アルテュール・オネゲル (Arthur Honegger,1892-1955)作曲の交響曲 第1番 (Symphony no.1)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。
解説
オネゲルの交響曲第1番について解説します。
作曲の経緯
オネゲルの交響曲第1番はボストン交響楽団創立50周年の際に指揮者のセルゲイ・クーゼヴィツキーの委嘱を受け、作曲されました。後年の交響曲第5番『3つのレ』など、クーゼヴィツキーはオネゲルに作品を委嘱し、ボストン交響楽団で初演するなど、演奏面でも重要な役割を果たしています。
作曲は1929年~1930年に行われました。1925年に作曲された交響的断章第1番『パシフィック231』で成功してから5年です。交響曲第2番は1941年に完成したため、オネゲルの交響曲の中でもかなり早い時期に作曲されています。
初演
初演は1931年2月13日にクーセヴィツキーの指揮とボストン交響楽団により行われました。
豊富なインスピレーション
大雑把な分類では新古典主義に近いですが、第1楽章から工夫を重ね、とてもインスピレーションに富んだ交響曲で、オネゲルの才気がほとばしっています。一方、3楽章構成など、後の交響曲群に見られる個性も既に持っています。何より交響的断章第1番『パシフィック231』でも示されたオーケストレーションの素晴らしさがあり、曲調もそれほど暗くはありません。
1930年頃は第1次世界大戦と第2次世界大戦の合間の平和な時期で、世界大恐慌などもありましたが、第2番以降のような戦争にかかわる陰鬱さもなく、割と気軽に楽しんで聴ける作品です。最初の交響曲でここまで完成度の高い作曲家は少ないと思います。
曲の構成
3楽章構成で、演奏時間は約20分です。
第1楽章:アレグロ・マルカート
第2楽章:アダージョ
第3楽章:プレスト
フルート×2、オーボエ×1、イングリッシュホルン、クラリネット×2、バスクラリネット、ファゴット×2、コントラファゴット
ホルン×4、トランペット×3、トロンボーン×3、チューバ
バスドラム
弦5部
おすすめの名盤レビュー
それでは、オネゲル作曲交響曲第1番の名盤をレビューしていきましょう。交響曲第1番は単品でリリースされることは少ないため、全集を含めて探していきます。
ルイージ=スイス・ロマンド管弦楽団
イタリア人ファビオ・ルイージとスイス・ロマンド管弦楽団の全集です。全体的にシャープでキレがあって聴きやすい名演です。第1番では特にそれが良い方向に出ていて、スリリングで小気味良い迫力のある名盤です。全集で入手しても楽しめる演奏が多いですが、目下廃盤なのでアマゾン・ミュージックへのリンクを貼って置きます。
第1楽章の最初から厚みのあるシャープな弦が衝撃的です。金管も上手く、リズミカルでメリハリが強く、インスピレーションに満ちています。オネゲルの才気だった表現を良く再現していて、楽しみながら聴くことが出来ます。
第2楽章はシリアスですが、強い情熱をはらんでいて、シャープなアクセントを良くつけて、ドラマティックと言える様な表現です。第1楽章から上手く繋いでいて、これだけしっかりした緩徐楽章が聴ける演奏は他には無いと思います。中盤は金管が激しく燃え上がります。その後の弦やフルートの表現は清々しいです。
第3楽章はリズミカルに盛り上がり、メリハリのある演奏です。金管もスイスロマンド管のイメージからすると意外な程、強力です。トロンボーンのグリッサンドもとてもシャープです。音質も透明感があって、オネゲルらしい和音や対位法も良く表現されていて、聴いていてスリリングかつ爽快です。ラストは清々しさがある演奏です。
ルイージの表現は、第1番に相応しく、とても爽快で楽しめる名演です。
デュトワ=バイエルン放送交響楽団
デュトワとバイエルン放送交響楽団という珍しい組み合わせの全集です。デュトワのフランス的なセンスとオーケストレーションをまとめる見事な手腕と、バイエルン放送交響楽団の重厚でダイナミックな響きが絶妙です。1982年録音ですが、音質は非常に良いと思います。
第1楽章はデュトワが持ち前のセンスを生かして、小気味良くまとめています。リズミカルで軽快です。オケも重厚ながらコンパクトな響きでとても聴いていて気持ち良いサウンドです。第1番からオーケストレーションは優れたものがありますが、それを十二分に感じさせてくれます。また音の解像度も良く、色々なパートが聴こえてきて楽しめます。
第2楽章は少し速めのテンポで、そこまでシリアスにならず、ここでもデュトワのセンスが光ります。特に木管のソロは生き生きしています。後半もテンポ設定が良く、純度の高いサウンドを聴かせてくれます。第3楽章は速めのテンポで、和声や対位法など、とても良く練られていて、センス良くまとめられています。楽天的に盛り上がっていきます。終盤の弱音の個所は、透明感のある録音が功を奏して、クオリティの高い響きです。
デュトワは職人的なスタンダードな表現で、バイエルン放響の力強さを上手く活かした名盤です。質実剛健ですが、最初にオネゲルを聴くならルイージの方が分かり易いかも知れませんけれど。
プラッソン=トゥールーズ・キャピタル管弦楽団
プラッソンとトゥールーズ・キャピタル管弦楽団のフランスらしいコンビによる全集録音です。音質は良く、自然な響きが感じられます。フランスの香りを残しているオケの演奏です。フランス人らしい情熱のこもった演奏です。
第1楽章はダイナミックでスリリングです。非常に情熱的で盛り上がると白熱してきます。金管はスフォルツァンドを付けメリハリがあります。
第2楽章は緩徐楽章ですが、管楽器のソロはフランスらしく個性があり、弦は感傷的でボリュームがあり、全体としてはラテン系のフランスらしい明るさのある響きです。不協和音でも熱気があり、陰鬱さはあまり感じず、代わりに味わいが深いです。第3楽章はリズミカルで明るい演奏です。金管は地方オケなのでベルリン・フィルのような迫力は無いですが、明るい音色でなかなかダイナミックです。終盤はソロの表現が良く、味わい深く終わります。
オネゲルはフランスで活躍しましたが、フランスのラテン系オケの演奏は珍しいです。第1番に関して言えば、必要以上に暗さが無いので楽しく聴くことが出来る名盤です。
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楽譜・スコア
オネゲル作曲の交響曲第1番の楽譜・スコアを挙げていきます。