ロベルト・シューマン (Robert Schumann,1810-1856)作曲のチェロ協奏曲 イ短調 Op.129 (Cello Concerto a-moll Op.129)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。
解説
シューマンのチェロ協奏曲について解説します。
作曲
シューマンはチェロの音色に魅力を感じていました。シューマンがデュッセルドルフの音楽監督として活躍していた頃、1850年にチェロ協奏曲を作曲します。
ベートーヴェンはチェロ協奏曲を作曲しなかったため、ハイドン以来の有名なチェロ協奏曲です。
ただハイドンは古典派様式であるため、シューマンのチェロ協奏曲は初めてのロマン派のチェロ協奏曲といえます。非常に情感に溢れ、ロマン派風の歌謡的なメロディと激しい感情を併せ持つ作品となっています。
妻のクララは
ロマン性、躍動感、清新な感じ、ユーモア、チェロと管弦楽のきわめて興味深い織り合わせが非常に魅力的
と語っています。
初演への道のり
1854年に出版されました。しかしシューマン自身の病気の悪化もあり、シューマンの生前には初演されなかったようです。一般的にピアノ以外の協奏曲は、独奏者を想定して作曲する場合が多く、その独奏者が初演し献呈を受けるのですが、このチェロ協奏曲はシューマン自身の欲求によって作曲された訳です。
音楽はロマンティックで魅力的ですが、シューマンがどの程度チェロについて理解していたかは判然としません。チェロとしては高音域が多く、重音が使用されるなど、技巧的な難曲です。
初演はシューマンの死後の1860年4月23日にルートヴィヒ・エーベルトのチェロ独奏により行われました。
三大チェロ協奏曲の一つに
現在ではシューマンのチェロ協奏曲はチェリストの重要なレパートリーとなっており、ドヴォルザーク、ハイドンの第2番と合わせて「三大チェロ協奏曲」と言われています。
チェロ協奏曲が完成した1850年、シューマン自身によりチェロ・パートをヴァイオリン用に修正したヴァイオリン協奏曲となっています。ヴァイオリン協奏曲 イ短調 Op.129と同じ作品番号を付けています。しかし、こちらもシューマンの生前には少なくとも公開演奏はされませんでした。シューマンの死後に手稿譜が発見され、1987年に初演されています。現在、このヴァイオリン協奏曲は上演機会は多くはないもののいくつかのディスクがリリースされています。
シューマンの交響曲は、オーケストレーションが補強されて演奏されることが多いですが、この協奏曲もショスタコーヴィチにより編曲されたバージョンが存在します。ソヴィエト国内で録音があるものの、あまり広まりませんでした。
曲の構成
演奏時間は約23分ほどで、全楽章切れ目なく演奏されます。
第1楽章:Nicht zu schnell (あまり速すぎずに)
イ短調のソナタ形式です。シューマンの曲としてはチェロは自然体で弾いていきます。グレーな感情表現ですが、とてもあいまいさがあり、チェリストによって大分違う音楽になりますね。コーダはカデンツァ風になっています。
第2楽章:Langsam (ゆるやかに)
ヘ長調の緩徐楽章です。間奏曲のような位置づけです。息の長いメロディで味わい深い楽章です。
第3楽章:Sehr lebhaft (極めて生き生きと)
イ短調のソナタ形式です。独奏と伴奏の掛け合いとなっています。だんだんと盛り上がっていき、最後に伴奏つきカデンツァがあり、そこで第1楽章の第1主題が演奏され、展開していきます。その後、コーダに入り曲を締めくくります。
独奏チェロ
フルート×2、オーボエ×2、クラリネット×2、ファゴット×2
ホルン×2、トランペット各×2
ティンパニ
弦五部
おすすめの名盤レビュー
それでは、シューマン作曲チェロ協奏曲の名盤をレビューしていきましょう。
チェロ:ロストロポーヴィチ, ロジェストヴェンスキー=レニングラード・フィル
