
パウル・ヒンデミット (Paul Hindemith,1895-1963)作曲の組曲『気高き幻想』 (Nobilissima visione)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。ワンストップでスコアと楽譜まで紹介します。
解説
ヒンデミットの気高き幻想について解説します。
組曲『気高き幻想』(気高い幻想、いとも気高き幻想、至高の幻想などの別名あり)は、ヒンデミットが1938年に作曲したバレエ用の組曲です。
実際聴いてみると、1938年という時代を反映して、科学技術を突き詰めて物質文明の理想に邁進する、人間たちの愚かさを表現しているようです。リズミカルで楽しい音楽、輝かしい音楽でありながら、何故か空虚さを感じさせるヒンデミットらしい名曲です。ヒンデミットはこの直後、ナチスドイツを逃れ、アメリカに亡命することになります。
「アッシジのフランチェスコの生涯」を描いた曲、とありますが、それだけでは語れない同時代の矛盾した理想主義への皮肉を、とても上手く埋め込んでいます。他の曲よりも分かり易い表現です。
また、パストラールやパッサカリアなどの古典形式が用いられ、巧妙な対位法を使ったうえで、皮肉を交えた表現がされています。パストラールは理想郷、といった意味合いですが、まるで自然の山を崩して平坦にし、団地を造成するような暴力的とも言える音楽ですね。戦後、日本では物質的な成長を追い求めて、実際にそういう宅地造成がされましたが、この曲を聴くとそれを連想してしまいます。
第1曲:導入部とロンド
第2曲:行進曲とパストラール
第3曲:パッサカリア
おすすめの名盤レビュー
それでは、ヒンデミット作曲気高き幻想の名盤をレビューしていきましょう。
ケーゲル=ドレスデン・フィル (1980年)
ケーゲルとドレスデン・フィルの録音です。ケーゲルはヒンデミットを得意としていて『ピッツバーグ交響曲』の名盤が有名です。しかし、本盤はこのコンビのディスクの中でも録音の音質が良く、生き生きとした名演となっています。ヒンデミットの自作自演以外で、ここまでリアリティがあって共感がある演奏は他にないと思います。
第1曲の冒頭から、表情豊かで味わいがあります。特に弦セクションの音色はいぶし銀の深い音色で、ケーゲルとドレスデン・フィルの良さが良く出ています。録音も良く、表情豊かな表現を立体的に捉えています。第2曲は軽快なテンポでリズミカルに進みますが、たまに現れるギシギシとした弦の音色が素晴らしく、シニカルさのあるこの曲を良く再現しています。後半は、さらに深みが増し、清々しく神々しさすら感じる演奏です。こういう演奏が出来るのはケーゲルならではです。
第3曲は金管がしっかりした音色で輝かしい響きを出しています。それが輝かしいというより、空虚さを上手く表現している所が素晴らしいです。パッサカリアの繰り返しを活かしてダイナミックに大袈裟に盛り上がっていきます。ヒンデミットの表現したいことを十二分に表現した名演ですね。
短い曲ではありますが、ヒンデミットらしい音楽を満喫できる名盤です。
ヒンデミット=フィルハーモニア管弦楽団
ヒンデミットの自作自演です。演奏はフィルハーモニア管弦楽団です。少し古い録音ですが、とてもリアリティがあり、ヒンデミットの表現したいことをしっかり表現しています。この曲の本質を知りたいなら、このディスクは外せません。
第1曲は味わい深いフィルハーモニア管弦楽団の弦セクションの響きで始まります。ケーゲルほど、いぶし銀の響きではありませんが、厚みがあって良い響きです。後半も少し神々しさのある弦の響きが印象的です。第2曲は行進曲というよりお祭りのような軽快なリズムで面白いです。フルートやピッコロの雰囲気はまさに日本のお祭りですね。その後出てくる弦の響きは味わいがあります。楽天的で暴力的とも言えるホルンの咆哮が印象的です。パストラーレの特徴的なリズムを上手く使ってパーカッションと金管の無機的なリズムになっています。リアリティがあって密度の濃い演奏です。
第3曲は輝かしい金管中心のパッサカリアです。ダイナミックに盛り上がりますが、意外に遅めのテンポですね。自作自演なので、この位のテンポを想定して作曲されているのですね。本来のパッサカリアはもう少し早いテンポですが、これは最近の古楽器ブームの成果です。途中の木管の個所は味わい深いです。ラストは大胆にスケール大きくダイナミックに盛り上がります。
アバド=ベルリン・フィル (1995年)
アバドとベルリン・フィルの定評ある名盤です。アバドはヒンデミットを得意としています。また、ベルリン・フィルのレヴェルが高くダイナミックな特性を良く活かしています。リアリティではケーゲルや自作自演には及びませんが、現代的でクオリティの高い名盤です。
第1曲はしなやかで厚みのある弦セクションの響きですが、アバドらしい明晰さを伴っています。録音の良さによる透明感もあります。第2曲は中庸なテンポでリズミカルに演奏されています。木管セクションのアンサンブルレヴェルの高さが印象的です。弦と金管によるギシギシしたパストラーレもクオリティの高いアンサンブルとベルリン・フィルの機能性が活きています。後半は、透明感があり、教会にいるような雰囲気です。
第3曲のパッサカリアは名演で、速めのテンポで心地よく演奏されています。対位法的な絡みが良く出ていて面白いです。さすがベルリン・フィルで、綺麗な響きのままダイナミックに盛り上がります。ラストは明晰で引き締まったダイナミックさで曲を閉じます。
このディスクは特に『画家マティス』と『ウェーバーの主題による交響的変容』が素晴らしく、組曲『気高き幻想』のその間にあって少し地味ですが、高音質でクオリティの高い演奏です。
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楽譜・スコア
ヒンデミット作曲の気高き幻想の楽譜・スコアを挙げていきます。
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