オネゲル 交響曲第3番『典礼風』

アルテュール・オネゲル (Arthur Honegger,1892-1955)作曲の交響曲第3番『典礼風』(Liturgique)について、解説おすすめの名盤レビューをしていきます。

解説

アルテュール・オネゲル交響曲第3番『典礼風』について解説します。

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オネゲル第2次世界大戦の直後の短期間にこの曲を含む3曲の交響曲を作曲しています。オネゲル自身がいかに第2次世界大戦の悲劇に影響を受け、現代の技術の発展や無機質的なものに対して、恐れを抱いていたのかが分かります。

典礼風(礼拝)交響曲はそのオーケストレーションの凄さから、普段オネゲルを演奏しないカラヤンやムラヴィンスキーといった演奏家が取り上げていて名盤を残しています。ベルリンフィルレニングラードフィルのヴィルトゥオーゾによる演奏が聴けるのです。本ページの最後にはミニチュアスコアも掲載しました。

オネゲル自身は交響曲第3番を

「ベートーヴェンの伝統にしたがい、内容においてはドラマティックかつ情動的なものとなった」

オネゲル交響曲第4番(ホグウッド)の解説より

と記しています。ベートーヴェンの伝統に従った、とありますが、確かに強い意志の力を感じる交響曲です。

ミサを取り入れた交響曲

交響曲第3番『典礼風』という副題がついていますが、カトリックのミサの一部を各楽章の副題にしています。

オネゲル交響曲第3番「典礼風」


第1楽章「怒りの日」(Dies irae)
第2楽章「深き淵より」(De profundis clamavi)
第3楽章「我らに平和を」(Dona nobis pacem)

宗教的要素のある交響曲は多いですが、ミサを直接取り入れた交響曲は意外に少ないですね。戦争後の犠牲者に対するレクイエムであろうことは容易に想像がつきます。ただ、それだけではなく、まだ生きている者へのメッセージも含んでいるように思います。レクイエムと言ってもモーツァルトミヒャエル・ハイドンのような美しいメロディは引き継いでいません。

神の交響曲?

ミサという要素が強いからか、筆者には大聖堂で繰り広げられる神の音楽のように聴こえます。こういう場合、12音技法が使われることが多いのですが、オネゲルの場合はもともと12音技法の使い手ではないためか、調性音楽になっています。ただし交響曲第5番「3つのレ」第2楽章には12音技法が取り入れられています。神の交響曲であって人間的な強い感情はあまり表現されていないように聴こえます。もちろん演奏の仕方によっては、部分的に感情表現を感じることもできますけれど。

おすすめの名盤レビュー

オネゲル交響曲第3番『典礼風』のおすすめの名盤をレビューしていきます。

この曲は、技術的に見ても演奏効果が非常に高く、オネゲルで他の交響曲を演奏していない演奏家も良く取り上げています。中でもカラヤンムラヴィンスキーという、東西の両横綱が名盤を残しているのが特徴的です。

カラヤン=ベルリン・フィル

ダイナミックで透明感もある、壮麗で神秘的な名盤
  • 名盤
  • 定番
  • 壮麗
  • 迫力
  • ダイナミック

超おすすめ:

指揮ヘルベルト・フォン・カラヤン
演奏ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

1969年 (ステレオ/デジタル/セッション)

カラヤンとベルリン・フィルの録音です。曲自体が重厚さとシャープさを要求していますが、カラヤン=ベルリン・フィルは理想的な音響空間を実現しています。本当に壮大な宗教画を見ているような気分です。ダイナミックでありながら同時に透明感もあり、神秘的な雰囲気も再現しています。カラヤンの解釈自体はちょっとドライなところもありますが、それも含めてオネゲル交響曲第3番『典礼風』に相応しい壮麗なものです。

第2楽章も神秘的で美しく、心が洗われるような宗教的な体験なんじゃないかと思います。キリスト教など、ある宗教のことではなく、人間が感じる神や神秘なものへの崇敬を感じます。

