ペール・ギュント(グリーグ)

エドヴァルド・グリーグ(1843~1907)作曲の『ペール・ギュント』(Peer Gynt)Op.23 は非常に有名な曲です。このページでは曲の解説のあと、おすすめの名盤をレビューしていきます。

第1組曲の「朝」が特に人気があり、本当に朝霧につつまれた北欧の朝を完璧に描写していて、北欧情緒があります。(⇒でも、そうでは無いことは解説で説明しておきます。)他にも「オーゼの死」「山の魔王の宮殿にて」「ソルヴェイグの歌」など、有名な曲ばかりです。『ペール・ギュント』は北欧ノルウェーのエキゾチックな雰囲気満点で魅力的です。オーケストラではプロ・アマチュア問わず頻繁に演奏され、吹奏楽でも人気があります。

解説

グリーグ作曲の『ペール・ギュント』について解説します。

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劇音楽として作曲

1874年、グリーグが31歳の時に、ノルウェーの劇作家ヘンリック・イプセン(Henrik Johan Ibsen, 1828~1906)から自作の冒険物語「ペール・ギュント」に音楽を付けてほしいと依頼します。戯曲は、ノルウェー民話を基にした、落ちぶれた農家のノルウェー人ペール・ギュントの冒険物語です。

ちなみに劇作家イセプンは、現在シェークスピアの次に戯曲の上演回数が多いと言われる大劇作家です。まだ若いとはいえ、一筋縄の台本は書きません。この戯曲はストーリーがかなり酷く、理不尽なので、読んで「『ペールギュント』が嫌いになった!」という方も結構いるので、興味が無ければ「あらすじ」を飛ばして先に読み進めても大丈夫です。

「朝」(ブロムシュテット=北ドイツ放送交響楽団)

この時代は民族性を意識し始めた時代で、ノルウェーなど北欧諸国はデンマークの支配下にありましたが、デンマークではなくノルウェー民族としてのアイデンティティを強めていきます。グリーグはノルウェーの民族音楽を作曲したいと考えていました。

ペール・ギュントのあらすじ

ペール・ギュントは仕事が嫌いで夢想家で大ボラ吹きの、とても背徳的な主人公です。

昔、恋仲だったイングリットの結婚式に出席したとき、20歳のペールは聖書を持ち美しく可憐な少女ソルヴェイグと恋に落ちます。しかしペールイングリットが結婚を嫌がっていると聞き、結婚式からイングリットを略奪します。

しかしペールイングリットとの関係に何と一晩で飽きてしまい、ソルヴェイグのことを考え始めます。イングリットは嘆きますが、ペールは彼女を捨ててしまします。

ペールイングリットを奪ったことで、村人から追われ、逃げ出します。そこで魔王の娘と会います。魔王の宮殿に行くと、魔物(トロル)が沢山います。そこで魔王の娘との結婚を迫られます。

教会の鐘にも助けられ、魔王の宮殿から逃れましたが、まだ魔王は追ってきます。そこで山小屋を作りペールはそこに隠れます。ところがそこにソルヴェイグがやってきますペールは山小屋に迎え入れます。ちょうど、そこに魔王の娘が赤子を連れてやってきます。その赤子はペールの子でした。ソルヴェイグと結婚するなら、魔法を使って邪魔してやる、と脅します。

ペールソルヴェイグを待たせて、山小屋から逃げたし、母親オーゼの家に逃げます。しかしオーゼは年老いてまさに死に際でした。オーゼは姿をくらませていた息子の話を聞きながら安心して息を引き取ります。

ペールは船で旅にでます。中年になったペールは怪しい商売(奴隷貿易)で、大金持ちになっていました。しかし、地中海で航海を共にした紳士たちに、全財産を盗まれてしまいます。

また無一文になったペールは、モロッコにたどり着きます。ペールはそこで盗賊が奪った盗品を、丸ごと奪います。ベドウィン族の酋長をだまして大預言者になりすまし、取り入ります。そこで酋長の娘アニトラがダンスを踊りもてなします。アニトラペールを誘惑し、その隙にペールの所持品を全部奪って、砂漠に置き去りにしてしまいます。

