ヴォカリーズ(Vocalise)は、セルゲイ・ラフマニノフ (Sergei Rachmaninov, 1873~1943) の作品の中でも特に有名な楽曲です。ヴォーカルにピアノ伴奏、ラフマニノフ自身の編曲によるオーケストラ版を始め、ほぼ無数のヴァージョンが存在します。凄い人気ですね。無言歌ですので、ヴァイオリン、フルート、サックスなどにも編曲されています。
ここでは、主にオーケストラ版のCDについて聴き比べてレビューしていきます。プレヴィン、ヤンソンス、スラトキン、他、オーケストラ版に限っても結構あるものですね。もともと良さそうな演奏を探していますので、ランキング下位でも十分素晴らしい演奏だと思います。
お薦めコンサート
🎵下野竜也(指揮)NHK交響楽団
■2023/5/13(土)18:00 開演 ( 17:00 開場 ) 会場:NHKホール (東京都)
■2023/5/14(日)14:00 開演 ( 13:00 開場 ) 会場:NHKホール (東京都)
ラフマニノフ/歌曲集 作品34 ―「ラザロのよみがえり」(下野竜也編)、「ヴォカリーズ」
グバイドゥーリナ/オッフェルトリウム* [独奏・独唱]バイバ・スクリデ(vl)
ドヴォルザーク/交響曲 第7番 ニ短調 作品70
解説
ラフマニノフ作曲の『ヴォカリーズ』について、まず解説します。
ヴォカリーズはどんな曲
ラフマニノフの『ヴォカリーズ』といえば、聴いて知らない人はほぼいないでしょう。
『ヴォカリーズ』作品32-14は、1912年に完成した「13の歌曲集」作品34に追加する形で作曲されました。したがって「14の歌曲集」(14 Romances)作品34-14ということになります。1916年にモスクワで初演されました。アントニーナ・ネジダーノヴァのソプラノ、ラフマニノフ自身のピアノ伴奏によるものでした。この初演は成功を収めました。その後、ラフマニノフ自身の手によりオーケストラ版に編曲されました。
ちょっと甘ったるい音楽なので、好みは分かれそうですが、私はただ甘美なだけではなく、いろんな表現がある演奏が良いと思います。
やはりナタリー・デセイのように女性歌手が歌う無言歌というのが一番合う気がしますね。もちろん、ナタリー・デセイの歌唱力あってのことですけれど。
今回はオーケストラ版を中心にオーケストラが入った編曲についてレビューしたいと思います。このようなシンプルでロマンティックな曲ですが、いろんな演奏があるものだなと感心させられます。
オーケストラ版のみのバージョンの多くはラフマニノフ自身の編曲によるもので、ヴァイオリンがメロディを演奏します。これは結構いろいろな演奏があって、甘美なものや純潔さを感じるものなど、いろいろです。やはり、弦セクションを使った歌わせ方には指揮者によるところが大きいですね。上のYouTubeのスラトキンは、甘美になりすぎず真摯に演奏していると思います。ちょっとナクソスのCDではデトロイト交響楽団がいまいちだったかも知れません。
「ヴォカリーズ」の名盤ランキング
『ヴォカリーズ』のオーケストラ版(管弦楽版)で、レビューしていきたいと思います!
