セルゲイ・ラフマニノフ (Sergei Rachmaninov,1873-1943)作曲の交響曲 第2番 ホ短調 Op.27 (Symphony No.2 e-moll Op.27)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。
お薦めコンサート
🎵山田和樹(指揮)バーミンガム市交響楽団
■2023/6/30(金) サントリーホール
ブラームス(ヴァイオリン協奏曲ニ長調)[独奏・独唱]樫本大進(vl)
ラフマニノフ(交響曲第2番ホ短調)
解説
ラフマニノフの交響曲第2番について解説します。
セルゲイ・ラフマニノフの交響曲第2番は1906年10月から1907年4月にかけて作曲され、初演で大成功を収めた交響曲です。ロマンティックなメロディに溢れており、ドラマのBGMやCMにも使用されています。
交響曲第2番の作曲まで
ラフマニノフは1895年に力を入れて作曲した交響曲第1番 ニ短調 Op.13の初演が大失敗に終わります。演奏直後から会場は騒然となり、罵詈雑言が飛び交うほどでした。ロシア5人組の一人のツェーザリ・キュイは新聞で酷評しました。
ただ、この初演は指揮をしたグラズノフによる作品の無理解にもあったようです。いずれにせよ、ラフマニノフはこの失敗に大きな精神的な苦痛を負いました。
1901年にピアノ協奏曲第2番で大成功を収めましたが、それまでの間、作曲がほとんど出来なくなるなど、精神的なダメージを負いました。その後、1904年になって交響曲第1番もグリンカ賞を獲得し、さらにラフマニノフは自信を取り戻ります。
ドレスデンとイワノフカ村で作曲
その後、結婚して娘を授かり、交響曲第2番は、公私ともに充実していた時期に作曲されました。政治情勢の不安から逃れるため、家族でドレスデンに移り、夏の間だけ妻の実家の別荘のあるイワノフカ村で過ごしますが、その時に作曲されています。イワノフカのラフマニノフの別荘は今、ラフマニノフ博物館(ラフマニノフの家)になっています。
イワノフカ村はまさに田舎なのですが、モスクワから550kmも東方にあり、モンゴル共和国より東で、満州に近く、モスクワより日本に近いという、おいそれとは行けない場所にあります。1906年と言えば日露戦争でロシアが負けた翌年で、その後、ソヴィエトが出来るまでの10年程度はむしろ日本とロシアの関係は良好だったようです。
現在はラフマニノフの別荘がある、ということだけで、世界中から特に日本から観光客が訪れる場所になっています。空路モスクワに入り、次に550km南東のタンボフに向かいます。イワノフカ村にはホテルはないので、タンボフに宿泊し、タクシーなどでイワノフカ村に入ります。他に名所はないので世界のラフマニノフ好きが集まる村ですね。きっと自然を満喫できると思いますけれど。
初演の大成功
初演は1908年1月26日に、ペテルブルクのマリインスキー劇場にて作曲者ラフマニノフ自身の指揮により行われ、大成功をおさめます。ラフマニノフは2度目のグリンカ賞を受賞しました。恩師のセルゲイ・タネーエフ(1856年-1915年)に献呈されています。
冗長な交響曲?短縮版の誕生
ドレスデンで作曲され、その時から親交のあった指揮者アルトゥール・ニキシュ(1855年-1922年)も演奏するなど、世界的に演奏されて行きます。しかし交響曲第2番は冗長である、ということで、指揮者がカットを施して演奏されることがありました。ラフマニノフ自身も改訂し短縮版が作曲されました。それ以後、しばらくの間、短縮版を使用して演奏することが一般的になってしまいます。1946年のレオポルド・ストコフスキーとハリウッド・ボウル交響楽団の録音は全曲版を使っていますが、一部カットがあります。
指揮者のアンドレ・プレヴィンはソビエトでの公演でこの曲(短縮版)を演奏した際に、エフゲニー・ムラヴィンスキーから全曲版の存在を教えられ、それを使用するように薦められました。それをきっかけにプレヴィンは全曲版を演奏するようになり、1973年に録音も行われました。現在では全曲版の演奏が主流になっています。カットなしで全曲を演奏した場合、60分になりますが、完全全曲版と呼ばれています。
曲の構成
4楽章形式の交響曲です。緩ー急ー緩ー急という、バロック時代の教会ソナタを思わせる構成です。ブルックナーも良く使っていた構成ですね。ラフマニノフの交響曲第2番は色々な要素が詰まった交響曲なので、形式などはあまり意識しなくても良い気がします。
第1楽章:ラルゴーアレグロ・モデラート
序奏付きのソナタ形式です。
第2楽章:アレグロ・モルト
3部形式のスケルツォです。2/2拍子で行進曲風のスケルツォです。
第3楽章:アダージョ
