フェリックス・メンデルスゾーン (Felix Mendelssohn, 1809~1847) 作曲のヴァイオリン協奏曲 ホ短調 Op.64 (Violin concerto e-Moll)について、解説とおすすめの名盤をレビューしていきたいと思います。スコアや楽譜までワンストップで紹介していきます。
このヴァイオリン協奏曲は、冒頭から誰でも知っている超有名なメロディで非常に人気があります。日本では省略して「メンコン」と呼ばれ、大変親しまれています。子供の頃からヴァイオリンをやっている人や、プロを目指すヴァイオリニストはおそらく最初に弾くロマン派の本格的なコンチェルトです。
お薦めコンサート
🎵小林研一郎、読売日本交響楽団
■2023/4/21(金) 19:00 開演 ( 18:30 開場 ) 会場:サントリーホール 大ホール (東京都)
メンデルスゾーン(ヴァイオリン協奏曲)/マーラー(交響曲第1番「巨人」)[指揮]小林研一郎 [独奏・独唱]青木尚佳(vl)
🎵Vn松田理奈、太田弦=札幌交響楽団
■2023/5/7(日)14:00 開演 ( 13:15 開場 )会場:札幌コンサートホールKitara 大ホール (北海道)
ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲集『和声と創意の試み』作品8より「四季」
メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲ホ短調作品64
チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品35
[独奏・独唱]松田理奈(vl) [指揮]太田弦 [演奏]札幌交響楽団
解説
メンデルスゾーン作曲のヴァイオリン協奏曲 ホ短調Op.64を解説します。
天才作曲家メンデルスゾーンは、裕福な銀行家のもとに生まれました。幼少期から音楽の才能を現し、10代で既に弦楽のための交響曲など、多数の作品を作曲しています。
作曲と初演
メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲 ホ短調は、1844年、作曲者が35歳の時に作曲されました。1847年に夭逝しているので、晩年の作品になります。
着想は1838年まで遡ることができます。メンデルスゾーンはこのヴァイオリン協奏曲の作曲に当たって、ヴァイオリニストのダーフィト (1810~1873) に相談しています。ダーフィトはメンデルスゾーンがライプツィヒ・ゲヴァントハウスの指揮者に就任してから、コンサートマスターとして招聘され、生涯その地位にあったヴァイオリニストです。
初演は1845年5月13日にライプツィヒ・ゲヴァントハウスで行われました。初演のヴァイオリニストはダーフィトでした。そして、ダーフィトにこの協奏曲は献呈されました。
ヴァイオリン協奏曲の構成
典型的な3楽章形式のヴァイオリン協奏曲です。演奏時間は30分程度で長くもなく短くもない、といった所です。ロマン派の協奏曲ですけれど、古典派風な曲想を持っていて、静謐(せいひつ)な良さがあります。3楽章とも続けて演奏されます。難易度的にもチャイコフスキーのように超絶技巧を必要とするものではないため、子供のころからヴァイオリンをやっていた人なら弾ける人も多いのではないでしょうか。
第1楽章:アレグロ・モルト・アパッショナート
冒頭から有名な第1主題が演奏されます。ソナタ形式です。19世紀の協奏曲にはよく見られる形式で、オーケストラによる提示部がなく、コーダは第2の展開部のようになっています。カデンツァは再現部の前に置かれています。
第2楽章:アンダンテ
3部形式の緩徐楽章です。ヴァイオリンが叙情的な主題を奏でます。途中かなり情熱的に盛り上がったりと、結構、凝った音楽です。
第3楽章:アレグロ・ノン・トロッポ~アレグロ・モルト・ヴィヴァーチェ
第2楽章と第3楽章をつなぐ序奏がついています。その後、主部に入りアレグロとなり、活発な音楽が繰り広げられます。
全体的に古典主義のような印象を受ける曲ですが、構造を見ていくとやはりロマン派のヴァイオリン協奏曲であることが分かります。
独奏ヴァイオリン
フルート×2、オーボエ×2、クラリネット×2、ファゴット×2
ホルン×2、トランペット×2
ティンパニ
弦楽五部
おすすめの名盤レビュー
メンデルスゾーン作曲のヴァイオリン協奏曲のおすすめの名盤をレビューしていきます。
Vn:ムター,マズア=ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管
メンコンを何度も録音し、得意としているムターのヴァイオリン独奏に、メンデルスゾーンの全集をリリースしているマズア⁼ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管の組み合わせです。メンコンを演奏するのにこんな理想的な組み合わせはありません。2008年録音で高音質です。グラモフォンの録音にも力が入っていることが良く分かります。
