フェリックス・メンデルスゾーン (Felix Mendelssohn,1809-1847)作曲の交響曲第5番『宗教改革』ニ長調 Op.107 (Symphony No.5 D-Dur)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。
解説
メンデルスゾーンの交響曲第5番『宗教改革』について解説します。
メンデルスゾーンが作曲した2つめの交響曲です。もっともその前に弦楽のための交響曲を沢山書いていますから、実質的にはもっと経験があることになりますけれど。
メンデルスゾーンは熱心なルター派の信者でした。「アウクスブルクの信仰告白の300周年」を記念して作曲され、300年祭で初演するつもりで1829年12月に作曲を開始しました。1829年12月に作曲を開始しました。しかし健康上の理由で時間がかかり、1830年5月に完成しましたが間に合わず、結局300年祭では初演できませんでした。その後、初演を計画しますが、何度も失敗します。1832年にベルリンで初演に漕ぎつけました。しかし、メンデルスゾーン自身が気に入らず、何度も改訂を重ねましたが、メンデルスゾーン存命中は演奏されることはありませんでした。
マルティン・ルターが1529年に作曲したコラール『神はわがやぐら』とドイツの賛美歌『ドレスデン・アーメン』が引用されています。
おすすめの名盤レビュー
それでは、メンデルスゾーン作曲交響曲第5番『宗教改革』の名盤をレビューしていきましょう。
ガーディナー=ロンドン交響楽団
- 名盤
- 定番
- 力強さ
- スリリング
- ピリオド奏法
- 高音質
超おすすめ:
指揮ジョン・エリオット・ガーディナー
演奏ロンドン交響楽団
2014年10月2日,ロンドン,バービカン・ホール (ステレオ/デジタル/ライヴ)
ガーディナーとロンドン交響楽団の録音です。ピリオド奏法ですが、ノリントンに比べると透明感のある響き、というより、ロマンティックな表現も楽しめます。
第1楽章の冒頭の清々しさはピリオド奏法ならではです。主部に入るとガーディナーらしく力強さやキレの良さが前面に出てきます。ロンドン響もダイナミックさのあるオケなので、ピリオド奏法でも響きが大分違いますね。第1楽章の終盤は金管が思い切り咆哮していて迫力があります。第2楽章は速いテンポでスリリングです。中間部など木管中心の所は素朴さがあって楽しめます。
第3楽章は悲哀に満ちた演奏で、ノンヴィブラートですがロマンティックな表現になっています。繊細な表現が素晴らしいです。第4楽章は木管が主題を吹き始めた時から、清々しさを感じます。楽器が増えてくると高音質のおかげで、各パートの動きが良く分かります。
この演奏はピリオド奏法など知らなくても十分楽しめるので、万人にお薦めできる名盤です。
ノリントン=シュトゥットガルト放送交響楽団
ノリントン=シュトゥットガルト放送交響楽団のピリオド奏法による演奏です。ヴィブラートが掛かっていないので、ロマン派的な強い感情表現はなく、透明感のある響きで清涼で宗教的な雰囲気も感じる演奏になっています。
オーケストレーションの薄さを感じますが、第1楽章はしっかりしたソナタ形式の演奏です。弦の「ドレスデン・アーメン」が非常に美しく響いています。弦のプルトが少ないのか、管楽器が目立ちます。初演ではこんな感じで薄く繊細な響きだったかも知れませんね。第4楽章はフルートと木管のアンサンブル中心にコラール『神はわがやぐら』を演奏しますが、透明感があり、純粋さと新鮮さを感じます。参加する楽器が段々と増えていき、トランペットが入ります。対位法的な動きも手に取るように分かります。
ノリントンのピリオド奏法は自然さがあって良いと思うのですが、この曲にはうってつけですね。
アバド=ロンドン交響楽団
アバド=ロンドン交響楽団の全集の演奏です。交響曲第5番『宗教改革』は繊細でしなやかさがあり、特に素晴らしい演奏です。また音質の良さも特筆できるレヴェルです。
第1楽章は上手い具合に力が抜けていて、繊細でしなやかな上に、アンサンブルのクオリティがとても高いです。格別ダイナミックさがある訳ではないのですが、そこが却って『宗教改革』に相応しいです。細かい所までしっかり演奏しきっています。第2楽章は舞曲風でアバドのリズム感が素晴らしいです。第3楽章は淡い悲壮感が感じられ、透明感もあり、味わい深いです。第4楽章は有名なコラールのメロディがしなやかに演奏され、弦と管のバランスも絶妙です。高音質で各パートの分離が良く、どのパートもしっかり聴こえ、細部までアンサンブルが詰められています。見通しの良さを保ったまま盛り上がって曲を締めます。
