シューマン 交響曲第1番『春』

ロベルト・シューマン (Robert Schumann,1810-1856)作曲の交響曲第1番 『春』変ロ長調 Op.38 (Symphony No.1 “Spring” (ドイツ語:”Frühling“) B-Dur Op.38)について、解説おすすめの名盤レビューをしていきます。最後に楽譜・スコアも挙げてあります。

冒頭のファンファーレが有名です。全体的に聴きやすく、演奏時間も33分で長くはありません。しかし、シューマンらしいロマンティックな感情表現は既に現れています。特に第2楽章は名曲ですね。

解説

シューマン交響曲第1番 『春』変ロ長調 Op.38について解説します。

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シューマンの交響曲第1番1841年1月~2月に作曲されました。アドルフ・ベトガーの詩にインスピレーションを得ており、もともと各楽章に副題がついていました。私生活でも周囲の反対を克服してクララ・シューマンと結婚して1年目です。まさに人生の『春』ですね。

初演は1841年3月31日にメンデルスゾーンの指揮により、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団によって行われました。

シューマンの交響曲は番号と作曲順が異なりますが、第1番『春』は最初に完成した交響曲です。その前に未完成で破棄された交響曲が2曲あります。31歳で初めての交響曲ということで、シューマンの交響曲デビューは遅かったと言えますね。

初演は成功に終わりました。シューマンは以下のように述べています。

ベートーヴェン以降の近代の交響曲として、かつてない共感を得られた

オーケストレーションの未熟さ

しかし、初演時に改訂が行われています。これは主にオーケストレーションに関する内容で、シューマンがオーケストラを十分に把握していないことが原因でした。初演時にトランペットとホルンが演奏できない、ということで、冒頭のファンファーレが3度上げられました。初演時のリハーサルにこういう大胆な変更が必要となるのは、なかなか無いと思います。その後も推敲と改訂が行われ、1941年末にパート譜が完成しています。

それでもオーケストレーションはまだ不完全な感じで、音の厚みが薄すぎる所もあります。20世紀の演奏はオーケストレーションを補強した演奏も多いですし、アマオケで演奏してみてもとても弾きにくい曲ですね。シューマンの他の交響曲もその傾向がありますが、第1番『春』は最初の曲だけあって特に完成度が低いです。

ロマン派交響曲の出発点

一方、シューマン最初の交響曲ですが、既にシューマン独自の感情表現があり、既にロマン派交響曲としての地位を確立しています。シューマンの薄雲ったようなオーケストレーションも単にオケを知らなかっただけではなく、そういう音を求めていたのだと思います。また弦楽器奏者から不評の弾きにくい主題も既に第4楽章に出てきます。

交響曲第1番『春』

第1楽章:
序奏付きのソナタ形式です。序奏では金管のユニゾンでファンファーレが演奏されます。その後、エネルギーに満ちたクレッシェンドを経て主部のソナタ形式に入ります。

第2楽章:ラルゲット
緩徐楽章です。シンプルな構成ですが、少し憂鬱で線の長い主題はとてもロマンティックで、今後のシューマンの交響曲を予感させる物です。最後のトロンボーンのコラールも印象的です。

第3楽章:スケルツォ
短調で情熱的に始まりますが、木管は春らしい色彩を帯びています。中間部ではホルンも活躍し、自然を描いているようです。トリオが2つあり、スケルツォと言ってもかなり凝った構成です。

第4楽章:フィナーレ
序奏付きソナタ形式です。序奏は短い上行音型です。おどけたような舞曲風の主題ですが、特に弦の弾きにくいと思います。ピアノで作曲したからといわれますが、短調の部分も多く、シューマンはこういう理不尽な感情表現が特徴かな、と思います。メンデルスゾーンの『イタリア』ようにストレートに明るい曲は書かないですね。

おすすめの名盤レビュー

それでは、シューマン作曲交響曲第1番 『春』変ロ長調 Op.38名盤をレビューしていきましょう。

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バーンスタイン=ウィーン・フィル (1963年)

バーンスタインのリズム感とウィーン・フィルの暖かみのある響き
  • 名盤
  • 定番
  • 自然
  • 熱演
  • スリリング

超おすすめ:

指揮レナード・バーンスタイン
演奏ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

1984年10月,ウィーン,ムジークフェライン (ステレオ/アナログ/ライヴ)

