エドヴァルド・グリーグ (Edvard Grieg,1843-1907)作曲のピアノ協奏曲イ短調 Op.16 (Piano concerto a-Moll)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。
グリーグのピアノ協奏曲 イ短調は、非常に有名なメロディで始まるピアノ協奏曲です。幅広いファンから人気を集めているピアノ協奏曲です。
解説
グリーグのピアノ協奏曲 イ短調 作品16について解説します。
グリーグのピアノ協奏曲は、1868年にグリーグが25歳の時に作曲されました。かなり充実した作品ですが、まだ若い頃の作品なのですね。フランツ・リストが初見で弾いて絶賛したというエピソードが残っています。
しかし、その後、何度も改訂されます。グリーグ晩年の1907年前後に改訂が行われ、1917年に出版したものが、現在弾かれているピアノ協奏曲です。ピアノ協奏曲第2番を作曲しようともしましたが、結局、このピアノ協奏曲の完成度を上げることに専念したようです。
シューマンのピアノ協奏曲との類似
この協奏曲のもう一つの特徴は、シューマンのピアノ協奏曲に似ているということです。調性は同じイ短調です。CDでもカップリングされている場合が多いです。グリーグはシューマンのピアノ協奏曲 イ短調を知っていました。
初演
作曲の翌年1869年4月3日にデンマークのコペンハーゲンのカシノホールにて、友人のエドムント・ノイペルトのピアノにより初演されました。そしてこの協奏曲はノイペルトに献呈されています。初演は大成功を収めました。
曲の構成
標準的な3楽章形式の協奏曲です。演奏時間は32分と標準的です。
第1楽章:アレグロ・モルト・モデラート
序奏付きのソナタ形式です。序奏はティンパニのロールで始まり、ピアノの有名な主題を引き出します。主部に入るとソナタ形式です。再現部のあとにカデンツァがある形式です。
第2楽章:アダージョ
複合三部形式です。オーケストラが情緒的な音楽を演奏します。そこに中間部からピアノが詩的に入ってきます。
第3楽章:アレグロ・モデラート・モルト・エ・マルカート
1つ目の主題は荒々しい素朴な民族舞曲風です。2つ目の主題は、『ペール・ギュント』に出てきそうな北欧風のメロディです。というか、ほぼ転用されている感じですね。フランツ・リストが褒めた主題でしょうか。
おすすめの名盤レビュー
グリーグのピアノ協奏曲 イ短調について、名盤をレビューしていきます。
ピアノ:アンスネス, ヤンソンス=ベルリン・フィル
アンスネスはノルウェーのピアニストです。伴奏はヤンソンスとベルリン・フィルという豪華な組み合わせです。新しい録音で、音質も良いです。アンスネスはグリーグのピアノ協奏曲を得意としていて、2度目の録音です。
第1楽章は、荒々しいティンパニと感情むき出しのシャープなピアノで始まります。遅めのテンポとくすんだ響きで、まず伴奏の段階で魅了されてしまいます。ピアノは幅の広い感情表現で、熱い感情で鋭く演奏したり、詩的で繊細になったりと緩急が大きいです。また軽やかな所は、テンポアップして、リズミカルに弾いています。ベルリン・フィルの弦はヤンソンスの指揮のもと、ピアノと上手いバランスを保っています。カデンツァは凄いテクニックで、高音質も相まってとても聴きごたえがあります。
第2楽奏は、ゆっくりしたテンポで始まり、とても情緒的です。そこにピアノが凛とした詩的にメロディを奏でます。第3楽章は民族舞曲風にかなり速めのテンポで始めて、シャープで軽やかです。オケもかなり民族的で荒々しい舞曲風な演奏です。ピアノもオケも白熱しつつ進行していきます。ラストは盛り上がりの最高潮で、爽やかな雰囲気を残しつつ曲を締めます。
1回目の録音では、ノルウェーのベルゲン・フィルと共演していましたが、その録音の段階で既に素晴らしい演奏でした。伴奏のレヴェルが上がり、高音質になったことが、2回目の録音をさらに価値の高いものにしています。じっくり聴くのに最適な名盤です。
ピアノ:ルプー,プレヴィン=ロンドン交響楽団
ラドゥ・ルプーのピアノはとても色彩感があります。どうしたら、これだけ色彩的に弾けるのだろうと思ってしまいます。プレヴィンの伴奏にもエキゾチックな色彩感があり、ロンドン交響楽団も上手くついて行っています。相性の良さそうなコンビです。グリーグのピアノ協奏曲のスタンダードを高いレヴェルで実現しています。
第1楽章は期待通りの始まり方です。グリーグの音楽を芳醇な表現で弾いていきます。北欧の演奏家ではないので、少しクールさが少なく、フランス的な感じがします。ロンドン響はプレヴィンに上手くついていって、ダイナミックな個所はしっかりダイナミックですが、弱音の所はロマンティックな表現になっています。第2楽章はこの演奏の白眉と思います。プレヴィンは繊細な色合いをロンドン響から引き出して、森の中にいるかのようです。ルプーのピアノはその中に凛とした響きで入っていきます。2人とも表現上手なので、聴き所が多いです。第3楽章は舞曲のリズムに乗って、軽快な演奏です。オケの方は、なかなか白熱しています。ルプーは、そのまま白熱していくのではなく、各所の聴き所を丁寧に表現しています。ピアノのタッチも素晴らしいです。その後、終盤に向かって盛り上がります。超絶技巧もきれいに弾いていき、荒くなることはありません。最後はトゥッティでダイナミックに締めくくります。
聴きやすく分かりやすい名盤です。初めてグリーグのピアノ協奏曲を聴く人にはお薦めのCDです。
ピアノ:メルタネン、コイヴラ=イェヴレ交響楽団
