ニ短調 (3楽章形式)
フーガを用いた有名な協奏曲です。作品3の中でも最も名曲です。
第12番(RV265):
(1つの)ヴァイオリン協奏曲 ホ長調 (第3楽章形式)
バロック時代の撥弦楽器
バロック時代はまだリュートやマンドリンなどの弦を弾いて音を出す「撥弦楽器」が良く使われていました。一番メジャーなのは何といってもチェンバロです。チェンバロは鳥の羽の軸を使って金属弦を弾きます。
大きなリュートは、色々な楽器がありますが、現在ではテオルボが使われるのが普通です。国によっても変わってきます。
この時代の音楽で欠かせないのが、バロックギターです。これがあるのと無いのとでは全く響きが変わってきます。
バロック時代はヴァイオリンはまだ新参者で、チェンバロ、リュート、ギターが大活躍していた時代です。これらは「通奏低音」で使われます。
通奏低音って何?
「通奏低音」に関しては、意外と勘違いしている人が多いかも知れません。大体、名前が分かりにくく、誤解を生みやすいです。例えばオルガン曲で低音をずっと鳴らすのは、バロックの通奏低音とは違います。これは『ペダル』という技法で、離れた低音ですが和声進行を邪魔する音が常に出ているため、緊張感が出る効果があります。
バロック時代に「通奏低音」と呼ばれるものは、和声に従って伴奏をすることです。具体的には譜面に和音の番号が書いてあります。その和音番号をみて即興的にアドリブを加えたりして演奏します。和音を鳴らすだけでもいいのですが、即興で装飾を入れたり、アドリブを加えるのが普通です。
バロック音楽は、対位法の発展で複雑になった教会音楽(ポリフォニー)へのアンチテーゼとして「ギリシャの音楽に戻ろう」というルネサンス運動で始まったものです。彼らはもちろんギリシャの音楽は聴いたことは無かったはずですが、メロディと和声の伴奏(モノフォニー)で出来たもの、と考え、「通奏低音」もその時に誕生しました。
「通奏低音」を構成する楽器は、特に決まってはいませんが、オルガン、チェンバロ、チェロ、バス(ヴォイローネ)、テオルボ、バロックギターなど多岐にわたります。
おすすめの名盤レビュー
ヴィヴァルディ作曲『4つのヴァイオリンのための協奏曲』RV580(調和の霊感 作品3)の名盤をレビューしていきましょう。
ポッジャー=ブレコン・バロック
バロック・ヴァイオリンの天女と言われるレイチェル・ポッジャーを中心としたアンサンブルの演奏です。最近の録音で音質も非常に良いです。
バロック奏法での演奏ですが、自然体でテンポ取りも普通ですし、変なアレンジや装飾もありません。装飾は控えめですが、何か所か入っています。これまで他のCDで聴いてきた方でもすぐに受け入れられる自然さだと思います。
もちろんバロック・ヴァイオリンのスペシャリストですから、演奏内容はしっかりしています。ビオンディやイル・ジャルディーノ・アルモニコのような派手なチャレンジはしておらず、その代わり非常にクオリティが高いです。バロック奏法も大分充実してきて、チャレンジングな演奏で新しいスタイルを開拓しなくても、十分楽しく聴ける音楽づくりが出来るようになってきました。このCDは、バロック奏法を十分に使ったうえで、誰が聴いても楽しめるようなスタンダードの解釈の演奏です。
サヴァール=ル・コンセール・ド・ナシオン
サヴァールはヴィオラ・ダ・ガンバ奏者ですが、指揮もするなど多岐にわたって活動し、非常にクオリティの高い名盤をリリースしています。このCDも買ってみて大当たりだったCDです。『調和の霊感』の第10番が入っていますが、サヴァールの円熟を感じさせるような深みのある名演です。バロックなのでロマン派のように感情を入れているわけではなく、演奏スタイルがしっかり完成されていて、迷いがありません。またヴィオラ・ダ・ガンバ奏者だからか、他のCDではあまり聴けない低音域の充実した演奏です。筆者が一番気に入っている演奏です。意外にアマゾンでもタワーレコードなどで入手できる状態だったので、聴いてみることをお薦めします。
イタリア合奏団の録音です。モダン楽器での演奏で昔から定番の位置づけです。ヴィブラートも普通にかけていますので、モダン・オケを聴いている人にも馴染みやすいです。
ヴィヴァルディは同じイタリア出身ですから、イタリア合奏団もイタリアらしい艶やかな演奏を繰り広げています。新しい試みも特になく、自然体で楽しめる名盤です。
ビオンディ=エウローパ・ガランテ
鬼才ビオンディの演奏はなかなか雰囲気が出ていて、エキゾチックです。テンポは基本的に速めです。他の番号は、また全然違う演奏だったりして、色々なことをチャレンジしてきます。そんなことが出来るのか、え!そうくるの?と思うような様々なバロック奏法のテクニックを使ってきます。
第10番などは、明るいラテン系の演奏です。アゴーギクが結構や装飾が容赦なくついています。なぜ、とか面白いとか、なるほど、などと思いつつ聴いています。第11番は最初あれ、と思った後、なるほど、と思う感じですかね。
新しい刺激に満ちていて、新しい発見がある名盤です。
ホグウッド=エンシェント室内管弦楽団
ホグウッドとエンシェント室内管弦楽団の演奏は1980年なので、まだまだバロック奏法が発展していない段階の演奏です。そのため、モダンオケが好きな人でもあまり違和感なく聴けると思います。
テンポは速めで古楽器での演奏ですが、今、ポッジャー盤やビオンディ盤で聴ける様々なバロック奏法はまだ研究途上で、アドリブも最小限です。基本的に譜面通りの演奏です。昔の定番の演奏という位置づけでしょうか。全集としての価値は高く、色々な演奏を聴くにしてもその基準となる演奏だと思います。実験的な試みが少なく、自然に聴ける名盤で、最初に聴くヴィヴァルディの管弦楽曲全集として優れたCDだと思います。
ラモン=ターフェルムジーク
ターフェルムジーク・バロック管弦楽団は、一人一人のメンバーのレヴェルがとても高いです。上のYouTubeを見ても分かる通りです。もっともメンバーによっては完全なバロック楽器では無く、肩当がついていたり、チェロにピンがついていたり、とそういう所も上手さにつながっていると思います。それは演奏が良ければいい気がします。イル・アルジャジーノ・アルモニコの名演奏家オノフリだって、スカーフで楽器を首に固定してポジション移動を速くしています。
ただ、何故かこの『調和の霊感』は選集になっていて、一番人気がある第10番が入っていないです。第11番を聴いてみるとすごく上手いです。録音も良く各パートがしっかり入っています。アドリブや装飾は沢山入っていますが、非常にセンスが良く、ジーン・ラモンのまとめ方はとても充実感のあるものです。第8番を聴いてみるとビオンディ盤と違ってエキゾチズムは感じないのですが、透明感の高いアンサンブルです。カナダのバロック管弦楽団らしいと思います。
今でも収録されている番号の演奏はトップレヴェルです。でも『調和の霊感』は全集にしてほしいですね。
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楽譜・スコア
ヴィヴァルディ作曲の『4つのヴァイオリンのための協奏曲』RV580(調和の霊感 作品3)の楽譜・スコアを挙げていきます。
ベートーヴェンよりも前の時代のスコアは、ベースとしたバージョンによりますが、スラーやスタッカートなどのアーティキュレーション記号が追加されていることがあります。