アントン・ブルックナー (Anton Bruckner,1824-1896)作曲のテ・デウム ハ長調 WAB.45 (“Te deum” C-Dur)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。
解説
ブルックナーのテ・デウムについて解説します。
テ・デウムとは
『テ・デウム』は宗教曲の1つのジャンルです。ブルックナーはリンツ大聖堂のパイプオルガン奏者でした。そこでこの壮大な合唱とオーケストラのための音楽を作曲しています。ブルックナーはミサなどの宗教作品も多いため、『テ・デウム』のような大作があるのはある意味当然で、「レクイエム」なども作曲していてくれれば、と良く思います。
交響曲第9番を作曲していた際に、完成できなかった場合、第4楽章に代えて、『テ・デウム』を演奏することを考えていた、と言われています。演奏時間は20分程度で、少し長めですが、ブルックナーの交響曲のフィナーレとして使えないことはないと思います。しかし、交響曲第9番がニ短調なので、そのままではハ長調の『テ・デウム』はつながらないため、否定的な意見が多いようです。
この作品は単体としてもブルックナー渾身の力作であって、
力強く荘厳な響きを持つ曲で、後期ロマン派の作曲家が書いた宗教曲の最高峰とも言われる
Wikipedia
とのことです。
『テ・デウム』は全体的に交響曲第7番の第2楽章と同じモチーフを使っている部分が多く、
第1曲「天にまします御身をわれらたたえ」(Te Deum laudamus)
第2曲「願わくは、尊き御血をもて」
第3曲「われらをして諸聖人とともに」
第4曲「主よ、御身の民を救い」
終曲「主よ、われ御身に依り頼みたり」
おすすめの名盤レビュー
それでは、ブルックナー作曲テ・デウムの名盤をレビューしていきましょう。
ヨッフム=ベルリン・フィル
ヨッフムとベルリン・フィルの演奏です。非常に厳しくスケールの大きな演奏で、冒頭から引き込まれるようなエネルギーを持っています。全体的にブルックナーの交響曲のようです。
冒頭から凝集された壮大な響きで、すぐに引き込まれる名演です。ティンパニなども派手に鳴らして『レクイエム』の「怒りの日」のようです。この緊張感は全曲を貫いています。ちょっと表現のヴォキャブラリーが少なく、ストレートで硬すぎる演奏、と言えなくもないですが、初めて聴く人にはとても良く、聴いていて名作であることがすぐに理解できます。
カラヤン=ベルリン・フィル (1975年)
カラヤンとベルリン・フィルの演奏です。カラヤンは交響曲と同様にブルックナーの『テ・デウム』に取り組んでおり、2回の録音があります。演奏スタイルも交響曲と同じで、時期によって異なりますが、いずれも壮麗でダイナミックさがあります。ここでは完成度が高く、評判が良い1975年の録音を取り上げます。
ヨッフムほど衝撃的ではありませんが、冒頭から壮麗で十分引き込まれる演奏です。それと共に非常に美しく磨き上げられた演奏であり、迫力だけでなく、ほどよいしなやかさがあり、色々な表現が聴ける演奏です。独唱は美声のソリストが多く、合唱も非常にレヴェルが高く、透明感を感じるような歌唱です。終曲では交響曲第7番のモチーフとともに天国的な音楽となり、最後は壮麗です。
ヘレヴェッヘ=シャンゼリゼ管弦楽団、他
ヘレヴェッヘは特にブルックナー指揮者ではありませんが、宗教音楽として演奏しており、録音も非常に良く、ヨッフムやカラヤンのような交響曲をメインで指揮している指揮者からは考えつかないような、自然体の演奏をしています。まず冒頭はそこまで壮麗ではありません。スケールは大きいのですが、一般的な宗教音楽の範疇で、『テ・デウム』といえば、この位の演奏が丁度よいかも知れません。
冒頭はスケールはそこまで大きくありませんが、自然な美しさのある演奏で、肩の力を抜いて曲の良さに浸ることが出来ます。ダイナミックでない所もとても充実していて、聴きごたえがあります。古楽器を使っているのですが、金管やティンパニの音はモダンな感じで、しっかり鳴っていて、それほど古い楽器ではなく、ブルックナーの時代の楽器を使っている、と思われます。アーノンクールやノリントンのブルックナー演奏に見られるようにピリオド奏法はブルックナーに結構合います。終曲は自然な雰囲気ですが、ラストの盛り上がりではオケも含め迫力あるサウンドで、感動的です。
カップリングのミサ曲第2番は普段のブルックナーのミサ曲やモテットで、それほどダイナミックではなく、自然で美しい宗教曲です。
リリング=シュトゥットガルト・バッハ・コレギウム、他
リリングは元々オルガン奏者で、合唱指揮を皮切りに、オラトリオなどの合唱作品を中心に多くの録音を残しています。ヘンデルやハイドンなどバロック期、古典期のオラトリオは古楽器演奏やピリオド演奏が有利ですが、ブルックナーは非常に素晴らしい演奏を繰り広げています。自然さと深みを感じる『テ・デウム』です。
冒頭から自然な壮麗さとしなやかな表現で、この曲のスタンダードとして安心して聴ける名演です。歌唱、合唱を中心に色々な表現を聴くことができ、かつオーケストラの壮麗さも適度にあります。静かな部分も表情豊かで、味わい深さがあります。ラストはしっかりダイナミックに盛り上がります。
レーグナー=ベルリン放送交響楽団、他
レーグナーは旧東ドイツのブルックナー指揮者で、交響曲でも非常に良い演奏を残しています。第5番などは非常に素晴らしい演奏でした。このページの中では一番のブルックナー指揮者と思います。
冒頭は壮麗さはなく、ダイナミックですが自然な表現です。リズム感が良く、力みも感じられず、普段のレーグナーのブルックナーの交響曲を思わせます。合唱の演奏レヴェルはなかなか高く、淡い感情の入った表現で、とても味わい深いです。オケはダイナミックになる所では、迫力のある響きを出していますが、ヨッフムやカラヤンに比べると大人しいかも知れません。真摯な表現は時に天国的な響きとなります。ラストはダイナミックに盛り上がります。
カップリングは、ミサ曲第2番、第3番で、レーグナーが真剣にブルックナーに取り組んでいた様子が垣間見えます。
CD,MP3をさらに探す
楽譜・スコア
ブルックナー作曲のテ・デウムの楽譜・スコアを挙げていきます。
ミニチュア・スコア
電子スコア
タブレット端末等で閲覧する場合は、画面サイズや解像度の問題で読みにくい場合があります。購入前に「無料サンプル」でご確認ください。