メルタネンはフィンランド人です。イェヴレ交響楽団はスウェーデンのオーケストラです。ノルウェーではありませんが同じ北欧ですね。メルタネンはしっかり安定したタッチで弾いていきます。特別、民族性を意識している感じではありませんけれど、非常に良い演奏です。オケもそれにふさわしい伴奏をつけています。イェヴレ交響楽団は小編成なのかも知れませんが、少し音圧が弱いですが、管楽器のソロなどレヴェルの高いオケですね。
第1楽章は演奏によっては長く感じますが、メルタネンは上手いテンポ取りと表現で飽きさせません。第2楽章の前半はオーケストラが民族的な響きを紡ぎだしていて、ピアノは色彩的に入ってきます。とても味わいがあります。第3楽章は小気味良く民族舞曲を演奏しています。オケはとても民族的な響きで良いです。録音もとても良いです。始めて聴く人にも良い名盤だと思います。
ピアノのディヌ・リパッティ(Dinu Lipatti)は、33歳という若さで夭折してしまったピアニストです。グリーグのピアノ協奏曲を得意にしていました。
辻井伸行,ペトレンコ=ロイヤル・リヴァプール・フィル
ピアノ:ジルベルシュテイン,N.ヤルヴィ=エーテボリ響
リーリャ・ジルベルシュテインはドイツのピアニストですが、伴奏はネーメ・ヤルヴィとノルウェーのエーテボリ交響楽団です。この伴奏だとかなり民族的な響きになるのは間違いないですね。ジルベルシュテインのテンポ取りは割とオーソドックスなものです。伴奏は思い切り民族的で素晴らしいです。アンスネス盤に比べても聴きやすい演奏だと思います。ピアノの方ははドイツ人ですから、特別民族的ではないのかも知れません。かなり力強い演奏です。
第1楽章はダイナミックに始まります。第2主題は民族的なくすんだ音色のオケが味わい深く演奏しています。第2楽章はピアノは節度をもった端正さで、深みと味わいもありますし、聴きやすくもあります。第3楽章は意外と遅めのテンポで始まります。小気味良く演奏を進めていき、最後はさわやかに盛り上がって終わります。
民族的な色彩のある名盤で聴きやすく、始めて聴く人にもお薦めです。
ピアノ:田部京子,小林研一郎=東京交響楽団
- 名盤
- 清潔感
- 豊潤
- 高音質
- ライヴ
ピアノ田部京子
指揮小林研一郎
演奏東京交響楽団
2018年6月10日,神奈川県,ミューザ川崎シンフォニーホール (ステレオ/デジタル/ライヴ)
グリーグを得意とする田部京子の演奏です。伴奏はコバケンと東京交響楽団です。冒頭は少し遅めのテンポで始まりますが、ピアノがまた出てくると速めのテンポになります。残響が長めでグリーグには良い会場かも知れません。録音もとても良いです。
第1楽章はピアノは響き豊かに弾いていますが、オケのほうはダイナミックな主題が、少しおとなしく感じ、ピアノのセンスの良さについていけていないような気もします。でも、段々と合ってきます。ピアノのカデンツァは壮大です。トータルの演奏時間も1分以上他に比べて長いですからね。第2楽章はオケの演奏は相変わらず遅めです。ロマン派的な演奏というか、それはそれでよい演奏なのですが、田部京子の自然体のグリーグには少し重すぎるかも知れません。第3楽章は速めのテンポで進んでいきます。オケもピアノと良く合っていて、ダイナミックに締めくくります。
全体として、かなり名演です。部分的にピアノとオケでイメージがあっていない部分があるような気もしますけれど、トータルとしてはピアノが落ち着いて芳醇な響きで演奏していて、十分満足です。
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グリーグのピアノ協奏曲ですが、意外にリリースされているディスクが少ないですね。評判が良いものを挙げていきます。
ピアノ:フォークト, シャイー=ライプツィヒ・ゲヴァントハウス
ラルス・フォークトはドイツのピアニストです。伴奏はリッカルド・シャイーとライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団で、本拠地のライプツィヒ・ゲヴァントハウスで収録されています。画質は非常によく、音質も良いですね。
第1楽章はグリーグらしい清涼で芳醇なピアノ演奏です。ゲヴァントハウスは基本的にはいぶし銀の伴奏です。盛り上がるとシャイーの指揮もあって、ゲヴァントハウス管は結構白熱しています。カメラはピアノや指揮者のみでなく、ソロを良く捉えています。フォークトのピアノもシャイーの指揮もグリーグのピアノ協奏曲のプロポーションを上手く表現していて、引き締まった形式を感じさせる名演です。第2楽章はロマンティックですが、感情に溺れすぎず、さりげない品格のある表現です。コクのあるゲヴァントハウスの中低弦が印象的です。第3楽章はピアノは力強くリズミカルで生き生きとしています。シャイーも速めのテンポでオケも渋い響きで盛り上がります。ピアノの色彩的な音色も良いですね。盛り上がっても北欧的な情感を失わず、むしろ深みを感じる位です。
ピアノ:ルービンシュタイン, プレヴィン=ロンドン交響楽団
巨匠ルービンシュタインのピアノ協奏曲集です。伴奏はプレヴィンとロンドン交響楽団です。1975年録音とルービンシュタインの映像の中では新しく、カラー映像です。
第1楽章は、まずプレヴィンが非常に若いのに驚きます。ルービンシュタインはしっかりした安定した力強いタッチで弾いていき、プレヴィンとロンドン響の伴奏は遅いテンポで、古き良き時代の名演奏という風情です。盛り上がると大編成のロンドン響はとてもダイナミックです。
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楽譜・スコア
グリーグ作曲のピアノ協奏曲の楽譜・スコアを紹介します。