マーラー 交響曲第6番『悲劇的』

グスタフ・マーラー (Gustav Mahler,1860-1911)作曲の交響曲 第6番 イ短調 『悲劇的』 (Symphony No.6 a-moll “Tragic”)について、解説おすすめの名盤レビューをしていきます。ワンストップでスコア・楽譜まで挙げています。

解説

マーラー交響曲第6番について解説します。

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マーラー器楽交響曲の難解な交響曲

マーラーは第5番~第7番『夜の歌』まで、声楽を伴わない交響曲を作曲しています。その真ん中に位置するのが第6番『悲劇的』です。第4楽章で3回のハンマーの音でマーラーの人生は絶望的なまでに崩壊させられます。

その一方で、妻のアルマや子供を描いた主題が出てくることも特徴です。好事魔多し、という感じで、現在幸福であるからこそ、この交響曲が作曲されたとも言えます。副題が『悲劇的』なので、そういう風に捉えがちですが、

実際聴いてみると、激しい葛藤は感じますが、そこまで絶望の淵に落とされた感じはしないと思います。実際、『悲劇的』の副題はマーラー自身がつけたものではありません。難解さはマーラー本人も認めています。

僕の第6は、聴く者に謎を突きつけるだろう。この謎解きには、僕の第1から第5までを受け入れ、それを完全に消化した世代だけが挑戦できるのだ

マーラー

それだけにこの交響曲は理解が難しく、様々な解釈の名盤が多くあります。特徴のある名盤をいくつか聴いていくと、そのたびに新しい発見がある交響曲です。

作曲の経緯 

マーラーの交響曲第6番『悲劇的』は、1904年に作曲された交響曲です。交響曲第5番は1903年なので、この大作を1年で完成させたことになります。作曲家としても一つの絶頂期です。同時並行的に『亡き子をしのぶ歌』の作曲も進めています。

曲の構成

マーラーの交響曲としては珍しく4楽章構成で作曲されています。演奏時間は約80分です。

角笛三部作と呼ばれる2番~4番の中で、交響曲第3番、交響曲第4番を思い出させる所も意外と多いのですが、雰囲気は大分違い、全体に重厚なオーケストレーションで、重々しさがあります。

第2楽章スケルツォ第3楽章アンダンテは演奏家により入れ替えられることがあります。

第1楽章:アレグロ・エネルジコ・マ・ノン・トロッポ

自由なソナタ形式です。全曲がマーチ風になっており、その意味では交響曲第3番を思い出させますが、印象は第3番とは全く違って爽やかさはあまりなく、重々しく様々な楽器が重なっています。第2主題は非常に色彩的でさわやかで、妻アルマの主題と言われています。

第2楽章:スケルツォ

スケルツォ楽章です。が、第1楽章同様にテンポは速くても重々しく、その上で長調の主題が演奏されます。なお第2楽章と第3楽章はマーラーもリハーサルの時に順番を入れ替えるなど、一定していません。演奏者によって変わります。マーラーが指揮した初演では

第3楽章:アンダンテ

緩徐楽章ですが、アダージョではなくアンダンテで書かれています。カウベルを使った素朴さもありますが、全体としてとても重々しく響きます。後半、感情的に盛り上がり頂点を築き上げます。ここは第6番の聴かせ所ですが、この演奏方法も様々な解釈がありますね。

第4楽章:フィナーレ

序奏付きの拡大されたソナタ形式です。長大な楽章ですが、初めから最後まで荒々しいフィナーレとなっています。

曲の後半でハンマーが2発入ることが有名です。元々曲の終盤にもう1回ハンマーが入っていたのですが、それはリハーサル時に削除されました。バーンスタインはハンマーを3発打たせて悲劇的な効果を出しています。

おすすめの名盤レビュー

それでは、マーラー作曲交響曲第6番名盤をレビューしていきましょう。

バーンスタイン=ウィーン・フィル

  • 名盤
  • 定番
  • 円熟
  • 情熱的
  • ダイナミック

超おすすめ:

指揮レナード・バーンスタイン
演奏ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

1988年9月,ウィーン,ムジークフェラインザール (ステレオ/デジタル/ライヴ)

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バーンスタインとウィーン・フィルのライヴ録音です。ライヴ特有の熱気と感情表現に溢れた定番の名盤です。音質はしっかりしていて、ムジーク・フェラインらしい木の響きです。