ペールは今度はエジプトに行き、スフィンクス像を訪れたりしています。その後、色々な冒険のあと、カルフォルニアで金を掘り当て、大金持ちになりますが、既に白髪交じりの老人になっていました。

ペールはノルウェーへの帰途につきます。しかし嵐で船が難破し、自分一人だけ助かります。結局、また無一文となって帰郷します。

聖霊降臨祭の前日でした。ペールは自分の人生を後悔し、森の中を彷徨います。すると、昔、隠れていた山小屋があり盲目になってしまったソルヴェイグペールを待つ歌声が聞こえてきます。

ペールは逃げ出しますが、そこに死神(ボタン職人)が現れます。死神ペールの人生は出来損ないで「天国へも地獄へも行けない」と言います。

ペールは自分の人生の意味がなんだったのか分かるまで待ってほしいと懇願し、道行く人に尋ねますが、誰もがペールの人生の無意味さを気づかせただけでした。

夜が明けて聖霊降臨祭の日、疲れ果てたペールソルヴェイグの待つ小屋へ行くと、ソルヴェイグの子守唄を聴きながら、ペールは永い眠りにつきました。

(http://www.sayulin.com/grieg4.html、他を参考とした

人生の意味なんて、色々考えてしまう物語ですね。最後は老人になり、自分の人生を後悔すると…実は深い話だったのですね。最後に出てくる死神「ペールは天国へも地獄へも行けない」と言っていました。うーん、やはり地獄行きだと思いますが、なんででしょう。ペールソルヴェイグの人生も壊したのだし、間違いなく地獄行きですよね。

ソルヴェイグも結婚したわけでもないのに、放蕩している恋人を終生待っているなんて考えられませんよね。ソルヴェイグがまだ自分を待っていることを知ったペールが思わず逃げ出してしまうのも分かります。初めて会ったときに聖書を持っていたり、魔王の国から逃れてきたときに山小屋をすぐに見つけたり、ソルヴェイグはペールのやっていることはお見通し。

ソルヴェイグは何十年も待たせたペールを許し、盲目の彼女は今の老いたペールを見ることはありません再会は聖霊降臨祭の日ですから、ソルヴェイグは宗教的なものが絡んでそうですね。聖母マリア的な。(よくわかりませんが、時間が空いたら調べてみます。)

グリーグと同じ国民的作曲家であるコダーイが作曲した『ハーリ・ヤーノシュ』の筋書きを思い出します。全部コミカルなホラ話で最後は感動しますけど。こちらもスペインの『ドン・キホーテ』とも同じ系統の民話なのかも知れませんね。

劇音楽の作曲と苦労

グリーグは全5幕構成27曲からなる劇音楽『ペール・ギュント』Op.23を作曲しました。

面白い戯曲だと思いますけど、グリーグはこの奇想天外な冒険物語に、自分の音楽は向いていないと感じ、断ろうとしました。しかし民族的な音楽を書きたいと思っていたグリーグは、結局この依頼を受けることにしました。

あらすじで書いた通り、「朝」は、実はモロッコの朝の情景です。北欧情緒しか感じられませんけど、グリーグ自身もモロッコに行ったことはないでしょうし、どんな音楽を書いていいか分からないでしょうね。モロッコの朝って?砂漠と言えば、グローフェ『グランド・キャニオン』の「日の出」みたいな…

グリーグの音楽は親しみやすくロマンティックで、物語のシリアスな部分はあまり表現されていないようです。その辺りはコダーイの『ハーリ・ヤーノシュ』との違いですね。「ソルヴェイグの歌」は名曲ですけど、戯曲の筋書きを知らなければ本当の意味は分からないでしょう。

ソルヴェイグの歌(ベルゲン・フィル)