マズア=ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管
マズア=ライプツィヒ・ゲヴァントハウスの演奏です。ライプツィヒ・ゲヴァントハウスはメンデルスゾーンが指揮者を務めていた、メンデルスゾーンゆかりのオーケストラです。東ドイツ時代のゲヴァントハウスまさにいぶし銀の響きです。マズアはリズムのセンスが素晴らしく、テンポが遅くなって平板になることはありません。録音の音質は良いとは言えませんが、そこまで古いものでもなく、十分聴けます。『宗教改革』も今でも十分通用する名演だと思います。
第5番『宗教改革』はゲヴァントハウスのいぶし銀の響きを聴いているだけでも楽しめる演奏ですが、もちろんそれだけではありません。第5番は一般的にはあまり演奏機会の多い曲とは言えませんが、ゲヴァントハウスは恐らく頻繁に演奏していて、マズアもオケもツボを押さえていると思います。トスカニーニのような大胆な表現をせずとも、聴きごたえのある演奏になっています。第1楽章はテンポ取りが非常によく引き締まった響きで、充実したソナタ形式を演奏しています。後半の盛り上がり方も必要十分でアゴーギクもしっかりしています。第2楽章はとても自然さがあり、ドイツの農民たちの舞曲を思わせ、楽しんで聴けます。第3楽章、第4楽章はフルートのソロが出る瞬間が良いですね。題名の『宗教改革』の通り、プロテスタントの信者が参加してコラールなどを歌ったりするような、神々しさよりも色々な信者が教会に集ってくるかのような、親近感を感じさせます。フーガなど対位法が出てくると教会の雰囲気も出てきます。
マズア=ライプツィヒ・ゲヴァントハウスの演奏は、暖かみが感じられて良いですね。
マゼール=ベルリン・フィル
マゼールとベルリン・フィルの演奏です。マゼールの若い頃の演奏は、忘れられつつありますが、ドイツで活動していた頃の演奏を改めて聴き直すと、そのキレの良さにマゼールの才能を再認識させられます。この『宗教改革』は、マゼールのキレの良さが曲とマッチして、他の演奏にはないスリリングさと美しさを聴かせてくれます。
第1楽章はベルリン・フィルのクールなサウンドとクオリティの高いアンサンブルを最大限に活かしていて、厳しい対位法的な曲の面白さを引き出しています。ダイナミックでとてもスリリングな演奏です。モダン奏法で重厚ですが、ヴィブラートは抑えめで、シャープさが前面に出ています。第2楽章は明るく速めのテンポでリズム感が良い演奏です。第3楽章は悲劇的な表現の中にも躍動感を失いません。第4楽章は速めのテンポで密度の高い対位法を良く聴かせていて、スリリングに盛り上がります。途中、随所に出てくる美しいメロディもベルリン・フィルの艶やかな響きでしっかり聴かせてくれます。
ファイ=ハイデルベルク交響楽団
ファイとハイデルベルク交響楽団の演奏です。『宗教改革』は、ピリオド奏法が非常に効果的な曲ですが、響きの見通しの良さと速いテンポのスリリングさが両立していて楽しめます。
第1楽章の序奏はピリオド奏法で透明感があって見通しの良い演奏です。主部に入るとテンポはかなり速くスリリングです。シャープな響きで、速いテンポでも音に濁りは全くありません。盛り上がる部分はバロックの金管が咆哮し、非常に迫力があります。ノンヴィブラートの響きの清涼さが非常に美しく対比が効果的です。第2楽章は速いテンポで生きいきとした演奏です。第3楽章も速めのテンポで緩徐楽章ですが、リズムが生きています。素朴な歌心が印象的です。第4楽章は木管の各パートの細かい絡みがきれいに聴こえます。シャープな金管も良い雰囲気を出しています。テンポが速くなると溌剌としたリズミカルな音楽になります。盛り上がりもスリリングでダイナミックに曲を締めくくります。
トスカニーニ=NBC交響楽団
トスカニーニはイタリア人なのでカトリックだと思いますが、そこはあまり関係ないのでしょうかね。
第1楽章はトスカニーニとしては軽快な響きで始まります。主部に入ってからストレートで物凄い情熱的な盛り上がりで、度肝を抜かれます。圧倒的にドラマティックな世界観で、大聖堂で油絵でも見ているようです。第2楽章は穏やかなスケルツォ風音楽です。ベートーヴェンの『田園』を思い出してしまいます。第3楽章はオペラのように歌い、第4楽章はフルートのソロの後、どんどんダイナミックに盛り上がっていきます。最後は凄いスケールで終わります。
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楽譜・スコア
メンデルスゾーン作曲の交響曲第5番『宗教改革』の楽譜・スコアを挙げていきます。
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