ウェーバーの主題による交響的変容(ヒンデミット)

パウル・ヒンデミット (Paul Hindemith,1895-1963)作曲のウェーバーの主題による交響的変容 (Symphonic Metamorphosis of Themes by Carl Maria von Weber)について、解説おすすめの名盤レビューをしていきます。またスコアへのリンクも貼っておきます。

「ウェーバーの主題による交響的変容」の解説

ヒンデミットウェーバーの主題による交響的変容について解説します。

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『ウェーバーの主題による交響的変容』はヒンデミットの代表作の一つであり、もっとも有名な曲の一つになりました。もちろんヒンデミットなので不協和音なども多いですけれど、ヒンデミットの作品の中でももっとも親しみやすい曲です。そして曲のクオリティも高く、コンパクトにまとまった名曲です。

聴きどころは結構ありますが、第2楽章が特に面白く、シニカルというより悪乗りという感じで盛り上がっていきます。最初は普通の変奏曲ですが、中間位からスウィングが入り、ジャズの雰囲気で盛り上がります。この曲のもっとも特徴的な音楽ですね。

また人気もある曲で、ヒンデミットの楽曲集ディスクには入っている場合が多く、他の曲とカップリングされることも多いです。そのため結構沢山の演奏がリリースされていますし、ベルリンフィルとの自作自演も名演奏です。

このページでは「ウェーバーの主題による交響的変容」を聴き比べてみたいと思います。

作曲の経緯

ナチス政権下のドイツで「ヒンデミット事件」以来、パウル・ヒンデミット(Paul Hindemith, 1895~1963)の作品は上演禁止となりました。ヒンデミットはベルリン音楽部長をやめ、1938年にスイスに移住、そして1940年にアメリカにわたります。そしてニューヨーク近郊のエール大学音楽部長に就任します。

「ウェーバーの主題による交響的変容」は1943年に作曲され、翌1944年にロジンスキの指揮とニューヨーク交響楽団によって初演されました。渡米後の作品の中でもっとも成功した作品となりました。

クーベリック=バイエルン放送交響楽団の快演!

楽曲の構成

交響曲の様式で4つの楽章から成り立っています。規模からいうとシンフォニエッタという雰囲気でしょうか。

各楽章のモチーフは全部カール・マリア・フォン・ウェーバー (1786~1826) の作品から採っています。ウェーバーは歌劇「魔弾の射手」で有名な作曲家です。ドイツ・オペラの流れの中にあり、モーツァルトとワーグナーをつなぐ位置づけの作曲家で、ドイツロマン派で重要な作曲家の一人です。当時、ヒンデミットは「反ロマン主義者」と見られていたため、ウェーバーの作品を主題として取り上げたことは意外なことです。

この曲が作曲されたきっかけは1940年に、バレエ・リュスの振付師で有名なレオニード・マシーンが、ウェーバーのピアノ曲をバレエ用の管弦楽曲に編曲してくれるようにヒンデミットに依頼したことから始まっています。ヒンデミットはただ編曲する代わりに、この「ウエーバーの主題による交響的変奏」を作曲しました。その結果、ロマン主義の音楽とは程遠い、ヒンデミットらしい楽曲になりました。

「ウェーバーの主題による交響的変容」の主題

ウェーバーの作品の以下の曲を引用しています。
第1楽章:
 ピアノ連弾曲「8つの小品」作品60の第4曲
第2楽章:
 劇付随音楽「トゥーランドット」のスケルツォ
第3楽章:
 ピアノ連弾曲「6つの小品」作品10の第2曲
第4楽章:
 ピアノ連弾曲「8つの小品」の第7曲

その後、マシーンがこれをバレエ音楽として踊ったかは記録がないので、使わなかったのでしょう。ライバルのバランシンは1952年に初演されたバレエでこの曲を使用しています。

「ウェーバーの主題による交響的変容」の名盤レビュー

それでは、ヒンデミット作曲ウェーバーの主題による交響的変容名盤をレビューしていきましょう。

アバド=ベルリン・フィル

凄いスリリングさと緻密なアンサンブル!
  • 名盤
  • 定番
  • スリリング

超おすすめ:

指揮クラウディオ・アバド
演奏ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

1995年2月,ベルリン,フィルハーモニー (ステレオ/デジタル/セッション)

アバドとベルリン・フィルの録音です。アバドは「ウェーバーの主題による交響的変容」をよく演奏していますし、録音も少なくとも2回目です。ベルリンフィルはヒンデミットが自作自演で指揮したりと、ヒンデミットに関連が深いオーケストラです。

ただアバドはドイツ人ではなくイタリア人なので、特にリズム感の強い個所は、というかこの曲の場合3/4位、鮮烈なリズムのある曲ですけど、ロッシーニのようにスリリングに演奏します。

全体的に名演奏ですが、第2楽章トゥーランドットはとてもスリリングです。ジャズ風なスウィングも楽しく聴かせてくれます。録音の解像度が良いこともあってか、木管楽器の細かい対位法が隅々まで聴こえてきて、とても精緻なアンサンブルです。

ヒンデミットの自作自演で見られるようなドイツ的な重厚さは無く、むしろ軽快でスリリングな演奏で、精緻なアンサンブルが聴きものです。

ブロムシュテット=サンフランシスコ交響楽団

スタンダードというに相応しい名盤、サンフランシスコ響も上手い
  • 名盤
  • 定番
  • 職人的
  • 透明感
  • 高音質

おすすめ度:

指揮ヘルベルト・ブロムシュテット
演奏サンフランシスコ交響楽団

(ステレオ/デジタル/セッション)

ブロムシュテットとサンフランシスコ交響楽団の録音です。ブロムシュテットは速めのテンポで軽快に演奏しています。オーケストラはサンフランシスコ交響楽団ですから非常に上手い演奏です。サウンドは透明感があり、管楽器を中心に完璧なアンサンブルで素晴らしいです。録音の音質も大変良いですね。

テンポ設定も適切ですし、リズムのノリも良いです。ただ悪い所は見つからないのですが、特別に個性的だったり、面白かったり、という演奏では無いですね。例えば、次の「弦楽と金管のための協奏音楽」は上手いですが、ヒンデミットとしては物足りない感じがします。もっとギスギスした演奏の方がいいので…

この「ウェーバーの主題による交響的変容」に関しては曲の持つ魅力を良く引き出した名演で、スタンダードとしてレヴェルの高い演奏をしています。

エッシェンバッハ=北ドイツ放送交響楽団

  • 名盤
  • 定番

おすすめ度:

指揮クリストフ・エッシェンバッハ
演奏北ドイツ放送交響楽団

2012年10月24.26日,ハンブルク,ライスハレ (ステレオ/デジタル/セッション)

エッシェンバッハと北ドイツ放送交響楽団による録音です。エッシェンバッハの指揮は少し久々に聴いた気がします。オーケストラはドイツの重厚さのある北ドイツ放送交響楽団ですね。ヴァントと共演していたからか、ドイツのオケとしては細かいところまでしっかりまとめてくるオケです。

エッシェンバッハは良いテンポ取りで、少し個性的な演奏を聴かせてくれます。第1楽章も細かくテンポを調整していて驚きました。第2楽章は少し遅めで演奏しています。悪ノリ感は少ないのですが、しっかりした演奏で飽きさせません。パーカッションやベルなど色彩感がしっかりあります。第3楽章はしなやかに歌わせています。第4楽章も速すぎず、遅すぎず良いテンポ設定で良い演奏です。それにしてもあの北ドイツ放送交響楽団からドイツ的な重厚さはそのままに色彩感を引き出しています。エッシェンバッハは見た目はパーヴォ・ヤルヴィそっくりですが、演奏は大分違っていて、感情表現が上手いですね。

音質も新しいのでとても良いです。なお、カップリングのヴァイオリン協奏曲のVnソリストは五嶋みどりです。

このディスクにも「弦楽と金管のための協奏音楽」が入っていましたが、こちらはさらに面白い演奏でした。上のブロムシュテット盤よりヒンデミットの本質をついているように思います。

ヨッフム=ロンドン交響楽団

パーカッションが素晴らしくリズムが癖になる名盤
  • 名盤
  • 定番
  • ライヴ

超おすすめ:

指揮オイゲン・ヨッフム
演奏ロンドン交響楽団

1973年,ロンドン,ロイヤル・フェスティヴァル・ホール (ステレオ/アナログ/ライヴ)

オイゲン・ヨッフムとロンドン交響楽団の録音です。ヨッフムは割と穏健な音楽を得意とする指揮者に思えるのですが、カール・オルフの「カルミナ・ブラーナ」を初演したりと、現代の作曲家とも親交が深かったようです。

ヒンデミットのスタジオ録音は無いようですが、このライヴ録音はなかなか面白く味のある演奏です。ただ最初に言っておきますが、録音がいまいちです。細かい所は聴こえてこないですし、強い音が少し潰れている感じで、慣れが必要かも知れません。

ヨッフムのテンポ取りは速めでとても的を射ています。第2楽章はティンパニやベルなど打楽器の類が良く入っていて、リズムが癖(くせ)になります。ロンドン交響楽団を遠慮なく鳴らしていて、そうするとダイナミックなサウンドを持つオケだけに爆演と言ってもいい個所も結構あります。

また、第3楽章も味があって良いのです。第3楽章でこんなに味のある演奏はそれほどないので、貴重ですね。

第4楽章もダイナミックで素晴らしいです。ブラボーコールの嵐なので、やはり録音がダメなだけであって、本当にダイナミックな演奏だったのだと思います。

クーベリックらに近いドイツ系の名演奏の一つとしてヨッフム盤を入れておきたいと思います。

クーベリック=シカゴ交響楽団

  • 名盤
  • 定番

おすすめ度:

指揮ラファエル・クーベリック
演奏シカゴ交響楽団

1953年4月 (ステレオ/デジタル/セッション)

クーベリックとシカゴ交響楽団による録音です。第1楽章は意外に遅めのテンポで進んでいきます。第2楽章トゥーランドットはクーベリックは速めのテンポでグイグイ進めていき、スウィングのかかる個所も非常に楽しめる演奏になっています。低音がしっかりしていてドイツ的な重厚感もありますし。ただ録音は少し古さを感じさせます。

ヒンデミット=ベルリン・フィル

  • 名盤
  • 歴史的名盤
  • ダイナミック

おすすめ度:

指揮パウル・ヒンデミット
演奏ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

(ステレオ/デジタル/セッション)

ヒンデミットとベルリン・フィルの録音です。ヒンデミットの自作自演は、かなり上手いです。曲によっては他に録音が少ないこともあって、自作自演がいちばんいい演奏だったりもします。録音年代が古いとはいえ、ベルリンフィルですしね。

この「ウェーバーの主題による交響的変容」は、少しリズムが甘い感じです。もちろん悪い演奏ではありませんが、アバドのように精緻な演奏とは違い、余裕を持った演奏だと思います。一方、緩徐楽章は低音域がしっかりしていて、少し厚めの響きを出しています。ヒンデミットがドイツの作曲家であることが分かりますね。またこのBOXは、ヒンデミットの主要な楽曲が8割くらい入っているので、これとEMIのディスクを買えば、一通りの主要な曲を聴くことが出来ます。

正直、最初の一枚としてこのBOXを買ったとしても、音質は悪いですがヒンデミットの本質をついた演奏ばかりなので損はないですね。

山田和樹=仙台フィルハーモニー

  • 名盤

おすすめ度:

指揮山田和樹
演奏仙台フィルハーモニー

2013年1月,仙台市青年文化センター・コンサートホール (ステレオ/デジタル/セッション)

山田和樹が2012年のシーズンから、仙台フィルの「ミュージックパートナー」に就任しましたが、そのお披露目コンサートをライヴ録音したディスクです。このCDのメインは「パガニーニの主題による狂詩曲」ですが、”ヴァリエーション”でまとめてヒンデミットの「ウェーバーの主題による交響的変容」を演奏してしまうのは、上手い選曲ですね。

山田和樹の丁寧で、しなやかなまとめ方もあって、仙台フィルは演奏し易そうですね。金管楽器がとてもハイレヴェルで想像していたより、ずっと名演奏でしたので挙げておきます。

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楽譜・スコア

ヒンデミット作曲のウェーバーの主題による交響的変容の楽譜・スコアを挙げていきます。

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