いずれにせよ『ペール・ギュント』が無ければグリーグは大分違ったイメージで見られていたでしょうね。

初演

初演は1876年2月24日にオスロの王立劇場で行われました。音楽のおかげもあって、概ね初演は成功しました。ただ、戯曲と音楽があっていないことへの批判はあったようです。確かに音楽だけ聴いていると、ただ北欧情緒にあふれた音楽にしか聴こえませんからね。

「オーゼの死」はさすがに少し重い音楽になっています。でも名曲の「ソルヴェイグの歌」も途中でテンポアップして長調に変わる部分があります。音楽を書くときには悲劇的な部分をかなりマイルドにしてあるし、異国情緒のほうを大事にしているように思います。

管弦楽組曲への編曲

歌唱とピアノパートを省いた管弦楽組曲が編曲されました。1891年に第1組曲、続いて1892年に第2組曲が編曲されました。

組曲『ペール・ギュント』

第1組曲 Op.46
 第1曲:「朝」
 第2曲:「オーゼの死」
 第3曲:「アニトラの踊り」
 第4曲:「山の魔王の宮殿にて」

第2組曲 Op.55
 第1曲:「イングリッドの嘆き」
 第2曲:「アラビアの踊り」
 第3曲:「ペール・ギュントの帰郷」
 第4曲:「ソルヴェイグの歌」

編成

フルート× 2, ピッコロ× 1, オーボエ×2, クラリネット× 2, ファゴット×2
ホルン×4, トランペット×2, トロンボーン×3, テューバ×1
ティンパニ×1, 大太鼓×1, シンバル×1, トライアングル×1
弦楽5部

グリーグの出身地

グリーグはノルウェーの中でも港町のベルゲン出身です。場所は以下です。その昔、海賊たちがやってきた、ノルウェーらしい土地柄ですね。ギリギリモロッコを入れてみましたが、エジプトとかカルフォルニアは入りませんでした。

おすすめの名盤レビュー

『ペール・ギュント』は、劇の設定と音楽が合っていないのでは?という指摘があることは既に書きました。いくつかディスクを聴いてみても、北欧情緒を感じるものばかりです。結局、グリーグの音楽なので北欧音楽だと思って聴くのが良さそうです。例えばモロッコなら「朝」はアフリカっぽく演奏するのは無理だと思いますし、「アニトラの踊り」サン=サーンスのオペラやハチャトゥリアン並みの官能性はありません。

全曲盤抜粋組曲、どれが良い?

この曲を聴くときには、全曲盤、抜粋組曲のいずれかから選ぶことになります。

★聴いて楽しみたいなら、是非全曲盤をお薦めします。全曲盤のCDをリリースするような演奏家は気合いが入っていて名盤ばかりです。あらすじを知っていればきっと感動すると思いますよ。

有名なところだけ聴いてみたい方には、組曲版で十分有名なメロディは網羅されています。組曲に入れられていない名曲が多いのと、組曲だと曲順も変わるので、筋書きを行ったり来たりして忙しいです。

抜粋版は演奏家の好みが反映されるので曲目を見て決めたほうがいいです。その演奏家が好きならそれでOKです。迷うようでしたら、組曲に入っている曲が全部収録されているCDを選ぶのがいいです。

ネーメ・ヤルヴィ=エーテボリ交響楽団 (全曲)

北欧のオーケストラで土の香りがする響きを満喫
  • 名盤
  • 定番
  • 民族的
  • 熱演
  • ダイナミック

超おすすめ:

ソプラノバーバラ・ボニー
バリトンウルバン・マルムベルイ
テノールシェル・マグヌス・サンヴェー
語りルート・テレフセン
合唱エスター・オーリン・ヴォーカル・アンサンブル
合唱プロ・ムジカ合唱団
指揮ネーメ・ヤルヴィ
演奏エーテボリ交響楽団

1987年6月,1992年,エーテボリ (ステレオ/デジタル/セッション)

