リヒャルト・シュトラウス (Richard Strauss,1864-1949)作曲の交響詩『ツァラトゥストラはかく語りき』作品30 (Also sprach Zarathustra)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。
解説
リヒャルト・シュトラウスのツァラトゥストラはかく語りきについて解説します。
R.シュトラウスの交響詩の代表作
リヒャルト・シュトラウスは、名ホルン奏者の子として生まれ、ロマン派の流れを汲む音楽を作曲していました。その後、交響曲ではなく、標題音楽である交響詩の分野で、数々の作品を作曲しました。リヒャルト・シュトラウスはドイツ人ですが、華麗なオーケストレーションに長けていて、まだブラームスも健在の1885年以降に近代音楽を思わせる作品を世に送り出してきました。
一方、フルトヴェングラーなどワーグナー指揮者の全盛期の録音も多く残されており、独自の演奏スタイルが定着している部分もあります。しかし戦後は、そのラインに乗らず、スコアに忠実でモダンな演奏が増えています。
冒頭のファンファーレが有名
この作品は、タイトルの通りニーチェの名著『ツァラトゥストラはかく語りき』を元にした作品です。冒頭のファンファーレは非常に有名で知らない人はきっと居ないですよね。
映画『2001年宇宙の旅』で使われてから、ホルストの組曲『惑星』と同様の位置づけで、近現代的な宇宙をモチーフにした映画等に使用されています。
「神は死んだ」で有名なニーチェの思想は、当時の世の中にフィットし、様々な議論を呼びました。音楽にも多くの影響を与えており、マーラーは交響曲第3番以降はニーチェの影響を受けて、歌詞を引用したりしています。
構成
全体は9部から構成されています。部というかシーンと言ったほうが分かり易いですね。全曲は続けて演奏されます。
導入部
世界の背後を説く者について
大いなる憧れについて
喜びと情熱について
墓場の歌
学問について
病より癒え行く者
舞踏の歌
夜の流離い人の歌
おすすめの名盤レビュー
リヒャルト・シュトラウス作曲ツァラトゥストラはかく語りきの名盤をレビューしていきましょう。
カラヤン盤が3種類あり、この曲とカラヤンの関係から外せないので、3種類レビューしてみます。また小澤盤は非常に優れた名盤で、他の演奏と大きく印象が異なり、R.シュトラウスがあまり好きではない人でも聴ける名盤だと思います。
カラヤン=ベルリン・フィル (1973年)
1970年代カラヤンのこのディスクはカラヤン=ベルリンフィルの最盛期です。もっとも『ツァラトゥストラ』は前後を名演に挟まれていて、どれが良いのか本当に迷います。好みの問題かも知れませんね。このコンビの最盛期なので、やはりこのディスクが代表と言えると思います。
冒頭は非常にダイナミックで、トランペットは張りがあり、ティンパニは鋭く打ち込んでいて重厚です。音質が良く、ベルリンフィルのレヴェルの高さに圧倒されます。第2曲はベルリン・フィルの充実した艶やかな弦のアンサンブルが素晴らしいです。カラヤンらしい少し濃厚な世界観です。第4曲「喜びと情熱について」はベルリン・フィルの音の洪水のようになっていて凄いです。以降もベルリンフィルの最盛期でありダイナミックで力強く、低音域がしっかりしています。「病より癒え行く者」は、ダイナミックで白熱した盛り上がりで圧倒されます。内容の充実度という意味では1983年盤も捨てがたいですが、壮年期のカラヤンの男気溢れる力強さと、それに120%で応えるベルリンフィルの圧倒的な演奏が聴けます。
結局、1983年盤と1973年盤のどちらがいいの?と言われると答えに窮します。正直好みの問題としか言いようが無いですね。両方持っていても全く損は無いと思います。
小澤征爾=ボストン交響楽団
小澤征爾のリヒャルト・シュトラウスは非常にセンスが良い演奏が多く、特にこの『ツァラトゥストラはかく語りき』は他では聴けないしなやかさを持っています。音質もとても良いです。
