
セルゲイ・ラフマニノフ (Sergei Rachmaninov,1873-1943)作曲の交響的舞曲 Op.45 (symphonic dances Op.45)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。最後に楽譜・スコアも挙げてあります。
解説
ラフマニノフの交響的舞曲 Op.45について解説します。
ラフマニノフ最後の作品
交響的舞曲(シンフォニック・ダンス)は、ラフマニノフの最後の作品です。ロシア的なロマンティシズムでピアノ協奏曲第2番などで有名なラフマニノフですが、交響曲は3曲残しています。
交響曲なのか?舞曲なのか?
交響的舞曲は、一応舞曲となっていますが、舞曲風なモチーフで最後まで曲を統一しており、3楽章構成ですが交響曲に近い性格を持っています。筆者は交響曲だと考えています。
最後の曲だけあって、引き締まった無駄のない構成を持っています。これまで交響曲第2番など、名曲なのですが、少し冗長な印象がありました。交響的舞曲では、そういった冗長さはありません。
スピーディな舞曲がモチーフ
とはいえ、ピアノ協奏曲や交響曲第2番と比べると、ロマンティックさはそこまではなく、ラフマニノフとしては、ちょっと淡白な雰囲気でしょうか。
しかし、このスピーディな舞曲はいつ聴いてもかっこ良いし、気分が爽快になります。これもラフマニノフの一つの特徴ですね。晩年の曲なので、冗長さがなく、完成度が高い所が、スピード感を生み出すもう一つの要因でしょう。
おすすめの名盤レビュー
『交響的舞曲』のおすすめできる名盤をレビューしていきます。
テミルカーノフ=サンクト・ペテルブルグ・フィル
ユーリ・テミルカーノフは、民族色の濃いロシア音楽を非常にスマートにまとめる異色の才能を持った指揮者です。テミルカーノフの手にかかれば、このラフマニノフの傑作は本領を発揮し、民族性とスピード感のギリギリのバランスを保ち、野暮になることもなく、民族的なエキゾチズムを備えた名演になります。民族的でありながら、スマートという絶妙な演奏になりますね。
もちろん、サンクト・ペテルブルグフィルのスピード感あふれる弦楽セクションも大きく貢献しています。この組み合わせだからこそ成しえる演奏といえると思います。一見、シンプルに見える交響的舞曲ですが、このコンビはロシア的な雰囲気たっぷりの味わい深い演奏を展開しています。第2楽章はこの楽章の静謐な中にも奥の深い所を上手く抉り出しています。こんな味わい深い演奏はなかなか聴けません。ワルツでのオケのロシア的な色彩感も格別です。第3楽章の終盤のスリリングさは他の演奏では味わえないレヴェルで、テミルカーノフのセンスとサンクト・ペテルブルグフィルの機能性が最大限発揮されています。
新しめの録音で音質も良く、コクがあってキレの良い音楽を存分に楽しめます。
ラトル=ベルリン・フィル
ラトルとベルリン・フィルの演奏を聴くと、いままで私が聴いてきた交響的舞曲や後期のラフマニノフはなんだったんだろう?と思ってしまいます。
民族的、という観点からすると、ラフマニノフというよりボロディンを聴いているような感じで、そこはちょっと今一つです。スピーディという点も、却ってテンポが速すぎて、テミルカーノフのようなかっこよさは出ていません。
この演奏のどこが面白いかといえば、ラトルとしては珍しく感情的に重さが前面に出ている所です。ラフマニノフが巧妙に仕込んだ奥の深い所を分かりやすく強調しているように聴こえます。この演奏を聴くと、「なるほど最後の作品なんだな」ということが分かります。ちょっと分かりやす過ぎるきらいがありますけれど、納得のいく解釈だし、この曲への見方が変わるのではないかと思います。
プレヴィン=ロンドン交響楽団
プレヴィンとロンドン交響楽団の演奏は昔から定番として親しまれてきた名盤です。ただ、近年名演奏が目白押しで、ちょっと存在感が薄れてきたかも知れませんね。
今聴いても悪い演奏ではなく、スタンダードとして十分通用する演奏だと思います。少し重いところが多いことと、丁寧ですがスピード感に欠ける所があり、この演奏だけだと交響的舞曲のスリリングさに気づかないかも知れません。
まずはロシア勢の演奏を聴いてみて、それからプレヴィンを聴いてみるといろいろ発見があると思います。
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テミルカーノフ=サンクト・ペテルブルク・フィル
テミルカーノフとサンクトペテルブルク・フィルの映像です。交響的舞曲は映像が少ないので貴重ですし、この曲の一番の理解者と言えるテミルカーノフの指揮であることが、さらに貴重です。新しい映像でBlu-Rayなので、画像・音質ともに非常に良いです。
第1楽章から颯爽としたリズム、コクのある音色で楽しめます。テミルカーノフの円熟した指揮で、遅いテンポで味わいがあり、ツボをしっかり突いてくる演奏です。第2楽章の指揮ぶりを観ると、やはり余程得意曲なんだな、と感心します。サンクトペテルブルク・フィルもテミルカーノフの指揮に自然に反応して、深みのある音楽を作っていきます。第3楽章は厚みのある弦セクションが魅力的です。ラフマニノフの書いた和声がとても効果的に演奏されています。最後に速くなると爽快なリズムで、サンクトペテルブルク・フィルの機能全開で、きわめてスリリングです。聴いていてこんなに胸が躍る演奏は他には無いと思います。
カップリングも良く、このコンビが得意とする『シェエラザード』とラフマニノフのピアノ協奏曲第2番です。
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楽譜・スコア
ラフマニノフ作曲の交響的舞曲 Op.45の楽譜・スコアを挙げていきます。
ミニチュア・スコア
No.386 ラフマニノフ/交響的舞曲 Op.45 (Kleine Partitur)
4.6/5.0レビュー数:3個