オットリーノ・レスピーギ (Ottorino Respighi,1879-1936)作曲のリュートのための古代舞曲とアリア (Ancient Airs and Dances for Lute)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。最後に楽譜・スコアも挙げてあります。
一番人気なのは、第3組曲のシチリアーナだと思います。曲名の通り、シチリアの海を思わせる舞曲で、6/8の波に揺られるような音楽です。他にも第3組曲は有名な曲が多く、弦楽5部編成であるため、弦楽アンサンブルでとても人気の曲となっています。
解説
レスピーギのリュートのための古代舞曲とアリアについて解説します。
ルネサンス、バロック音楽との出会い
レスピーギは1913年にローマの聖チェチェーリア音楽院の作曲科の教授になりました。そして1924年には同音楽院の院長に就任しています。
その間、レスピーギは音楽院の図書館で、過去の様々な音楽を研究しています。レスピーギの時代から考えれば、イタリアの音楽のピークはルネサンス~バロック期で、その時期、まさにイタリア音楽の黄金時代でした。モンテヴェルディ、ヴィヴァルディはベネツィアで活躍しました。コレルリは合奏協奏曲の形式を作りました。イタリアから他の多くの地域に最先端の音楽が広まっていたのです。フランスバロックの隆盛を促したのも、イタリア人のリュリですし、ドイツにも多くの影響を与えています。
しかし、その後、ロココ以降になると主流はドイツになり、オペラはイタリアも盛んでしたが、特に器楽曲はドイツや、その後ロマン派になるとフランスなども加わって隆盛を極めます。イタリアは特にオーケストラにはあまり積極的ではなく、ロッシーニやヴェルディの時代までオペラが中心でした。
そんなこともあり、レスピーギは過去の音楽を研究していき、ルネサンス時代~バロック前期のイタリア音楽に着目しました。ルネサンス時代と言えば、まだ和声法は無く、対位法が最先端であった時代です。カトリック教会の教会旋法を用いたグレゴリオ聖歌なども研究しました。
ルネサンス~バロック音楽の影響
そしてレスピーギは、その研究の成果を使った作品をいくつか書いています。例えば交響的印象「教会のステンドグラス」、組曲『鳥』、グレゴリオ聖歌風協奏曲、などです。これらの作品には教会旋法が利用されています。ブラームスの交響曲第4番にフリギア旋法が使用されていることは有名ですが、これに似た形でレスピーギの時代の作曲技法の中に、古典的な技法を取り入れたのです。
そのため、聴いていても過度に古風ではないですし、新古典主義の中心であるストラヴィンスキーやヒンデミットほど、革新的でもありません。聴きやすく分かり易い作品が多く、特に教会旋法の知識が無くても、違和感なく楽しんで聴ける音楽が多いです。
過去の作品のオーケストレーション
本作品『リュートのための古代舞曲とアリア』は、古い舞曲やアリアをそのままオーケストラや弦楽アンサンブルに編曲した形です。もちろん、かなり編曲された跡はありますが、 各曲は色々な作曲家の作品を用いており、作曲家の名前も分かります。
組曲ですが、第1組曲~第3組曲まであり、それぞれ編成が異なります。
第1組曲は、
第2組曲はチェンバロが入り、少しユニークな曲が多く、特にリズムが面白いです。実際、引用されていませんが、バロック前期の有名な作曲家の一人であるフレスコバルディ(1583-1643)は、和声法が完全に確立する前ですが、思い切った和声進行でユニークな名曲を沢山作曲しています。リズムもとても面白いです。残念ながらフレスコバルディは入っていませんが、似た曲が入っていて、バロック好きにはたまらない組曲です。
第3組曲は既に書きましたが、弦楽アンサンブルのために書かれており、弦楽アンサンブル団体により良く演奏されます。演奏しやすい編成といえます。
おすすめの名盤レビュー
それでは、レスピーギ作曲リュートのための古代舞曲とアリアの名盤をレビューしていきましょう。
ロペス=コボスとローザンヌ室内管弦楽団のCDは、この曲の理想的な演奏です。録音も新し目で、バロック調の演奏スタイルも取り入れられています。
第1組曲、第2組曲、第3組曲まで全て収録されており、いずれの曲も小編成の良さを活かしてバロック風にまとめています。ロペス=コボスもローザンヌ室内管弦楽団も特にピリオド奏法が得意な演奏者、という訳ではありませんが、リズムも響きもコンパクトにまとまっていて、スペイン人のロペス=コボスのエキゾチックさは、古風な世界へのエキゾチックさにつながっています。特にリズム感が良く、ヘミオラなどバロック期によく使用されたリズミカルな音楽をセンス良く再現しています。
レスピーギは新古典主義風ですが、バロック楽器で演奏するには新しすぎ、古楽器オケのレパートリーに入っていないので、面白い曲なのになかなか良い演奏を聴く機会がありません。ピリオド奏法風なヴィブラートを抑えたこのディスクは、おそらく現在入手できる最も良いCDですね。
シモーネ=イ・ソリスティ・ヴェネティ(第1組曲,第3組曲)
シモーネとイ・ソリスティ・ヴェネティは、モダン楽器の小編成アンサンブルですが、バロック期の大作曲家であるヴィヴァルディを得意としています。フルート協奏曲のCDもリリースしています。比較的小編成のアンサンブルですが、古楽器奏法やピリオド奏法ではなく、シモーネは長い指揮棒を持って指揮していますし、少しヴィヴラートもかかっています。
ただ、やはりイタリアのバロックを経験が豊富なので、この『リュートのための古代舞曲とアリア』には最適な演奏家です。このCDも小編成ならではのバロック的でさわやかな演奏となっています。
第1組曲と第3組曲が収録されており、第2組曲が収録されていないのが少し残念です。第2組曲はチェンバロが必要なので、少し編成が大きいですから事情は分からないではありませんけれど。有名な曲は第3組曲に集中しているので、有名なメロディを聴きたい方はこのCDで問題ないと思います。
カップリングでは『ボッティチェリの3枚の絵』が良いと思います。組曲『鳥』も新古典主義的で聴きやすい音楽です。
ドラティ=フィルハーモニア・フンガリカの1958年の録音です。まず、1958年とは思えない音質の良さに驚かされます。
ドラティは余程この曲を気に入っていたのか、かなりセンス良くじっくり丁寧に演奏しており、最近のバロック風の演奏よりも、味わいが濃く、楽しめる演奏だと思います。リズムの処理もバロック風で小気味良く、当時はバロック奏法はありませんでしたから、ドラティのセンスが良いとしか、書きようが無いですね。
しかも、1958年に第1組曲~第3組曲まで全曲録音しているという力の入れようです。この曲のファンの方は、聴いてみることをお薦めします。
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楽譜・スコア
レスピーギ作曲のリュートのための古代舞曲とアリアの楽譜・スコアを挙げていきます。