『セビリアの理髪師』序曲 (ロッシーニ)

ジョアキーノ・ロッシーニ (Gioachino Rossini,1792-1868)作曲の『セビリアの理髪師』序曲 (The Barber Of Seville)について、解説おすすめの名盤レビューをしていきます。

『セビリアの理髪師』序曲は、ロッシーニの序曲集の中でも『ウィリアム・テル』『どろぼうかささぎ』と共に、最も人気のある曲です。オーケストラでも良く上演されますし、吹奏楽でも演奏されます。

またオペラ『セビリアの理髪師』は、数あるロッシーニのオペラの中でも最も上演頻度が高いオペラで、その人気も高いです。

このページでは解説をしてからアバド、トスカニーニ、ムーティなど、沢山の名盤がありますので、レビューしていきたいと思います。

アバド=ヨーロッパ室内管弦楽団
若いころのアバドの演奏はとても刺激的です。

解説

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ジョアッキーノ・ロッシーニ (Gioachino Rossini, 1792~1868) が1816年、まだ24歳の時に書いたオペラ・ブッファです。序曲は実は流用で、前年に書いてナポリで初演された別のオペレッタの序曲を丸ごと転用したものです。さらにこの序曲はそれ以前にも2回使われているのです。転用はヘンデルの時代にはオペラでは良く行われていました。同じ序曲を3回転用するのはやりすぎな気がしますが。

ドイツにはベートーヴェンが登場して、音楽を大きく変えていきますが、イタリアは違う文化圏です。オペラなどでは昔の風習が残っていたのかも知れません。

あらすじは省略しますが、モーツァルトの「フィガロの結婚」の前編に当たるストーリーを台本にしたものです。

舞台はスペインのセビリアです。今ではスペインの新幹線(AVE)で行けますが、結構スペインでも奥地ですね。

おすすめの名盤レビュー

まず聴いておくべきは、アバドとトスカニーニだと思います。トスカニーニは戦前のモノラル録音ですが、この演奏には感心します。ロッシーニ序曲集の原点ではないでしょうか。

あとはイタリア系の指揮者なら誰でもロッシーニを取り上げます。ムーティはオペラ指揮者として才能を発揮しているので、聴きごたえがあります。シャイー、ガッティ

他の国では、デュトワもありますね。

アバド=ヨーロッパ室内管弦楽団

  • 名盤
  • 定番
  • 軽快
  • スリリング

超おすすめ:

指揮クラウディオ・アバド
演奏ヨーロッパ室内管弦楽団

1991年 (ステレオ/デジタル/セッション)

『セビリアの理髪師』序曲はクラウディオ・アバドの十八番です。アバドはスカラ座でオペラの上演もしたことがあります。『セビリアの理髪師』のスコアを大きく見直し、その結果、演奏は普通のスコアとは大分違います。でもこれはロッシーニの時代の様式の演奏なんです。

アバドの『セビリアの理髪師』序曲は、いくつもあります。特に映像は多いですね。CDでは、ヨーロッパ室内管弦楽団との軽快な録音が一番アバドらしい名演です。またロンドン交響楽団とのCDもあり、技術的にはロンドン交響楽団との演奏が一番安定しています。『セビリアの理髪師』序曲に関して言えば、どちらも同じくらい素晴らしい演奏です。

他にはベルリン・フィルとのDVDがあります。一番素晴らしいのは野外コンサートの「イタリアン・ナイト」です。ロッシーニやヴェルディの面白さを知りたければ「イタリアン・ナイト」のDVDは持っておくべきです。途中で雨が降ってきたりして演奏に影響していますが、イタリア音楽の楽しみ方がとてもよく分かります。

また後でレビューしますが、オペラのDVDではピットで演奏しています。若いころで、ピットでは実務的な指揮ぶりですけど、このDVDの演奏はアバドのロッシーニの原点です。

長くなりましたが、アバド=ヨーロッパ室内管弦楽団のロッシーニは軽快です。ヨーロッパ室内管弦楽団はアバドが設立し育成したオケですから、ロッシーニの演奏はお手のものです。