冒頭が有名な『ツァラトゥストラはかく語りき』でも、冒頭ばかりを強調せずに曲全体の流れを中心に音楽づくりをしています。しなやかな冒頭のトランペットは大仰にならず、落ち着いて物語の始まりを告げます。次の弦の主題も透き通っていて淡い色彩があり、じっくりと演奏しています。ボストン交響楽団のハイレヴェルなソロやアンサンブルは綿密も印象的です。そうして物語の中に入っていくと盛り上がりを増していきます。小澤征爾らしい深いスコアの読み込みで、この曲の全体のストーリーを再構成し、自然に最後まで聴ける内容豊富な音楽になっています。
映画「2001年宇宙の旅」に出てくるダイナミックな音楽とは大分違う印象になっていますが、1880年代というロマン派後期の音楽なので、小澤盤のアプローチは本来の物だと思います。ダイナミックになっても透明感を失わないサウンドも素晴らしいです。
ショルティ=シカゴ交響楽団
ショルティとシカゴ交響楽団の録音です。シカゴ響のレヴェルの高さ、アンサンブルのクオリティの高さが素晴らしい名盤です。ショルティはスコアを実直に音楽にしていくストレートさがあり、シカゴ響は引き締まった凝集力のある圧倒的なサウンドで応えています。ベルリン・フィルも凄いですが、この時代のシカゴ響の金管や弦の厚みも凄いです。録音は安定していて、残響も適度で細かい音までしっかり収録されています。
冒頭はショルティらしいインテンポでリズムを大事にした演奏で、金管がクオリティの高い演奏を繰り広げています。第2曲「世界の背後を説く者について」はケレン味のないストレートな演奏で、弦のクオリティの高いアンサンブルから凝集力のあるトゥッティまで盛り上がり圧倒されます。
第4曲「喜びと情熱について」の白熱したダイナミックな音響も聴き物です。第5曲「墓場の歌」はアンサンブルに透明感があり、ヴァイオリンを中心にしたソロ陣のレヴェルが高く、なかなか味わい深いです。こういう所のテンポ取りは自然です。「学問について」は鮮やかなアンサンブルで聴きごたえがあり、「病より癒え行く者」は速めのテンポでどんどん盛り上がっていき、最後は凄い重厚さでモダンな響きです。息をつく暇もない程、密度の高い演奏が続きます。
全体にテンポが速めですが、要点はしっかり突いていて、物足りなさはありません。毒のある部分もしっかり表現しています。むしろ今までこの曲の良さしっくり来なかった人にはお薦めの名盤です。
カラヤン=ウィーン・フィル(1959年)
このカラヤンとウィーンフィルの録音は映画『2001年宇宙の旅』で使用されました。カラヤンのR.シュトラウスは、それまでの演奏と異なり、1959年当時は特にモダンなものでした。
冒頭はウィーンフィルとは思えないモダンなサウンドで、新しい時代の夜明けを感じさせる壮大さです。1959年からは現実に宇宙開発競争が始まり、組曲『惑星』も同じカラヤン=ウィーンフィルの組み合わせで再度注目されるようになったのですが、この冒頭もその時代のリアリティがひしひしと感じられます。
第2曲の弦のアンサンブルはウィーンフィルらしく暖かみがあるものです。第3曲になるとまたダイナミックになってきますが、カラヤンはこういう力強い部分はとても得意です。スコアに忠実に新しい音楽を作りながらも、ドイツ的な伝統を残している部分も多いです。「病から回復するもの」以降はまた聴きどころが多く、色彩的なオーケストレーションもよく再現していますし、ボスコフスキーがVnソロを務めた個所は、華麗で後年の『ばらの騎士』を思わせます。リヒャルト・シュトラウスのもう一つの特徴ですね。
カラヤン=ウィーンフィルは、組曲『惑星』が少し怪演気味なのに対して、『ツァラトゥストラ』の演奏スタイルは最初からしっかり確立しています。
ヤンソンス=バイエルン放送交響楽団
ヤンソンスはロシアの指揮者ですが、主にオランダやドイツで活躍しました。ロシア人指揮者にありがちなアクの強さはなく、自然体の指揮をする人でした。この演奏は最晩年のものです。バイエルン放送交響楽団は元々実力のあるオケですが、ヤンソンスはアンサンブルのクオリティを大きく高めました。ダイナミックさを保ったまま、精緻で自然なアンサンブルをするようになりました。