3部形式の緩徐楽章です。冒頭、弦の主題はとても有名です。曲が進むにつれ、深みが増していき、味わい深い楽章です。
第4楽章:アレグロ・ヴィヴァーチェ
ソナタ形式です。溌溂としたこれも有名な主題で始まります。後半は下降音型と共にとてもスリリングに、圧倒的に盛り上がります。
フルート×3(3rdはピッコロ持替)、オーボエ×3(3rdはイングリッシュホルン持替)
クラリネット×2、バスクラリネット、ファゴット×2
ホルン×4、トランペット×3、トロンボーン×3、チューバ
ティンパニ、シンバル、大太鼓、小太鼓、グロッケンシュピール
弦5部
おすすめの名盤レビュー
それでは、ラフマニノフ作曲交響曲第2番の名盤をレビューしていきましょう。
ラトル=ロンドン交響楽団
サイモン・ラトルとロンドン交響楽団の録音です。新しい録音で非常に高音質です。
第1楽章はラトルのテンポ取りが良く、甘美すぎることもなく、シンフォニックな響きで進んでいきます。ですが、その中にロマンティックな要素もあって、楽しめる演奏です。録音が良いので、様々な楽器の音色が混濁せずに聴こえてきます。途中のヴァイオリン・ソロやクラリネットを目立たせたり、とラトルも上手くバランスを取っています。ロンドン響も調子が良いのか、ラトルの意図を良くくみ取って小気味良く音化しています。盛り上がってくると金管が咆哮し、スケール大きくダイナミックです。第2楽章は速いテンポでキビキビとした演奏です。弦の息の長い主題は、細かい表情がついています。中間部もとてもスリリングです。少しテンポを落としてトランペットのメロディが入ります。
第3楽章は冒頭の弦の有名な主題がシンフォニックです。爽やかに聴けます。ロマンティックですが、あまり濃厚な甘美さを前面に押し出していないので、自然に聴ける演奏です。曲が進んでいくと、情感が深まり、味わい深くなっていきます。第4楽章は溌溂にリズミカルに始まります。弦の主題もリズム感を失いません。下降音型が出てくるあたりから、どんどんスリリングさが増していき爽快です。
ラトルが好調でインスピレーションを発揮し、ロンドン響もシンフォニックで洗練されたサウンドで応えている名演です。
プレヴィン=ロンドン交響楽団
プレヴィンとロンドン交響楽団の録音です。アンドレ・プレヴィンは全曲版を復活させ録音した、ラフ2演奏の立役者です。1970年代のアナログ録音で、しっかりした音質です。
第1楽章は静かな中、ヴァイオリンやチェロのメロディには甘美さがあり、時に憂鬱さを伴うなど、様々に変幻していきます。そして色々なパートが絡みつつ、色彩的な頂点を迎えます。雪がしんしんと降っているかのようなロシアへのエキゾチズムと甘美さに溢れています。それにしても、この辺りの色彩的なオーケストレーションを上手くまとめるプレヴィンの手腕にとても感心します。ロシア的なダイナミックな所もロシアの指揮者と違い、洗練された演奏になっています。第2楽章は少し遅めですが、メリハリのあるダイナミックな演奏で、非常に色彩的です。弦の音色にも色彩感があります。中間部のフォルテで始まる個所は、テンポを速めダイナミックでスリリングです。有名なトランペットのメロディが絶妙なテンポで聴けます。
第3楽章は冒頭の有名なメロディから色彩感が溢れていて、滑らかに歌っていきます。クラのソロも甘美で抑揚のつけ方も絶妙です。スコアの読みが深く、長い楽章でも間延びすることなく、細かい陰影をつけて情熱を増していき、曲に引き込まれます。第4楽章は速いテンポで明るく始まります。色彩感に溢れると共に洗練されたダイナミックさです。弦の息の長い主題は軽妙に甘美さをもって表現されています。後半はラストに向かってスリリングに盛り上がっていきますが、トゥッティになってもサウンドは洗練されています。
まさにロマンティックかつ甘美で、ドラマやCMで聴いたメロディを原曲で聴きたい、という方に特にお薦めの名盤です。
ゲルギエフ=ロンドン交響楽団
ゲルギエフとロンドン響のラフマニノフ全集から第2番です。それにしても、ロンドン交響楽団はラフ2の名演が多いですね。2008年録音で音質は良く、小気味良く収録されています。
第1楽章は繊細でロシア的な土の香りを感じます。弦の美しい音色が印象的で、木管は幻想的です。盛り上がる場面ではロシア的なダイナミックさがあります。第2楽章は速いテンポで小気味良く始まります。弦の主題はテンポを落とし滑らかに歌っています。中間部はキビキビとしたテンポでスリリングです。ホルンはロシア的な土の香りを感じます。トランペットの有名なメロディはこのページの演奏の中でも一番良いですね。