ネーメ・ヤルヴィは、スカンジナビア半島の反対側にあるバルト3国のエストニア出身です。オーケストラは、北欧エーテボリ管弦楽団ですので、元々民族的な音色を持っています。このコンビは『ペール・ギュント』を全曲録音しています。組曲でも発売されていますが、これは全曲録音から抜粋したもので、歌唱や合唱が入っています。「ソルヴェイグの歌」などは歌唱がないと良さが出にくいので、このほうがいいですね。「山の魔王の宮殿にて」で、合唱が入り、最後にセリフが入っていて、普通の組曲の演奏と大分違います。何かの参考で、組曲のCDを探している方はブロムシュテット盤、カラヤン盤、ノルウェー放送管弦楽団盤をお薦めします。

貴重な全曲盤は、熱気と感情が入っていてとても素晴らしいです。ネーメ・ヤルヴィもオケも凄く気合いを感じます。録音の音質のかなり良いので、民族的な微妙な色彩も良く聴くことが出来て、とても素晴らしいです。また歌唱や合唱も名演を繰り広げています。第1曲目、第2曲目に出てくる民族楽器ハーディングフェーレ(ノルウェーのフィドル)を模した演奏も民族的な響きです。

「朝」はしなやかさを感じる名演です。「オーゼの死」のようなシンプルな音楽でもしなやかで感動的です。「アニトラの踊り」はまあ北欧的ですね。この曲は、一応、官能的な音楽の作りなのですが、どの演奏で聴いても官能的に感じないのですよね。「山の魔王の宮殿にて」は先述の通り、合唱やセリフが入っていて面白いです。「イングリットの嘆き」は、シャープさがあって、イングリットの感情表現が素晴らしいです。「ソルヴェイグの歌」はやはり歌唱が入って素晴らしいですね。

録音が良いので内旋や中低弦が良く聴こえます。そして、中低弦の音色や表現がとても素晴らしい演奏でもあります。

ネーメ・ヤルヴィ=エーテボリ交響楽団 (組曲)

  • 名盤
  • 定番
  • 民族的
  • 熱演

超おすすめ:

ソプラノバーバラ・ボニー
バリトンウルバン・マルムベルイ
テノールシェル・マグヌス・サンヴェー
語りルート・テレフセン
合唱エスター・オーリン・ヴォーカル・アンサンブル
合唱プロ・ムジカ合唱団
指揮ネーメ・ヤルヴィ
演奏エーテボリ交響楽団

1987年6月,1992年,エーテボリ (ステレオ/デジタル/セッション)

フロシャウアー=ケルンWDR放送管弦楽団 (全曲版セリフ付き)

シャープで鮮烈な演奏、2002年録音で高音質
  • 名盤
  • 定番
  • 表情豊か
  • 感動的
  • 高音質

おすすめ度:

指揮ヘリムート・フロシャウアー
演奏ケルンWDR放送管弦楽団

2002年11月12-21日,ドイツ,ケルン,Klaus-von-Bismarck-Saal,Funkhaus

フロシャウアー=ケルンWDR放送管弦楽団の全曲盤です。ドイツ語(多分)のセリフが入っています。セリフ付きの全曲盤は始めて聴きました。セリフに表情もついているので、雰囲気が伝わってきます。ナレーションも入っています。本来はノルウェー語にすべきなのでしょうけど、そろそろ字幕付きの劇の映像(DVD)が欲しいですね。

演奏は、ケルンWDR放送管弦楽団しっかりしたクオリティの高い演奏です。高音質で透明感があります。特に民族的な所は感じませんけれど、セリフ付きの全曲版というのも聴いていて意外に楽しいものです。あらすじを知っていれば「こんな会話なんだろう」と想像しながら聴けます。第2曲のハーディングフェーレ風のヴァイオリンソロは上手く装飾をつけていて、北欧の民族性を感じます

