アルテュール・オネゲル (Arthur Honegger,1892-1955)作曲のパシフィック231 (Pacific 231)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。最後に楽譜・スコアも挙げてあります。
解説
オネゲルのパシフィック231について解説します。
蒸気機関車を音楽で描く
今でも音楽の授業であるかも知れませんが、パシフィック231は蒸気機関車を描いた音楽として、非常に細かく描写していてクオリティが高いです。ここまで細かく機械の動きを描写した作曲家は居なかったと思います。
例えば、ドヴォルザークも鉄道好きで、鉄道の沿線に住んでしました。
ドヴォールザークは機関車をテーマにした作品は書いていないと思います。その穏やかな揺れ心地を音楽にとりこんでいると思います。
ドヴォールザークは機関車をテーマにした作品は書いていないと思います。その穏やかな揺れ心地を音楽にとりこんでいると思います。
精巧な機械とダイナミックな蒸気機関
オネゲルのパシフィック231で面白いのは、ただ精巧に歯車がかみ合った機械が動くさまを表現しているだけではない、ということです。最後は水蒸気で動く内燃機関なので、ボイラーの中で水が沸騰して、まるで生命が吹き込まれたように熱気が出てくる様も同時に表現している所が面白いです。
作曲家と鉄道は意外と関係が深いです。特に20世紀前半頃は、コンサートなどで移動する場合は、鉄道で行くしかなかった訳です。
オネゲルのパシフィック231はストレートに機関車という機械を描いていますけど、他の同時期の作曲家も演奏旅行があれば毎日鉄道に乗っていた訳です。オネゲルの場合、単に鉄道ファンだった、ということではないかも知れません。即物主義的な色合いも感じられますから。
有名なのは先述のドヴォルザークでしょうか。彼は鉄道マニアだったようですね。そして音楽にも反映されています。やはりカタンカタン、という繰り返しが音楽的なんでしょうね。
ラフマニノフはストラヴィンスキーに「住んでいる所は?」と聞かれ、鉄道を指さした、といいます。ラフマニノフは作曲家である以上にヴィルトゥオーゾの人気ピアニストだったので、鉄道が家のような生活を送っていたのです。ただ、それを音楽に取り入れた、という話は残っていないように思います。
最後にガーシュインです。ガーシュインは代表作『ラプソディ・イン・ブルー』でカデンツァを書く時に鉄道からインスピレーションを得た、と言っています。確かに、そんなパッセージがある気がします。
おそらく、他にも沢山、似たような例があると思います。
20世紀後半だと飛行機になりますけど、飛行機を描写した音楽はあまり聞かないですね。
おすすめの名盤レビュー
それでは、オネゲル作曲パシフィック231の名盤をレビューしていきましょう。この曲の演奏は、オーケストレーションの精密さを活かした機関車の発進を聴きたいか、オネゲルが込めたでろう感情表現を聴きたいか、で変わってきます。
ネーメ・ヤルヴィ=デンマーク国立放送交響
ネーメ・ヤルヴィのパシフィック231は、遠慮なくダイナミックでグロテスクさを感じる位です。とても人間的な感情にも溢れていて、機関車を擬人的に捉えているかも知れません。いずれにしても蒸気機関の迫力は、今の電車とは全く違うエネルギーがあります。
冒頭から不穏な雰囲気で最初からエネルギッシュな金管の咆哮、弦も力強いです。一方、残響が多めなせいか、緻密で精巧な機械とは違うものがあります。緻密に組み上げられた大きな蒸気機関車に熱い生命が吹き込まれたかのようです。特にチューバのソロ以降は、沸騰して爆発するんじゃないか、と思う位、大胆な表現です。筆者はこの演奏が蒸気機関の特徴を一番表していると感じます。あまり速いスピードは出ませんが、ボイラーで沸騰して、大量の煙を吐きながら進んでいく蒸気機関車を良く表現しています。
プラッソン=トゥールーズ市立管
オネゲルはスイス人ですが、フランス6人組の一人でフランスの国籍も持っており、実質フランスの作曲家と認知されている傾向があります。実際はスイスらしいところとフランスらしいところの両方がありますね。プラッソンは非常にフランス的な指揮者で、トゥールーズ市立管弦楽団は、フランスの地方オケです。『アルルの女』の全曲盤で有名なコンビですね。オネゲルではフランスの地方オケの底力を見せつけられます。
シャープに小気味良く始まります。意外にダイナミックで、技術的にも非常に上手いです。一方でフランスのオケらしいラテン的な解放感もあります。プラッソンは緻密な演奏がしたいかも知れませんが、結構簡単に白熱してきます。縦の線はバッチりでフランスのオケとは思えません。適度に引き締まった響きの演奏で、緻密さもありますが、ダイナミックですね。
湯浅卓雄=ニュージーランド交響楽団
ナクソスは、日本人指揮者湯浅卓雄とニュージーランド交響楽団の組み合わせでオネゲルを録音しました。
パシフィック231は、実に精巧な機械の動きを再現することに成功しています。湯浅卓雄は緻密さには妥協していませんが、その中でも人間的な力強さも同時に表現しています。余計なルバートもなく、無駄のないテンポ取りです。ニュージーランド交響楽団の金管セクションはレヴェルが高く、チューバも沸騰した内燃機関のような絶妙な表現です。盛り上がっていきますが、最後の盛り上がりはもう少しあっても良かったかな、と思います。しかし緻密な所は素晴らしく、必要十分な盛り上がりはあり、目的の無いダイナミックさを避けているとも言えますね。
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楽譜・スコア
オネゲル作曲のパシフィック231の楽譜・スコアを挙げていきます。