ロベルト・シューマン (Robert Schumann,1810-1856)作曲の『マンフレッド』序曲 変ホ短調 Op.115 (Manfred Overture Op.115)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。ワンストップでスコアと楽譜まで紹介します。
マンフレッド序曲は、劇音楽『マンフレッド』の序曲として作曲されました。4つの交響曲より後の作品で、オーケストレーションも大分進化しています。シューマンらしいロマンティシズムが良く出た名曲です。
解説
シューマンの『マンフレッド』序曲について解説します。
劇音楽『マンフレッド』の序曲
マンフレッド序曲は、劇音楽『マンフレッド』の序曲として作曲されました。『マンフレッド』序曲のみが有名になり、単独で良く演奏されています。劇音楽の方は現在、あまり上演されていませんが、CDが発売されています。
1852年6月13日、ヴァイマールにおいてフランツ・リストの指揮により全曲初演されました。シューマンはフランツ・リストに、劇音楽『マンフレッド』は「オペラ」ではなく、「音楽付きの詩劇」と呼ばれるべきもの、と語っています。序曲を含めた音楽は、とてもロマンティックで、ロマン主義のパイオニアであるシューマンの特徴が非常に良く出ています。
オーケストレーションの進化
劇音楽『マンフレッド』は4つの交響曲より後の1952年に初演されました。シューマンの交響曲や管弦楽作品はオーケストレーションの問題が良く指摘されますが、このマンフレッド序曲のオーケストレーションはかなり進化していて、重厚でロマン派的な響きを聴くことが出来ます。そして、もちろんシューマンらしいロマンティックな曲想は健在です。恐らくシューマンは元々メンデルスゾーンのような明快な管弦楽法ではなく、くすみのある音色を引き出して、悲劇的な色合いのあるオーケストレーションを目指していたのだと思います。
楽曲構成
楽曲構成は、序奏と後奏つきのソナタ形式です。演奏時間は約11分です。
フルート×2、オーボエ×2、クラリネット×2、ファゴット×2
ホルン×4、トランペット×3、トロンボーン×3
ティンパニ
弦5部
おすすめの名盤レビュー
それでは、シューマン作曲『マンフレッド』序曲の名盤をレビューしていきましょう。
シノポリ=ウィーン・フィル
シノポリとウィーン・フィルの演奏です。交響曲第2番は稀代の名演として誉れ高いものですが、『マンフレッド』序曲も同様にシャープで白熱した名演です。
冒頭から速めなテンポでシャープで衝撃的なパッションに溢れた名演です。このテンポはこの曲によく合っていて、とても自然に聴くことが出来ます。シャープですがウィーン・フィルの弦はロマンティックで、シューマンらしい響きを醸し出しています。絶妙のコンビですね。中間の静かな部分も強弱のメリハリが良くついていて、素晴らしい感情表現です。テンポも盛り上がってくると加速し、情熱的に疾走していきます。
他の演奏に比べてもシャープで激しい感情表現は突出しています。『マンフレッド』序曲を聴くなら外せない名演です。
サヴァリッシュ=ドレスデン国立歌劇場管弦楽団
サヴァリッシュとドレスデン国立歌劇場管弦楽団の演奏です。NHK交響楽団の指揮台にも頻繁に登場したサヴァリッシュですが、このディスクは情熱的で重厚な響きでマンフレッド序曲の良さが前面に出た名演です。シューマンの交響曲全集も昔から評価の高いものですが、その中でも特に印象的な演奏です。
冒頭からドレスデン国立歌劇場管弦楽団の重厚な響きが印象的です。サヴァリッシュはシャープなアクセントを付けて、熱っぽく情熱的に曲を進めていきます。若い頃のサヴァリッシュはこんな情熱的な表現をしていたのですね。最後はとてもロマンティックな木管で曲を締めくくります。
1970年代の録音ですが、適度な残響のおかげもあり、心地よく聴けます。
クレツキ=イスラエル・フィル