全5幕セリフが結構長いので、演奏時間も長めです。第2幕の前奏曲感情が入っていて名演です。やはり劇音楽として上演して初めて分かるものがある、と思います。ドイツ語のセリフが入っていれば、その曲をどう演奏すべきか、劇の流れで分かると思います。ストーリーが一筋縄では行かないので、セリフがあると腑に落ちる部分も多いです。セリフと音楽がかぶる所もきちんと再現されています

『ペール・ギュント』を深く知りたい人にとって、貴重なディスクだと感じました。

ブロムシュテット=シュターツカペレ・ドレスデン (全曲)

  • 名盤
  • 定番

ソプラノタル・ヴァリャッカ
メゾ・ソプラノエディット・タラウグ
指揮ヘルベルト・ブロムシュテット
演奏シュターツカペレ・ドレスデン
合唱ライプツィヒ放送合唱団

(ステレオ/デジタル/セッション)

エンゲセト=マルメ交響楽団

  • 名盤
  • 定番

指揮ビヤルテ・エンゲセト
演奏マルメ交響楽団
合唱マルメ室内合唱団
合唱マルメ室内女声合唱団

(ステレオ/デジタル/セッション)

カラヤン=ベルリン・フィル (新盤)(組曲)

円熟したカラヤンのシンフォニックで味わい深い名盤
  • 名盤
  • 定番
  • 円熟
  • 透明感
  • 高音質

超おすすめ:

指揮ヘルベルト・フォン・カラヤン
演奏ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

1982年1月,2月,ベルリン (ステレオ/デジタル/セッション)

カラヤン=ベルリンフィルの1983年の録音です。いわゆる新盤です。1980年代のカラヤン=ベルリン・フィルはロマンティックではあるのですが、カラヤンが円熟してきて演奏スタイルが変わってきた頃です。1971年盤(旧盤)もありますが、どちらがいいかは好みの問題です。「ペール・ギュント」は新盤のほうが評価が高いようです。筆者は新盤の銀色のイメージのサウンドが好みです。また新盤は全体的にテンポが遅めです。

「朝」から目の覚めるようなカラヤンらしいロマンティックな演奏です。しかし、旧盤と違って弦楽器が盛り上げる所はとてもシンフォニックでさわやかです。録音の音質の違いもあるかも知れません。「オーゼの死」はもう少し派手かと思いましたが、新盤はそこまで押しが強くはありません。このほうが自然ですね。カラヤンはあまり理不尽なところは表現していません。旧盤と比べて、新盤はあくまでシンフォニックです。「ソルヴェイグの歌」は、遅いテンポで丁寧であり、味わいがあります。ベルリン・フィルですから、カラヤンの細かい指揮に反応して、繊細にしたり、厚みを増してみたりと細かく敏感に表現してきます。

カップリングのカラヤン得意のシベリウスも名演奏で、充実した聴きごたえのある名盤です。

パーヴォ・ヤルヴィ=エストニア国立交響楽団 (抜粋)

P.ヤルヴィの地元のエストニア国立響の演奏、意外と知的
  • 名盤
  • 定番
  • 知的
  • 高音質

おすすめ度:

バリトンペーター・マッティ
ソプラノカミラ・ティリング
メゾソプラノシャルロッテ・ヘレカント
合唱エラーハイン少女合唱団
合唱エストニア国立男声合唱団
指揮パーヴォ・ヤルヴィ
演奏エストニア国立交響楽団

2004年9月 (ステレオ/デジタル/セッション)

アマゾンUnlimitedとは?

パーヴォ・ヤルヴィは、ネーメ・ヤルヴィの息子です。民族的な音楽よりはドイツものなどをレパートリーにしていました。今回は『ペール・ギュント』で親子対決ですね。演奏スタイルが違うので、それほど対決にはならないかも知れませんけど。パーヴォ・ヤルヴィ抜粋ですが、かなり曲数が多いので、全集にしたほうが良かったんじゃないか、と思います。将来に取っておいたのでしょうか?

