ショスタコーヴィチ 交響曲第14番『死者の歌』

ドミートリイ・ショスタコーヴィチ (Dmitri Shostakovich,1906-1975)作曲の交響曲第14番 ト短調 Op.135『死者の歌』 (Symphony No.14 g-Moll)について、解説おすすめの名盤レビューをしていきます。

え、サムネイルイメージが怖い?いえ、こんな事で避けていては、『死者の歌』の深淵には入り込めませんよ!え、そんな所に入りたくない?12音音階を使っていたり、鞭で打たれたりして、大変なんですが、意外と活力があって力強い曲でもありますよ。ワーグナーの影響を受けていると思います。

解説

ショスタコーヴィチ交響曲第14番『死者の歌』について解説します。

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ショスタコーヴィチの死生観

ショスタコーヴィチはあまり宗教を好まず、独自の死生観を持っていました。一応、宗教はロシア正教だと思いますけど。

キリスト教では死は救済であると説かれている訳で、『レクイエム』が沢山作曲されています。そのレクイエムの価値観を否定しているのが、この『死者の歌』です。

死は美しいものではない

と語っています。

これは逆に死に対する恐怖感を強めそうですが、実際、恐怖感の強い音楽になっています。

2人の歌手と室内管弦楽

交響曲といっても歌曲集のような形をとっています。これはムソルグスキーの「死の歌と踊り」のオーケストレーションを行った時に、インスピレーションを得たからです。形式としては、マーラーの「大地の歌」と同様、ソプラノとバスの2人の独唱となっています。伴奏は弦楽オーケストラですが、トムトム、カスタネット、ウッドブロックなどの打楽器に加え、鞭(むち)が入っており、多彩な打楽器を含むオーケストラが非常に重要な役割を果たします。

バルシャイ=モスクワ室内管弦楽団の壮絶な演奏
楽器編成

■独唱
ソプラノ、バス
■弦楽器
ヴァイオリン×10、ヴィオラ×3、チェロ×3、コントラバス×2
■打楽器
カスタネット、ウッド・ブロック、トムトム、鞭、ベル、ヴァイブラフォン、シロフォン、チェレスタ

また、ショスタコーヴィチがこれまで使ってこなかった12音技法トーンクラスターといった現代音楽の手法を使用していることも特徴です。
全部で11楽章で出来ています。演奏時間は50分程度です。

世界の詩人の歌詞

近現代の有名な詩人の死に関する作品を歌詞としています。
ガルシア・ロルカ(スペイン, 1898年 – 1936年)
ギヨーム・アポリネール (フランス, 1880年 – 1918年)
〇ヴィルヘルム・キュッヘルベケル(ロシア, 1797年 – 1846年)
ライナー・マリア・リルケ(ドイツ, 1875年 – 1926年)

初演:リハーサルで衝撃的事件!

初演に先立ちリハーサルが行われましたが、見学していた共産党幹部パーヴェル・アポストロフが心臓発作で倒れ、1か月後に死亡しています…
まあ大虐殺を扱った交響曲第13番『バビヤール』も刺激的ですが、第14番は曲想が強烈です。あまりの緊張感に倒れたのかも知れませんね。

初演は1969年9月29日ルドルフ・バルシャイ指揮モスクワ室内管弦楽団で、ソプラノにマルガリータ・ミロシニコワ、バスにエフゲニー・ウラジミロフを起用して行われました。曲は、ベンジャミン・ブリテンに献呈されています。

交響曲第14番

第1楽章「深いところから」(アダージョ)
冒頭の主題は「レクイエム」などで使われる「ディエス・イレ(怒りの日)」の引用と言われています。

第2楽章「マラゲーニャ」(アダージェット)

第3楽章「ローレライ」(アレグロ・モルト~アダージョ)
ドイツのライン川下りで有名なローレライです。美しいソプラノ独唱が貴方を死へ誘惑します、汗。

第4楽章「自殺者」(アダージョ)

第5楽章「心して」(アレグレット)

第6楽章「マダム、御覧なさい」(アダージョ)

第7楽章「ラ・サンテ監獄にて」(アダージョ)

第8楽章「コンスタンチノープルのサルタンへのザポロージェ・コサックの返事」(アレグロ)

音楽は交響曲第13番『バビヤール』第2楽章がほぼそのまま引用されています。

第9楽章「おお、デルウィーク、デルウィーク」(アンダンテ)

第10楽章「詩人の死」(ラルゴ)

