フェリックス・メンデルスゾーン (Felix Mendelssohn,1809-1847)作曲の序曲『ルイ・ブラス』Op.35 (Overture “Ruy Blas” Overture to Victor Hugo’s play)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。ワンストップでスコア・楽譜も紹介します。
序曲『ルイ・ブラス』は引き締まった構成のカッコ良い序曲です。演奏時間は約8分で吹奏楽でも良く演奏されます。アマチュア・オーケストラの前プロにも適した選曲だと思います。
解説
メンデルスゾーンの序曲『ルイ・ブラス』について解説します。
作曲と初演
フランスの作家ヴィクトル・ユゴーの戯曲『ルイ・ブラス』が1839年にライプツィヒで慈善興行されるにあたり作曲されました。
初演は1839年3月11日に戯曲『ルイ・ブラス』の上記の上演に際して行われています。
メンデルスゾーンはこの戯曲をあまり気に入っていなかったようです。ただ内容には共感したのか、オペラの作曲をしようとしました。しかし、メンデルスゾーンは早世したため、未完に終わっています。
戯曲のあらすじ
オペラは未完に終わりました。しかし、序曲『ルイ・ブラス』を作曲するにあたり、ユゴーの戯曲を元にしている訳で、あらすじを知っておいたほうが曲の理解がしやすいと思います。
舞台は16世紀のスペイン。王妃の侍女に手を出したことで王宮を追放され、王妃に恨みを抱くドン・サリュスト侯爵が、王妃を不倫の罪に陥れようと画策します。
ドン・サリュスト侯爵の部下でルイ・ブラスを、従兄弟の貴族ドン・セザールだと偽って王妃に近づけます。
しかしルイ・ブラスは王妃と本当の相思相愛になります。そして王妃を守るため、ドン・サリュスト侯爵を殺し自らも自殺します。王妃はルイ・ブラスの死を見届け、その偽りを許し、ルイ・ブラスへの愛を告げます。
王妃のモデルはスペイン王カルロス2世の2度目の妃マリア・アンナとのことです。実際の筋書きはもっと複雑で策謀に満ちているのですが、その中でルイ・ブラスは正義を貫きます。
ヴィクトル・ユゴーの戯曲を元に、フランスの詩人ジャン・コクトー(1889-1963)の脚本による映画(1948年)も名作です。
フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2
ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、ティンパニ
弦五部
おすすめの名盤レビュー
それでは、メンデルスゾーン作曲序曲『ルイ・ブラス』の名盤をレビューしていきましょう。
ガーディナーとロンドン交響楽団の録音です。新しめの録音で音質もしっかりしています。ガーディナーは普段は古楽中心ですが、いくつかモダンオケとの録音もあり、情熱的で素晴らしい演奏が多いです。
冒頭はロンドン響のレヴェルの高い金管のコラールで始まります。主部に入ると速いテンポとなり、熱気がありスリリングです。メリハリが強く、スフォルツァンドも思い切りやっていて、聴いていて爽快です。アンサンブルのクオリティも高く、盛り上がっても荒い響きになることはないのですが、とてもロマン派的な情熱に満ちています。後半はシャープな弦に金管の咆哮で、さらに激しく盛り上がります。
ガーディナーとロンドン交響楽団は、とても相性の良い組み合わせですね。ロンドン交響楽団はたまに荒い演奏になることもありますが、ガーディナーはそのダイナミックな響きを上手く使って、スリリングで劇的な演奏を繰り広げています。
シャイー=ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管
シャイーとライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の演奏です。ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団はもちろんメンデルスゾーンゆかりの現在世界最古のオーケストラです。この曲は情熱的なのでシャイーにぴったりだと思います。
シャイーはイタリア人らしく情熱的で力強い指揮です。ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管のいぶし銀の音色は健在で、両者が絶妙にマッチして、短い曲ですが、密度の濃い演奏です。イタリアオペラのようなドラマティックな演奏になっています。後半の誇り高さやダイナミックさが印象的です。
アバド=ロンドン交響楽団
アバドとロンドン交響楽団の全集です。メンデルスゾーンのスタンダードとしてクオリティの高い名盤です。序曲『ルイ・ブラス』も特別に凄い演奏ではありませんが、レヴェルは高く、高音質です。
冒頭からクオリティの高いアンサンブルです。アレグロは少し遅めのテンポでしなやかさもあるスケールの大きな演奏で、濃厚さよりも余裕を感じます。ロンドン響から細かい所までしっかりしたアンサンブルを引き出しています。一方で、イタリア人指揮者に多いオペラのような劇的な音楽づくりではないです。あくまでスコアをしっかり読みこんで音化しています。意外にこういうアプローチの演奏は少ないので貴重です。
ダヴァロス=フィルハーモニア管弦楽団
イタリアの巨匠フランチェスコ・ダヴァロスとフィルハーモニア管弦楽団の演奏です。
冒頭の金管のファンファーレはとても遅く演奏され、悲痛な雰囲気を醸し出しています。アレグロに入るとシャープで情熱的な演奏で、ティンパニが入ると鋭く力強い響きになります。弦のテーマは堂々としていてスケールが大きいものです。情熱的で濃厚さがあり、わずか10分の演奏とは思えない充実感です。
戯曲の内容を上手く曲に反映した名盤です。カップリングの交響曲第3番『スコットランド』も濃密な感情表現と迫力があり、味わい深い名演です。
ウェラー=スコティッシュ・ナショナル管
ウェラーとロイヤル・スコティッシュ管弦楽団の演奏です。ウェラーはオーストリア人ですが、プロコフィエフの交響曲全集が有名でしょうか?とても理知的な指揮者だと思います。
冒頭は少し遅めのテンポで金管が出てきます。アレグロに入るとテンポが速くスリリングです。聴いていてとても爽快で胸のすく演奏です。弦楽器の細かいアーティキュレーション(発音)まで非常に良く練られていて、ラストはダイナミックに締めくくります。この曲が好きなら聴いておくべき名盤です。
デュトワ=モントリオール交響楽団
デュトワとモントリオール交響楽団の演奏です。フランス人のデュトワがメンデルスゾーンなの?と思われた方、メンデルスゾーンは『真夏の夜の夢』などで色彩的な音楽を書いている作曲家です。ルイ・ブラスはセンス良くまとめ上げていて、一番カッコ良い演奏です。メンデルスゾーンのオーケストレーションの素晴らしさがダイレクトに伝わってきて、聴いていて気分爽快です。
冒頭の金管の上手さはモントリオール響の機能性の高さを感じさせます。弦楽器が入ると速めのテンポで颯爽とセンスの良い演奏が繰り広げられます。カップリングの『真夏の世の夢』も透明な響きが、さわやかな夏の夜を感じさせる名盤です。
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楽譜・スコア
メンデルスゾーン作曲の序曲『ルイ・ブラス』の楽譜・スコアを挙げていきます。
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