オーケストラがヤルヴィ一家の地元(バルト三国のエストニア)のエストニア国立交響楽団であることが特徴で、P.ヤルヴィが優れた指揮者であることは分かっているので、この楽団のレヴェルに依存してくると思います。第1曲では、音質も良くなかなかの演奏ですが、テミルカーノフ盤に比べて、民族楽器のハーディングフェーレの音がモダンなので、普通の弦楽器で代用している感じもします。パーヴォ・ヤルヴィの特徴ですけど、理知的なので民族的な音楽をやると、スッキリまとめる傾向があります。エストニア国立交響楽団はしなやかに演奏していてクオリティは高いです。「イングリットの嘆き」では、劇的な表情付けをしています。あまり民族的な響きは感じないですけれど。「アニトラの踊り」では、官能的な音楽にすることに成功しています。グリーグなので限界はありますが、このページにある中では一番異国情緒があって、アフリカらしいですね。「ソルヴェイグの歌」も清潔感があって、非常に良いです。

トータルとしては知的でクオリティの高い演奏ですが、感情表現でいま一歩なところがあるのかも知れません。民族性ももう少し欲しいですね。ただ、他の演奏では聴けない表現もあって、新鮮味があります。

テミルカーノフ=ロイヤル・フィル(抜粋)

  • 名盤
  • 知的
  • 格調
  • 芳醇

超おすすめ:

ソプラノインガ・ダム=イェンセン
合唱ロンドン・シンフォニック・コーラス
指揮ユーリ・テミルカーノフ
演奏ロイヤル・フィルフィルハーモニー

1994年,ロンドン,ブラック・ヒース・コンサートホール

テミルカーノフサンクト・ペテルブルグ・フィル(旧レニングラード・フィル)の指揮者です。昔、西側ではロイヤル・フィルとCD録音をしていました。テミルカーノフはロシア的な民族性を持った指揮者ですが、独特のセンスがあって、あまり土の香りを出しすぎずスタイリッシュに演奏してきます。ハチャトリアン「ガイーヌ」「スパルタクス」の抜粋はとても面白い演奏でした。ロイヤルフィルは一流オケですけれど、技術的に特別優れているわけではないです。ただ色彩的でロシア音楽など民族音楽を演奏しても良い味を出してきます。

実際、聴いてみたところ、予想を超えて素晴らしい演奏でした。ロイヤルフィルとは思えない上手さです。ダイナミックなところはシャープなサウンドですし、ボリュームもあります。録音の音質も素晴らしいです。普段の色彩的な演奏とは少し違い、シリアスな場面も味わい深く聴かせてくれます。

最初の曲は、結婚式の場面ですが、速いテンポでテミルカーノフらしいセンスを感じます。ハーディングフェーレ(民族楽器)を模した演奏が上手いので、実は本物を使っているのかと英語の解説を読んでみましたが、分かりませんでした。第2曲目はイングリットの嘆きですが、テミルカーノフってこんなにシリアスで格調高い表現ができるのか、と目から鱗が落ちる演奏です。もう北欧情緒がどうの、なんて程度の低い話で、グリーグの音楽でもちゃんと理不尽なところも表現できるんですね。民族的な演奏ではあって、ただセンスが良いので土の香りがまろやかなんです。テミルカーノフお得意のラフマニノフやプロコフィエフと同じですね。

「山の魔王の宮殿にて」は、合唱も入って大迫力です。「オーゼの死」も絶妙なバランスとセンスの良さで、あまり感情的にならず、老いた母の理不尽な死を十分描いています。(ロイヤル・フィルはもう少し頑張って深みを出してほしいところでした。)そんな感じで、他の演奏とはまた違った格調の高さと味わいのある演奏が続きます。全く飽きる所はありません。最後の「ソルヴェイグの歌」など、讃美歌も出てきますが、ここでも清潔で格調高いサウンドを聴かせてくれます。それでいて感動的です。どちらかというとラフマニノフでも聴いているような少しロシア的な情緒があります。このコンビでも屈指の名盤だと思います。

抜粋版ですが、16曲56分も入っていて充実感があります。歌唱もコーラスも入っています。選曲はテミルカーノフがしたのでしょうかね。でもこれだけ沢山の曲を入れるなら、全曲版にしてほしかったですね。

