交響曲「世界の調和」は、ヒンデミット(1895−1964)の最高傑作の一つである。それにも関わらず、この作品が演奏される機会が少ない事が、私は残念でならない。
この交響曲は、ヒンデミットが1930年代に作曲した同題のオペラを、彼が、交響曲に編曲した物で、元のオペラは、ドイツの天文学者ケプラー(1571−1630)を主人公とした物であった。−−題名の「世界の調和(Die Harmonie der Welt)」とは、ケプラーの著作の名前である。
このオペラの作曲に取り組んで居た同時期に、ヒンデミットは、ドイツの画家マティアス・グリューネヴァルト(1470/50−1528)を題材にした交響曲「画家マチス」をも作曲して居る。第三帝国に反逆したヒンデミットが、その第三帝国成立の前後に、ドイツの過去の精神的伝統を体現した個人であるケプラーやグリューネヴァルトを題材にした作品に取り組んで居た事は、興味深い。
このCDは、その交響曲「世界の調和」を、フルトヴェングラーが演奏した歴史的演奏の録音である。フルトヴェングラーは、ヒンデミットの良き理解者であり、「画家マチス」の演奏を巡って、ゲッペルスと対立してまでヒンデミットを擁護した事で知られる指揮者であった。従って、このCDの歴史的価値には大きな物が有る。ただし、演奏は、今ひとつである。「世界の調和」には、ムラヴィンスキーが1965年にモスクワ大音楽院ホールでこの曲を演奏した際のライブ録音が有り、それが余りに素晴らしいので、この名盤すら聴き劣りがしてしまふ事は否定出来無い。しかし、貴重な録音である。買ひ求める事をお薦めする。
(西岡昌紀・内科医)