第1楽章は速いテンポでスリリングで情熱的に始まります。至る所で感情の爆発と言える位、激しい表現があります。第2主題は逆に喜びに溢れています。この辺りの感情表現のメリハリはバーンスタインらしいです。そのまま盛り上がり、ウィーン・フィルの金管もかなり鳴らしています。第2楽章のスケルツォは第1楽章と同じようにダイナミックで、また速いテンポでスリリングです。かなり濃い目の感情表現がされていて、所々でテンポを思い切り落として不気味な響きを目立たせています。

第3楽章は遅めのテンポで静かに始まります。次第にオーボエのソロ、ホルンのソロなど、味わい深い演奏が聴こえてきます。盛り上がってくるとまさに悲劇的で、神々しさよりも人間的な泥臭さを感じます。

第4楽章は情熱的に始まり遅めのテンポでダイナミックで、白熱しています。他の演奏に比べて悲劇的な面を目立たせています。ホルンやトランペットの咆哮は凄い気迫を感じます。最初のハンマーに至るまでの音楽作りはとても劇的でよく設計されていると思います。最後の3発目のハンマーの後は、凄い絶望感を感じます。

この交響曲の正道を行く、悲劇的な感情表現の名盤として、まず聴いておきたい演奏です。

テンシュテット=ロンドン・フィル

  • 名盤
  • 定番
  • 白熱
  • ライヴ

超おすすめ:

指揮クラウス・テンシュテット
演奏ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

1991年,ロンドン,キングスウェイホール (ステレオ/デジタル/セッション)

テンシュテットとロンドン・フィルの録音の中でも最も評価の高いライヴ録音です。録音の音質は十分良いです。全体的に凄いテンションの白熱した演奏で、この曲を代表する名盤です。

クルレンティス=ムジカ・エテルナ

  • 名盤
  • 定番
  • シャープ
  • 情熱的
  • 高音質

超おすすめ:

指揮クルレンティス
演奏ムジカ・エテルナ

2016年7月3日-9日,モスクワ (ステレオ/デジタル/セッション)

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クルレンティスと手兵ムジカ・エテルナの録音です。クルレンツィスらしいシャープな表現で、特に前半のリズミカルな楽章は目から鱗が落ちる思いです。録音は新しく高音質です。

第1楽章鋭い刻みで始まり、情熱的に盛り上がります。ここまで鋭い刻みは聴いたことがありませんが、かなり効果的です。オケは機能的でとてもクオリティが高いです。第2主題はとてもロマンティックです。静かな所では透明感のある響きでホルンのソロなどが美しく響きます。ダイナミックな箇所では金管やパーカッションが力強く、心地よい音色です。終盤の細かい弦の動きがとても正確でスリリングです。曲が進むにつれ、荒々しくなっていきます。

第3楽章は大地の歌を思わせるような寂寥感から始まります。盛り上がってくると繊細なテクスチャが良くつけられています。清涼な響きとなり、トランペットは神々しいです。後半の盛り上がりはとても情熱的です。

第4楽章複雑な音楽ですが、クオリティの高いダイナミックさで始まります。響きにスピード感があります。高音質で、奥行きが感じられる所が良くダイナミックでも音の分離が良いです。盛り上がってくるとテンポを速め小気味良くスリリングです。ハンマーの一発目は激しく盛り盛り上がります。モチーフごとに様々な表情を聴かせながら、ハンマーの2発目が撃ち込まれます。そして物凄い熱狂の渦となり、それは2回目のハンマーまで続きます。

テンシュテットやアバドの名盤に比べると、悲壮感は少なめですが、代わりに神々しさや熱狂は凄いものがあります。とてもアンサンブルのクオリティが高く、高音質で解釈も新時代を感じさせる名盤です。

クーベリック=バイエルン放送交響楽団

速いテンポで捲くしかけるクーベリックの熱演!
  • 名盤
  • 定番

おすすめ度:

指揮ラファエル・クーベリック
演奏バイエルン放送交響楽団

1968年,ミュンヘン (ステレオ/デジタル/セッション)

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クーベリックとバイエルン放送交響楽団の1968年の録音です。録音はパワフルさについて行けていない感じもしますが、きちんとステレオで聴ける音質です。また、リマスタリングもされていて、音質は良くなっています。まだ、マーラーブームが到来する前で、ワルターなどマーラーの弟子たちの演奏の系譜にあると思います。またクーベリックはマーラーと同じチェコ出身なので、強い共感が聴き取れます。