第3楽章は冒頭の弦の主題は、自然な甘美さで瑞々しく演奏されています。有名なメロディでも押しつけがましくないのは好感が持てます。そして、奥ゆかしさを持ちつつ、情熱的に盛り上がっていきます。弦の音色の艶やかさが良いですね。後半は爽やかさをもってスケール大きく盛り上がっていきます。第4楽章は速めのテンポでリズミカルに始まります。弦のメロディに入るとテンポを落とし、じっくり聴かせてくれます。後半は小気味良くスリリングに盛り上がっていきます。
ゲルギエフは自然体でラフマニノフを演奏していて、レヴェルの高い全集です。ラフマニノフの交響曲全集は色々ありますが、演奏のセンスと高音質が素晴らしい名盤です。
ロジェストヴェンスキー=ロンドン交響楽団
ロシアの大指揮者ゲンナジー・ロジェストヴェンスキーとロンドン交響楽団の録音です。非常にスケールが大きく、懐の深さを感じさせる名演です。ロジェストヴェンスキーの録音の中でもとりわけ世評の高い一枚です。録音は安定しています。
第1楽章の冒頭からスケール大きく、どこまでも盛り上がっていきます。このスケールの盛り上げ方はとても良く計算してありますね。ロマンティックなメロディも甘美すぎず、ロシア的なダイナミックさも伴い、とてもボキャブラリーが豊富です。最高潮に達すると、パーカッションと金管を容赦なく咆哮(ほうこう)させ、ロシアのオケのようです。第2楽章は少し遅めのテンポで、しっかりしたリズムと弦の響きの厚みがあります。広々とした草原を思い起こさせる演奏です。スネヤとトランペットが入る所も遅めで、強弱の差が大きく、フォルテでの思い切りの良いダイナミックさ爽快です。弦の息の長いメロディは、懐が深い指揮のもと、とてもスケール大きく演奏されています。
第3楽章の有名なメロディもとてもスケールが大きく、ロシア的なロマンティックさを感じさせる演奏です。ゆっくりと時間をかけて、自然体で演奏していき、ケレン味は感じられません。むしろ真摯で感動的な演奏です。曲が進んでいくと、深く掘り下げていき味わいが増していきます。
第4楽章は速いテンポで溌剌と始まります。そして、静かになるとまたスケールの大きさが戻ってきます。テンポが速い所はロシアらしくキビキビとした演奏していき、そのままスケール感を持ってダイナミックに盛り上がります。金管もパーカッションも遠慮なくダイナミックです。
全体的に遅めのテンポで、特に第3楽章はスケール大きくじっくりと演奏しており、ラフ2にどっぷり漬かって聴きたい方には特にお薦めです。
テミルカーノフ=サンクトペテルブルク・フィル
ロシアの大指揮者テミルカーノフとサンクトペテルブルク・フィルの録音です。テミルカーノフはラフマニノフを得意としており、あまりロマンティックな方向に行かず、さりげない感情表現でセンスの良さが光ります。
第1楽章はしっかりした低弦から始まり、高弦のメロディはロマンティックですがコクのある表現です。品格を保ったままロマンティックに弦を歌わせ、滑らかさと鋭さもあります。これで十分甘美さを表現できているし、ラフマニノフが得意なテミルカーノフらしい演奏です。盛り上がってくるとテンポを速め、激しく盛り上がり、とてもリズミカルでスリリングです。第2楽章はシャープな速めのテンポで溌剌としています。テミルカーノフらしいスリリングな軽快さで、心地よく聴けます。トランペットの有名なメロディも絶妙なテンポ取りで堪能させてくれます。
第3楽章の弦のメロディはロマンティックですが、奥ゆかしさがあります。クラリネットもじっくりと歌い込みます。曲が進むにつれ、情熱的に盛り上がる場面もありますが、奥の深い表現になっていきます。常に格調の高さがあって爽やかです。最高潮に達した時は、レニングラード・フィルの密度のあるトゥッティが聴け、凄い解放感です。
第4楽章は速いテンポで熱狂的に盛り上がります。弦の主題はテンポを絶妙に動かして、ロマンティックです。後半は段々とテンポを速め、スリリングに熱狂的になっていきます。弦の息の長い主題は解放感があり、スリリングさを失わない絶妙な手綱さばきで、爽快に曲を締めます。
テミルカーノフとサンクトペテルブルグ・フィルの録音は、甘美になり過ぎず、表現の物足りなさもなく、自然な表現で、本当の意味でスタンダードな名盤と言えると思います。本物のラフマニノフを聴いた、という充実感があります。
CD,MP3をさらに探す
演奏の映像(DVD,Blu-Ray,他)
いくつか映像がリリースされているため、ご紹介します。
ラトル=ベルリン・フィル
ラフ2を得意とするサイモン・ラトルの演奏の映像です。オケは当時の手兵だったベルリン・フィルです。カップリングはシャブリエの狂詩曲スペインとアランフェス協奏曲です。
DVD,Blu-Rayをさらに探す
楽譜・スコア
ラフマニノフ作曲の交響曲第2番の楽譜・スコアを挙げていきます。
大型スコア
電子スコア
タブレット端末等で閲覧する場合は、画面サイズや解像度の問題で読みにくい場合があります。購入前に「無料サンプル」でご確認ください。