でも、他の指揮者、オケに比べれば、素晴らしい演奏です。アバドはかなり限界近くまでテンポを上げてスリリングさを出していますが、これは失敗するとアンサンブルが崩壊してしまうという、リスクがあります。そういう意味ではCDはテンポをあまり煽っていないですね。そのため演奏も安定しています。スリリングさはライヴほどではないかも知れませんが、軽快なサウンドはロッシーニにぴったりなので、『セビリアの理髪師』序曲はこのCDが一番良いですね。

ロンドン交響楽団は、多少限界ギリギリを超えても、オケのほうで調整してしまうのですが、ヨーロッパ室内管弦楽団はそこまで歴史もないので、聴衆に分かってしまうくらい崩れることがありますね。まあ、CDではそんなことはありませんけど。

シャイー=スカラ座フィル

本場ミラノスカラ座フィルの演奏
  • 名盤
  • 定番
  • 熱気
  • スリリング

おすすめ度:

指揮リッカルド・シャイー
演奏スカラ座フィルハーモニー管弦楽団

1995年2月23日~27日ミラノ (ステレオ/デジタル/セッション)

シャイーとミラノ・スカラ座管弦楽団の録音です。シャイーは、昔、ナショナルフィルとの録音があって、こちらも悪くはなかったのですが、アバドの二番煎じという感じで、あまり好きになれませんでした。アバドほどは煽(あお)らないので、ロッシーニ・クレッシェンドのスリリングさが少ないですが、安定した好演でした。オケはスカラ座ですし、手慣れた好演だと思います。

シャイーはスリリングに聴こえるテンポを上手く設定して指揮していますし、スカラ座フィルはさすがに響きが豪華です。テンポ設定も上手くスリリングさのある演奏です。またシャイーは曲によっては、ダイナミクスを変えて個性を出したりしています。

また、珍しい序曲が含まれているのが特徴ですね。その代わり「シンデレラ」序曲が入っていないなど、曲目をよく見て選んだほうが良いですね。

アバドを聴いてみて、ヨーロッパ室内管弦楽団の演奏が不安定と感じるようなら、このCDも選択肢に入れるのが良い気がします。

ライナー=シカゴ交響楽団

  • 名盤
  • 定番
  • ダイナミック

指揮フリッツ・ライナー
演奏シカゴ交響楽団

(ステレオ/デジタル/セッション)

フリッツ・ライナーとシカゴ交響楽団の組み合わせは、イタリアオペラを得意としている訳ではないと思います。ただ、凄いスケールの大きさには圧倒されます。最初のうちは門外漢の演奏かなという感じでしたが、ロッシーニ・クレッシェンドが始まると、他の演奏ではこんな圧倒的な迫力で、とにかく凄いの一言につきます。後半は凄いテンポでまさに爆演!爆演系のCDが欲しい方にはお薦めです。

古い録音ですが、演奏に引き込まれてしまい、音質などほとんど気になりません。

トスカニーニ=NBC交響楽団

  • 名盤
  • 定番
  • スリリング
  • ダイナミック

超おすすめ:

指揮アルトゥーロ・トスカニーニ
演奏NBC交響楽団

1945年6月,1953年 (モノラル/アナログ/セッション)

トスカニーニは、アバドよりも前の指揮者で、このCDは1945年のアメリカで収録されたものです。終戦直前ですけど、このころのトスカニーニの演奏は本当に爆発的なパワーがあって素晴らしいのです。イタリア音楽であっても、アメリカ音楽であっても、です。実は、スーザの「星条旗よ永遠なれ」もこの時期の録音がありますが、凄いなぁと圧倒されてしまいます。こんな敵と戦っていたんだから相手が悪すぎます。

いずれの序曲も超名演のレヴェルですが、『セリビアの理髪師』序曲も圧倒的な演奏です。アバドのようにテンポを限界まで煽らなくてもスリリングな演奏ができる、ということです。軽快さは少ないので、個人的にはトスカニーニ盤も好きですが、普段はアバド盤を聴きますけど。

アバドのように音を詰めたりしておらず、譜面通りです。それでもこんな演奏ができる、というのは目から鱗です。さすがはトスカニーニです。

パッパーノ=サンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団

  • 名盤
  • 定番

指揮アントニオ・パッパーノ
演奏サンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団

(ステレオ/デジタル/セッション)

パッパーノとサンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団の録音です。パッパーノはイタリア系イギリス人で、オケもイタリアのオーケストラです。そんなわけで、かなり完成度の高いロッシーニになっています。またパッパーノはオペラ指揮者なので、オペラの序曲集は得意とするところです。

