リヒャルト・シュトラウス (Richard Strauss,1864-1949)作曲の交響詩『ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら』作品28 (Till Eulenspiegels lustige Streiche)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。
解説
リヒャルト・シュトラウスのティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずらについて解説します。
R.シュトラウスの交響詩らしい名作
『ティル・オイレンシュピューゲルの愉快ないらずら』は、冒頭でホルンに難しいパッセージを吹かせており、ホルン奏者ならアマチュアでも誰でも知っている作品です。その後も、「愉快いたずら」の破天荒で大胆なダイナミックさで、鮮やかなオーケストレーションの妙技を聴かせてくれる楽しい名作です。
作品の筋書き(あらすじ)
ドイツの中世の民話に出てくる「いたずら者」のティル・オイレンシュピューゲルを題材にした交響詩です。
昔話の枕詞はどこの国にもあるもので、ティルは「昔々、いたずら者があったとさ」という言葉を示すヴァイオリンの旋律で物語が始まります。
主人公は市場を走って逃げだし、宗教家に扮したり、騎士になりすまして美女に熱を上げたり、学者と論争を繰り広げたり、と様々な「いたずら」を仕掛けます。しかし、最後は捕らえられて裁判で死刑宣告され、絞首台で処刑されてしまいます。
最後は、ヴァイオリンによる枕詞が戻ってきて、曲は終わります。
それにしても音楽を聴いていて相当大胆ないたずらなのか、と思いきや、死刑になるほど大した罪を犯したわけじゃないような気もしますね。
作曲と初演
作曲は1895年5月に完成しました。初演はヴェルナー指揮によるケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団によって1895年11月5日に行われました。
ケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団は、今でもプロコフィエフ交響曲全集を録音するなど、活発に活動しているオーケストラです。凄い歴史があるのですね。
おすすめの名盤レビュー
それでは、リヒャルト・シュトラウス作曲ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずらの名盤をレビューしていきましょう。
ショルティ=シカゴ交響楽団
ショルティとシカゴ交響楽団の最盛期の名演です。まさに最盛期というに相応しく、ショルティは少し速めのテンポで密度の濃い演奏です。上記のYouTubeも凄いですが、さらに名演です。シカゴ響はどこを取ってもヴィルトゥオーゾで、まさに「愉快ないたずら」ですね。こんなに楽しいティルは滅多に聴けません。シカゴ響本拠地での録音で細部まで良く収録されています。
どこが良い、というより最初から最後まで全てが聴き所です。ホルンの難しいソロも当たり前のように吹きこなし、全てのパートが粒が立っていてブリリアントです。金管は思い切りダイナミックで、弦の凝集した響きも凄いです。と思えば、穏やかな個所では木管が小気味良いソロを展開し、そこも聴きごたえがあります。ショルティのテンポ取りは理想的という位、無駄がなくスリリングでシカゴ響を鳴らし切っています。
このコンビは余程、この曲に相性が良いようですね。迷ったら是非このディスクをお薦めします。
ロト=バーデン=バーデン&フライブルクSWR交響楽団 (2012年)
ロトとバーデン=バーデン&フライブルク南西ドイツ放送交響楽団(SWR)の録音です。ロトの子気味良く速めなテンポの指揮とSWR響の粒の立った響きでとても痛快な演奏です。ロトのR.シュトラウスとの相性の良さが感じられる名盤です。録音は新しく非常に良い音質です。
冒頭の弦の透明感に録音の良さを感じます。ホルンは軽やかに吹き、その後、スリリングに盛り上がります。とてもメリハリがあり、リズミカルでスリリングなテンポ取りです。木管のソロも軽妙でアンサンブルのクオリティが高いですね。細かいアンサンブルもクオリティ高く、大胆なダイナミックさが共存しています。テンポのメリハリが非常にあり、急に速くなり白熱します。白熱しても響きが荒くなることはなく、金管の音色も聴いていて爽快です。
カラヤン=ベルリン・フィル (1973年)
カラヤンとベルリン・フィルの録音です。カラヤン=ベルリンフィルが一番好調だった1970年代の録音で、音響の良いイエス・キリスト教会での録音です。ウィーン・フィル盤に比べ、音質が大幅に改善され、細かい所までよく聞き取れますし、イエス・キリスト教会のスピード感のある響きが心地よいです。細かい所が良く聴きとれる分、カラヤンの表現が良く聴きとれ、ウィーンフィル盤よりも進化した表現が多いです。ダイナミックさも凄いです。しかも、ノイズが少ないのでウィーンフィル盤に比べて綺麗で爽快です。ただ、ウィーンフィル盤にあった独特の圧力は少し減った感じがします。ソロの素晴らしさはさすがベルリン・フィルです。