第1楽章の有名なメロディはカラヤンとの録音よりも表現が繊細になっていて、奥の深さを感じさせます。マズアとゲヴァントハウス管はとても奥ゆかしい伴奏を付けています。ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管はメンデルスゾーンが活躍したオケです。力の入れようが違います。ムターはしなやかな表現の中にも、テクニックも凄くて、突然超絶技巧が出てきて驚きます。特にカデンツァは圧巻です。第2楽章は落ち着いたいぶし銀の伴奏の響きで始まり、ムターが入ってきますが、この時期のムターは本当にヴォキャブラリー豊富で色々な表現を駆使していきます。伴奏のゲヴァントハウスの弦の響きも味わい深いです。
第3楽章は繊細で妖艶なヴァイオリンから始まります。センスの良い伴奏が入るとかなりテンポアップしてきます。ムターは余裕ですが、オケの方が却って大変そうです。でも、ヴァイオリンと管楽器の掛け合いなどとてもスリリングです。ムターは容赦ない、超絶技巧でオケを引っ張っていきます。そのまま一気にラストまで駆け抜けます。
ムターはカラヤンとの演奏も素晴らしいですし、このマズア=LGOとのディスクでさらに進化しました。どちらを取るかは好みの問題ですね。
Vn:イブラギモヴァ, ユロフスキ=エイジ・オヴ・インライトゥメント管弦楽団
イブラギモヴァのヴァイオリン独奏、ユロフスキ=エイジ・オヴ・インライトゥメント管の演奏です。古楽器を使っており、メンコンのピリオド奏法の演奏としてもトップの名盤です。2011年と録音も新しく音質も良いです。
第1楽章はインテンポで古典派らしい演奏ですが、同時にしなやかさやロマンティックさもあり、クールになることなく感情表現が充分入っていて、メリハリのある小気味良い演奏です。第2楽章はヴァイオリンは静かに入り、味わい深いロマンティックさある演奏を繰り広げています。表現の幅が非常に大きく、速めのテンポの中で最大限の感情表現を繰り広げます。第3楽章は速めのテンポで小気味良い演奏です。華やかさもありますが、しなやかかつ繊細で奥の深さを感じます。速めのテンポですがアンサンブルのクオリティも高く、とてもスリリングです。
メンコンで古楽器では一番お薦めです。モダン楽器も含めても、1,2を争う名盤です。
カップリングの『フィンガルの洞窟』も名演奏です。
Vn五嶋みどり,ヤンソンス=ベルリン・フィル
五嶋みどりのヴァイオリン独奏とヤンソンス=ベルリン・フィルの伴奏です。非常にロマンティックで感情的な表現のメンコンです。五嶋みどりらしい、艶やかで感情表現豊かな名演です。2003年の録音ですが、音質は非常に良く、細かい息遣いまで良く捕えています。Vnの艶やかな音色も非常に良く捉えていて、五嶋みどりの技術の素晴らしさもダイレクトに伝わってきます。
第1楽章は冒頭のメロディは五嶋みどりらしい情熱的な演奏です。小気味良い感情表現でメンコンに相応しいです。ベルリン・フィルは結構、厚みのある音で伴奏をつけています。メンコンの伴奏なので小編成かなと思ったのですが、ヤンソンスは繊細さのあるタクトで自然で清々しい伴奏を付けています。Vnソロはベルリン・フィルが強奏しても十分対応できています。カデンツァも情熱的で、バッハ風な所は味わい深く聴かせてくれます。超絶技巧もとても余裕があり、ライヴなのにミスはありません。
第2楽章はバランスが良く、Vnソロは軽く艶やかに弾いていますし、ベルリン・フィルも上手くつけています。情熱的な所は、Vnソロも伴奏も情熱的に盛り上がります。第3楽章は、速いテンポで超絶技巧な演奏です。細かい表現を良くつけたうえで、超絶技巧を軽々と弾いています。
それまでのメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲のイメージを変えてしまうくらい、ロマン派的な名盤だと思います。
Vn:ヒラリー・ハーン,ヤノフスキ=オスロ・フィル
ヒラリー・ハーンの超絶技巧とヤノフスキの知的な伴奏で、古典派風のメンコンになっています。音質は透明感があって高音質です。
第1楽章の冒頭の有名な主題から速めのテンポでバリバリ弾いていくヒラリー・ハーンは才気立っていて、表現も安易に感情的に流れず、クオリティの高い演奏をしています。ヤノフスキの伴奏も小気味良く、ヒラリー・ハーンの美点を最大限に活かしています。とても良く合うコンビだと思います。ラストの追い込みは凄いテクニックに圧倒されます。第2楽章は少し遅めのテンポの穏やかな伴奏で始まります。ヴァイオリン独奏は細かいニュアンスを付けつつ凛とした表現で、穏やかな中にもクールでスタイリッシュな演奏です。
第3楽章の速いテンポで技巧は本当に圧巻です。感情的な表現の少ない古典派的な演奏が好みの方には、非常にクオリティの高いCDだと思います。最初から最後まで圧倒されっぱなしです。
メンコンとしてテクニック的にかなりの完成度の高さだと思いますし、古典派風のメンコンが好きな方にもお薦めです。最もスタンダードなメンコンと思います。
アラベラ・美歩・シュタインバッハー,デュトワ=スイス・ロマンド管
- 名盤