「2008年以降の録音をライヴも交えて集めたロッシーニ・アルバム」とあるので、別々に録音したものを組み合わせてロッシーニ序曲集としたようです。

アバドやシャイーの路線ですが、気まぐれや即興的なところはなくて、しっかりスコアを読みこんで、イタリア的な演奏をしているように聴こえます。オペラ指揮者なので職人的なところもありますね。そのうえで速いテンポで演奏しています。結構、クオリティが高い演奏だと思います。ただ、フォルテが小さいので、オーケストラの編成が小さいかも知れず、迫力がダイレクトに伝わってこないです。オーケストラがあまりパワフルではないのかも知れません。『ウィリアム・テル』の最後の部分はとても迫力があって上手いので、曲によって編成を変えているのかも知れません。ロッシーニはベートーヴェンの終盤に活躍した作曲家です。『セビリアの理髪師』はそもそもあまり大きな編成ではありません。最後の『ウィリアム・テル』はグランドオペラなので、編成は大きいはずです。その辺りもきちんと再現したのかも知れません。

少し音量を大きめにして聴くと、オペラ劇場での演奏のようなとても正統派な演奏で、テンポも速めなので軽快かつスリリングで楽しめます。新しいので録音が悪いわけではなく、音質自体は良いですね。

時代が新しいので、昔はアバドだけでしたが、音を詰めるのは当たり前になっている感じですね。

ムーティ=フィルハーモニア管弦楽団

  • 名盤
  • 定番
  • スリリング
  • ダイナミック

おすすめ度:

指揮リッカルド・ムーティ
演奏フィルハーモニア管弦楽団

1978年7月8日、1980年7月16日,キングズウェイ・ホール、1979年4月6日、11月16日,アビー・ロード・スタジオ (ステレオ/セッション)

ムーティがまだミラノスカラ座の指揮者になる前の録音です。このCDは実はアバド盤とタメを張っていました。でもオケがイギリスのフィルハーモニア管弦楽団です。上手いオケですが、ロッシーニが得意な訳ではありません。そういう意味では、ロンドン交響楽団も同じですけど。

ムーティは筋肉質の音楽づくりで、ロッシーニよりはヴェルディのほうが得意なようです。ですが、ロッシーニもとても素晴らしい演奏です。この後、ミラノスカラ座で『ウィリアム・テル』を上演するなど大仕事をこなしていくわけですが、その才能を十分に感じます。

この『セビリアの理髪師』序曲は、冒頭アバドのように音を詰めたりせず、譜面通りの演奏です。それでもこれだけスリリングで力強い演奏ができるのは、やはり才能ですね。

ムーティは2005年にトラブルでスカラ座を辞めてしまったのですが、多くのオペラのDVDを残しています。ぜひスカラ座とロッシーニ序曲集を再録音して欲しかったですね。

マルケヴィッチ=フランス国立放送管弦楽団

  • 名盤
  • 定番
  • シャープ
  • ダイナミック

おすすめ度:

指揮イーゴリ・マルケヴィッチ
演奏フランス国立放送管弦楽団

1957年4月1-4日,パリ,サル・ドゥ・ラ・ミュチュアリテ (ステレオ/デジタル/セッション)

マルケヴィッチとフランス国立放送管弦楽団の録音です。『セビリアの理髪師』序曲は、なかなかの名演です。ただ録音が古く、ダイナミックレンジが狭い感じで、迫力のある演奏に聴こえますが、スタジオで聴いたら全然違った印象だったと思います。

まず最初から最後まで、テンポ取りがとても良いです。リズムもマルケヴィッチらしいシャープさがあり、録音が良ければかなりの名盤だったでしょうね。最後もアッチェランドして、シャープかつ軽快に終わります。録音の悪さに慣れてしまえば、かなりの名演なんです。

また、この演奏は短調の部分をきちんと歌っていて、雰囲気的にはアルルの女を思い出します。少しフランス風かも知れませんけど、結果としてセビリアの雰囲気が出ていると思います。

もっともこのCDは、曲によって名演とそうでもない演奏が分かれますね。全部、ロッシーニなので、大体一緒なんじゃないかと思いますけど、マルケヴィッチは曲によってテンポが遅かったり、普通の演奏と強弱が違っていたりします。

