
アルカンジェロ・コレッリ (Arcangelo Corelli,1653-1713)作曲の合奏協奏曲第8番 ト短調『クリスマス協奏曲』 Op.6 (Concerti grossi No.8 g-Moll “La notte di Natale” Op.6)と、他の作曲家のクリスマス協奏曲について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。最後に楽譜・スコアも挙げてあります。
コレッリ(コレルリ)の合奏協奏曲作品6第8番は最終曲にパストラーレがあり、クリスマス協奏曲(クリスマス・コンチェルト)として親しまれています。同じような合奏協奏曲のクリスマス協奏曲は、マンフレディーニ、タルティーニ、トレッリ(トレルリ)、ヴィヴァルディもパストラーレ付きの作品を書いています。
クリスマスシーズンにも良く演奏され、アマチュアの弦楽合奏にも人気が高い曲です。
解説
コレッリの合奏協奏曲第8番 ト短調『クリスマス協奏曲』 Op.6について解説します。
コレッリの合奏協奏曲
コレッリは第12番ラ・フォリアで有名なヴァイオリン・ソナタ作品5を1700年に出版します。さらに合奏協奏曲の形式も芸術と言える領域まで高め、作品6で12曲の合奏協奏曲を出版するべく、1712年には献呈まで行いました。しかし、出版はコレッリ没後の1714年になりました。この合奏協奏曲集もバロック時代の合奏協奏曲の中でも一番の人気のある作品となり、ヴァイオリン・ソナタ同様、沢山の楽譜が売れました。
ヴァイオリン奏者で主に器楽作品を作曲していたコレッリは、この2つの楽譜の出版だけでバロックを代表する作曲家の一人となります。特に合奏協奏曲は、コレッリによってしっかりした土台が出来上がり、合奏協奏曲の質を大幅に高めました。
後に続く、ヴィヴァルディ、トレッリ、アルビノーニらは、コレッリから大きな影響を受けています。また若いころのヘンデルもコレッリと共演したことがあり、コレッリの影響を受けた優れた合奏協奏曲Op.6を出版しています。
ヴァイオリン・ソナタ作品5はコレッリの出版譜は沢山売れましたが、その後、演奏家が沢山の装飾を加えた楽譜がいくつも出版されたほどです。これは当時の装飾のつけ方を知る上での大事な資料になっています。こういった資料が活かされて古楽器奏法が発展してきたのですね。
コレッリの合奏協奏曲のほうにも、和音が並んだような曲がありますが、これらも即興や装飾が沢山入れられて、華やかな曲として演奏していたと考えられています。
クリスマス協奏曲
合奏協奏曲は特に標題はありませんが、コレッリは明らかにクリスマスを意識したクリスマス協奏曲を第8番として配置しています。コレッリは合奏協奏曲の育ての親のような存在ですから、後に続く他の作曲家もコレッリに敬意を払っています。
このようなクリスマス協奏曲の元祖が誰なのか分かりませんが、トランペット協奏曲で有名なジュゼッペ・トレッリ(1658-1709)は、コレッリと同時代の作曲家で、コレッリと同時期で少し前の1709年に合奏協奏曲作品8で第6番クリスマス協奏曲を入れています。
フランチェスコ・マンフレディーニ(1684-1762)は1718年に出版した合奏協奏曲集作品3の第12番をクリスマス協奏曲にしています。マンフレディーニは、作曲家としての評価は高いのですが、一般的にはこの曲によってのみ知られています。ロカテッリは1720年頃、作品1の中にクリスマス協奏曲を含めています。これはロカテッリが20代の時の作品ですが、この作品でのみ知られている作曲家ですね。ジュゼッペ・タルティーニは「悪魔のトリル」で有名でヴァイオリン協奏曲を多く残した作曲家ですが、タルティーニは「シンフォニア・パストラーレ」という曲を残しています。
他にも同様に合奏協奏曲の際にクリスマス協奏曲を入れることが流行しました。
イタリア以外の作曲家
ヘンデルは自分の合奏協奏曲を同じ作品6として足りない分は他の曲を流用してまで、同じ12曲にして出版しています。その中で、第6番の第3曲ミュゼットはパストラーレに近く、たまに第6番はクリスマス協奏曲とも言われます。もっともヘンデルの場合、ハレルヤ・コーラスで有名なオラトリオ『メサイア』の間奏曲に明確なパストラーレがあり、こちらの方が有名です。
J.S.バッハは合奏協奏曲集(ブランデンブルク協奏曲など)自体には含まれません。ただライプツィヒのトーマス教会のカントルになったので、クリスマス関係の曲は多いです。4つの受難曲やクリスマス・オラトリオなどですね。
