夏の牧歌 (オネゲル)

オネゲルというと中盤~晩年の作品は、結構グロテスクでキツい音楽が多いという印象でしょうか。

交響詩『夏の牧歌』(Pastorale d’ete) H.31はオネゲルが28歳の時の作品です。そのため、気楽に聴ける小品(約8分)になっています。若書きのつまらない作品などではなく、小曲ながら魅力に溢れていて、満ち足りた気分になります。

このオネゲルの『夏の牧歌』は、聴きやすく魅力的な作品であるためか、小曲ながら多くのCDがあり、名盤も多いです。このページでは解説のあと、いくつかのCDをレビューしていきます。

中間部のメロディはどこかで聴いたことがありますね。他にも良いメロディが沢山ありますけれど。

解説

オネゲル作曲の交響詩『夏の牧歌』について解説していきます。

レオ・シルの楽器

アルチュール・オネゲル (1892~1955)『夏の牧歌』を作曲したのは、スイスの楽器制作者レオ・シルの依頼によるものでした。レオ・シルは新しい弦楽器を考案し、それを使った作品の作曲を依頼したのです。
オネゲルは、通常の管弦楽でも演奏可能な曲を作曲しました。レオ・シルの考案した楽器は残らなかったため、現在は普通の弦5部で演奏されます。

ランボーの詩集からインスピレーションを得る

天才詩人アルチュール・ランボー(ランボオ)(1854~1891)の「イリュミナシオン」という詩集にある「私は夏の曙を抱きて」という言葉にインスピレーションを得て作曲されました。
この詩集は色々な芸術家にインスピレーションを与えています。ブリテンは彼の歌曲集の中でも有名な『イリュミナシオン』を作曲しています。

作曲と初演

オネゲルは両親の故郷である、スイスの自然豊かなベルナー・オーバーラント地方のヴェンゲンに滞在し、そこで作曲しました。スイスの中でもかなり山間の地域です。

編成も木管楽器とホルン各一人と弦5部と小さいもので、スイスの田園風景を思わせる穏やかな作品となりました。『夏の牧歌』はフランス語にすると「Pastorale d’ete」で、この曲は田園曲(パストラーレ)です。

1921年の初演時は、聴衆による人気投票で第1位になり、ヴェルレイ賞を受け、フランスの作曲家ローラン=マニュエルに献呈されました。

曲の構成

緩-急-緩の3部形式で出来ています。

『夏の牧歌』の構成

第1部
おだやかなスイスの風を感じさせるような曲想です。
第2部
しだいに鳥の声などが木管楽器で表現され、やがて素朴な舞曲風の音楽となります。この部分は有名ですね。
第3部
また涼し気な風がそよぎ、穏やかな雰囲気で曲を閉じます。

おすすめCD、名盤レビュー

オネゲル作曲の交響詩『夏の牧歌』の名盤をレビューしていきます。

フルネ=オランダ放送フィル

フルネらしい色彩感があり香り高い演奏です。オランダ放送フィルも力不足を感じる所はありません。このコンビはイベールでも素晴らしい名盤を残していますね。そしてこのオネゲルも名盤です。

小さめの音量で始まり、控えめで丁寧にクレッシェンドしていきますが、とても円熟した演奏です。木管の鳥の声もとても雰囲気が良く出ています。木管のソロも非常に上手いです。弦楽セクションの音色は非常に色彩的で、フランスのオケよりも色彩感があるのではないかと思うくらいです。煩(うるさ)くなることは無く、舞曲も民族的な味があってとても楽しめます。第3部になるといよいよ充実してきて、とても満足感の高い演奏です。ぜひ騙(だま)されたと思って聴いてみてほしい演奏です。

湯浅卓雄=ニュージーランド交響楽団

牧歌的な雰囲気を非常に自然に描き上げた名演
  • 名盤
  • 定番
  • 自然美
  • 共感
  • 高音質

超おすすめ:

指揮湯浅卓雄
演奏ニュージーランド交響楽団

2002年1月,ニュージーランド,ウェリントン,ウェリントン・タウン・ホール(ステレオ/デジタル/セッション)

タワーレコードで見る
Honegger: Symphony No.3, …

在庫:お取り寄せレビュー数:1

ナクソスの録音した湯浅卓雄とニュージーランド交響楽団によるオネゲルです。このCDは全体を聴いても飽きずに聴ける隠れた名盤ですが、緻密な演奏の中で一番の名演は、実はこの『夏の牧歌』です。