とにかく『セビリアの理髪師』序曲は名演です。

リープライヒ=ミュンヘン室内管弦楽団

  • 名盤
  • ピリオド奏法

指揮アレクサンダー・リープライヒ
演奏ミュンヘン室内管弦楽団

(ステレオ/デジタル/セッション)

アレクサンダー・リープライヒミュンヘン室内管弦楽団の録音です。さすがドイツのミュンヘンで、ミュンヘン室内管弦楽団はかなりレヴェルが高くロッシーニの演奏は実に簡単にこなしています。ただ、軽快ですが、低音が効いていてドイツのアンサンブルだな、と思わせます。リープライヒは、アバドばりにどんどん煽(あお)っていくスタイルです。

ちなみにピリオド奏法ですが、ロッシーニは意外と古い時代の人で、ベートーヴェンのころにウィーンにきてブームを巻き起こしているので、少なくともベートーヴェンのころの楽器を考慮する必要があるということですね。弓はモダンボウの形ですが、軽い弓で「クラシック・ボウ」を使っていたと思います。管楽器は随分違うでしょうね。

ピリオド奏法はモダン楽器を使って、演奏スタイルだけを当時の様式に合わせたものなので、ノンヴィブラートはやっていると思います。といってもテンポが速いので目立たないですけど。あとは編成をオペラの規模に合わせているのだと思います。確かに管楽器が良く聴こえるので、弦の人数は減らしていると思います。

結局、聴いた限りではあまり新しい発見もなく、小編成の上手いロッシーニ序曲集という風に感じました。

イタリアらしさは少なめですが、新しいので録音はとても良く、クリアに聴けます。録音が良くて結構うまいので、普通に聴いて楽しめます。そういうつもりで聴けばなかなかいいかも知れません。Amazonで見たら、新品が5000円とありましたが、その価値はないですね。1000円の中古品か、Amazon Unlimited MDがお薦めです。

ちなみにノリントンもピリオド奏法でロッシーニを録音していますが、あまりロッシーニ向きじゃない気がしますがどうなんでしょう?

パッパーノもこのくらい録音が良ければ、決定的なロッシーニ序曲集になったでしょうね。

オペラDVD

アバド=ミラノスカラ座

  • 名盤
  • 定番

おすすめ度:

指揮:クラウディオ・アバド、ミラノスカラ座

グラインドボーン音楽祭

ローレル=ル・セルクル・ド・ラルモニー

ロッシーニ(1792-1868):歌劇《セビリアの理髪師》2幕
台本: チェーザレ・ステルビーニ原作: ピエール = オギュスタン・カロン・ド・ボーマルシェ

フィガロ…フローリアン・センペイ(バリトン)
ロジーナ…カトリーヌ・トロットマン(メゾ・ソプラノ)
アルマヴィーヴァ伯爵…ミケーレ・アンジェリーニ(テノール)
ドン・バルトロ…ペーター・カールマン(バリトン)
ドン・バジリオ…ロバート・グリアドウ(テノール)
ベルタ…アンヌンツィアータ・ヴェストリ(メゾ・ソプラノ)
フィオレッロ…ギョーム・アンドリュー(バリトン)
アンブロージョ…ステファヌ・ファッコ(バス) 他

ジェレミー・ローレル(指揮)
ル・セルクル・ド・ラルモニー(ピリオド楽器使用)

ウニカンティ(アンサンブル)…合唱指揮…ガエル・ダルシャン

ロラン・ペリー(演出・装置・衣装)
クレオ・レグレ(装置協力)
ジャン=ジャック・デルモット(衣装協力)
ジョエル・アダン(照明)

シャンゼリゼ劇場、ボルドー国立歌劇場、マルセイユ歌劇場、
トゥール歌劇場、ルクセンブルク市立歌劇場、クラーゲンフルト州立歌劇場、共同制作

フランソワ・ルシヨン(映像ディレクター)

収録 2017年12月13.16日、シャンゼリゼ劇場、フランス

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楽譜・スコア

ロッシーニ作曲のセビリアの理髪師の楽譜・スコアを挙げていきます。

ミニチュアスコアとIMSLPどっちが得?

序曲のスコア

フルスコア(全曲)

ヴォーカルスコア

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