- 定番
- 自然体
- 高音質
おすすめ度:
指揮アラベラ・美歩・シュタインバッハー
デュトワ
演奏スイス・ロマンド管弦楽団
2014年9月22~24,ジュネーヴ,ヴィクトリア・ホール (ステレオ/デジタル/セッション)
アラベラ・美歩・シュタインバッハーのヴァイオリン独奏に、デュトワ⁼スイスロマンド管がバックを務めた録音です。シュタインバッハーのヴァイオリンは自然で肩の力が抜けていて、メンコンのイメージを良い意味で覆してくれます。「なるほど、こんな表現が出来るのか」と新鮮味があります。音質も録音が新しいため非常に良いです。
第1楽章の冒頭のメロディから落ち着いた表現です。そして、さらにルバートかけて遅くしていく所もあります。遅いテンポの演奏だと物足りない感じがするものですが、この演奏では自然なテンポ取りと感じます。テクニックも安定してい余裕がありますし、カデンツァは自然体の演奏を大事にしつつ、適度な感情表現をしています。バロック奏法のバッハを聴いているようで、メンコンのこれまでのイメージが大きく変わりますね。
第2楽章も本当に自然体で、自然の中でくつろいでいるような雰囲気です。力を抜いているので、ヴァイオリンの音色がバロックのようにフワッと宙に浮いているかのようです。とても爽やかで味わいのある演奏です。
Vnハイフェッツ,ミュンシュ=ボストン交響楽団
ハイフェッツのヴァイオリン独奏にミュンシュとボストン交響楽団が伴奏を務めた録音です。しばらく前までは定番とされていた演奏です。最近は良い録音の名盤が増えてきて、もっと繊細な表現をした演奏も増えました。
ハイフェッツは、技巧的な部分でも軽々と弾きこなし、品格のある演奏です。むしろミュンシュの伴奏は少しテンポが速めと感じます。この曲であまり感情を入れ過ぎるのもどうかと思いますが、ハイフェッツの表現は必要最小限と言える位、ストレートでシンプルです。第2楽章は古典派的な演奏で格調が高いです。第3楽章はダイナミックで技巧的でとても楽しめます。
ハイフェッツの場合、ロマン派の中心的存在のチャイコフスキーのコンチェルトもシンプルな表現ですが、ツボは押さえていて、飽きの来ない名盤となっています。
Vn諏訪内晶子,アシュケナージ=チェコ・フィル
この諏訪内晶子とアシュケナージのコンビによるメンコンは、かなりロマンティックな名盤です。諏訪内晶子の表現はともするとロマンティックで情緒的になりすぎと感じますが、同じ傾向のあるアシュケナージが伴奏をつけているので、非常に自然です。
この演奏はメンコンの一つのスタンダードといえるのではないでしょうか。イメージとしては白い世界でチェコ・フィルよりはイギリスのオケのほうが合ったかも知れませんが、北欧的な情緒すら感じてしまいます。第2楽章も味わい深いです。第3楽章も初めから素晴らしいです。テンポが速くなっても非常に楽しめます。チェコ・フィルとのアンサンブルもピッタリ合っていて素晴らしいです。
その方向性で音楽的な完成度が結構高いのです。以前、聴いていて情緒的過ぎるとか、ちょっと湿度が高い感じの演奏が多かった気がしますが、この演奏では全くそいういったことは感じません。
諏訪内晶子とアシュケナージの相性の良さももちろんあると思います。
Vn:ムローヴァ,ガーディナー=オルケストル・レヴォリュショネル・エ・ロマンティク
ムローヴァの2回目の録音で、バックをガーディナーとオルケストル・レヴォリュショネル・エ・ロマンティクという、古楽器オケが務めています。メンデルスゾーンは特に名演です。
Vn:ベネデッティ,マクミラン,アカデミー室内管弦楽団
ヴァイオリンをにニコラ・ベネデッティ、アカデミー室内管弦楽団が伴奏を務めています。アカデミー室内管弦楽団が伴奏をしているということは、古典派風な演奏を目指していると思います。ただ、ちょっとテンポが遅くて、前世紀の演奏のようです。
ベネデッティはテクニック的に安定しているので、速めのテンポで良かった気もしますが、表現重視でしょうかね。表現力なら、もっと優れたヴァイオリニストが居る気がします。でも、油絵のような表現で、第2楽章は悪くないですね。第3楽章はテクニック的に安定していて、楽しく聴けます。全体的にテンポが遅めですかね。室内管弦楽団を使うのであれば、軽快に演奏するほうがいいような。こういう演奏であれば、普通の編成のオーケストラのほうが合う気がしました。
悪くは無いのですが、新しい録音の割には、どうも新鮮味に欠ける演奏のように聴こえました。
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演奏の映像(DVD,Blu-Ray)
メンコンは定番の有名曲だけあっていくつか演奏の映像がリリースされています。
Vn:ズナイダー,シャイー=ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管
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楽譜・スコア
メンデルスゾーン作曲のヴァイオリン協奏曲の楽譜へのリンクです。