バーンスタインとウィーン・フィルの演奏です。バーンスタインのリズミカルでメリハリのついた表現、ウィーン・フィルのふくよかで厚みのある響きで、相性抜群です。特に第1番はテンポの速さとリズム感の良さで際立っています。

第1楽章は精気に溢れたファンファーレの後、速いテンポで軽快かつ力強い主部の演奏が続き、「春」らしい生命力に溢れた名演です。リズムのセンスの良さは別格で、シューマンの複雑なリズムをしっかり再現し、オーケストレーションの甘い所も気になりません。終盤に向かって盛り上がり、ラストはダイナミックです。第2楽章はウィーン・フィルの艶やかな色彩感溢れる演奏で、とても味わいがあります。第2楽章は第1番の中で一番名曲と思いますが、ロマンティックで自然に表現しており、「春」の穏やかさを味わい深く表現しています。

第3楽章はリズミカルで力強い演奏です。リズムの処理はさすがバーンスタインで結構演奏しにくい所もあるはずですが、それを全く感じさせません。中間部は生気と喜びに溢れています。第4楽章は速く軽快なテンポでこの楽章でもリズム感の良さが生命力に繋がっています。ホルンと木管のソロはさすがウィーン・フィルでとても良い音色です。ラストに向かって、響きは厚みを増し、テンポも速まり、圧倒的な活力で曲を締めくくります

バーンスタインはかなり健康的で自然な表現ですが、キビキビしていて密度が高く、物足りなさを感じることはありません。オケがウィーンフィルであることも、とても有利に働いていると思います。第1番で迷ったら、まずはコレですね。

クーベリック=ベルリン・フィル (1963年)

ベルリンフィルの力強いファンファーレ、感情を入れた熱演
  • 名盤
  • 定番
  • 熱演
  • ダイナミック

超おすすめ:

指揮ラファエル・クーベリック
演奏ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

1963年2月20日-22日,ベルリン,イエス・キリスト教会(ステレオ/アナログ/セッション)

クーベリックとベルリン・フィルの全集です。同じころにドヴォルザークの交響曲全集を録音していて、こちらは名盤として今でも人気があります。クーベリックは元々感情を交響曲に入れることが得意であるため、シューマンも得意です。ベルリン・フィルとの全集は、シャープさがあり力強い演奏で、こちらも名盤です。

ベルリン・フィルの金管セクションがファンファーレを吹くため、冒頭は非常にダイナミックです。第1楽章そのままダイナミックな熱演となります。テンポの変化が大きいですが、速めのテンポでリズミカルです。感情的な盛り上がりが素晴らしく充実感に溢れた演奏です。第2楽章ロマンティックかつ力強さのある感情表現で、一つのスタンダードと言っていい演奏です。ロマンティックすぎるという人もいそうですけど、ロマンティックさを強調した演奏スタイルで、これはこれで完成度が高いです。少し憂鬱さを秘めた第3楽章クーベリックの十八番です。リズミカルで微妙な感情表現が良いです。第4楽章は少し遅めのテンポです。オケが弾きにくそうな音型なのですが、こういう所を楽しくリズミカルに演奏していてシューマンらしいです。

少し古めの録音ではありますが、聴きやすく本質を突いた演奏なので、第一選択の名盤だと思います。他の番号も名演です。

クレツキ=イスラエル・フィル

理知的だが、深い共感に満ちた名演
  • 名盤
  • 情熱的
  • 共感
  • いぶし銀

超おすすめ:

指揮パウル・クレツキ
演奏イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団

1956年,テル・アヴィヴ (モノラル/デジタル/セッション)

クレツキとイスラエル・フィルの全集からです。第1番は色々な演奏がありますが、オーケストレーションが良くないため、全集でも本来の良さを失っている演奏も多いです。クレツキは作曲家なので、シューマンの立場に立って共感が出来るのだと思います。この演奏を聴くとオーケストレーションの問題など、本当に小さなものに感じられます。

第1楽章はインテンポでスケールは大きすぎず、この曲の良さを小気味良く表現しています。クレツキの感情表現は深みがあってコクがあります。リズムは引き締まっていて力強く、「春」というタイトルに相応しいエネルギーが充満していて、クールな中にも熱狂があります。録音は古さを感じさせますが、イスラエル・フィルは当時からかなりのレヴェルの高さで弦も厚みがあり、管もしっかりした響きです。