パストラーレ
クリスマス協奏曲は、パストラーレを含んでいます。これは当時ローマではクリスマスにピッフェラーリと呼ばれるピッフェロとバグパイプ奏者が路上演奏する習慣があり、それを合奏協奏曲に取り入れたもの、と言われています。ピッフェロはオーボエに似た2枚リードの楽器です。

アントン・ロマコ「祭壇の前のピッフェラーリ」
近いものでもう一つ「パストラル」という芸術ジャンルもありますが、これは1600年頃、文学から絵画まで多くの芸術で流行したジャンルです。主にギリシャ神話に基づき、理想郷アルカディアなど色々な創作が生まれました。オペラも1600年に誕生したのですが、初期のオペラ『オルフェオ』などは、ギリシャ神話が台本で、これらもパストラルと呼ばれます。そして、ベートーヴェンは交響曲第6番『田園(パストラル)』を作曲し、その後、ラヴェルの『ダフニスとクロエ』など、パストラルを題材とした音楽がいくつかあります。
コレッリのクリスマス協奏曲のパストラーレは深い意味は感じないので、前者かなと思います。音楽はヴィオラがバグパイプを模したドローンの音型を演奏し、ヴァイオリンなどがメロディを演奏する形式です。ヴィヴァルディは協奏曲『四季』で『春』の第3楽章をパストラーレとしていますが、こちらは後者のパストラルにも関係するかも知れません。
コレッリの合奏協奏曲第8番、通称クリスマス・コンチェルトは、この時代としては珍しく6楽章形式となっています。通常、6楽章もある場合はフランス風組曲や世俗ソナタと呼ばれる形式で、舞曲から成り立っている場合が多いです。ただ、コレッリの譜面を見ても、CDを聴いても舞曲集という風には見えません。ただストーリーがあるのではないか、と思います。第6楽章のパストラーレに達するまでに、お祝いというよりは、神秘的だったり、悲劇的と言えるような曲が続いていきます。それが最後の第6楽章で雲が晴れるように清々しいパストラーレになります。
これはヘンデルの『メサイア』もハレルヤコーラスの前はそういう盛り上がりがあります。また、モーツァルトも使ったト短調で、ストレートな感情表現を期待しているように思います。
合奏協奏曲の場合、短い楽章が多く、作曲者も二重線で区切る程度の意識しかないので、交響曲で言う楽章とは大分異なります。
第1楽章:ヴィヴァーチェ-グラーヴェ
短調の悲痛さを感じるような鋭さのある序奏につづき、静寂の中から、低音から徐々に楽器が増え、神秘的に盛り上がっていきます。グラーヴェはお墓のことで、暗い曲想で指定されるもので舞曲では無いです。ここで「楽譜通り弾くように」という注釈があります。当時は装飾を付けたり、アドリブを加えたりすることが多く、作曲者がそうして欲しくないときに指示を記入していることが多いです。
第2楽章:アレグロ
速いテンポの楽章で、チェロが速い動きにより、とても情熱的でスリリングな楽章です。2本のヴァイオリンの絡みも合奏協奏曲らしいです。
第3楽章:アダージョーアレグローアダージョ
ヴァイオリンのコンチェルティーノが素朴で美しい主題を演奏します。とても神秘的でクリスマスらしい音楽です。中間のアレグロでは突如激しい音楽となりますが、再現部ではまた神秘的な雰囲気と取り戻ります。
第4楽章:ヴィヴァーチェ
サラバンドのリズムで書かれています。ただテンポは速めで結構鋭さもあり、悲痛な雰囲気を持った音楽です。
第5楽章:アレグロ
ガヴォットのリズムで書かれていますが、かなり感情的で激しさがあります。最後は和声は解決していますが、そのまま第6楽章に入ります。急な場面転換なので、どう演奏するのが良いのか迷う所で、演奏家によって色々なパターンがありますね。
第6楽章:パストラーレ(Pastorale ad libitum)
典型的なパストラーレのリズムで、ト長調に解決して始まります。有名なメロディをヴァイオリンが演奏し、バグパイプのドローンを模した音型が下の声部に現れます。
「お好きなように(ad libitum)」という指示があります。この楽章は演奏しなくても良い、とも読めるようですが、確かに演奏しなければ形式的には教会ソナタに近くなりますね。
装飾やアドリブに関してお好きなように、と思えます。あえて書いてある、ということはインスピレーションを発揮して自由に演奏して欲しい、ということかも知れません。このパストラーレは意外と長いので、そのまま弾くと飽きてしまいそうです。