表現、演奏技術、録音などトータルで見るとこのCDは本曲の「定番」だと思います。この曲の本当の面白さを十分堪能できる名盤です。
フルトヴェングラー=ベルリン・フィル
フルトヴェングラーはR.シュトラウスを非常に得意としていました。フルトヴェングラーは、元々ロマン派やワーグナーあたりまでがメインのレパートリーです。戦前の指揮者は皆そうですが、楽譜通りの演奏よりも、自分の納得いく演奏を好み、筋を通すために時にスコアを書き替えたりもします。しかし、思うにフルトヴェングラーはそこまで大きな改変はしていません。テンポは自由自在ですけれど。
『ティル・オイレンシュピューゲル』はメインのレパートリーであり、いくつか録音が残っています。このベルリンフィルとの録音も評価が高いです。何より、フルトヴェングラーの時代からベルリン・フィルは最高の技術を持っていたことが分かります。フルトヴェングラーは15分程度の小さめの作品を極めて大胆に演奏していて、弱音の個所は繊細な表現、そしてフォルテになると圧倒的で爆発的な音響で、録音にギリギリ入る位のレヴェルで凄いです。表現のヴォキャブラリーの多さ、強烈ともいえるメリハリのつけ方など、他の演奏家では、なかなかここまで出来ません。戦前の録音が未だに最高の演奏というのが凄いですね。まさに豪快ないたずらで、こんな面白い演奏は多分他にはありません。
なお、このCDのメインは『田園』です。こちらも艶の感じられるフルトヴェングラーとしては非常に良い録音で迫力や神々しさが良く伝わってくる名演です。
ヤンソンス=バイエルン放送交響楽団
ヤンソンス=バイエルン放送響の『ティル・オイレンシュピューゲル』は、演奏時間が16分47秒(通常は15分程度)もあります。単にテンポが遅いのか、新しい版を使っているのかも知れません。
聴いてみると、とても丁寧な演奏で、テンポが遅めです。迫力のあるところばかり強調しないで、曲全体の物語性を追求していると思います。細かい表現が上手く、本来こういう曲なんだよな、ということを気づかせてくれます。
リヒャルト・シュトラウスの優れたオーケストレーションの迫力も色彩的で透明感を失わない響きで、気分よく聴かせてくれます。極端な表現をしない所はヤンソンスらしいですね。とてもクオリティの高い演奏です。
カラヤン=ウィーン・フィル(1959年)
カラヤンとウィーン・フィルの名盤です。カラヤンはR.シュトラウスを得意といていて、ベルリン・フィルに着任する前に、ウィーン・フィルと凄い録音を残しています。音質の差はありますが、ウィーン・フィルとの演奏のほうがダイナミックで爽快です。
カラヤンの場合、表現のヴォキャブラリーはまだ若いのでそこまではありませんが、ステレオ録音で、今のオーディオで聴いても十分楽しめます。ウィーン・フィルもベルリン・フィルに負けず劣らず凄いダイナミックな演奏をしています。もちろん、技術的には1975年録音のベルリン・フィル盤のほうが上手いですが、迫力はこちらの方が上です。ウィーン・フィルはフルトヴェングラーとも共演している訳で、歴史的な名演の蓄積があるのです。
なお『ツァラトゥストラはかく語り』がメインですが、こちらも名演です。『7つのヴェールの踊り』も素晴らしいです。
ドゥダメル=ベルリン・フィル
2013年の新しい録音です。演奏はベルリン・フィルなので、レヴェルの高い演奏です。ドゥダメルの指揮もフレッシュでテンポ取りも速めで迫力もあり、面白く聴けます。
細かい所のアンサンブルが少し詰めが甘い気がします。ドゥダメルはテンポの変化が繊細で、細かいテンポの変化を要求しますし、リズム感も南米独特のセンスがあります。でも、ベルリン・フィルは基本的にはドイツの重厚さがあって、あまり機敏に変化するリズムについて行けない所があると思います。ベルリン・フィルがダイナミックさを発揮する前に、ドゥダメルはもう次のパッセージに行ってしまっている感じでしょうか。あくまで細かいレヴェルの話ですけど。
例えば小澤征爾もリズムに独特の感性がありますが、プロコフィエフの交響曲全集ではベルリン・フィルの戸惑いも見られます。もちろん何年も共演している間柄なので、結果として名盤になっていますけど。
共演を重ねていけば良くなってくるはずですが、まだベルリンフィルに登場して2年目ですからね。2012年の『ツァラトゥストラはかく語り』よりはいい演奏です。
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楽譜・スコア
リヒャルト・シュトラウス作曲のティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずらの楽譜・スコアを挙げていきます。
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