第11楽章「結び」(モデラート)

おすすめの名盤レビュー

それでは、ショスタコーヴィチ作曲交響曲第14番『死者の歌』名盤をレビューしていきましょう。

といっても、第14番はバルシャイ=モスクワ室内管弦楽団の演奏が凄すぎて、他の演奏を聴くとまるで違う曲を聴いているかのようです。次にロストロポーヴィチ盤はリアリティが強いです。最近、クルレンティスがCDをリリースしました。これは結構凄いです。他の演奏は、特に譜面通りに演奏しても、この曲の鳥肌が立つような怖さは再現できないです。リアルさより深みのある演奏も増えてきています。ともかく、レビューしていきましょう。

バルシャイ=モスクワ室内管弦楽団

  • 名盤
  • 爆演
  • スリリング
  • 迫力
  • 神々しさ
  • ライヴ

超おすすめ:

ソプラノツァラ・ドルクハノーヴァ
バスエフゲニー・ネステレンコ
指揮ルドルフ・バルシャイ
演奏モスクワ室内管弦楽団

1971年9月26日,モスクワ,小ホール (ステレオ/アナログ/ライヴ)

バルシャイ=モスクワ室内管弦楽団は、第14番『死者の歌』の初演者であり、スコアに書いてあることを大幅に超えたリアリティと狂気の演奏です。まさにその時代にしか出来ない一期一会の演奏です。

最初の一音で、既に尋常ではない空気が伝わってきます。ものすごい緊張感…そして、2曲目マラゲーニャになると、弦楽器が凶器と言えるくらいで、ヴァイオリンというよりこれは刃物です。錯乱したように金切り声を上げるソプラノ、妙に落ち着いて怖い位のバス、この取り合わせはホラーよりもリアルな怖さがあります。そして、鋭く鞭が打たれます。どの曲だったか、トムトムは楽器が壊れるんじゃないかと思う位、思い切り叩いていて、これも凄いです。音楽でも恐怖を表現できるのだ、と感じた初めての演奏です。今は、ノーノのような現代音楽を知っているので、他にもこういう曲があることは知っていますけど。

この演奏は、念入りなリハーサルが行われました。もちろんショスタコーヴィチの意図を演奏者に伝えるためのリハーサルです。そこで何が起こったかは、上に書いた通りです。ホラー映画はフィクションですが、この曲に描写されたことは真実なんですよね。そして、リアリティに溢れるこの演奏は貴重な記録です。その時代にしか為しえない演奏であり、その時代そのものを切り取ったものだと思います。今後は名盤が出たとしても、こういうリアリティのある演奏は2度とできないと思います。

  • 名盤
  • 爆演
  • スリリング
  • 迫力
  • 神々しさ

超おすすめ:

ソプラノマクワラ・カスラシヴィリ
バスエフゲニー・ネステレンコ
指揮ルドルフ・バルシャイ
演奏モスクワ室内管弦楽団

1975年5月16日,東京文化会館(ライヴ)

リアリティのある演奏は2度との出来ない、といいつつ、この演奏は初演の数年後に来日したときの録音です。独唱者が変わっていますが、エフゲニー・ネステレンコがバスを歌っている所が素晴らしいです。数年たったとはいえ、まだソヴィエトは崩壊しておらず、ユダヤ人ジェノサイドも生々しかった時代です。なので、リアリティはまだまだあります。また東京文化会館の演奏で、録音の音質も良いのがこのCDの長所です。それに初演ライヴは10年前くらいにリリースされて沢山売っていたのですが、今は入手困難です。

これより後の、バルシャイ=モスクワ室内管弦楽団第14番は無いと思うのですが、バルシャイが西側のケルン放送交響楽団を振った演奏があります。この演奏は上記2つのリアルな演奏が嘘のように、落ち着いた演奏になっています。でも、これだと第14番『死者の歌』のメッセージは伝わりにくいでしょうね。

ただ他の演奏家で、いくつか名盤があります。これらはバルシャイ=モスクワ室内管弦楽団の演奏を参考にしているように思います。やはり楽譜には限界があり、ショスタコーヴィチも新しい技法を使っているので、交響曲第15番はスコア通りで行けますが、この第14番は難しいですね。

なおSACDが多く残っていますが、普通のSACDだとSACD非対応のCDプレイヤーでは再生できないので、ご注意を。

クルレンツィス=ムジカエテルナ

  • 名盤
  • 爆演
  • スリリング
  • 迫力
  • 神々しさ
  • 高音質

超おすすめ:

ソプラノユリア・コルパチェヴァ
バリトンペトル・ミグノフ
指揮テオドール・クルレンツィス
演奏ムジカエテルナ

2009年7月,ノヴォシビルスク (ステレオ/デジタル/セッション)

クルレンツィスとムジカ・エテルナの演奏は、バルシャイ=モスクワ室内管弦楽団の再来のような演奏スタイルです。それはクルレンツィスがロシアの歌劇場で活動していたこととも関係するかも知れません。バルシャイ=モスクワ室内管弦楽団の演奏で録音の悪さが気になるなら、クルレンツィス盤のほうがいいと思います。

もちろんコピーを目的としているわけではないので、100%完全コピーしたのではなく、クルレンツィスの解釈も沢山入っています。ショスタコーヴィチの意見が大きく反映されている初演の演奏を尊重し、そこを出発点とした、ということだと思います。演奏はクオリティが高く、リズムやアクセントなどクルレンツィスのセンスが光ります。

ただバルシャイ=モスクワ室内管弦楽団のような時代のリアリティはこのCDにはありません。これは時代を遡ることは出来ないので仕方のないことです。その代りに、細かなニュアンスや奥深さがあると思います。現在、割と簡単に入手でき、『死者の歌』の本質に迫れる名盤として、末永く販売してほしい名盤です。

ロストロポーヴィチ=モスクワ・フィル (1973年ライヴ)

バルシャイ盤と並び称される壮絶な名盤
  • 名盤
  • 定番
  • 奥深さ
  • スリリング
  • ライヴ

超おすすめ:

ソプラノガリーナ・ヴィシネフスカヤ
バスマルク・レシェーチン
指揮ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ
演奏モスクワ・アカデミー交響楽団(モスクワ・フィル)

1973年(ライヴ)

ロストロポーヴィチ第14番『死者の歌』全集で一枚だけモスクワフィルで1973年ライヴが入っています。聴いてみると、物凄いリアリティのある壮絶な名演です。バルシャイと並び称されるだけのことはあります。ロストロポーヴィチというよりはバルシャイの演奏スタイルに従っている部分が多いように聴こえます。1973年録音なので音質はバルシャイよりも格段に良く凄みは伝わってきます。

第3楽章ローレライのソプラノ独唱は甘美な歌声で却って毒々しいですね。録音が良いせいもあって、艶やかに聴こえます。ロストロポーヴィチの全集は入手しやすいので、バルシャイ盤が入手できない場合は、これを聴いておくのがいいと思います。

ハイティンク=ロイヤル・コンセルトヘボウ管(1980年)

  • 名盤
  • 定番
  • 精緻
  • 透明感
  • 高音質

おすすめ度:

ソプラノユリア・ヴァラディ
バスフィッシャー・ディースカウ
指揮ベルナルド・ハイティンク
演奏ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

1980年12月

このハイティンク=ロイヤル・コンセルトヘボウ管の演奏は本当に凄いです。この演奏はバルシャイ=モスクワ室内管弦楽団の初演の演奏を参考にしていると思いますが、もしかするとそれを超えたクオリティがある名盤です。もちろん、表面をいくら同じにしたからといって、バルシャイ=モスクワ室内管弦楽団のようなリアルな凄みのある演奏は出来ません。これはやはりその時代だったから出来たのです。それはハイティンクも重々承知の上です。

ハイティンク盤の凄さは、その奥深さです。晩年の再録音かと思って聞いていましたが、全集からの抜粋ですね。交響曲第15番でも発揮されていますが、第14番『死者の歌』でも金切り声を上げたりしなくても、独特の世界観を再現できることが分かります。またフィッシャー・ディーウカウがバリトンながら、バスパートを歌っていることも凄いですね。

『死者の歌』の美しさも良く表現されていて、普段聴くのにもいいですね。(普段からこの曲を愛聴している人がいるかどうか分かりませんけど。)また録音も良いです。

ペトレンコ=ロイヤル・リヴァプール・フィル

  • 名盤
  • 定番

おすすめ度:

ソプラノガル・ジェームス
バリトンアレクサンダー・ヴィノグラドフ
指揮ヴァシリー・ペトレンコ
演奏ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団

2013年5月4-5日,イングランド,ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニック・ホール(ステレオ/セッション)

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楽譜・スコア

ショスタコーヴィチ作曲の交響曲第14番『死者の歌』の楽譜・スコアを挙げていきます。

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