この第8番は教会ソナタなのか世俗ソナタなのか、と考えれば、クリスマス協奏曲なので教会ソナタであるべきな気がします。管理人は大雑把に「教会ソナタ+パストラーレ」と考えています。パストラーレは単独で演奏できるように書いてありますし、第5楽章までは舞曲も使っていますが、踊れる音楽ではなくシリアスでドラマティックな音楽です。こうしておけば教会でも演奏できる、というものです。
おすすめの名盤レビュー
それでは、コレッリ作曲合奏協奏曲第8番 ト短調『クリスマス協奏曲』 Op.6の名盤をレビューしていきましょう。
クリスマス協奏曲集と、コレッリの合奏協奏曲集の2種類の選択肢がありますけど、どちらも含めて興味深いものをレビューしてみたいと思います。
モルテンセン=コンチェルト・コペンハーゲン
クリスマス協奏曲集として非常にクオリティの高いアルバムです。コンチェルト・コペンハーゲンという古楽器アンサンブルでの演奏です。最近、活発に活動しており、いくつかCDもリリースしています。2020年録音ととても新しく高音質です。教会での録音ですが、適度な残響で、雰囲気が良く出ています。
選曲も良く、コレッリ、トレッリ、マンフレディーニ、ロカテッリと多くのクリスマス協奏曲を収録しています。ヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲は「安らぎ:いとも聖なるクリスマスのために」とあり、クリスマスに演奏する作品であることが分かります。
モルテンセン=コンチェルト・コペンハーゲンの演奏も素晴らしく、古楽器アンサンブルとしてレヴェルの高い演奏を繰り広げています。
分かる人なら、これを聴くだけで相当いい演奏であることが分かると思います。クリスマス協奏曲集というと、クリスマス商戦向けのアルバムなんじゃないか?と思われる人もいるかも知れませんが、むしろ本格的に取り組んでいてバロック奏法で、センス良くまとめています。奇を衒った解釈もしていないので、初心者でも心地よく聴けると思います。古楽器アンサンブルでは、現時点でこれ以上の演奏は無いですね。
イタリア合奏団によるクリスマス協奏曲集です。一時は定番のような存在だったのですが、古楽器奏法が充実してコンチェルト・コペンハーゲンのような演奏が出てくると、モダン楽器による演奏なので、霞んでしまうかも知れません。ただ、コンチェルト・コペンハーゲンのような本格的な古楽器アンサンブルには無い親しみやすさがあることも事実です。この明るいイタリア的な響きはイタリア合奏団の特徴です。コレッリの合奏協奏曲全集も現役です。
とりあえず、イタリア的な明るさのある雅(みやび)な演奏なので、何かのBGMに使いたい場合は、とても相応しいCDです。例えば結婚式などのBGMにはとても相応しいと思います。カラヤン盤の教会の雰囲気も悪くないですが、こちらの演奏は艶やかです。古楽器アンサンブルでは、こういうモダン楽器の明るさはなかなか出せません。
選曲もいいですね。コレッリが「パストラーレ」のみなのは少々残念ですが、トレッリ、マンフレディーニ、ロカテッリのクリスマス協奏曲は全部入っており、モダン楽器としてはヴィブラートも控えめで、とても良い演奏です。筆者は古楽器アンサンブルをやっているので、普段イタリア合奏団は聴きませんが、このCDで色々なクリスマス協奏曲を知りました。クリスマス協奏曲集の名盤として、今後も親しまれるといいと思うCDです。
カラヤン=ベルリン・フィル
カラヤン=ベルリン・フィルの録音の中から、クリスマス協奏曲を中心にクリスマスに相応しい曲をセレクトしたアルバムです。合奏協奏曲はコレッリ、トレッリ、マンフレディーニ、ロカテッリと上のコンチェルト・コペンハーゲンと同じ選曲です。パッヘルベル『カノンとジーグ』やヴィヴァルディ『四季』より『冬』も入っています。演奏はカラヤン=ベルリン・フィルなので、完全なモダン楽器による演奏です。コレッリなどは曲によっては相当重厚な響きを出してきます。
ドイツの曲のようですが、コレッリは確かにしっかりした構造を持った音楽なので、こういう演奏もできます。また、テンポは総じてかなり遅いです。なので、とてもロマンティックな演奏で、クリスマスのBGMに相応しいと思います。特にベルリンフィルなので、ソロが素晴らしく即興も入れている位です。モダン楽器による演奏としては最高の演奏の一つだと思います。基本的にイタリアの曲なので、テンポが遅いこと以外は艶やかでゴージャスな響き浸れる演奏でもあります。
CD,MP3をさらに探す
楽譜・スコア
コレッリ作曲の合奏協奏曲第8番 ト短調『クリスマス協奏曲』 Op.6の楽譜・スコアを挙げていきます。