フェリックス・メンデルスゾーン (Felix Mendelssohn, 1809-1847)作曲の劇付随音楽『真夏の夜の夢』(A Midsummer Night’s Dream)について、解説とおすすめの名盤を行っていきます。
この曲はなんといっても「結婚行進曲」が有名ですが、他にもいくつか有名な曲があります。序曲、スケルツォ、間奏曲、夜想曲などが有名で良く演奏されます。それ以外にもどこかで聴いた曲が沢山入っています。
組曲が無いためもあってか、全曲版が結構多くリリースされています。もちろん、有名な曲だけオムニバスで抜粋したCDも多いです。
解説
メンデルスゾーン作曲の劇音楽『真夏の夜の夢』について解説します。
作曲の経緯と初演
イギリスの戯曲作家シェイクスピアが1595年に書いた、全5幕の喜劇『真夏の夜の夢』に対して作曲された劇音楽です。
メンデルスゾーンがこの戯曲を知ったのは1826年、17歳のころでした。その時に「序曲」だけピアノ連弾用に作曲しています。1843年になって、プロシア国王のフリードリヒ・ヴィルヘルム4世の命によって、若いころ作曲した「序曲」に加え、全13曲が作曲されました。
初演は序曲のみ、1829年にイギリスで行われていました。全13曲の初演は1843年10月14日にポツダムの離宮の新宮殿で行われました。
楽曲構成
『真夏の夜の夢』の曲の構成は以下のようになっています。半分以上がどこかで聴いたことがある音楽ですね。
序曲 (Op.21)
前奏のあと、急速なテンポで弦楽器が動きます。有名な曲です。
繰り返しを行うとかなり長い曲に聴こえます。
劇音楽Op.61
第1番:スケルツォ
スケルツォのリズムに乗って音楽が繰り広げられます。
有名な曲です。
第2番:情景と妖精の行進曲
第3番:2人のソプラノのための歌と女声合唱曲「まだら模様のお蛇さん」
ソプラノ、アルトと合唱が入ります。有名な曲です。
第4番:情景(メロドラマ)
第5番:間奏曲
これも有名な曲ですね。
第6番:情景(メロドラマ)
第7番:夜想曲
ホルンが印象的な夜想曲です。有名な曲です。
第8番:情景(メロドラマ)
第9番:結婚行進曲
あの有名な結婚行進曲です。
第10番:プロローグー葬送行進曲
第11番:道化師たちの踊り
第12番:情景と終曲
おすすめの名盤レビュー
メンデルスゾーン作曲の劇音楽『真夏の夜の夢』のおすすめの名盤をレビューしていきます。
結構いろいろな演奏があります。大きな違いはナレーションです。ナレーションが何語か?という所が結構印象を左右しますね。
アーノンクール=ヨーロッパ室内管弦楽団,他
アーノンクールとヨーロッパ室内管弦楽団の演奏です。テンポが速めで、颯爽としたさわやかさのあるものです。ピリオド奏法で響きが透き通っています。他の演奏に比べると自然さと格調のある演奏で、有名なメロディもセンス良く演奏しています。メンデルスゾーンはピリオド奏法が合う作曲家だと思いますが、『真夏の夜の夢』でも色々気付かされるものがあります。
序曲は他の演奏もかなり速いですが、しなやかさやシャープさがあります。さわやかさがあって夜の雰囲気が良く出ています。精妙な表情付けがされていて、それがとても自然に聴こえます。スケルツォは速めのテンポで心地よく聴けます。スケルツォはリズムが溌剌としています。ピリオド奏法で透明感があることも良い効果が出ていると思います。
「情景と妖精の行進曲」は、アーノンクールはテンポを落として、ソプラノ、アルトをじっくり歌わせています。非常に良い雰囲気がでています。「ノクターン」もテンポは速めですが、この曲はもう少し落ち着いたテンポのほうが味わいがあっていいような気がします。ホルンは上手いです。
「結婚行進曲」はテンポが速めで颯爽としています。ピリオド奏法だとすっきり聴こえます。有名な曲ですが、メンデルスゾーンの時代にはこんな風に演奏していたのかも知れませんね。ロマンティックさより、夜の雰囲気があって味わい深いです。「終曲」は凄く速めなのですが透明感があり、合唱が入って神秘的になり、ソプラノの歌唱が節度のある表現で、自然な味わい深さを醸し出しています。
なるほど全曲の最初から最後までが、まさに夜の夢という感じです。結構、メリハリもあるのですが、夢から覚めることはありません。きっと現代の演奏は過度にロマンティックで派手すぎるんでしょうね。
プレヴィン=ウィーン・フィル,他