第1楽章冒頭から凄く速いテンポでリズミカルで驚かされます。推進力が圧倒的です。弦に厚みがあり、金管もパワフルなバイエルン放送響ですから、ダイナミックな所も凄いです。遅いテンポで重々しい演奏より聴き易く、清々しさすらあります。後半はさらにヒステリックと言えるほど熱狂的に盛り上がります。第2楽章スケルツォもリズミカルでとても速く、細かい動きもしっかり合わせています。テンポが上げられる箇所ではさらにアッチェランドがかかる位です。第2主題は遅く演奏されています。このメリハリもこの録音の特徴ですね。

第3楽章アンダンテは落ち着いたテンポで、むしろ自然美を感じさせます。木管やホルンなど、味わい深い音色です。チェコと言えばボヘミアという自然の豊富な地域で、カウベルを使ったりしている訳で、絶望感はないのですが、こういった味わい深さのある演奏が本来のものなのかも知れません。

第4楽章は速めのテンポで、大袈裟な表現はあまりなく、解釈に自然さがあります。一方、バイエルン放送響の金管が咆哮し、非常にダイナミックです。『悲劇的』という感じではなく、推進力、スピード感やエネルギーを感じさせます。1発目のハンマーの後は、お祭り騒ぎで熱狂的に盛り上がり、そのまま2発目のハンマーまで行きます。息つく暇もなくダイナミックに曲を締めます。

『悲劇的』という副題よりは、スコアを深く読み込んで曲を作り上げているように感じます。その結果、熱狂や幸福さといった表現の方が多いです。これは第6番の本質の一つを表していると思います。速いテンポもあって『悲劇的』の良さが今まで分からなかった人や初めて聴く人にお薦めの名盤です。

アバド=ベルリン・フィル

  • 名盤
  • 定番
  • 透明感
  • シャープ
  • スリリング
  • 高音質

超おすすめ:

指揮クラウディオ・アバド
演奏ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

2004年6月,ベルリン (ステレオ/デジタル/ライヴ)

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アバドとベルリン・フィルの録音です。2004年録音で、アバドが病気から復活してしばらくした頃の録音です。大分体調は良く、第7番や第9番に聴かれる強い悲壮感は多少弱まった感じですが、アバドとベルリン・フィルの信頼関係を示すようなクオリティの高さがあります。

第1楽章は当時のベルリン・フィルのひんやりした響きと鋭い感情表現で、理知的な部分と激しい感情表現が両立しています。ベルリン・フィルも乗っていてダイナミックでスケールが大きい演奏を高いクオリティので繰り広げています。第2楽章は寂寥感にみちていて、『大地の歌』を思い出します。これはアバドの指揮も良いですが、ベルリン・フィルがアバドに強く共感した結果の響きだと思います。後半、地の底から湧き上がるような情熱的な音楽に圧倒されます。

第3楽章速めのテンポで始まり、さらに追い込んでスリリングです。穏やかな主題の所ではテンポを落とし、巧みなテンポ設定でメリハリがあります。第4楽章アバドらしい自然でリズミカルなテンポどりと巧みなベルリン・フィルの響きで始まります。適度な悲壮感があり、そこは他のアバドのディスクと違う所です。ハンマーを使う部分も分かり易く録音されています。録音は透明感があり、ベルリン・フィルの金管のダイナミックな音をしっかり録音していますし、弦の艶やかでスピード感溢れる演奏も良く録音されています。

アバドはシカゴ響との録音もありますが、曲への共感の度合いはやはり晩年の演奏が良いですね。また『悲劇的』を聴いて、ピンと来なかった方にもお薦めします。

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演奏の映像(DVD,Blu-Ray,他)

シャイー=ライプツィヒ・ゲヴァントハウス

  • 名盤
  • 定番

指揮リッカルド・シャイー
演奏ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団

(ステレオ/デジタル/セッション)

アバド=ルツェルン祝祭管弦楽団

  • 名盤
  • 定番

おすすめ度:

指揮クラウディオ・アバド
演奏ルツェルン祝祭管弦楽団

2006年8月10日,スイス,ルツェルン・コンサートホール (ステレオ/デジタル/セッション)

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楽譜・スコア

マーラー作曲の交響曲第6番の楽譜・スコアを挙げていきます。

ミニチュアスコアとIMSLPどっちが得?

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