チェロ独奏がロストロポーヴィチ、伴奏がロジェストヴェンスキーとレニングラード・フィルという、当時のソヴィエトの最高峰が終結したような組み合わせです。録音は1960年としてはとても良いです。イギリスでDGが録音したものですね。
第1楽章から伴奏の木管が結構音量を出していてレニングラード・フィルの低弦は重厚です。そこにロストロポーヴィチが入ってきますが、重厚な伴奏など何でもないかのように、悠々と弾いていきスケールが大きく、音色にコクもあります。シューマンの良さを失わず、逆にシューマンらしさを強調したかのような編曲で良いと思います。メリハリがあり、レニングラードフィルの弦は重厚に演奏していますが、チェロを邪魔することなく、逆にオケとの対話の中で色々な表現が次々に出てきて、ドラマティックですらあります。
第2楽章は間奏曲風な楽章に相応しく、ロストロポーヴィチは艶やかな音色で息の長いメロディを弾いていきます。伴奏も積極的に絡んできて、チェロと対等に演奏していきます。ロジェストヴェンスキーのシューマンは聴いたことが無かったので、どうだろう?と思っていましたが、なかなか良くダイナミックさと味わいが共存しています。
第3楽章はまずレニングラード・フィルの重厚ながらリズミカルな弦が印象的です。ロストロポーヴィチのチェロは艶やかでスケールの大きな音色です。チェロとオケの掛け合いを良く聴くことが出来ます。カデンツァはチェロのスケールの大きな音色が印象的です。そこにオケが入ってきて色彩的と言ってもいい位の響きになり、ラストはダイナミックに終わます。
ロジェストヴェンスキーとレニングラード・フィルは遠慮しすぎず、しっかり演奏していますし、ロストロポーヴィチもコクのある音色が印象的で、予想を超える名盤ですね。
チェロ:デュ・プレ, バレンボイム=ニュー・フィルハーモニア管
ジャクリーヌ・デュプレのチェロ独奏とバレンボイム、ニューフィルハーモニア管弦楽団の伴奏です。音質はなかなか良く、細かい表情まで良く伝わってきます。オケは残響の少なさが感じられ、チェロ中心に調整してあるのかな、と思います。
第1楽章はテンポは遅めですが、デュプレはとても繊細かつ丁寧に弾いていくので、それほどテンポの遅さは感じず、その分、細かいテクスチャまでしっかり弾きこんでいます。バレンボイムの伴奏も遅いテンポでしっかりしたリズムを刻んでいます。デュプレは情熱的に弾いていますが、感情表現を上手くコントロールしてシューマンの息の長いメロディを弾いていきます。でもやっぱりメリハリがあり、多彩な感情表現を駆使しているのが、このディスクの魅力だと思います。カデンツァ風のコーダではかなり爆発的な感情表現です。
第2楽章は甘美なメロディに乗せて、情熱を秘めた音色でとても味わい深いです。第3楽章はとてもリズミカルでメリハリのある演奏です。シューマンらしい甘美さに溢れた曲であることが良く伝わってきます。伴奏もシャープでスケールの大きさもある演奏で、デュプレの感情表現を支えています。カデンツァは難しい技巧で力強く盛り上がり、曲を締めくくります。
デュプレ盤はシューマンらしい微妙な感情表現で、味わい深い名盤で、一回聴いただけでもこの曲の良さがすぐに分かる位のエネルギーがあります。若い人には是非お薦めしたい名盤です。
チェロ:シュタルケル,スクロヴァチェフスキ=ロンドン交響楽団
チェロ独奏をヤーノシュ・シュタルケル、スクロバチェフスキーの指揮とロンドン交響楽団の録音です。1962年録音ですが安定して良い音質です。シュタルケルのチェロの渋みと格調のある音色を考えるとシューマンにぴったりで、この録音も定番といっていい味わいのある演奏です。
第1楽章はチェロはふわっと入ってきて、渋い音色を響かせつつ端正に弾いていきます。少しくぐもったシューマンに相応しい絶妙な音色です。伴奏はスクロバチェフスキーとロンドン交響楽団のしっかりしたものです。スクロバチェフスキーらしいメリハリのある演奏です。第2楽章はチェロは自然体でコクのある音色で息の長いメロディを弾いていきます。ロンドン響の木管もシュタルケルに合わせてコクのある音色を響かせています。
