管弦楽のための協奏曲 Sz.116(バルトーク)

ベーラ・バルトーク (Bela Bartok,1881-1945)作曲の管弦楽のための協奏曲 Sz.116(concerto for orchestra)について、解説おすすめの名盤レビューをしていきます。最後に楽譜・スコアも挙げてあります。

解説

『管弦楽のための協奏曲』はバルトークの作品の中でも特に人気のある曲で、通称「オケコン」の略称で親しまれています。演奏は難しい作品ですが、第5楽章のダイナミックな音楽など、バルトークの作品の中では圧倒的に聴きやすく、人気のある作品となっています。

バルトーク、アメリカへ

1931年に、トスカニーニがイタリア・ファシスタ党賛歌の演奏を拒んだため、イタリアの国外追放処分になりました。

ベーラ・バルトークはこれに協調し、1933年にはドイツでの演奏を拒否し、1937年にはドイツ、イタリアで自作の放送を禁止するなど、ナチズムやファシスト政党との対決姿勢をとっていきます。

しかし、結果としてはバルトーク自身の危険が増大してきました。1939年には母を失い、それをきっかけにアメリカへ亡命することになりました。1940年10月にはニューヨークに居を移しました。

小澤征爾=NHK交響楽団

アメリカでの困窮

しかし、新天地のアメリカでもバルトークは困難と直面します。バルトークの音楽はアメリカでは理解されず、コロンビア大学から名誉博士号を授与され、そこで民族音楽を研究しますが、生活は困窮します。

さらに健康面でも1942年には白血病に蝕まれ、だんだんと悪化していきました。1943年にはアメリカ作曲協会の援助で、バルトークはニューヨーク州北部のサラナク湖畔で療養生活に入りました。

オケコンの作曲と初演

バルトークの窮状に手を差し伸べたのが、同郷ハンガリーの大指揮者フリッツ・ライナーです。彼はセルゲイ・クーゼヴィツキー生誕70周年とボストン交響楽団の指揮者就任20周年を祝うための作品を、バルトークに委嘱しました。

こうして1943年に作曲されたのが、『管弦楽のための協奏曲』です。

初演は、1944年12月1日にニューヨーク、カーネギーホールにて、クーゼヴィツキー指揮ボストン交響楽団の演奏で行われました。初演は大成功に終わっています。

曲名の由来

『管弦楽のための協奏曲』は、オーケストラの楽器がバロック時代のコンチェルト・グロッソ(合奏協奏曲)のように扱われているからです。

ヴィヴァルディは『弦楽のための協奏曲』という作品が沢山残しています。ソロパートがなく3楽章構成で、どちらかといえば、協奏曲の様式を持ったシンフォニアを『弦楽のための協奏曲』と呼んでいたようにも思えます。

もっと一般的なバロック時代のコンチェルト・グロッソはコレッリやヘンデルが作品を残しています。ソロパートが複数あり、大体5人位のソロ(コンチェルティーノ)と伴奏(リピエーノ)から構成されています。ソロパートは対位法で絡みあっています。

バルトークがどのように理解していたのか難しい所ですが、交響曲ではなく、各パートに華麗なソロがあり、これらが対位法を用いた手法で絡み合って出来ている曲、という風にイメージしておけば、おおむね間違いはないように思います。

楽曲構成

第1楽章:「序章」
序奏付きのソナタ形式です。これを聴くとヤナーチェクの『グラゴル・ミサ』を思い出します。リズムが同じ個所があるので。
第2楽章:「対の遊び」
3部形式です。スネヤのリズムの上でファゴットが演奏します。5組の管楽器がそれぞれ独立した旋律を歌います。
第3楽章:「悲歌」
緩徐楽章です。不協和音が多く、演奏によってはかなりグロテスクに聴こえます。
第4楽章:「中断された間奏曲」

民族音楽が演奏されますが、途中に騒々しい旋律が入ります。これはショスタコーヴィチの交響曲第7番からの引用です。
第5楽章:「終曲」
金管楽器のファンファーレに始まる、とても人気のある音楽です。

おすすめの名盤レビュー

バルトーク作曲『管弦楽のための協奏曲』のおすすめの名盤をレビューしていきます。

ショルティ盤が一番完成度が高いでしょうか。そして、ライナー盤は時代を感じさせる演奏で聴いておくべき演奏です。もう一つ、フリッチャイ盤はライナー盤と並んで必聴の名盤で、リアリティではライナー盤よりも上だと思います。また小澤征爾がこの曲を得意としていて、実際名盤なので挙げておきます。

ショルティ=シカゴ交響楽団

ハイレヴェルな金管、精度の高さ、クールな響きと迫力、いずれも完璧な名盤

バルトークのオケコン、といえば、ショルティ=シカゴ交響楽団が、技術的にも群を抜いています。テンポ取りもしっかりしていて、基本的にインテンポです。グロテスクな不協和音は特別強調してはいません。ダイナミックさやリズム感の良さが前面に出ています。シカゴ交響楽団もライナー時代からレヴェルアップしています。