何といっても演奏がニュージーランド交響楽団です。ニュージーと言えば牛肉ですよね。行ったことはありませんが、きっと放牧している牧場が沢山あるのでしょう。自然も沢山ある所です。いくら技術的に上手いと言っても、お国柄にあった音楽は自然な名演奏になります。

湯浅卓雄の丁寧な棒のもと、とても自然なテンポで、自然美そのものを当たり前のように表現しています。こんなに安心して浸れる演奏は少ないと思います。

ユロフスキ=ロンドンフィル

  • 名盤
  • 定番
  • 高音質

おすすめ度:

オネゲル:作品集
4.4/5.0レビュー数:12個

ロンドンフィルの演奏のせいか、第1部からそれなりのボリュームのある演奏になっています。しかし、鳥の声のようなフルートは素晴らしく、音質の良さが非常に活きています。中間部も盛り上がりますが、弦楽器のシャープな鳴らし方など、スイスの涼しげな夏を情景を思い浮かべてしまいます。舞曲も幻想のように終わり、また元の静かな情景に戻っていきます。

スイス人の演奏は意外と少ないですが、この演奏はオケが少し重厚ですけど、上手く演奏していてスイスらしさが出ていると思います。

ルイージ=スイスロマンド管弦楽団

指揮者のファビオ・ルイージはイタリア人ですが、演奏しているのはスイス・ロマンド管弦楽団です。スイスのオーケストラということですね。フランスのオケよりも色彩感が少なく、ラテン系でも無いので、透明感が高いサウンドです。

ルイージは、イタリア人なのではっきりした曲想を求めてきます。でもスイスロマンド管弦楽団はやはり透明感のあるサウンドをベースとしてエッジの効いた演奏をしています。決して静かな演奏ではありませんが、なかなか涼しげな演奏だと思います。

ルイージはオネゲルの全集を録音していますが、もう少し評価されてもいいような気がしますね。確かにスイスらしさはそれほど無いのですが、こんなに小気味良いオネゲルは他にはないですし、この演奏を聴いてなるほど、と思ったところも沢山あります。

マルティノン=フランス国立放送管弦楽団

  • 名盤
  • 定番

おすすめ度:

指揮:マルティノン、フランス国立放送管弦楽団

マルティノン=フランス国立放送管弦楽団はドビュッシーなどで素晴らしい演奏を残しています。オネゲルはあまり録音していませんが、この管弦楽曲集は定番として高い評価を受けています。

マルティノンの演奏は、第1部で既に夏の雰囲気です。ヴィブラートを掛けたホルンなど、夏の気だるさのようなものを感じます。その後、木管のソロもなかなか元気よく入り、結構盛り上がります。

スイスというよりラテン的な感じですが、ソロの表現などレヴェルが高くて面白い演奏です。

ミュンシュ=フランス国立管弦楽団

ミュンシュとフランス国立管弦楽団の組み合わせは、かなりフランス的な演奏になるだろうな、と思いましたが、大体その通りでした。

最初から夏の気だるい感じで、マルティノンによく似ています。表現もスイスというよりは、フランス的で弦楽器は朗々と歌います。まるでドビュッシーの「牧神の午後の前奏曲」を思い出してしまいます。

クラリネットが有名なメロディを吹き始めると、とてもリアルさが増してきてうるさい位ですね。これはこれでいいのかも知れませんが、スイスというよりはフランスのラテン的なところを感じます。

プラッソン=トゥールーズ市立管弦楽団

  • 名盤
  • 定番

おすすめ度:

指揮:ミシェル・プラッソン、トゥールーズ市立管弦楽団

オネゲル:管弦楽作品集
5.0/5.0レビュー数:1個の評価

プラッソンはオネゲルの全集を録音しているなど、得意としています。マルティノン盤に比べると、ソロの表現の充実度はやはり地方オケだけに少し弱い感じはします。

「夏の牧歌」は、最初は涼しげに始まり、スイスらしい雰囲気を出しています。ひんやりしている、ということは無いですけど、少し気だるい程度ですね。中間部もそこまで煩(うるさ)く盛り上がることは無く、全体として気だるい雰囲気を保っています。

聴いていて、気だるさやのどかさが素晴らしいですね。まさにパストラルです。

楽譜

オネゲル作曲の『夏の牧歌』のスコア・楽譜を紹介します。

ミニチュアスコア

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