
セルゲイ・プロコフィエフ (Sergeevich Prokofiev, 1891~1953) のピアノ協奏曲第3番 ハ長調 作品26について、解説の後、おすすめの名盤をレビューしていきたいと思います。ピアノ協奏曲第3番は楽しくスリリングで人気のある曲で、プロコフィエフを聴いたことがない方にもお薦めです。
解説
プロコフィエフのピアノ協奏曲第3番について解説します。
人気の高いピアノ協奏曲
セルゲイ・プロコフィエフ (1891~1953)は、先輩のラフマニノフやスクリャービンと同様、ピアノの名手として知られていました。全部で5曲のピアノ協奏曲を作曲しています。ピアノ協奏曲第1番と第2番はペテルブルグ音楽院在学中に書かれた先鋭的な作品です。第4番はラヴェルも作曲した「左手のための協奏曲」です。
5曲の中でもプロコフィエフの「ピアノ協奏曲第3番」ハ長調 作品26は、プロコフィエフの協奏曲の中でも一番人気があり親しまれている曲です。
次にピアノ協奏曲第2番も良く演奏されます。男性からも女性からも人気があり、特に女性からの人気は高いように思います。同じプロコフィエフのヴァイオリン協奏曲なんて、少しユニークな曲の部類に入るように思うのですが、抵抗は割と少ないようですね。
プロコフィエフは個性的な作曲家で、現代的な技法もそこそこ使っているので、ちょっと分かりにくいかなと思いきや、結構人気があるのです。(苦手な人もいるようですけど)
このピアノ協奏曲第3番もユニークな曲ですが、非常に技巧的で華麗なテクニックが要求されるスリリングな音楽です。ダイナミックでかつ面白さのある協奏曲です。協奏曲を使った大胆なジョークという感じで、その点では交響曲第5番を思わせます。
作曲の経緯
ピアノ協奏曲第3番の作曲は、1916年にロシアで開始されました。しかし、ロシア革命の勃発と日本(東京)経由でのアメリカへの亡命などもあって、完成したのは1921年でした。まだプロコフィエフが若いころの作品です。それでピアノ協奏曲を3番まで作曲したのは、かなり早いと思いますけれど。
アメリカ亡命後、プロコフィエフはシカゴを拠点として活動し、初演は1921年12月にプロコフィエフ自身のピアノ独奏とフレデリック・ストックの指揮とシカゴ交響楽団により行われました。初演は大好評を博し、ニューヨーク、パリ、ロンドンでも演奏され、さらに1923年にはロシアでも初演されています。
調性が明瞭な部分と不明瞭な部分、リズミカルな部分と情緒的な部分など、メリハリがある協奏曲となっています。キャッチーなメロディも沢山でてきます。
楽曲の構成
プロコフィエフのピアノ協奏曲第3番は3楽章構成になっています。
第1楽章:アンダンテーアレグロ
序奏のクラリネットのソロで主題が奏でられます。
つづいて、せわしないアレグロの主部に入ります。主部はソナタ形式です。ピアノが印象的な第一主題をくっきりと演奏します。再現部はアレグロに戻り、華麗でダイナミックに終わります。
第2楽章:アンダンティーノ
変奏曲の形式です。主題は「ガヴォット」(バロック時代のフランス舞曲)です。ガヴォットはプロコフィエフは既に「古典交響曲」で使っていますね。またプロコフィエフらしいロシア的な郷愁とモダニズムを備えたものです。
主題提示のあと、この主題を5回変奏します。第1変奏はリステッソ・テンポ、第2主題はアレグロです。
第3変奏アレグロモデラートでは、ブギウギ風のバックビートが入ります。第4変奏アンダンティーノ・メディタティーヴォは、この楽章の情感のクライマックスです。第5変奏アレグロ・ジュストと変奏していきます。
第3楽章:アレグロ・マ・ノン・トロッポ
ロンド形式です。
第1のエピソードには、プロコフィエフが亡命途上、日本に立ち寄った時に聴いた「越後獅子」の旋律が使われているようです。確かに第3楽章は少し日本的な感じがしますね。この旋法は都節の五音音階です。
第2のエピソードは、落ち着いたメランコリックなものです。コーダに入り、突進するように盛り上がって、曲を終えます。
