パウル・ヒンデミット (Paul Hindemith,1895-1963)作曲の吹奏楽のための交響曲変ロ調 (Symphony in B for Concert Band)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。最後に楽譜・スコアも挙げてあります。
『吹奏楽のための交響曲』は、まさに現在の吹奏楽の編成に近いバンド向けの交響曲で、ホルストの吹奏楽のための組曲と並んで、クラシックの大作曲家による吹奏楽作品として親しまれています。ホルストの吹奏楽曲は中高生の吹奏楽部で良く演奏されます。ヒンデミットの交響曲は曲調も技術的にもずっと難解で、レヴェルの高い吹奏楽団が演奏することが多いですね。
解説
ヒンデミットの吹奏楽のための交響曲変ロ調について解説します。
アメリカでのヒンデミット
アメリカに亡命したヒンデミットですが、1950年代に3つの重要な交響曲を作曲しています。その最初の一つが本曲(吹奏楽のための交響曲 変ロ調)、2つめは有名な交響曲『世界の調和』、3つ目はユニークな「ピッツバーグ交響曲」です。
作曲と初演
ヒュー・カーリー陸軍少佐は、ヒンデミットをU.S.アーミー・バンドの客演指揮者としてワシントンD.C.で開催されるコンサートに招聘しました。そのために作曲されたのがこの交響曲です。ヒュー・カーリーの委嘱で1951年に作曲されました。
初演は1951年4月5日にヒンデミット自身が指揮と上記アーミー・バンドによりワシントンD.C.で行われました。1952年にショット社から出版も行われました。
編成は26人の木管、17人の金管、3人の打楽器ということで、現在の日本の吹奏楽に近い編成です。
曲の構成
全体は3楽章構成になっています。交響曲ですが、その枠の中でフーガなど、対位法を多く使用している技巧的な名作です。
■第1楽章
ソナタ形式です。巧妙な対位法を使用しています。展開部はフガートで対位法の手法を使って展開されていきます。
■第2楽章
緩徐楽章とスケルツォが一緒になったような音楽です。
■第3楽章
自由なフーガです。短い序章の後、主部はアレグロ・エネルジーコです。二重フーガが展開されていきます。
おすすめの名盤レビュー
それでは、ヒンデミット作曲吹奏楽のための交響曲変ロ調の名盤をレビューしていきましょう。
フェネル=イーストマンのCDがあるのですが入手困難でした。しかし、この曲が入っているCD自体は大分増えましたね。全てはレビューできませんが色々挙げておきます。
この曲は、自作自演が2つ残されています。この自作自演を超える演奏は多分ないと思います。ヒンデミットは指揮が上手いですし、ヨーロッパの一流オケの管楽セクションが演奏している訳で、とても上手いです。
2つの自作自演ですが、一つはバイエルン放送交響楽団の演奏です。手元にあるのですが録音が悪いですが力強く、ヒンデミットの意図が良く伝わってくる演奏です。もう一つがこのフィルハーモニア管弦楽団との演奏ですが、こちらの方が録音状態が良く、大分イメージが違います。前者はCDでは売っておらず、後者はありますがCDをエアメールで送ってもらうよりMP3を買ったほうが良さそうです。
フィルハーモニア管弦楽団との演奏は、録音状態が良く、きちんと吹奏楽の音色が色彩的に聴こえます。オーケストレーションの細かい所まできちんと収録できていて、スコアを見ながら聴けば色々な発見がありそうな演奏です。またヒンデミットらしいダイナミックさで、譜面に書ききれていない感情面がよく分かります。そういう意味ではバイエルン放送交響楽団の演奏がもっと録音が良ければ、そちらの方がお薦めだったかも知れません。いずれにしても名盤です。
レイニッシュ=王立ノーザン音楽大学ウィンド・オーケストラ
イギリスの大学の吹奏楽団でしょうか。さすがイギリス人でガタイが大きいのでしょうけど、金管の上手さは素晴らしく、音量や響きは重厚です(金管は頭部の空間で共鳴するので大きい方が有利)。この重厚さはヒンデミット演奏では大事だと思います。録音も良く細かい所までしっかり録音されています。自作自演よりも格段に録音が良いのと、ダイナミックさもあるので聴いていて満足感が高いです。
多分、この人たちはあるいは指揮者はヒンデミット=バイエルン放送交響楽団のCDを聴いているんでしょう。全体的にダイナミックでまとめ方が似ています。第2楽章のエグいサックスまで一緒です。第3楽章のダイナミックさ、テンポ取りなど自作自演を参考にしてますね。それだけでなく細かい所までスコアをしっかり再現しているうえに、ソロが上手いのでとても聴きごたえがあります。最後はダイナミックな終わり方で、充実感があります。
筆者は楽譜に全てを書ききれると思わないので、過去の音源を参考にすることに対して賛成です。ただの真似だとつまらないですが、楽譜では伝えられないものがあるのは、ショスタコーヴィチやバロック音楽の楽譜と演奏を見比べれば一目瞭然です。時代背景はとても大事ですね。
飯森範親=大阪市音楽団
オーケストラで活躍する飯森範親と大阪市音楽団の演奏です。ダイナミックさは自作自演に敵いませんが、演奏のクオリティは高いです。2018年と最近の録音で高音質でライヴですが、演奏レヴェルは高いです。ヒンデミットのオーケストレーションが埃(ほこり)を落として蘇ったような鮮度です。対位法的な動きも聴いていてよく分かります。オーケストラ界で世界的に活躍する飯森範親氏の指揮による所も多いと思いますが、単に譜面を音にしただけの見本演奏では無く、さらに一歩踏み込んで、この曲の面白さを表現しています。第2楽章、第3楽章など「なるほど」と思える表現が結構あります。最近の日本のオケや吹奏楽団のレヴェル向上は凄いものがありますが大阪市音楽団もこんなに上手くなっていたのですね。
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楽譜・スコア
ヒンデミット作曲の吹奏楽のための交響曲変ロ調の楽譜・スコアを挙げていきます。
スコア
Symphony in B-flat for Concert Band: Score
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