ライナー盤に比べると時代が違うのでリアリティがあるとは言えませんが、スコアの読み込みが深く、わざとらしさも特別な演出もなく、聴きごたえがあります。

第1楽章から速めのインテンポで迫力のある演奏です。やはりハンガリーのお国物なので、気合も相当入っていそうです。無論、若いころのようにテンポが速くなりすぎることはありません。

第2楽章の「対の遊び」など、とても確実なリズムで、特別なことはしていないのですが、自然に曲の面白さが出ています。

第3楽章はテンポの推進力とシカゴ響のクールな響きで、上手く雰囲気を作っています。弦セクションも音程が難しく、いくつか難所があるのですが、良い音程で演奏しています。後半はショルティらしい筋肉質の力強さでしっかりした演奏を繰り広げ、独特の音響世界を構築しています。

第4楽章は速めのテンポでシャープな演奏です。中断された感じを上手く出しています。

第5楽章の圧倒的な迫力と、マッシヴなパワーはまさにオケコンの代名詞と呼んで良いような構築力のある演奏です。ホルンのファンファーレとその後のテンポはほぼ同じなのが特徴です。力強いリズムの躍動感はショルティ=シカゴ響の真骨頂です。最後は鳥肌物の迫力で終わります。

オケコンの定番の演奏として、長く愛聴されてきましたし、きっとこれからもそうでしょう。

ライナー=シカゴ交響楽団

オケコンを知りたいなら、聴かなければいけない名盤

古い名盤ではありますが、やはり1955年と時代が近くリアリティのあるライナー盤は、オケコンでは外せないですね。

既に技術的にはショルティらが抜いていると思いますし、録音の音質もステレオとはいえ、あまり良いとは言えません。しかしグロテスクさがあまりなく、感情的な部分に直接アプローチしていて、「弦チェレ」と並んで、聴かずには死ねない位の名盤であることは間違いありません。

第1楽章は芯のしっかりした演奏でバルトークらしい、しっかりした形式を持つ楽章を楽しめます。途中からの弦もシャープでリアリティを感じます。同時に情熱的に盛り上がり、非常に感情的にも共感させられるエネルギーのある演奏です。第2楽章は明快なリズムと演奏で、リズムの妙味が感じられます。

第3楽章は名演です。オケコンのほうは、どちらかというと明るめの曲調の部分が多いですが、ライナー盤の凄さはこういう本質的な部分にきちんとアプローチして、強い共感を引き出していることです。普通、この曲を真面目に演奏すれば強烈な不協和音がありますからグロテスクになります。それがグロテスクさがあまり感じられず、その先の強い共感を引き出しているのですから不思議としか言いようがありません。

第4楽章も凄いアンサンブル能力です。

第5楽章は、意外に楽天的なダイナミックさがあって聴きやすいです。ファンファーレを遅めにしてその後急に速くなるというテンポ設定はこのライナー盤で既に確立されたものでした。また、よく聴いてみるとダイナミックではない個所で、少し深みを感じる所があります。

弦チェレほどの衝撃はないのですが、よく聴きこむにつれ本質的な所がよく分かってくる名盤です。

小澤征爾=サイトウキネン・オーケストラ

ダイナミックなだけじゃない!ベテラン小澤征爾の充実のバルトーク

小澤征爾は昔からオケコンを得意としていて、何度も録音しています。このサイトウキネン・オーケストラとのディスクは最新の録音です。

小澤征爾はベテラン指揮者です。特にバルトークのオケコンに関しては、繰り返し演奏してきて、ただダイナミックなだけの演奏とは質が違います。サイトウキネン・オーケストラもバルトークに向いた東洋的な木目調のサウンドを響かせ、ダイナミックでありながら味のある名盤に仕上がっています。

特にサイトウキネン・オーケストラの管楽器・パーカッションが充実していることが聴き取れます。サイトウキネンは弦楽器は文句なく世界一流ですが、実は管楽器も世界のトップレヴェルで、ダイナミックかつ精緻な演奏を繰り広げています。

さて頭から聴いていくと、第1楽章の弦セクションの響きの味わい深さがとりわけ印象的です。少し木目調を感じさせる格調高さもあります。非常によく咀嚼(そしゃく)された演奏で、実に充実感のある演奏です。小澤征爾のバルトークもここまで来たか、と感銘を受けます。というより、他のショルティなどの地元ハンガリー出身の名指揮者もここまで充実した演奏はできていません。

第2楽章の「対の遊び」も非常に完成度の高い音楽ですが、やはり内容の豊富さが素晴らしいです。新しめの録音であるため、音質も良く、普段あまり聴こえない音が聴こえてきて新しい発見があります。サイトウキネン・オーケストラのアンサンブル能力と管楽器の音色の良さも良く伝わってきます。