越後獅子は以下のようなものです。
ちなみにプロコフィエフは日本で芸者遊びに興じていたそうです。それで覚えたのでしょうか、笑。
それにしてもワールドワイドに様々な要素が盛り込まれているようです。亡命でまさに世界を半周したわけですし、ロシア→日本→アメリカとくれば鮮明な文化の違いもあります。かなり印象的であっただろうことは容易に想像がつくところです。
おすすめの名盤レビュー
プロコフィエフのピアノ協奏曲第3番の名盤をレビューしていきます。
ピアノ:マツーエフ,ゲルギエフ=マリインスキー劇場管
マツーエフとゲルギエフのコンビは、このピアノ協奏曲第3番を知り尽くしていて、演奏しつくしている感じです。それと聴いていてとても面白いです。
第1楽章は、爆速で進みます。とてもゲルギエフはロシア的、色彩的な伴奏をつけています。マツーエフはヴィルトォーゾ系のピアニストでこのテンポでもちゃんと弾いてしまいます。そして、それにピッタリ合わせてくるマリインスキー劇場の管楽器のソロは素晴らしいです。
ゲルギエフは、マツーエフがソロなら、どこまで速くしてよいか、よく把握しているようで、かなりギリギリを攻めてきます。でも、ちょっと荒っぽくなる瞬間がありますね。そこまでギリギリでなくても十分迫力あるし楽しいので、もう少しテンポを落とせば綺麗に弾けるんじゃないかと思える所もあります。でも恐らく分かっていてやってますね。ライヴ録音ですし、一期一会ってことで。
第2楽章はピアノはとても綺麗に響いています。オケもロシア的な響きの中、豊富なボキャブラリーで面白い演奏を繰り広げます。
第3楽章は、また凄いテクニックでダイナミックに盛り上がります。このディスクでは第3楽章では破綻はないですね。
ともかく全体的に楽しく聴けるディスクで、この曲の本領を示していると思います。典型的な演奏スタイルで、とてもハイレヴェルなので、最初に買うCDとしてもお薦めです。
ピアノ独奏をアルゲリッチ、アバドとベルリン・フィルの伴奏です。プロコフィエフ ピアノ協奏曲第3番の定番のディスクです。ピアノはマルタ・アルゲリッチですが、録音は1967年で、まだ若いころですね。伴奏はアバド=ベルリンフィルと豪華な組み合わせになっています。録音の音質はかなり良いと思います。
アルゲリッチの華麗なテクニックと流麗な表現、伴奏のアバドの小気味良い切れ味と速いテンポで、華麗で楽しめる演奏となっています。この速いテンポの中でアルゲリッチは、色彩的で流麗な音楽づくりをしていて、決してテンポが速いだけの演奏ではありません。
アルゲリッチは南米のアルゼンチン出身でスペイン的な情熱も感じられます。スリリングで、かつ表現も楽しめる名盤です。
ピアノ:バヴゼ, ノセダ=BBCフィル
ジャン=エフラム・バヴゼとノセダのコンビは、プロコフィエフのコンチェルトをとても面白く演奏しています。とにかく、曲を深く理解したうえで、個性的な表現をしているのです。プロコフィエフが生来得意な演奏家っているのですが、間違いなくジャン=エフラム・バヴゼもその一人です。
ピアノ協奏曲第3番もだたスリリングなだけではなく、もっとずっと沢山のヴォキャブラリーで表現しています。バックのノセダの伴奏も素晴らしいです。
やはりこの独特の「しなやかさ」はプロコフィエフ弾きの条件ですね。テンポも結構動かしますし、ストレートにダイナミックなだけではなく、しなやかな表現を沢山使っています。結果として新しい面白さや美しい部分に気づかせてくれます。
これは、第3番だけでなく、全集で入手することをお薦めしたいです。その価値のある演奏です。録音も素晴らしいです。
ピアノ:キーシン, アシュケナージ=フィルハーモニア管弦楽団
キーシンは、プロコフィエフの協奏曲を、しっかりしたタッチで弾いています。アルゲリッチの流れるような演奏とはまた違ったタイプの演奏ですね。