ブロムシュテット=サンフランシスコ交響楽団 (抜粋)

1989年度レコード・アカデミー賞受賞盤
  • 名盤
  • 定番
  • 透明感
  • 高音質

おすすめ度:

指揮ヘルベルト・ブロムシュテット
演奏サンフランシスコ交響楽団
合唱サンフランシスコ交響合唱団

1988年サンフランシスコ,デイヴィス・シンフォニー・ホール (ステレオ/デジタル/セッション)

ブロムシュテットはドイツの指揮者ですが北欧音楽が得意で、シベリウスニールセンなどに取り組んでいます。サンフランシスコ交響楽団を指揮したものがメインになっています。サンフランシスコ交響楽団は非常に上手いオーケストラで、サウンドが透明で見通しが良いです。透明度の高い湖のようです。ただアメリアのオケなので民族性はありません。ブロムシュテットもサンフランシスコ交響楽団から北欧の民族的な響きを引き出そうとはしていません。

北欧らしい透明感のある響きです。「朝」などは白い世界です。「オーゼの死」は繊細で名演です。「イングリットの嘆き」も素晴らしいです。どちらかというと、理不尽な曲の表現が素晴らしいです。サンフランシスコ交響楽団なので、「山の魔王の宮殿にて」がいいかなと思ったのですが、急にテンポアップして思ったほどの迫力がなかったです。「ソルヴェイグの歌」弦楽器による演奏で、やはり歌唱には敵わないですね。技術的には、このページの中で一番クオリティの高い演奏だと思います。

スメターチェク=プラハ交響楽団 (組曲)

感情表現が上手く、感動的な名盤
  • 名盤
  • 繊細
  • 共感
  • 感動的

おすすめ度:

指揮ヴァーツラフ・スメターチェク
演奏プラハ交響楽団

1976年11月30日(ステレオ/アナログ)

スメターチェクはチェコの指揮者ですが、北欧的な情緒よりも感情表現に力を入れていて、聴きごたえのある名盤です。「オーゼの死」は名演です。最初のしみじみと味わい深い弦楽、そしてショッキングさも表現され、複雑な心境を描いています。「アニトラの踊り」は誘惑の踊り、というより味わい深く聴けますね。「魔王の宮殿にて」は物凄く遅いテンポで始まります。オケがアッチェランドしようとしても止めています。最後になって急に速くなり、大きく盛り上がります。

第2組曲「イングリットの嘆き」は鋭く始まります。弦楽器の嘆きの部分は上手い感情表現です。さすが巨匠スメターチェクで、凄く引き込まれます。盛り上がりもダイナミックです。中間の2曲は意外にシャープで速いテンポです。「ソルヴェイグの歌」も歌手がいないので弦がメロディを弾きますが、深みがあります。

北欧系の演奏家とは大分違いますが、最初から最後まで面白く聴ける演奏でした。『ペール・ギュント』好きには聴いてほしい名演です。1970年代の録音としてはノイズが大きめで、「朝」のような曲だと少し気になります。録音がもう少し良ければ、と思いますが、当時は東欧ですし技術的やむを得ないですかね。感情表現が素晴らしく味わい深さがある名盤です。

ラシライネン=ノルウェー放送管弦楽団(組曲)

  • 名盤
  • 民族的

おすすめ度:

指揮:ラシライネン、ノルウェー放送管弦楽団

グリーグ:ペール・ギュント組曲、他
レビュー数:13個
残り1点

ノルウェー放送交響楽団は、名前の通り地元ノルウェーの首都オスロに本拠地を置くオーケストラです。アリ・ラシライネンはフィンランド人で、このオケの首席指揮者です。このオーケストラと緊密な関係を築いています。

