フェリックス・メンデルスゾーン (Felix Mendelssohn,1809-1847)作曲の交響曲第3番『スコットランド』イ短調 作品56について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。最後に楽譜・スコアも挙げてあります。
解説
メンデルスゾーンの交響曲第3番『スコットランド』イ短調 作品56について解説します。
メンデルスゾーンの交響曲は番号と作曲順が一致していません。第1番、第5番『宗教改革』、第4番『イタリア』、第2番『賛歌』、第3番『スコットランド』となり、交響曲第3番『スコットランド』は最後に作曲された交響曲です。
バッハ『マタイ受難曲』の蘇演
この交響曲第3番『スコットランド』の作曲に先立ち、1829年3月11日にJ.S.バッハのオラトリオ『マタイ受難曲』をベルリンで上演しています。
当時、J.S.バッハは器楽曲、特に鍵盤音楽では一定の評価を受けていた作曲家でした。ベートーヴェンも大きな影響を受けています。しかし、大作であるカンタータやオラトリオの演奏は、行われませんでした。メンデルスゾーンは、蘇演のために、マタイ受難曲を編曲しています。バッハの時代とメンデルスゾーンの時代では、楽器に大きな違いがありますから。ヘンデルのオラトリオをモーツァルトが編曲したように、バッハの『マタイ受難曲』はメンデルスゾーンの編曲版で上演されました。メンデルスゾーンはバッハの対位法について、非常に詳しくなりました。
イギリス~スコットランド旅行
この交響曲第3番『スコットランド』の直接のきっかけとなったのは、イギリス~スコットランドを旅行したことです。特にスコットランドの素朴な音楽は、メンデルスゾーンに強い影響を与えました。
スコットランドには、昔ヨーロッパで流行していた音楽が、残っていたのです。バグ・パイプやハーディ・ガーディ(農村で使われた手回しヴァイオリン)が残っていました。また、村人たちの合唱も聴いています。スコットランドはケルト人でケルト音楽が中心で、ヨーロッパとは異なる文化がありました。
この国には街の至る所に音楽が溢れています。
と、手紙で父に書き送っています。つい最近まで、「トラベラー」と呼ばれる放浪生活をするバグパイパーもいたようです。彼らは定住を拒み、自由な放浪生活をしていました。メンデルスゾーンは彼らに会ったかも知れません。スコッチスナップといった独特のリズムなども知ったと思われます。
このスコットランドの印象を元に交響曲第3番『スコットランド』は作曲されました。また、『フィンガルの洞窟』もスコットランド旅行がもとになって書かれています。北部の島の多い地域では、スコットランドは洞窟や滝が沢山あります。
作曲と初演
作曲を開始したのは、スコットランド旅行の直後である1829年頃と思われますが、完成したのはその13年後の1842年です。
初演は1842年3月3日にライブツィヒ・ゲヴァントハウスにて、メンデルスゾーン自身の指揮により行われました。
曲の構成
曲の構成は4楽章構成ですが、4つの楽章は切れ目なく演奏されます。スコットランドの音楽を引用した訳ではなく、主にスコットランド旅行の印象を交響曲にしたイメージです。第2楽章を除き、多くの部分が短調で書かれ、スコットランドのエキゾチズムと歴史を感じさせます。しかし最後の最後では長調となり、明るく幕を閉じます。
第1楽章:アンダンテ・コン・モート-アレグロ・ウン・ポコ・アジタート
序奏付きのソナタ形式です。序奏はエディンバラのメアリ・ステュアートゆかりのホリールードハウス宮殿で書き留めた楽想が元になっています。主部は寒々としたスコットランドの自然を感じさせます。
第2楽章:ヴィヴァーチェ・ノン・トロッポ
スケルツォ楽章に相当する楽章です。ソナタ形式です。比較的明るい調子で、木管のスコットランド風の主題を吹きます。
第3楽章:アダージョ
緩徐楽章です。ソナタ形式です。
第4楽章:アレグロ・ヴィヴァチェッシモ
フィナーレです。ソナタ形式です。
短調で始まり、厳しさを感じさせる主題が演奏されます。最後のコーダになって長調となり、明るく盛り上がって終わります。
おすすめの名盤レビュー
それでは、メンデルスゾーン作曲交響曲第3番『スコットランド』イ短調 作品56の名盤をレビューしていきましょう。
マーク=ロンドン交響楽団
ペーター・マークとロンドン交響楽団の録音です。とても定評があるディスクで、1957年録音と若干古めですが、そんなハンデを簡単に打ち負かしてしまうエネルギーに溢れた名盤です。
第1楽章の序奏は情感に溢れたものです。主部に入ると鋭さも出てきて、クレッシェンドでは激しく盛り上がります。インスピレーションに満ち溢れた演奏です。「スコットランド」は情熱的な演奏が多いですが、ここまで激しい感情表現をした演奏は無いと思います。ロンドン響のダイナミックさも健在で、しっかりしたアンサンブルです。弱音の所は、艶やかさがあり、激しい感情表現との対比がありますね。第2楽章は打って変わって爽やかさが前面に出ています。それも爆発せんばかりの開放感でとてもスリリングです。アンサンブルもしっかりしています。
第3楽章は芳醇な響きで、艶やかにじっくりと歌いこみます。トゥッティの盛り上がりはスケール大きくダイナミックです。弱音の所は自然体の演奏で、じっくりと味わい深く聴かせてくれます。弦も強靭でさすがロンドン交響楽団で、後半になるとさらにスケールが大きくなります。テンポ設定も効果的で、かなりルバートしますが、曲想に相応しいテンポ設定です。第4楽章は鋭く始まり、速いテンポの舞曲となります。内線の弦も上手く使って白熱していきます。激しいリズムを刻みつつ、終盤になるとホルンの咆哮でダイナミックなフィナーレとなります。
