オットリーノ・レスピーギ (Ottorino Respighi,1879-1936)作曲の交響詩『ローマの松』 (Pini di Roma)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。最後に楽譜・スコアも挙げてあります。
解説
レスピーギの交響詩『ローマの松』について解説します。
作曲は1923年~1924年にかけて行われました。初演は、1924年12月24日にローマの聖アウグステオ音楽堂で、ベルナルディーノ・モリナーリの指揮により行われました。
『ローマの松』は、ローマの三部作(ローマの泉、ローマの松、ローマの祭り)の第2作です。ローマの松について、レスピーギは以下のように書いています。
主要な事件の証人
<中略>
古代ローマへの追憶や幻想を呼び覚ます出発点
小澤盤の解説より
松と言えば、その独特の形状といい、気候的にもちょうどローマにあっているようで、ローマには沢山の松があり、日本と同様、特別視されています。
第1曲:ボルゲーゼ荘の松
有名なスペイン広場の近くにあります。松の木の周りで活発に遊びまわっている子供たちを描いた曲です。
第2曲:カタコンブ付近の松
カタコンブは古代ローマで迫害されていたキリスト教徒の地下墓地です。キリスト教徒たちはここを中心に布教活動を行い、今のカトリックの聖地ローマの基礎を作りました。
第3曲:ジャニコロの松
テヴェレ川の西の丘陵地帯で、ローマ市街への眺望が素晴らしい場所にあります。この昔からローマを見下ろし続けていたであろう松の満月の夜の情景を描いています。
第4曲:アッピア街道の松
アッピア街道から少し離れて立つ松の視点で、古代ローマ軍の壮大な行進を描きます。
おすすめの名盤レビュー
それでは、レスピーギ作曲交響詩『ローマの松』の名盤をレビューしていきましょう。
ムーティ=フィラデルフィア管弦楽団
リッカルド・ムーティの若いころの演奏です。手兵であったフィラデルフィア管との演奏の中でも特に名演の一つだと思います。
第1曲は非常に軽快で速いテンポで爽快です。フィラデルフィア管弦楽団のサウンドも色彩感に富んでいます。第2曲は低弦がかなり味わい深く、弱音の部分もムーティらしい秘めたエネルギーを感じます。古代ローマへのロマンをかき立たせる雰囲気満点で、トランペットソロも非常に上手いです。クレッシェンドはムーティらしく筋肉質でダイナミックです。この筋肉質なリズム感はローマの三部作とムーティの相性の良さを感じさせますね。
「ジャニコロの松」の少し重い空気感も独特です。クラリネットのソロはさすがフィラデルフィア管で、味わい深いですね。木管の上手さや弦の色彩感は特筆すべきものがあります。フィラデルフィア管はアメリカのオケですが、この時期はムーティの手兵でしたので、油絵のようにイタリア的な響きを上手く出しています。「アッピア街道の松」はムーティのダイナミックさが良く出た演奏です。ただダイナミックなだけではなく、フィラデルフィア管は細かいオーケストレーションをしっかり演奏しきっていて、聴きどころも多く充実しています。
全体にダイナミックでムード満点な名盤です。決して若さで押し切った演奏ではなく、このコンビのレヴェルの高さを感じさせます。レコード・アカデミー賞も受賞しています。
小澤征爾=ボストン交響楽団
『ローマの三部作』は小澤=ボストン交響楽団の名盤の一つです。特に良いのが「ローマの祭り」だと思いますが、これは別ページで紹介したいと思います。「ローマの松」もさわやかな名演です。ムーティ盤と違って油絵のようなテクスチャーはありません。あくまで透明感があります。
第1曲は実に軽快に爽快に演奏されています。第2曲はトランペットソロが繊細で上手いです。クレッシェンドの仕方もいい味わいを出しています。最高潮になっても弦楽セクションは透明感のある響きを保ち、ホルンも綺麗に入っています。この辺りが小澤征爾の上手さですね。
第3曲「ジャニコロの松」は、淡い透明感のある弦の上で、クラリネット・ソロが繊細に表現します。後半の複雑なオーケストレーションの個所も素晴らしい響きを聴かせてくれます。
第4曲「アッピア街道の松」は、ダイナミックにクレッシェンドし、熱く燃え上がるようです。金管も非常に上手く音程もきちんとあっています。これだけ急激に盛り上がっても透明感を失わないのは、小澤征爾の凄さでもあり、ボストン交響楽団の実力でもありますね。
このCDはバッティストーニと東京フィルの初共演のライヴ録音とのことです。最近のイタリアのオケを聴いていると、東京フィルのほうがパワーもあって上手く思えます。ちょっと金管のソロがまだ弱いですけれど。日本のオケで今活躍している管楽器のメンバーは、吹奏楽部でレスピーギをバリバリ吹いていた方々なので、レスピーギはイタリアの音楽というより、自分たちが演奏してきた音楽というイメージが強いと思います。