聴いてみると、凄くスタンダードな好演ですね。「朝」からイメージ通りの演奏が続きます。スコアを見ながら聴くのに良い演奏かも知れません。ノルウェーの民族的な所もありますが、洗練されたオーケストラで、あまり個性的なところも無いです。何かのBGMに使うのに良さそうです。遅めのテンポの情緒的な路線で、過度にロマンティックになることもありません。普段、ネーメ・ヤルヴィ盤を聴いていると、こういう演奏は貴重に感じますね。

スタンダードな演奏の中には、ブロムシュテット盤もあるので不利ですけど、譜面通りという意味では一番です。ロマン派だとこういう演奏は意外に少ないんです。

カラヤン=ベルリン・フィル (旧盤)(組曲)

  • 名盤
  • 定番
  • ダイナミック

おすすめ度:

指揮ヘルベルト・フォン・カラヤン
演奏ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

1971年 (ステレオ/アナログ/セッション)

カラヤン=ベルリンフィル旧盤は1971年に録音されました。カラヤン=ベルリンフィルが一番油が乗っていた時代ですね。新盤と全然違う演奏です。

「朝」はすがすがしい雰囲気で、新盤よりメリハリがあります。ただ録音が今一つな気がします。「オーゼの死」は、昔のカラヤンらしい押しの強い演奏です。旧盤も悲哀は感じますが、理不尽さみたいなものは無いですね。途中から急に音量が増していますが、これは編集のせいかも知れません。ただ、ここからがカラヤンらしいサウンドですね。「アニトラの踊り」は新盤では少し平坦でしたが、旧盤は結構官能的な感じが出ています。「魔王の宮殿にて」もベルリンフィルが全開で迫力あります。「イングリッドの嘆き」は、カラヤンらしい油絵のような表現で厚みのあるサウンドが印象的です。こういう音は当時のベルリンフィルしか出せないですね。ただ、イングリットの嘆きというより、ブラームスみたいになっていますけど、汗。

カラヤンは新盤・旧盤ともに上手いのは間違いないですが、あまりペール・ギュントの本質に迫っていない感じです。というのは、あえて、理不尽な物語を再現するのを避けている気がしますが、組曲なので、それでも良いと思います。

ベルグルンド=ボーンマス交響楽団(組曲)

昔の定番、感情表現の上手さが聴きどころ
  • 名盤
  • 民族的

おすすめ度:

指揮パーヴォ・ベルグルンド、ボーンマス交響楽団

1973年

昔から名盤と誉れ高いベルグルンド=ボーンマス交響楽団の演奏です。北欧系のスタンダードを作ったと言える名盤かも知れません。でも今となっては少し録音は古いですね。

「朝」は少し速めのテンポから始まり、テンポを良く動かす演奏で味わい深いです。「オーゼの死」は次第に感情が増していき、激しい感情表現となっていきます。古い録音とは言え、ベルグルンドはやっぱり凄いですね。

「イングリットの嘆き」は、鋭く始まって、弦セクションが重くメロディを弾きます。感情表現がとても上手いですが、意図的だと思いますけど、凄く重さを感じます「アラブの踊り」は快活で、異国情緒もあります。グリーグの音楽はみんな北欧風になってしまうので、「もしかするとこの部分はアラブを表現したいのだろうか」などと思いながら聴いています。「ソルヴェイグの歌」も美しい演奏です。歌唱でなくても十分味わえる演奏です。テンポ取りなどはネーメ・ヤルヴィ盤に影響を与えている気がしますね。

他のCDよりも感情表現が激しい部分があるので、そこが聴きどころですね。

ビーチャム=ロイヤル・フィル

  • 歴史的名盤

指揮トーマス・ビーチャム
演奏ロイヤル・フィルハーモニック

1956-57年ロンドン、アビー・ロード・スタジオ(ステレオ/アナログ/セッション)

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DVD,Blu-Ray

ウィーン国立バレエ (バレエ版)

BluRay,DVDをさらに探す

楽譜

グリーグのペール・ギュントの楽譜・スコアを紹介します。

ミニチュアスコアとIMSLPどっちが得?

電子スコア

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