マゼール=ベルリンフィルの録音です。マゼールはラフマニノフの交響曲全集を録音していて、実はラフマニノフは得意なのです。
テンポは少し速めで、非常に美しい演奏です。マゼールは清潔というか純潔というか、色でいえば白かなと思います。特にメロディのヴァイオリンは線が細い歌い方から始まって、盛り上がるとベルリンフィルらしいスケール感も出てきます。いろいろな表現があり、語彙(ごい)が豊富で全く飽きない名演です。
プレヴィンとロンドン交響楽団の録音です。プレヴィンは今聴くと甘美すぎるような気もしますしね。ただ、プレヴィンは昔からラフマニノフの人気を高めてきた定番の演奏です。
プレヴィンはロマンティックな曲を非常に上手く演奏しています。特にヴァイオリンのメロディはとても甘美でまるで歌手が歌っているかのような息遣いです。好みは分かれそうですが、映画などにもそのまま使えそうな名演奏です。
ヤンソンスとサンクトペテルブルク・フィルの録音です。ヤンソンスはゆっくりなテンポで入りますが、テンポを自在に動かして過度にロマンティックになることを避けつつ、ラフマニノフらしいサウンドを目指しているように聴こえます。ルバートの仕方が上手いこともありますし、オーケストラもセンスの良い演奏をしていて、弦楽器の色彩感は他の演奏では聴けないものです。音質も良く、落ち着いて浸ることが出来る演奏です。
スラトキンとデトロイト交響楽団の録音です。ナクソスレーベルなので、スラトキンとデトロイト交響楽団なら、かなりゴージャスな組み合わせです。レヴェルの高い演奏をしていますが、普通に聴いて楽しめるという、まあ普通の演奏ですね。スラトキンは確かに職人肌の指揮者なのですが、この組み合わせならもっとハイレヴェルな演奏が望めそうです。録音のせいもあるかも知れません。このディスクに関してはそんな感じです。
イヴァン・フィッシャーは近年素晴らしい演奏をするようになりました。とはいえラフマニノフは意外ですね。ブダペスト祝祭管弦楽団は名前の通り祝祭のためのオーケストラですが、昔から多くの録音を残しています。弦セクションの音に広がりがあり、独特の美しさです。自然な表現で大きなルバートがかかるようなこともありません。それでも聴いていて飽きさせない音色ですね。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
本当はテミルカーノフやカラヤンの演奏も探していたのですが、テミルカーノフは歌唱付きで、カラヤンはありませんでした。カラヤン=ベルリンフィルがやったらどんな演奏になったのか、録音が無いのは残念ですね。テミルカーノフはラフマニノフが得意なのですが、古めのディスクもあったのですが、ザンデルリンク編曲とあり、テンポが妙に遅くて何とも言えない演奏でした。
あとは、オーマンディ、ストコフスキー、ラフマニノフ自作自演などがありますが、録音が古いのでランキングに入れませんでした。ラフマニノフ自作自演は意外にテンポが速めで甘美すぎない名演奏でしたので、参考になると思いました。
「ヴォカリーズ」番外編
オーケストラ版でランキングしたので、歌唱が入っている演奏はこちらに分けました。
ソプラノ:ナタリー・デセイ,シェーンヴァント=ベルリン交響楽団
ナタリー・デセイの凄い歌唱が楽しめるディスクです。割と細めの体格だと思うのですが、すごい声量です。それに加えて、表現のヴォキャブラリーがとても豊富で、聴いていて圧倒されてしまいます。
ソプラノ:スザンヌ・マーフィー,ネーメ・ヤルヴィ=スコティッシュ・ナショナル管弦楽団
ソプラノのスザンヌ・マーフィーが兎に角素晴らしい歌唱を繰り広げています。録音会場の響きの長さもありますが、まるで広い野原で歌っているように響き渡っています。少し控えめな表現がかえって良い方向に出ていて、派手さはありませんが、聴いていて気分の良い演奏です。オーケストラは伴奏に徹していますが、ネーメ・ヤルヴィは結構テンポを動かして平板にならないようにしています。
カウンターテノールとオーケストラ伴奏です。カウンターテノールは最初はアルトかと思ってしまいました。オーケストラ伴奏もロシア的な味があってとても良い演奏です。新しい録音で音質も良いです。
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楽譜・スコア
ラフマニノフ作曲のヴォカリーズの楽譜・スコアを挙げていきます。
ミニチュアスコア
No.297 ラフマニノフ ヴォカリーズ (Kleine Partitur)
レビュー数:5個の評価
この日本楽譜出版のスコアには、(1) 複数のヴァイオリンソロと管弦楽編、(2)管弦楽伴奏による独唱編、(3)ピアノ伴奏による独唱編(イ短調)の3種類のヴァージョンが収録されています。なお、原調の嬰ハ短調のバージョンは収録されていません。
[参考]レビューを参考にさせていただきまいた。
大判スコア
ヴォーカル、ピアノ伴奏
ラフマニノフ: ヴォカリーズ Op.34/14/高声用(嬰ハ短調)/ブージー & ホークス社
レビュー数:1個の評価