クレツキとイスラエル・フィルの隠れた名演です。確かにクレツキとシューマンは相性が良さそうですね。理知的な部分と、悲劇的な表現のバランスが素晴らしく、少し古いモノラル録音ですが、充実感はかなりのものです。イスラエルフィルは、1950年代からレヴェルの高いオケであったことが分かります。
冒頭からテンポ取りは理知的で、しっかりしたリズムで進んでいきます。一方、感情表現も深みがあり、クレツキらしい渋い響きで、重厚で悲劇的な表現は、フルトヴェングラーのようなロマンティックな演奏に比肩する位、名演ですし、シューマンの表現したかったことを良く再現していると思います。中間の部分もインテンポで理知的ですが、表現の幅は広く、深みがあります。ラストの木管も美しい響きです。
ティーレマン=フィルハーモニア管弦楽団
ティーレマンとフィルハーモニア管弦楽団の演奏です。ティーレマンは若いころから巨匠のようなテンポ取りで、そこまで深みもないことが多くて、あまり好みでは無かったのですが、シューマンは相性が良いようで、近年の演奏の中では屈指の演奏だと思います。何故か廃盤なのが残念ですけれど。
冒頭はフルトヴェングラーのような遅めのテンポで始まりますが、とてもしなやかで繊細です。こういったスタイルのシューマンはエッシェンバッハの名演もありますが、意外に少ないですね。またドイツ的なスケールの大きさ、ふくよかさもあり、一音一音丁寧に演奏されていて、とても味わい深いです。シノポリ盤とは正反対で感情的な盛り上がりはありますが、比較的落ち着きがありバランスがとれています。静かな部分のロマンティックな表情付けが素晴らしいです。
カップリングの交響曲第2番も名演です。また「4本のホルンと管弦楽のためのコンツェルトシュテュック」は始めて聴きましたが、面白い曲です。
フルトヴェングラー=ベルリン・フィル
フルトヴェングラーとベルリン・フィルの演奏です。フルトヴェングラーはシューマンの交響曲第4番で名演を残していますが、『マンフレッド』序曲も厚みのある弦と凄い熱気でロマンティックな演奏の最右翼です。モノラルでも十分聴く価値のある演奏です。
冒頭は遅いテンポで始まります。裏拍から入る3つの音は絶妙な表現です。主部に入ると駆け上がるように一気にテンポアップしていき、白熱していきます。録音のせいもあるかも知れませんが、激しい情熱があるにも関わらず、シャープさはあまり感じられず、暖かみのある響きです。中間の静かな所はテンポを遅くし、フルトヴェングラーならではの自由なテンポの変化で、激しい表現から憂鬱な表現まで幅広い表現です。
シューマンとフルトヴェングラーの相性の良さを感じますね。フルトヴェングラーのシューマンは他の作曲家に比べて数が少ない気がしますが、CD化されているものは名演ばかりです。
全曲盤
シューリヒト=シュトゥットガルト放送交響楽団、他
シューリヒトとシュトゥットガルト放送交響楽団、他、歌手や合唱も入った全曲演奏です。
序曲はシューリヒトらしい疾走するような速いテンポで、燃え上がるような情熱のみならずシリアスさも表現しており、聴きごたえがあります。マンフレッドが劇音楽の序曲であることがよく分かります。劇的な語り口は他では聴けない演奏で、色々な気づきがあります。
劇音楽なのでドイツ語のナレーション(セリフ?)が入っています。ナレーションのみのトラックもあります。セリフと音楽が被っている曲も多く、セリフのBGMのような位置づけの曲もあります。アリアのような曲もありますが、メインはセリフですね。同じ劇音楽の『真夏の夜の夢』と比べると、劇中に華やかな曲に欠けるかも知れません。
劇音楽『マンフレッド』はシューマンの力作なので、映像やもっと多くのディスクがあっても良さそうですが、あまり見当たらないですね。その中で、この全曲盤は間違いなく貴重であると言えます。
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楽譜・スコア
シューマン作曲の『マンフレッド』序曲の楽譜・スコアを挙げていきます。