ムラヴィンスキー=レニングラード・フィル

神に捧げる壮絶な名演
  • 名盤
  • 定番
  • シャープ
  • 重厚
  • 迫力
  • ライヴ

おすすめ度:

指揮エフゲニー・ムラヴィンスキー
演奏レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団

1965年2月28日,モスクワ音楽院大ホール (ステレオ/アナログ/ライヴ)

ムラヴィンスキーはもともと音楽は神に捧げるものとして演奏活動をしていました。そんなムラヴィンスキーにとって、オネゲルの交響曲第3番『典礼風』はうってつけです。

レニングラード・フィルの冒頭のアンサンブルは壮絶です。技術を最大限に活かして演奏しています。こういう曲の場合、ムラヴィンスキーはちょっと無機質的な演奏になることがありますが、それを考えあわせても名盤であることには間違いないです。

またムラヴィンスキーオネゲルの『典礼風』でも、ヒンデミットの『世界の調和』でも、名曲であれば西側の音楽も演奏していて、いずれも名盤となっています。

ネーメ・ヤルヴィ=デンマーク国立放送交響楽団

神の音楽だけではなく、人間味もある演奏
  • 名盤
  • 定番
  • 迫力
  • 熱気

おすすめ度:

指揮ネーメ・ヤルヴィ
演奏デンマーク国立放送交響楽団

(ステレオ/デジタル/セッション)

ネーメ・ヤルヴィとデンマーク国立放送交響楽団の録音です。非常に熱気のある演奏で、ネーメ・ヤルヴィらしいですね。無名のオーケストラでよくここまでの演奏を出来るものだと思います。

ネーメ・ヤルヴィの演奏は、神の神秘もありますが、人間味が濃い所が良いと思います。カラヤンの演奏は素晴らしいですが、神の音楽という雰囲気で人間の居場所がないようにも感じられるので、ヤルヴィの演奏は安心して浸れます。

湯浅卓雄=ニュージーランド交響楽団

緻密で内容の濃い名盤
  • 名盤
  • 定番
  • 緻密
  • スリリング
  • 高音質

指揮湯浅卓雄
演奏ニュージーランド交響楽団

2002年1月,ニュージーランド,ウェリントン,ウェリントン・タウン・ホール (ステレオ/デジタル/セッション)

ナクソスは、近現代音楽を得意とする日本人指揮者湯浅卓雄ニュージーランド交響楽団の組み合わせでオネゲルを録音しました。ナクソスらしい組み合わせで、どちらもそれほど有名ではないですが、演奏は素晴らしいです。湯浅卓雄は人間味があり、かつ緻密さのある知的な音楽づくりで、ニュージーランド交響楽団は意外とレヴェルが高いです。もちろん、ダイナミックさではベルリンフィルに敵いませんけれど。

第1楽章から密度の濃い演奏で壮大な迫力があります。しかも表面的な迫力に終わることは無く、内容も充実しています。神の音楽、ではなく人間の音楽として表現されていると思います。第2楽章が特に素晴らしく、スコアを読みつくして、人間味あふれる内容が濃く、色々な要素を持った演奏として再現しています。第3楽章ニュージーランド交響楽団が透明感のある響きでスケールの大きな演奏を繰り広げています。後半のコラール風な個所はとても透明感が高く、人間味あふれた暖かみのある名演です。

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演奏の映像(DVD,Blu-Ray,他)

オネゲルの演奏映像は少なく貴重です。

ブロムシュテット=ウィーン・フィル

  • 名盤
  • 定番
  • 高画質

指揮ヘルベルト・ブロムシュテット
演奏ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

2021年8月28,29日,ザルツブルク祝祭劇場 (PCMステレオ/DTS-HD MA5.1/ライヴ)

円熟したブロムシュテットとウィーン・フィルという、とても貴重な組み合わせです。欲しい人は売り切れる前に入手しておくべきですね。

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楽譜・スコア

オネゲル作曲の交響曲第3番の楽譜・スコアを挙げていきます。

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