歌劇『泥棒かささぎ』(The Thieving Magpie, La gazza ladra)は、ジョッキアーノ・ロッシーニ (Giloacchino antonio Rossini、1792~1868)が作曲したオペラです。このページでは解説のあと、おすすめCDや名盤のレビューをしていきます。
現在ではオペラとしてはあまり上演されず、『どろぼうかささぎ』序曲のみが良く演奏され、ロッシーニの序曲の中でも特に人気の高い曲です。
いつも冒頭付近で曲の紹介がてらYouTubeを貼っていますが、今回のこの映像はアバドが若い時の指揮ぶりです。筆者は中高生の時にTVでこれを観て、凄い演奏だと思いました。それから、これを超える演奏を探していますが、正直無いですね。ちょっと古いですが、アバドのシャープな演奏をどうぞ。
解説
歌劇『泥棒かささぎ』は、1817年にミラノ・スカラ座で初演されました。『セリビアの理髪師』の翌年ということで、まだ若いころのロッシーニの作品です。
かささぎ
「かささぎ」は鳥の名前です。かささぎは鳥類の中でも大きな脳を持ち、頭がよいです。体長は40cmくらいで少し大きめの鳥です。日本語では「サギ」となっていますがサギの仲間ではなく、カラスの仲間です。大陸にはヨーロッパから中国まで幅広く分布していますが日本にはあまりいません。
あらすじ
笑いや感傷と、感動を織り混ぜた筋書きをもつ「セミ・セリア」という形式です。簡単にではありますが、あらすじをご紹介します。
あるパーティの会場で、高い銀の食器が盗まれて、騒ぎとなります。そして、女中のニネッタが疑われます。
しかし、実は、鳥のかささぎが、食器をくわえて逃げていったことがわかる、というお話です。
簡単すぎましたね。3時間もかかるオペラです。そのうち、もっとちゃんとしたあらすじを書きたいと思います。
序曲
『泥棒かささぎ』序曲は、2つのスネヤを使います。スネヤを右端と左端に配置し、最初のロールは片方ずつ演奏します。
序奏が終わって主部に入ると、シンプルですが、リズミカルで明るい音楽が展開されます。主部は展開部なしのソナタ形式ですかね。そして、ロッシーニ・クレッシェンドの嵐。3拍子系のリズムも軽やかに演奏するのは意外と難しいと思います。最後はテンポを速めてスリリングに終わります。ロッシーニの序曲の魅力を9分間に詰め込んだような曲です。
『どろぼうかささぎ』で名演ができる指揮者は、本当のロッシーニ指揮者ですね。
おすすめの名盤レビュー
クラウディオ・アバドが特にこの曲を得意としています。1991年のウィーンフィルのニュー・イヤー・コンサートの最初の曲目にした位です。ニュー・イヤー・コンサートにも合う曲ですね。トスカニーニやライナーの名演も忘れてはいけないですし、他の若手の演奏も取り上げてみたいと思います。
また全曲盤も加わりましたので、こちらもレビューしたいと思います。
アバド=ヨーロッパ室内管弦楽団
アバドとヨーロッパ室内管弦楽団は、この序曲を本当に得意としています。やはり大編成のオーケストラだと、この曲の軽妙さを上手く表現できないようで、ロンドン交響楽団よりも小編成のヨーロッパ室内管弦楽団はずっと良い演奏をしています。
ただ、アンサンブルの精度が少しだけ甘いですね。アバドはライヴに強い指揮者で、このコンビでドキュメンタリー映画のようなものが昔TVでやっていたのですが、そこでの演奏が一番スリリングでした。YouTubeでも1回発見したのですが、見当たらなくなってしまいました。
いずれにせよ、今、入手できる最高の名盤はアバド=ヨーロッパ室内管弦楽団だと思います。
アバド=ロンドン交響楽団
アバドとロンドン交響楽団の演奏です。冒頭はかなり速めのテンポで始まります。ロンドン交響楽団のアンサンブルはとても安定していて素晴らしいです。録音も十分良く、広がりのある演奏を楽しめます。
主部に入ると、普段のロンドン交響楽団と思えない位、軽快に演奏しています。ヨーロッパ室内管弦楽団との演奏が無ければ、これが一番良い名盤だったでしょうね。アバドが煽ってもアンサンブルが安定しているので、人によってはロンドン交響楽団との演奏のほうが良いと感じると思います。本当にこの辺りは悩ましいですね。
アバド=ウィーン・フィル
前記した1991年のニュー・イヤー・コンサートです。ニュー・イヤー・コンサートらしく、上品で祝祭的な雰囲気の中、演奏されています。
その代わりスリリングさは、ヨーロッパ室内管弦楽団のほうが上ですかね。ただ、ウィーン・フィルもなかなかで、軽妙でしかもアンサンブルが素晴らしいです。
当時はLDで見たのですが、アバドが『泥棒かささぎ』を指揮する姿が見られて、それだけでも感動しました。
シャイー=スカラ座フィル