キーシンのヴィルトゥーゾ性が前面に出ています。時にグロテスクと言える表現まで出てきて、ボキャブラリーの豊富さに驚きます。和声も不協和音であっても遠慮なくきちんと弾いているので、グロテスクさもこの曲の性質といえるのかも知れません。
ある意味、職人的というべきか、真面目にきちんと正確に弾ききっています。この曲の持つ大胆なジョークという側面は薄いのですが、この協奏曲の内容を良く表現していますし、充実感の濃い演奏です。
アシュケナージはロシア的な風情を持つ伴奏です。上手く足場を固めて、ピアノを引き立てています。
ピアノ:キーシン,アバド=ベルリン・フィル
キーシンがまだ若い時の録音です。アバド=ベルリンフィルと、アルゲリッチと同じ組み合わせの伴奏です。アバド=ベルリン・フィルは、アルゲリッチの時のように機微にリズムを刻み、機転の利いた伴奏をしています。
キーシンのほうは、テンポの速い中でしなやかに楽々と弾いており、品格すら感じさせる演奏です。あまりユニークさを強調しようとはしていませんが、つまらない演奏では無いです。曲がユニークなので結果としては絶妙なバランスだと思います。
アルゲリッチに比べるとキーシンは真面目な演奏ですが、クオリティは非常に高いと思います。
ピアノ:反田恭平,佐渡=トーンキュンストラー管
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演奏の映像(DVD,Blu-Ray,他)
ピアノ:ユジャ・ワン, アバド=ルツェルン祝祭管弦楽団
2009年のルツェルン音楽祭での映像です。ユジャ・ワンのピアノにアバドとルツェルン祝祭管弦楽団の伴奏という、ゴージャスな組み合わせです。この曲を得意とするユジャ・ワンのピアノ独奏も良いですし、ハイレヴェルなソリストが揃ったルツェルン祝祭管弦楽団の美しい響きが聴き所です。
見始めると画質の良さが印象的です。第1楽章はルツェルン祝祭管弦楽団の色彩的で透明感のある演奏で始まり、アバドがテンポをアップさせた所にユジャ・ワンのピアノが入ります。年を取っても変わらずアバドらしく、ピアノとオケの精密なアンサンブルが非常に素晴らしく、楽しく観ることが出来ます。ルツェルン祝祭管弦楽団の気合いが凄く、アバドとシャープなアンサンブルを繰り広げています。映像からここまで気合いが入っているのが分かるのは良いですね。ユジャ・ワンはフレッシュさがあり、今よりシャープで衣装も品が良い感じがします。ピアノも良く映されており、ユジャ・ワンのタッチも良く見えます。パワーで押し切るタイプではなく、特にしなやかに聴こえる部分のタッチはなるほど、と思います。最後の追い込みはさらにテンポを上げて鳥肌物です。
第2楽章はユジャ・ワンの色彩感に溢れた妖艶さのある演奏が堪能できます。曲想が頻繁に変化していく所を様々な表情で弾きこなしていくユジャ・ワンですが、映像で観ると情報量が多くてさらに楽しめると思います。リズミカルな所、透明感や深みのある個所など、弾くさまを見ているとよく分かります。第3楽章に入るとオケの映像も増え、スコアを見ながら観るととても楽しめそうです。ピアノは音量は少し弱いですが、リズミカルで自由に弾いています。オケに透明感があるので、ピアノの色彩的な響きに良くマッチしています。
ユジャ・ワンは若く小柄な美女ですけど、既に老境にある巨匠アバドと共演していて、アバドやルツェルン祝祭管のメンバーも楽しそうです。これを観ているとアバドが若かったころのアルゲリッチとの名盤を映像で観たらどうだっただろう、と想像してしまいます。
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楽譜
プロコフィエフのピアノ協奏曲第3番の楽譜・スコアをご紹介します。

プロコフィエフ: ピアノ協奏曲 第3番 ハ長調 Op.26/ブージー & ホークス社/中型スコア
3.6/5.0レビュー数:4個
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