第3楽章は中欧の舞曲のようにリズムと味のある演奏です。ロンドン響はシャープでリズミカルな伴奏ですが、あくまでチェロが主役になるよう、しっかり支えています。オケだけの部分ではアクセントを効かせてメリハリがあります。シュタルケルはコクのある音色はそのままに段々と明るく表現していきます。カデンツァは素朴さと渋さが勝っていて、超絶技巧はそれほど感じませんが、テクニックの確実さがあり、極端な表現をしなくても十分納得できる名演です。
もし最初の一枚を迷っているなら、シュタルケル盤はとてもお薦めです。
チェロ:カピュソン, ハイティンク=ヨーロッパ室内管弦楽団
チェロ独奏をゴーティエ・カピュソン、ハイティンクとヨーロッパ室内管弦楽団という実力派がバックを務めた録音です。2015年で会場の音響は秀逸で、ライヴですが良い録音です。チェロとオケのバランスも素晴らしいです。
第1楽章はヨーロッパ室内管弦楽団の小気味良い伴奏で始まり、チェロのゴーティエ・カピュソンはしっかりした低音と艶やかな高音域で、流麗な表現です。ハイティンクは老練なタクトで、絶妙な伴奏を付けています。爽やかさがあるのですが、同時に奥の深さも感じる演奏です。実力派が揃ったからこそ聴ける絶妙なアンサンブルと多彩な表現で充実しています。
第2楽章にも自然に入り、チェロが味わいのあるメロディを聴かせてくれます。伴奏はとても一体感があり、上手いバランスでチェロに絡んできます。本当に絶妙ですね。終盤はとても情熱的です。第3楽章は小気味良い少し速めのテンポでリズミカルに進んでいきます。自然に盛り上がっていき、爽やかに曲を締めくくります。
全曲を通して一体感のある演奏で、全楽章を通しで演奏することの効果も身をもって感じられます。思い切ったアクセントがある訳でもなく、極端な何かがある訳ではないのですが、丁度良いバランスでチェロとオケが絡み、それで曲を良く表現出来ているし、聴き終わった後の充実感も素晴らしい名盤です。
チェロ:ガベッタ,アントニーニ=バーゼル室内管弦楽団
チェロ独奏がソル・ガベッタ、指揮は古楽器で活躍するジョヴァンニ・アントニーニとバーゼル室内管弦楽団の伴奏です。音質は非常によく、チェロも伴奏も息遣いまで伝わってくるリアリティがあります。
第1楽章は非常にアクティブで古楽器界で活躍するアントニーニらしく、速めのテンポでメリハリがついています。浮遊しているような曖昧さは少なめです。ただそれがとても自然に聴こえます。チェロ独奏もメリハリがあり、爽快です。チェロのシャープなアクセントの付け方はとてもメリハリがあり、歌うところは上手く流麗に歌っています。上の方で紹介しているロストロポーヴィチとレニングラード・フィルの演奏もそういう傾向がありましたが、ガベッタとアントニーニの演奏はさらに完成度が高いです。
第2楽章は小編成の伴奏が小気味良く、木管もしっかり音量を出して、チェロに絡んでいます。チェロは朗々と歌っていますが、とても爽やかさがあります。第3楽章は溌溂としたアクセントで、爽やかな響きです。チェロは細かいパッセージを艶やかに、爽やかに弾いています。小気味良く盛り上がっていきます。
最近はピリオド奏法のシューマンは、交響曲を中心に録音が増えてきましたが、意外にしっくりくるので驚きです。シューマンこそロマン派の始まり、と考えていましたが、当時も今の演奏よりは古典派に近いスタイルだったのだろうと、想像させられます。
CD,MP3をさらに探す
楽譜・スコア
シューマン作曲のチェロ協奏曲の楽譜・スコアを挙げていきます。
ミニチュア・スコア
電子スコア(Kindle)
タブレット端末等で閲覧する場合は、画面サイズや解像度の問題で読みにくい場合があります。購入前に「無料サンプル」でご確認ください。