ヘンリー・パーセル (Henry Purcell,1659-1695)作曲の劇音楽『アブデラザール』Z.570 (『ムーア人の逆襲』、Abdelazar, or the Moor’s Revenge)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。「ロンド」は非常に有名です。「ホーンパイプ」も人気のある曲です。
解説
パーセルのアブデラザール組曲について解説します。
数少ないイギリスの作曲家
ヘンリー・パーセルはバロック時代では数少ないイギリスの作曲家です。クラシック界には、エドワード・エルガーが登場するまでイギリス人の有名な作曲家がいません。何故、イギリスに作曲家が居なくなってしまったのか、ですが、宗教が関係してきます。
実はルネッサンス時代にはイギリスには才能豊かな作曲家が何人もいて、むしろ音楽先進国だったのです。彼らはカトリック教徒でポリフォニー音楽を作曲していました。トマス・タリスはご存じでしょうか。40声のモテット『我、汝の他に望みなし』(Spem in alium)などは、40声部もあり、ポリフォニーによるオーケストラのような作品です。ヴォーン・ウィリアムズが「トマス・タリスの主題による幻想曲」でタリスの作曲した主題を使っています。そして、弟子のウィリアム・バードはさらに優れた才能の持ち主でした。
しかし、イギリスはプロテスタントの中でも厳格なイギリス国教を信仰することになりました。そのためカトリックは弾圧され、華やかさを伴う芸術は禁止されてしまいます。タリスはカトリックの流儀から外れて英語の声楽曲を作曲し、バードは屋根裏に隠れて作曲を続けましたが、厳しい弾圧のおかげで、後継者はいませんでした。
パーセルの登場
ヘンリー・パーセルは非常に才能のある作曲家で、バロック時代の中葉ごろに彗星のごとく現れます。バロック時代のモーツァルトのような存在です。オペラをいくつか残しており、現在、よく復活上演されています。器楽の分野ではトランペット協奏曲など、トランペットの作品も残しています。
イングランド共和国のウェストミンスターに生まれました。その後、王室礼拝堂付属の少年聖歌隊に入団します。そして聖歌隊長のペラム・ハンフリーからフランス、イタリアのバロック音楽の知識を得ます。変声期で退団した後、ウェストミンスター寺院のオルガン調律師や写譜係をして、ウィリアム・バード、オーランド・ギボンズ、トマス・タリスなどのルネッサンス期のイギリスの作曲家の作品を研究しました。そのころに作曲したアンセム(イギリス国教会の声楽曲)が残されています。
1677年に音楽を好んでいたチャールズ2世に才能を見抜かれ、パーセルは王室の弦楽合奏隊の専属作曲家に就任します。また、1679年にはウェストミンスター寺院のオルガニストになります。本格的に作曲活動を始め、劇音楽『アーサー王』『アブデラザール』などの作品を世に送り出していきます。そして初の本格的なオペラ『ディドとエネアス』を1689年に作曲します。オペラ『ディドとエネアス』はバロック中期のオペラでも最高傑作の一つとされています。
ところが、36歳の時に体調を崩し、亡くなってしまいます。原因は不明です。
彗星のように現れ、ほぼ独学で多くの傑作を残しましたが、弟子を残さずに亡くなってしまいました。この後、またイギリスからは有名な作曲家は出なくなってしまいます。そのため、イギリスはヘンデルやハイドンなど、外国の作曲家を歓迎しています。特にヘンデルは長期間、ロンドンで活動したので、その後継者が複数現れても良さそうな気がするのですが、ロマン派の後期になるまでイギリス人の有名な作曲家は出ていません。
劇音楽『アブデラザール』とその組曲
『アブデラザール』組曲は、パーセルの最も有名な作品です。またの名を『ムーア人の復讐』といいます。これはスペインが舞台で、イスラム教徒とスペインとの戦いを描いた劇です。ムーア人はイスラム教徒のアフリカ人ですね。
ベンジャミン・ブリテンが『青少年のための管弦楽入門』にアブデラザール組曲の『ロンド』の主題を使用したため、非常に有名になりました。また、小さい2部形式の曲が多いですが、親しみやすく品格のあるメロディが多く、特に弦楽アンサンブルでは親しまれています。イギリスの舞曲である『ホーン・パイプ』も人気があります。
1. 序曲:Overture
フランス風序曲です。付点リズムの後、フーガとなります。
2. ロンド:Rondeau
非常に有名なメロディのロンドです。
3. エア:Aire
4. エア:Aire
5. メヌエット:Minuett
6. エア:Aire
7. ジーグ:Jigg
8. ホーンパイプ:Hornpipe
このホーンパイプも有名で、単独で演奏されることがあります。
おすすめの名盤レビュー
それでは、パーセル作曲アブデラザール組曲の名盤をレビューしていきましょう。
と思いましたが、あまりリリースされていないですね。とりあえず一番信頼できるのは、ホグウッド盤とフライブルク・バロック盤です。ホグウッド盤は収録している曲の数が一番多く、昔は楽譜も出版していました。
ホグウッド=エンシェント室内管弦楽団
ホグウッドとエンシェント室内管弦楽団の演奏はテンポが速く、シャープさのある表現で、さりげなく微妙な感情を入れてくるパーセルの才能が偲ばれます。
序曲はダイナミックに始まり、主部に入ります。主部は簡単なフーガになっていますが、パーセルらしい和声で良さを上手く出した演奏です。シンプルな曲に、シンプルな演奏ですが、ツボはきちんと押さえています。2番目に『ロンド』が来ています。あっさりしていますが雰囲気の良い演奏です。エアは小編成で演奏されています。エアと名がつく曲が多いですが、形式に関係なく歌謡的な曲をエアと呼んでいます。舞曲はさすがにきちんとしたリズムでイギリスのホーンパイプも上手く演奏しています。
最後にソプラノの入った曲が追加されています。パーセルらしいアリアですね。
ヘンゲルブロック=フライブルク・バロック・オーケストラ
ヘンゲルブロックとフライブルク・バロック・オーケストラの録音です。1991年のデジタル録音で、音質が良いです。
演奏はスタンダードですが、しっかりしたテンポで手堅くまとめています。
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楽譜・スコア
パーセル作曲のアブデラザール組曲の楽譜・スコアを挙げていきます。