パウル・ヒンデミット (Paul Hindemith,1895-1963)作曲の交響曲『世界の調和』 (Symphony “harmonie der welt”)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。ワンストップでスコアと楽譜まで紹介します。
冒頭の弦の混乱を聴くと『世界の調和』という題名は皮肉に聞こえてしまいますね。元々オペラでしたが、1936年~1957年という時期に作曲されています。第2次世界大戦でヒンデミットはスイスに逃れました。戦後、世界は分断され東西に分かれます。
しかし、交響曲『世界の調和』は、ヒンデミットの作品の中でも名曲とされ、東西両陣営のオーケストラで演奏されています。ムラヴィンスキー=レニングラード・フィルやケーゲル=ドレスデン・フィルは名盤ですね。
解説
ヒンデミットの世界の調和について解説します。
『世界の調和』は交響曲ですが、元々はオペラでした。
オペラのほうは、1936年~1957年に作曲されています。ルネサンスの天文学者ヨハネス・ケプラー(1571-1630)を主人公とした台本です。
筋書きは分からなかったのですが、ヨハネス・ケプラーは、天体の運行に関する「ケプラーの法則」で有名です。コペルニクスやガリレオ・ガリレイのすぐ後の時代であり、まだ宗教と科学が対立していた時代です。ケプラーは「数が宇宙の秩序の中心である」とする点や天体音楽論を唱える点で自然哲学におけるピタゴラス的伝統の忠実な擁護者でした。
天体音楽論というのは、紀元前6世紀のギリシャの哲学者ピタゴラスによる思想から来たものです。
天体の運行が人間の耳には聞こえない音を発しており、宇宙全体が一つの大きなハーモニーを奏でている。「天球の音楽」などと呼ばれる思想
Wikipediaより
ヨハン・シュトラウス二世の弟である、ヨーゼフ・シュトラウスは頭が良く、ユニークな作品を作曲していたことで有名です。
19世紀は「天球の音楽」の思想が流行していました。
ヨーゼフ・シュトラウスはワルツ『天体の音楽』を作曲し、1868年1月21日にゾフィエンザールで初演され、大きな反響を呼びました。今でもよく演奏されるワルツです。
そのオペラ『世界の調和』から交響曲『世界の調和』が作曲されました。1951年に旧バーゼル室内管弦楽団創立25周年記念のために作曲されました。現在、演奏されるのは交響曲のほうですが、オペラの録音もあるようですね。
おすすめの名盤レビュー
それでは、ヒンデミット作曲世界の調和の名盤をレビューしていきましょう。
素晴らしい演奏が多いですが、東の横綱ムラヴィンスキーが録音しているのに西の横綱カラヤンが録音していないのは残念です。少し古いながら、ベルリン・フィルの演奏はあり、自作自演、フルトヴェングラーなど、名演奏が揃っています。東ドイツのケーゲルも素晴らしい演奏です。
ケーゲル=ドレスデン・フィル
ケーゲル=ドレスデン・フィルの録音は昔から定番とされてきた名盤です。シュターツカペレ・ドレスデンの演奏では無いですが、いぶし銀の音色は近いものがあります。これはシャルプラッテンの録音技術の問題もあるかも知れませんけど。
録音は1984年なので古くは無いのですが、録音技術的に今一つで、特にダイナミックレンジが狭いですね。これでデジタル録音のようです。演奏はかなり良く、ケーゲルはヒンデミットの交響曲の持つ皮肉や破滅的な所を遠慮なく表現しています。リマスタリングなど出来ないのですかね?