第3楽章は少しグロテスクさがありますが、そういう音楽ですから仕方ないですね。しかし小澤はそこよりは、バルトークの人間味を感じさせる演奏をしています。そこには悲劇的な部分もありますが、ただショッキングというわけではなく、その段階を超えた感情表現もあり、やはり円熟した深みを感じます。

第4楽章はサウンドが非常に美しく、色彩感があります。やはり弦の主題は素晴らしいコクのあるものです。細かいアンサンブルがとても決まっていて、それが独特の色彩感を生み出しているのです。

第5楽章はやはり小澤征爾らしいダイナミックさです。サイトウキネンの金管もダイナミックで聴かせてくれます。ファンファーレは遅めでその後速いテンポになるというのは、若いころからずっと変わらない所です。ただ、その方向性でさらに細かなテンポ設定をつけているのも特徴で、ただダイナミック、というだけでは終わらない演奏ですね。

定番のライナー盤と新しいレヴァイン盤という、シカゴ響の名演に挟まれたこの位置に入れてみました。それだけの含蓄のある演奏です。

フリッチャイ=ベルリン放送交響楽団

ハンガリーの民族的な響きを再現し、シャープで白熱した名盤

ハンガリー出身のフリッチャイにとってバルトークはお国モノです。凄い気合いを感じます。ただ、ベルリンフィルでもシカゴ響でもないので、オケがついていけない部分も多少ある感じで、アンサンブルの精度は少し落ちますね。しかしフリッチャイの曲作りはショルティ、ライナー、セルらに無いものです。また新たな視点からオケコンを聴ける面白い名盤です。

第1楽章はハンガリーの民族的な雰囲気があります。弦セクションはとても鋭くシャープです。感情表現がとても上手く他の演奏には無い新鮮さがあります。テンポの緩急が大きく、ここぞという時には激しくアッチェランドしています。

第3楽章はグロテスクという程ではありませんが、きちんと不協和音を鳴らしています。鋭い弦セクションやトランペットは叫び声のようです。その後も激しい演奏が続きます。1957年の録音でまだ第2次世界大戦の影響がとてもリアルです。

第4楽章はシニカルな演奏では無く、ストレートに表現しています。テンポの変化が大きく、これだけ楽しめる第4楽章は滅多にないですね。

第5楽章は、かなりの速いテンポで金管を思い切り鳴らして、シャープな迫力です。ただ録音は低音域がちょっと弱い感じがします。慣れれば問題なさそうですが、シカゴ響の重心の低い演奏に比べると、当時のベルリン放送交響楽団は、そこまでのパワーはなかったかも知れませんね。

最後はさらにテンポアップし、思い切り金管楽器を鳴らして、またアッチェランドしてそのままシャープに終わります。最後の追い込みは凄い迫力です。

レヴァイン=シカゴ交響楽団

セル=クリーヴランド管弦楽団

繊細でスコアの読みの深い名盤

やはりオケコンはアメリカのパワフルなオーケストラが名盤を残しています。特に古めの演奏はその傾向が強いですね。クリーヴランド管弦楽団もジョージ・セルが鍛え上げた技術力に優れたオーケストラです。

第1楽章は、しっかりした名演ですが、しなやかさと艶やかさがあります。シカゴ交響楽団とはまた違ったサウンドです。テンポが速くなる個所からは鋭さを増し、リズムの取り方はヤナーチェクを思い出させるようなしなやかさです。ライナー盤に近いリアリティも感じます。ライナーよりは新しい録音ですが、セルは第2次世界大戦を知っている指揮者です。

第2楽章は正確なリズムはもちろんですが、しなやかさがあり、テンポの変化も相当繊細です。細かいアーティキュレーションのつけ方もシカゴ交響楽団の演奏とは大分違い繊細です。

第3楽章は殊更グロテスクさが前面に出ることは無く、「哀歌」と呼ぶに相応しい演奏です。この表現の悲哀さや繊細さは、やはり何故かハンガリー系の演奏家には無いものですね。確かにハンガリーのオケの演奏を聴いていると、どこかふくよかで楽天的な所があるのです。シカゴ交響楽団もハンガリー出身の人が多く、指揮者もハンガリー出身ですから、意外にそういう面を引き継いでいるのかも知れませんね。

第4楽章は明快で分かり易いです。アクセントのつけ方がシカゴ響と大分違いますね。当たり前のようにアンサンブルがすごく上手いです。ショスタコーヴィチの引用は効果的で中断された感じが良く出ています。

第5楽章はやはりダイナミックです。パワフルさではシカゴ響の勝ちですが、クリーヴランド響もなかなか凄いです。セルの棒は冴えわたっていて、細かいアンサンブルやテンポの動かし方はさすがです。後半は少し他のバージョンが違うようですね。

ジョージ・セルというとちょっと地味な印象ですが、特に細かい所までしっかり詰めて、それから力を抜いて演奏するので、情報量がすごく多いと思います。シカゴ響のパワフルな演奏に飽きてきたら、是非聴いてみてください。

小澤征爾=ボストン交響楽団

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