冒頭は速めのテンポで自然体です。モダンで透明感のある響きと完璧なアンサンブル力で、カラヤンとはまた違った素晴らしさです。第2曲以降も晩年の円熟した演奏で、内容が充実していて、全く飽きる所がありません。なるほど、と目から鱗が落ちる所も結構あります。中身が濃いのに、すっきり爽快に聴けることもこの演奏の良い所です。
録音も新しいので非常によく、ライヴですが各楽器の音が手に取るように聴こえてきます。ヤンソンスはロシアの指揮者なので、ドイツ=オーストリア的な雰囲気はありませんが、R.シュトラウスが書いた音楽は十分再現されていると思います。表現の幅広さは、カラヤンの1983年盤にも匹敵します。聴き終わった後の充実感は、なかなか味わえないものです。
カラヤン=ベルリン・フィル (1983年)
カラヤンとベルリン・フィルの最新盤です。もう晩年なのですが、ベルリン・フィルから美しい響きを引き出し、完璧な演奏を録音をしています。ウィーンフィル盤から考えると長足の進歩ですし、カラヤンの円熟を感じさせる名盤です。
冒頭はさすがに一番新しい録音だけあって、華やかでダイナミックなサウンドが聴けます。録音も素晴らしいですし、この1980年代のカラヤン=ベルリンフィルの音色は透明感があって、銀色の響きといった趣(おもむき)です。時に神々しさすら感じさせます。第2曲は自然体でベルリンフィルらしいスケールはありますが、円熟した味わいも感じられます。音楽の中身がとても濃くなっているため、どんな所も飽きずに聴けます。「病から回復する者」の始まりなどは、濃厚な味わいで凄いです。
カラヤンの『ツァラトゥストラ』はどれも、その時代の良さがあります。このCDはいまでも「定番」として通用する名盤だと思います。
ドゥダメル=ベルリン・フィル
ドゥダメルはベネズエラのユースオーケストラで一世を風靡した若手指揮者です。幅広いレパートリーを持ち、どんな曲でもこなしますが、やはり南米音楽の熱狂的な演奏は凄いです。R.シュトラウスも合いそうな気がします。
冒頭は悪くないのですが、録音のせいもあるかも知れませんが、もう少しダイナミックでもいいかなと思います。ドゥダメルのスタイルかも知れませんが、第2曲になっても抑えめにしている雰囲気です。テンポもかなりルバートさせて、弱音をしっかり演奏しています。確かにベルリンフィルは乗ってくると、ダイナミックになりすぎる所もあるので、しっかりコントロールしている、とは思いますが、曲が曲だけにもっと自由に演奏させたほうがいいような感じですね。後半は段々熱気が出てきて、ソロなどはとてもハイレヴェルです。
録音の音質も2012年録音としては、ダイナミックレンジが狭いような気もするので、録音のせいもあるかも知れません。
ドゥダメルはまだ若い指揮者なので、良い時とそうでもない時がありますね。器用な指揮者であることは良く分かりますが、表現のボキャブラリーはまだまだ足りないかな、と正直思いました。
演奏の映像(DVD,Blue-Ray)
大編成で、演奏を見ながら聴くとまた感銘を受ける曲です。
カラヤン=ベルリン・フィル・フィル (1987年)
カラヤンとベルリン・フィルの録音です。ライヴならではの白熱した演奏で、ベルリン・フィルの圧倒的な凄さが良く伝わって来ます。コンサートのライヴなのに、カメラワークがカラヤンらしいですが、それはそれとして、独特の雰囲気に溢れていて、見ごたえのある映像です。好調なライヴでベルリン・フィルの圧倒的な演奏を堪能できます。
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楽譜・スコア
リヒャルト・シュトラウス作曲のツァラトゥストラはかく語りきの楽譜・スコアを挙げていきます。
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