『泥棒かささぎ』序曲は、シャイー=スカラ座フィルのアルバムのトリを飾っています。それだけ聴きごたえのある名演です。録音の良さもあって、最初のスネヤがとても気持ち良いサウンドです。
個性的なデュナーミク(強弱)がついていて、アバド盤と差別化しているのかも知れませんけれど、いずれにせよ好演です。スカラ座フィルは普通の編成のようで、フォルテの個所では結構スケールが大きいです。弦はカンタービレを効かせて流麗に演奏しています。華麗な音響はさすがスカラ座フィルですね。
アバド盤に迫る好演だと思いますし、録音が新しく音質が良く響きが素晴らしいです。
セル=クリーヴランド管弦楽団のコンビは、いつもながらしっかりした演奏をしています。こんな軽快で特に深みも無い曲ですが、しっかりスコアを読み切って演奏する真摯な姿勢にはいつも感心させられます。
主部に入ると急に早くなったかと思いきや、一旦テンポを戻して落ち着いてきちんと演奏していきます。カンタービレの部分は遅めのテンポにしているようです。弦楽器もしっかり縦の線を合わせているように聴こえます。でも『泥棒かささぎ』序曲は、余裕のある楽しさがあったほうが、自然でいいような気もします。
アクセントのつけ方など細かい所もきちんと研究されているし、上手い効果がでるようなテンポの調整をしています。たまにこのコンビにしては珍しく少し走る時があるのですが、細かい所を詰め過ぎて力が入ったかなぁと思えます。
最後はとても良いです。最後のテンポアップはこのページで紹介している中で最速かも知れません。
『どろぼうかささぎ』序曲は10分以下の小曲ですけど、意外に色々な演奏があって面白いですね。
トスカニーニ=NBC交響楽団
トスカニーニはロッシーニを得意としています。『どろぼうかささぎ』は模範的といっていいような演奏です。冒頭から結構速いテンポで凄い推進力です。
主部に入ると3拍子の拍が、かなりはっきりしていて、しなやかさのあるアバドに比べると少し3拍子系の軽妙さに欠けるでしょうか?
その代わり、安定したアンサンブルと爆発的といってもいい位、スケールの大きいロッシーニ・クレッシェンドが聴けます。アメリカのNBC交響楽団でもイタリア風のカンタービレを失わないのは凄いことです。モノラル盤ですが、ロッシーニ好きは一度は聴いてほしい名盤です。
ライナーはトスカニーニよりもさらにスケールの大きな『泥棒かささぎ』序曲を録音しています。ライナーの出身はハンガリーですし、シカゴ交響楽団もハンガリー系のメンバーが多いので、イタリアとはあまり関係ないのですが、それでも素晴らしい名演なのです。
壮大な序奏を超えて、主部に入ってもあまりイタリア風なカンタービレは感じられません。でも、軽快なリズムは素晴らしいです。それでいてスケールの大きさと両立しているのです。
この曲もロッシーニ・クレッシェンドが効果的に使われていますが、トスカニーニ以上に爆発的なクレッシェンドで、シカゴ交響楽団を鳴らし切っています。
マルケヴィッチ=フランス国立放送管弦楽団
マルケヴィッチの『泥棒かささぎ』序曲は、非常に個性的です。また、録音が1957年としてもあまり良い音質とは言えず、ダイナミクスを捕らえ切れていないようです。最後の音はゆがんでいる位です。
最初のスネヤのロールが短くて音が小さいことと、途中のスネヤのロールも小さいです。これはマルケヴィッチの個性というべきでしょうか?この序曲の聴き所なので、ちょっと残念ですね。テンポも落ち着いていて、あまりマルケヴィッチらしさがありません。
マルケヴィッチはロシアの指揮者ですし、オケもフランスなので、実は曲をあまり知らなかったのかも知れません。『セビリアの理髪師』や『ウィリアムテル』に比べると、1950年代だと『泥棒かささぎ』はそんなに人気がないかも知れませんね。『セビリアの理髪師』序曲はテンポ取りも良くシャープな名演です。
トスカニーニやライナーの序曲集にも入っているので、知らないはずは無い気がしますが。
オペラDVD
最近になり、歌劇『泥棒かささぎ』は上演されることが多くなってきました。
ロッシーニ・オペラ・フェスティヴァル(ROF)2007年 (日本語字幕あり)
ケルン歌劇場 (日本語字幕なし、英語字幕)
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楽譜
ロッシーニ『どろぼうかささぎ』序曲の楽譜・スコアを紹介します。
ミニチュアスコア
OGT-1112 ロッシーニ 歌劇「泥棒かささぎ」序曲 (Philharmonia miniature scores)
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ロッシーニ: オペラ序曲集/スタディ・スコア
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