20代の天才指揮者バッティストーニは本番過熱し過ぎたのか、『ローマの祭り』では限界を少し超えたテンポにしてしまっていますが、『ローマの松』はライヴ録音なのに、そういったキズは無く、バッティストーニは完全に東京フィルを掌握し、ソロもとても上手いし、フレッシュな色彩感もあり、日本のオケであることを完全に忘れるレヴェルです。
『ローマの松』は既に世界レヴェルで最高級に属する演奏ですし、『ローマの祭り』をスタジオで再録音してくれれば、ローマの三部作の定番になるかも知れませんね。
バーンスタイン=ニューヨーク・フィル
最近、バーンスタインの古い録音が見直されてきていますが、このローマの三部作もその一環ですね。若いころのバーンスタインは重厚なニューヨーク・フィルハーモニックを軽快に鳴らしている所が凄いです。
第1曲は速いテンポで鮮やかな演奏を聴かせてくれます。第2曲は少し演奏精度が今一つですが、ニューヨークフィルからさわやかさのあるサウンドを引き出しています。クレッシェンドに入るとさすがニューヨークフィルで、凄いスケールです。
第3曲「ジャニコロの松」はとても良いです。さすがバーンスタインというべきか、この粘りのある響きはマーラーを思わせます。独特の味わいがあって、この演奏の中で一番の聴きどころです。こんな演奏ができるなんて、「ジャニコロの松」は面白い曲だと思います。これを聴くだけでも入手する価値があります。
第4曲「アッピア街道の松」は遅めのテンポで不穏な雰囲気はトスカニーニに通じる所もありますが、少し粘りがありバーンスタインならではの表現です。ニューヨーク・フィルハーモニックのパワーも凄いです。この時期の録音にしては、最強音まで綺麗に録音出来ていて、それも良いです。
実は『ローマの祭り』がとても面白く名演なので、別ページでレビューしますが、CD全体としては聴くべき内容がある名盤です。
デュトワ=モントリオール交響楽団
デュトワ=モントリオール交響楽団の透明感のある数々のCDの中でも最高級の名演が『ローマの三部作』です。
『ローマの松』はダイナミックな個所は特別なことはありませんが、綺麗に盛り上げています。それよりも弱音の個所は、驚くべき色彩感です。特に第2曲「カタコンブ付近の松」のトランペットソロは安定していて上手いですし、第3曲「ジャニコロの松」の各パートの響きは、非常に多彩でどのセクションを取ってもハイレヴェルです。
他の演奏で、力が入り過ぎる曲もデュトワはバランスよくまとめていて、他の名盤とは違います。スリルは若干少なめですが、クールな響きの中にロマンが感じられます。古代ローマを思い起こさせるような色彩的なサウンドが、非常に高いレヴェルで実現されています。この方向性では今でもデュトワ盤を超える演奏は無いと思います。
トスカニーニ=NBC交響楽団
『ローマの祭り』の初演者であるトスカニーニの演奏です。『ローマの松』はトスカニーニの映像もあります。トスカニーニは実はレパートリーの非常に広い指揮者で、古典派から近代音楽、アメリカ音楽まで録音を残していて、特にグローフェ『グランドキャニオン』やガーシュイン『パリのアメリカ人』など、当時のアメリカ音楽も名演だったりします。当然、同じイタリア人レスピーギの『ローマの三部作』は名演奏を残しています。古い演奏なので歴史的名演ですが、これを聴くとトスカニーニは複雑な『ローマの松』の演奏スタイルを既に確立していることが分かります。後世の演奏家は、基本的にトスカニーニの敷いたレールの上で、個性を発揮しているのですね。
第1曲は目の覚めるような溌剌とした音楽で始まります。第2曲「カタコンブ付近の松」は前半の古代への憧憬のような雰囲気といい、クレッシェンドの激しさと言い、もっと新しい録音だったら『ローマの松』を代表する名盤になっていただろうと思います。
第3曲「ジャニコロの松」は、ピアノとクラリネットのバランスが良く、NBC交響楽団から味わいのある音色を引き出しています。後半の素晴らしいオーケストレーションの部分も昔の録音なのに、きちんと色彩感が伝わってきます。
第4曲「アッピア街道の松」は、その不穏な足音が弱音の段階から他の演奏と違い、凄みを感じさせます。トスカニーニらしい力強いステップで行進するローマ軍をダイナミックに描ききっています。
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楽譜・スコア
レスピーギ作曲の交響詩『ローマの松』の楽譜・スコアを挙げていきます。