第1楽章は冒頭の破滅的なカオスをこれでもか!とばかりに何の躊躇もなく演奏しきっています。ケーゲルの場合、表現しているのではなく、本音なのだと思います。この録音から3年後に東ドイツは統一されるのですから。もう少し音質が良ければダイナミックだったのでは?と思います。第2楽章は、前半はドイツの自然を思わせるような木管のソロが味わい深く、後半は金管が出てきてグロテスクさがありますが、また少し違った味わい深さがあります。第3楽章はいぶし銀のような弦の重厚な響きから始まります。金管のソロ、特にトランペットのレヴェルが高く、ドレスデン・フィルは好調です。ケーゲルの指揮のせいか、ダイナミックさだけでなく深みが感じられます。この曲はそれほど深みがある曲でも無いのですが、ケーゲルにとても合っているんでしょうね。
カップリングのピッツバーグ交響曲は、この作品の唯一の録音です。ピッツバーグ交響曲は別ページで書きたいと思いますが、最も変な交響曲として有名です。ヒンデミットに興味があるなら、このディスクは必ず入手すべきです。ケーゲルは1979年以降、良く単身で来日し、NHK交響楽団の指揮もしました。その演奏もいくつか残されています。
ムラヴィンスキー=レニングラード・フィル
ムラヴィンスキーとレニングラード・フィルによる壮絶な演奏です。この大迫力は、まさに壮絶に一言に尽きます。古い録音ですが、リマスタリングによって音に艶が出たように思います。録音の古さは全くハンデになっていませんし、この壮絶な演奏をきちんと収録出来ているのだから凄いですね。
第1楽章は最初から最後までレニングラード・フィルが全開です。最初に聴いたときには腰を抜かすかと思いました。ちょっとストレート過ぎる所はありますけど、こんな演奏は他にはないし、今後も出て来そうにないですね。第2楽章はクールでひんやりした響きです。ムラヴィンスキーは真面目なので「皮肉」という言葉は彼の辞書にはありません。ひたすら真摯に曲に向き合っています。ヴィブラートのかかった金管は、本当に圧倒的です。ただ内面の深みは、ケーゲルの方が上でしょうか。第3楽章はまた対位法を使って盛り上がっていきます。爆発的ともいえる壮絶さは金管やパーカッションに限らず、全パートが凄いです。グロテスクさもあります。ただ、ヒンデミットの場合、シニカルさをある程度、表現しないと何か足りないものを感じてしまいます。ラストは転調して圧倒的なフィナーレとなります。
このCDは『世界の調和』に興味があるなら必聴です。こんな凄い演奏他にはありません。当時ソヴィエトのムラヴィンスキーが西側で書かれたこの『世界の調和』というタイトルの曲でここまでの名演を繰り広げていること自体に価値があります。カップリングのオネゲル交響曲第3番『典礼風』も同じ壮絶な演奏で、カラヤン盤とタメをはる名演です。深みはどちらもそれほどでもないですけれど。
ヒンデミット=ベルリン・フィル
自作自演なので『世界の調和』の本質を良く掴んでいます。指揮もとても上手くベルリン・フィルを自在に操っています。録音状態も良く適度な残響があり聴きやすいです。
第1楽章は弦のカオスをしっかり再現しています。スケールが大きいです。ムラヴィンスキーのような厳しさはあまり感じませんね。厳しさもある曲だと思いますが、自作自演では引き締まった響きではなく、スケールの大きさがあります。ポイントをしっかり押さえているので、充実した演奏となっており、フルトヴェングラーには敵いませんが味わいもあります。後半はスリリングになっていきます。第2楽章は非常に良い演奏で、空虚にならず味わいがあり、飽きることはありません。第3楽章は長いカノンですが、ベルリン・フィルのスケールの大きな響きを活かして盛り上がります。途中で味わい深い個所がいくつもあります。ラストも盛り上がりは凄いものがあり、さすがベルリン・フィルです。
フルトヴェングラー=ベルリン・フィル
フルトヴェングラーの録音はあまり音質が良くないですが、ヒンデミットの友人でもあったフルトヴェングラーの演奏は聴いておくべきかも知れません。
迫力という点では、録音の悪さもあって物足りないですが『世界の調和』の本質をつかんでいる演奏です。フルトヴェングラー独特の感情表現が素晴らしく、暖かみと味わい深さのある名盤です。この曲は他の曲に比較すると、ダイナミックさが中心で奥の深さが少ない曲のように思っていたのですが、フルトヴェングラーの演奏からはそういった物は全く感じられず、全曲感情を入れてしなやかに演奏しています。録音が良ければ、おそらくかなりの迫力だったのではないか?と思います。
ブロムシュテット=ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
ブロムシュテットはヒンデミットに力を入れ、レヴェルの高いディスクを残しています。最近の演奏なので、音質はとても良いです。ただ、ヒンデミットやムラヴィンスキーらと比べると感情表現がすっきりしすぎな所もあります。しかし、ツボをしっかりついていて聴き所は上手く聴かせてくれます。音質がいいヒンデミットを聴きたい場合はこのディスクは最右翼ですね。
第1楽章のカオスはかなり思い切り演奏していて迫力があります。テンポが速めで詰めていくのでスリリングさがあります。ゲヴァントハウスはあくまで透明感のあるサウンドですっきりしています。第2楽章は、なかなか味わい深いです。透明感があり、緩徐楽章といったテンポが遅めの演奏です。ただテンポの変化も大きく、その辺りは得意曲なんだな、と思います。第3楽章は透明感があるので、対位法が綺麗に聴こえます。ゲヴァントハウスの木管の響きも味わいがあります。静かな部分も録音の良さが生きています。後半、複雑なオーケストレーションも綺麗に聴かせてくれます。最後はとてもダイナミックです。
少し好みの分かれそうな演奏ですが、質が高く、本質を突いている演奏だと思います。
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楽譜・スコア
ヒンデミット作曲の世界の調和の楽譜・スコアを挙げていきます。
スコア
電子スコア
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