アラム・ハチャトゥリアン (Aram Khachaturian,1903-1978)作曲のスパルタクス (Spartacus)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。
『スパルタクス』はバレエとして質が高く、バレエ上演も良く行われます。また音楽も人気があり、吹奏楽で良く演奏されます。「スパルタクスとフリーギアのアダージョ」が特に有名です。
解説
ハチャトゥリアンのスパルタクスについて解説します。
バレエ『スパスタクス』はバレエとしては珍しく歴史物であり、これも珍しく主人公が男性です。ローマ皇帝ネロ、奴隷のスパルタクスなどが物語を主導していきます。だから、男性も観やすいバレエかというと、別にそういうことではありません。
ハチャトゥリアンは音楽がもともと情熱的なのですが、官能的な場面がとても多いです。その代表が有名な音楽を伴う上のYouTubeです。
作曲と初演
ソヴィエトでの日常生活を描いた『ガイーヌ』とは異なり、歴史的な事実をベースにした作品です。ただ、バレエでのあらすじは、歴史的事実と大きくかけ離れていますけれど。
1954年にバレエ音楽を作曲しました。
初演は1956年にレニングラードにて、レオニード・ヤコブソン振付で行われました。しかし、初演の際にはあまり高い評価は得られませんでした。1958年にイーゴリ・モイセーエフ振付により、モスクワのボリショイ劇場で上演されました。
『スパルタクス』が高い評価を得たのは、1968年にユーリー・グリゴローヴィチ振付の舞台でした。グリゴローヴィチ版は今でもボリショイ劇場をはじめ、多くのバレエ団の主要なレパートリーになっており、バレエとして大きな成功を収めています。
組曲
ハチャトゥリヤンはガイーヌと同様、3つの組曲を編纂しました。しかし、曲数が多いため、この組曲通りに演奏される例は少ないです。抜粋での演奏が中心です。自作自演でもそうです。
■組曲第1番
・序奏 – ニンフの踊り
・エギナとハルモディウスのアダージョ
・エギナとバッカナリアのヴァリアシオン
・情景とクロタルムスの踊り
・ガディスの娘の踊り – スパルタクスの勝利
■組曲第2番
・スパルタクスとフリーギアのアダージョ
・商人たちの入場 – ローマの遊女の踊り
・全体の踊り
・スパルタクスの入場 – 口論
・ハルモディウスの裏切り
・海賊の踊り
■組曲第3番
・ギリシャの奴隷の踊り
・エジプトの少女の踊り
・夜の出来事
・フリーギアの踊り – 別れの場面
・競技場にて
おすすめの名盤レビュー
それでは、ハチャトゥリアン作曲スパルタクスの名盤をレビューしていきましょう。
ハチャトゥリアン=ウィーン・フィル
やはりというべきか、ハチャトゥリヤンの自作自演が非常に良い演奏です。『スパルタクス』は、オケの表現力も要求される名曲です。
「スパルタクスとフリーギアのアダージョ」から始まり、4曲だけ抜粋されています。「スパルタクスとフリーギアのアダージョ」は非常に官能的な音楽ですが、ハチャトゥリアン=ウィーン・フィルの演奏は非常に素晴らしいです。民族的な味わいと、官能的な表現が合わさって、定番と言うに相応しい名演です。ダイナミックさはロシアのオケの方が上ですが、ウィーンフィルも結構ダイナミックで、このCDでは物凄いスケールの響きを出していて驚きました。リズム感も素晴らしく、とてもウィーン・フィルとは思えない民族的でダイナミックな演奏です。
4曲しか入っていませんが、いずれも重要な場面の名曲で、キャッチーで聴きごたえがあります。
ハチャトリアンは1977年にロンドン交響楽団と、もう一つのバレエ音楽集を録音しました。演奏は、うーん、どちらにも良さはありますが、民族的で熱気があるウィーンフィル盤の方がいいような気もします。ただ、「スパルタクスとフリーギアのアダージョ」「ガディスの娘の踊り~叛乱者の進入」を除いて、他2曲は新たに収録されたものです。ハチャトリアンの自作自演で聴ける曲目が増えたということです。
アニハーノフ=サンクトペテルブルク交響楽団 (組曲)
アニハーノフ=サンクト・ペテルブルグ交響楽団による組曲の録音です。さすがNaxosで第1組曲~第4組曲まで全部入っています。アニハーノフはレニングラード・バレエの指揮者でバレエの経験は豊富です。サンクト・ペテルブルグ交響楽団は長い歴史を持つオーケストラです。録音は悪くなく、残響が少し長い気もしますが、新しめの録音だと思います。
スコアを見ながら曲を聴いていけるという意味で、組曲になっていると助かります。これまでは自作自演でも4曲程度抜粋したものだったため、このCDがリリースされるまでは、バレエの映像を観るしかありませんでした。まあ、バレエあっての音楽なので、それでいいような気もしますけれど。ボリショイ劇場の演奏はかなりハイレヴェルです。
この組曲のアニハーノフ=サンクト・ペテルブルグ交響楽団は自作自演並みの素晴らしい演奏です。「スパルタクスとフリーギアのアダージョ」など、表現もしっかりしていてスケールが大きく、自作自演なみのレヴェルの高さです。「こんな曲も組曲に入っていたのか」と新しい発見の多いCDですね。
ミハイル・ユロフスキ=ベルリン・ドイツ交響楽団の演奏による全曲盤です。1968年ボリショイ版(グリゴローヴィチ版)による全曲盤です。1997年録音で音質は良いですが、少し響き過ぎな感じもします。ベルリン・ドイツ交響楽団はハチャトゥリアンの演奏に慣れている感じではありませんが、演奏のクオリティは高いです。
冒頭を聴いてみると、なかなかダイナミックでいい演奏です。特に金管はベルリン・ドイツ交響楽団なのでパワフルですね。またヴォカリーズが入ったバージョンでRIAS室内合唱団が歌っています。「スパルタクスとフリーギアのアダージョ」はハチャトゥリアンの自作自演には及びませんが、ダイナミックでクオリティの高い演奏です。ドイツのオケなので、民族的な響きは少な目です。官能的な表現はそこまで直接的ではありません。「ガディスの娘の踊り」でばハチャトゥリアンらしい激しいリズムが聴けます。結構洗練されていますね。
バレエDVD
バレエとして成功を収めている『スパルタクス』はボリショイ劇場を始め多くの名舞台がリリースされています。分かり易いストーリーと華やかで分かり易い舞台です。バレエ・ファンの方はもちろん、音楽中心の人も一度見てみてはいかがでしょうか?
ボリショイバレエ (グリゴローヴィチ版2008年)
ボリショイバレエがパリのガルニエ宮で公演を行った際に、ロイヤルバレエのカルロス・アコスタを客演で招き、スパルタクス役にしました。肌の浅黒いワイルドなアコスタは、奴隷であるスパルタクスにハマり役です。
画質・音質は共に非常に良く、照明も普段よりも綺麗ですね。これはボリショイ劇場とガルニエ宮の差でしょうか。演奏はフランスのコロンヌ管弦楽団で、ロシア的な民族性よりも色彩感と透明感が素晴らしいです。
ボリショイバレエ (グリゴローヴィチ版1984年)
ボリショイ劇場での上演です。ムハメドフの評価が高いDVDです。
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楽譜
ハチャトゥリアン作曲のスパルタクスの楽譜・スコアを挙げていきます。