アンドレ・プレヴィンは『真夏の夜の夢』を得意としています。このウィーンフィルとの演奏は、いつものプレヴィンのロマンティックすぎる演奏とは少し違い、自然に楽しめる演奏です。もちろん、『真夏の夜の夢』の雰囲気も非常に上手く、メンデルスゾーンの色彩的な音楽を存分に楽しめる名盤です。また音質も良いです。ナレーションは入っていません。
序曲から速いテンポですが、ウィーン・フィルの演奏レヴェルもとても高く、ウィーン・フィルから神秘的な響きすら引き出しています。「スケルツォ」は小気味良い演奏で、下手にロマンティックさを強調せずに自然と雰囲気が出ている好演です。情景の描き方も上手いですし、合唱も聴き物です。ソプラノのエヴァ・リンド、メゾのケアーンズ、ウィーン・ジュネス合唱団のコーラスなど、とても高いクオリティです。「夜想曲」の雰囲気はとても良く、ウィンナ・ホルンが素晴らしいです。「結婚行進曲」もなかなかの演奏です。
小澤征爾=ボストン交響楽団、他
小澤征爾は『真夏の夜の夢』を得意としています。水戸室内管弦楽団などでも取り上げています。
序曲から速いテンポで進んでいきますが、ボストン交響楽団の色彩感がとても効果的で、メンデルスゾーンとは思えない位です。次のスケルツォはしっかりしたリズムでシンフォニックに演奏しています。ソプラノのキャスリーン・バトルはとても素晴らしいです。小澤征爾の指揮も冴えわたっていて、雰囲気をとても上手く作っています。テンポ設定も的確ですし、演奏のクオリティはとても高いです。「結婚行進曲」も少し速めのテンポで華麗な演奏です。
このCDではナレーションが入ります。英語版だと英語のナレーションですね。日本版は吉永小百合がナレーションを担当しています。英語版で聴いていますが、ナレーションと音楽がかみ合っていて、ナレーションの中で演奏される音楽もあることが分かります。
ガーディナー=ロンドン交響楽団,他
ガーディナーが2016年にロンドン交響楽団と録音したCDです。
序曲は速いテンポでガーディナーらしい筋肉質なリズムがあります。もちろん、幻想的な雰囲気がもともとあっての上ですが。結構、強弱も大きくつけていて、多彩な表現で少し冗長な序曲も飽きずに聴けます。ロンドン交響楽団はダイナミックですが、木管、特にクラリネットが良く聴こえます。多分、編成を小さめにしていると思います。「結婚行進曲」は良い演奏ですが、長い音でデクレッシェンドがかかる(ピリオド奏法の一種)なので、意外に物足りないかも知れません。また、最後はナレーションに繋がっていて、結婚行進曲自体が独立した曲になっていません。
演奏者欄には全部ナレーターと書いてありますが、ソプラノ、アルト(またはメゾ)、バリトンは入っています。ナレーターの中心は男性ですね。メロドラマの部分も演奏の部分も、表現のヴォキャブラリーが豊富なのがこの演奏の特徴で、とても楽しめます。
有名な曲を聴きたい、という人は小澤盤がおすすめです。ガーディナー盤は演劇性を前面に出しています。
アシュケナージ=ベルリン・ドイツ交響楽団
アシュケナージはセルゲイ・ラフマニノフなどピアノでは独特の情緒ある演奏が多かったです。
この『真夏の夜の夢』は序曲からかなりダイナミックで、他の演奏に比べても明らかに騒がしい感じで、夜の雰囲気が少ないです。ベルリオーズやムソルグスキーのような音楽を目指しているのかも知れません。それならそれも面白い試みです。スケルツォはかなり速いです。ロマンティックな感じにはなっていないですね。
段々と慣れてきますが、ロマンティックな感じではなく、ドイツのオケらしくしっかり演奏しています。普段のアシュケナージのスタイルとは少し異なるような気がします。
DVD、BlueRay
小澤征爾=水戸室内管弦楽団、他
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楽譜
メンデルスゾーン作曲の劇音楽『真夏の夜の夢』の楽譜・スコアをあげていきます。
ミニチュア・スコア
オイレンブルクスコア メンデルスゾーン ≪真夏の夜の夢≫序曲 作品21 (オイレンブルク・スコア)
解説:W. G. ウィッタカー
レビュー数:1個
残り1点
オイレンブルクスコア メンデルスゾーン 付随音楽≪真夏の夜の夢≫作品61から5つの管弦楽曲 (オイレンブルク・スコア)
解説:ロジャー・フィスケ
レビュー数:2個
残り3点