第2楽章は中庸のテンポですが、彫りの深い表現で、濃厚な味わいがあります。第3楽章は非常に力強く情熱的なスケルツォです。中間部は素朴な農民の民謡風ですが、骨格のしっかりした演奏で充実しています第4楽章は密度の濃い音楽で、「春」の穏やかさと共に強いエネルギーが内在していることが感じられます。テンポはわざとらしいところは無く、とても自然です。ホルンとフルートのソロも味わいがあります。ラストの盛り上がりは密度が高く白熱しています。

それにしてもクレツキのシューマンに対するインスピレーションと共感は本当に強いと感じます。他の演奏では聴けない深みのある名演です。

カラヤン=ベルリン・フィル (1971年)

カラヤンらしいスケールが大きくダイナミックな名盤
  • 名盤
  • 定番
  • 重厚
  • スケール感
  • ダイナミック

おすすめ度:

指揮ヘルベルト・フォン・カラヤン
演奏ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

1971年1月,2月,ベルリン,イエス・キリスト教会(ステレオ/アナログ/セッション)

カラヤンとベルリンフィルも全集を録音しています。1971年の録音ですが、クーベリックと全然違う演奏です。カラヤンはロマンティックで艶やかに演奏しますが、それほど感情的にならず、感情を入れ過ぎた演奏に飽きているなら丁度良いかも知れません。ただ『春』に関しては驚くほどダイナミックで、スッキリした演奏では無いですけど

第1楽章の序奏でファンファーレはベルリンフィルなので上手いとして、その後の弦のパワーが凄くて思わず、のけ反ってしまいました。主部に入ってもスケールが大きな演奏です。第2楽章ゆっくりなテンポですが壮麗です。ワーグナーを思い起こさせます。第3楽章は情熱的というよりシリアスといえるようなダイナミックな演奏です。中間部は素朴な感じがあります。第4楽章もスケールが大きいですが、カラヤンは意外とこういう朴訥(ぼくとつ)とした主題を上手く演奏していて、愉快さも出ています。ただ、シューマンの速くて自由な感情の変化についていけない感じかも知れません。中間のホルンとフルートの所はとても上手く演奏しています。その後はスケールの大きなフィナーレを築いていきます。

確かに上手いし、シューマンのオーケストレーションが云々、と所は、楽譜に書いてある通り完璧に演奏するとこうなる、ということが良く分かります。第2楽章がこういう演奏になるのは興味深いです。

シノポリ=ドレスデン・シュターツカペレ

シノポリの切れ味鋭い感情表現
  • 名盤
  • 定番
  • 共感
  • スリリング
  • ダイナミック

おすすめ度:

指揮ジュゼッペ・シノポリ
演奏ドレスデン・シュターツカペレ

1992-93年,ドレスデン (ステレオ/デジタル/セッション)

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シノポリとドレスデン・シュターツカペレが全集を録音しています。シノポリと言えばウィーン・フィルとの第2番のキレた演奏が凄いのですが、ドレスデン・シュターツカペレとはもう少し落ち着いた演奏をしています。でもシノポリらしいシャープでキレのある感情表現は健在で聴きごたえのある全集です。

第1楽章のファンファーレはしっかり鳴らしています。アクセントをシャープに鳴らして、シューマンらしい感情表現があります。ドレスデン・シュターツカペレは、シノポリのシャープな演奏にドイツ的な響きを加えています第2楽章繊細さを備えた感情表現です。少し曇った音色がシューマンらしく、味わい深く聴けます。弦主体の所は繊細な響きでシューマンの精妙な感情表現が聴けます。こういうウェットで繊細な表現は良いと思うのですが、なかなか聴けないのですよね。第3楽章はシリアスな表現から始まって、中間部は愉しさのあるリズミカルな演奏です。第4楽章はダイナミックに始まり、主題の面白さを強調しています。ゆっくりなテンポで進み、ホルンとフルートの所は少しシャープです。ラストに向かってアッチェランドし、軽快でダイナミックに終わります。

やはりシノポリはシューマンをよく理解している指揮者だと思います。全集を残してくれて良かったと思います。シャープさもしなやかさもあり、曇った音色もあり、複雑で多くの感情表現をしてきます。ドレスデン・シュターツカペレの響きは美しく聴きやすい演奏でもあります。

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楽譜・スコア

シューマン作曲の交響曲第1番 『春』変ロ長調 Op.38の楽譜・スコアを挙げていきます。

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