ペーター・マークは都響によく客演していたと思いますが、こんなに激しい演奏をする指揮者とは知りませんでした。それも単に感情に訴えているだけでなく、曲を知り尽くして効果的に演奏しています。何度も聴きたくなるエネルギーを持っている名盤です。
マズア=ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管
クルト・マズアとライブツィヒ・ゲヴァントハウスは『スコットランド』を得意としています。それはもちろんメンデルスゾーンゆかりのオーケストラであることもありますが、メンデルスゾーンの交響曲の中でも『スコットランド』は特に名演です。
第1楽章の序奏はゲヴァントハウスのいぶし銀の音色が味わい深いです。マズアの渋い指揮もゲヴァントハウスの響きと相まって、まるでエジンバラの黒光りする街を思わせます。寒々とした雰囲気がまさにスコットランドに相応しいです。ゲヴァントハウスの演奏でもここまでいぶし銀の響きが聴けるCDは滅多にないですね。まさに東ドイツの時代の音色です。特に第3楽章は渋くて味わいの深い名演です。テンポは全体的に速めで、リズムもしっかりしています。第4楽章は少し残響が多いですが、迫力があります。フーガもしっかり聴かせてくれます。
この名演が録音が古いとはいえ、これだけリーズナブルに入手できるのは驚きですね。全集もお買い得ですし、弦楽のための交響曲がコンチェルト・ケルン(ドイツ三大古楽器アンサンブルの一つ)の演奏で聴けることも凄いです。
カラヤン=ベルリン・フィル (1971年)
カラヤン=ベルリンフィルの1971年の録音です。非常に世評の高い演奏です。
第1楽章は力強くスケールの大きな演奏です。常にピンと張りつめた緊張感があり『スコットランド』らしい雰囲気を作っています。後半、盛り上がってくると、さらに重厚さが出てきて『スコットランド』を超えるものが感じられます。第2楽章はベルリンフィルの木管ソロ陣が艶のある響きを聴かせてくれます。弦が入るとダイナミックになってきます。第3楽章は弦のレガートで息の長い主題が演奏されます。第4楽章はダイナミックで盛り上がります。テンポも速めでシャープですね。
カラヤンの『スコットランド』は、スコットランドの旅行記以上のものがあります。しかし、もともと交響曲第3番『スコットランド』はそういう要素があると思います。カラヤンは鋭い直観力でそこを見抜いて演奏しています。
ガーディナー=ロンドン交響楽団
ガーディナーとロンドン交響楽団の録音です。ガーディナーはメンデルスゾーンを得意としています。モダンオケを力強く指揮して、バロックオケを中心に指揮しているので、メンデルスゾーンでモダン・オケを使うべきか微妙なラインですが、
第1楽章の序奏はガーディナーらしい滑らかな管楽器の歌いまわしで始まります。弦のメロディはノンヴィブラートですが、ガーディナーが振るとクールにならず、情熱的に力強く盛り上がります。主部は速めのテンポで激しく盛り上げます。弦の音色は独特の艶があって格調を感じる位です。盛り上がるときは躊躇なくアッチェランドをかけていきます。とても密度の高い音楽だと思います。
ロンドン交響楽団とは全集も作っていますが、アーノンクールやノリントンともまた違う響きを引き出していて、特に力強さや情熱的な所は素晴らしくスリリングです。ノリントン盤は見当たらないのでレビューしていませんが、結構良い演奏だったんですけどね。
カサド=フライブルク・バロック・オーケストラ
カサドとフライブルグ・バロック管による録音です。メンデルスゾーンを古楽器で演奏するのは時代的にギリギリと思いますが、聴いて良ければいいんじゃないか、と思います。音質は新しいだけあって非常に良いです。
第1楽章は前奏から情熱を秘めたような演奏で始まります。ヴィブラートの無い弦は鋭さがあります。スコットランドらしい暗さも入っています。主部はリズミカルですが、静かに始まりクレッシェンドします。オケと合わせたティンパニの打ち込みが印象的です。何度もクレッシェンドがありますが、秘められたエネルギーが大きいので、その分激しく盛り上がります。カサドは感情表現が上手く、悲哀になりすぎず、絶妙な表現を盛り込んできます。密度の高い演奏となったり、アクセントを上手く使って激しくなったりします。第2楽章は速めのテンポですが、清々しさのある演奏です。夏のスコットランドを馬で駆け抜けるような感じです。細かいアンサンブルを緻密に合わせており、アンサンブル精度が高く爽快です。
第3楽章はヴィブラートなしの弦が滑らかな響きで歌いこみます。上手くスケール感を引き出しています。ホルンやティンパニがダイナミックにトゥッティを盛り上げます。歌謡的な部分の感情表現が絶妙です。後半は深いコクのある響きと共に盛り上がります。第4楽章は非常に鋭く、エネルギーを内に秘めた演奏です。小編成のオケであることもあり、フレーズのまとまりが良いです。後半に入るとアクセントをさらに鋭くつけ、弦の厚みもそれなりにあって、力強い演奏になっていきます。情緒ある木管は印象的です。ラストはエネルギーに満ち溢れて盛り上がります。
CDの方は売り切れに近そうですが、MP3でダウンロードできます。
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