ポール・デュカス (Paul Dukas,1865-1935)作曲の交響的スケルツォ『魔法使いの弟子』 (Scherzo symphonique “L’apprenti sorcier”)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。
デュカスの作品の中でも、アニメ映画ファンタジアで取り上げられ、有名になった作品です。有名な割にあまり演奏機会もなく、CDも少ないですが、クラシック音楽の親しみやすいファンタジー作品として、アマチュア・オーケストラなどで演奏されます。
解説
デュカスの魔法使いの弟子について解説します。
デュカスは才能ある音楽家でしたが、完璧主義で残された作品の数も少なく13曲しかありません。デュカス自身が認めなかった作品を破棄してしまったためです。その中で最も有名なのが交響的スケルツォ『魔法使いの弟子』です。
1897年に作曲されました。小品ですが、内容の密度は高く、ワーグナー、ドビュッシー由来の色彩的な管弦楽法、ドビュッシー由来の全音音階の使用、フランク由来の構成、など小気味良いまとまりのある名作です。特に色彩的な音楽はラヴェルにも影響を与えたと言われています。
筋書きがあり、ゲーテのバラード『魔法使いの弟子』(Der Zauberlehrling)に基づいた作品です。
老いた魔法使いが、若い見習いの魔法使いに雑用をさせて、工房から出かけます。
見習いの魔法使いは、言いつけられた水汲みに飽き飽きしてきます。そこで箒(ほうき)に魔法をかけて自分の身代わりに、水汲みをさせることにします。しかし、まだ魔法を十分に使えない見習いは、箒を完全にコントロールすることが出来ませんでした。箒はどんどん水を汲んできて、水を溢れさせ、床は水浸しとなっていまいます。
魔法の止め方が分からない見習い魔法使いは、箒を2つに割りますが、2つの箒はそれぞれ水汲みを続け、手が付けられなくなってしまいます。
そこに魔法使いの師匠が返ってきて、箒の魔法を解き、弟子を叱りつけます。
ディズニー映画ファンタジア(1940年)では、見習い役をミッキーマウスが演じたため、大変人気が出ました。
このゲーテのバラードは古代ローマ時代のギリシャの作家ルキアノス(サモサタのルキアノス, 120-180頃)の著作を元にしています。彼はシリア(アッシリア)に生まれ、ギリシャのアテネ(アテナイ)で哲学、医学などを学び、弁論活動しました。そしてギリシャ語で80以上の作品を残しています。ただし、ルキアノスの創作ではないものも含まれるとされています。なので、このストーリーももっとずっと古い話かも知れません。
曲の構成
交響的スケルツォ『魔法使いの弟子』の演奏時間は11分程度です。
ピッコロ、フルート×2、オーボエ×2、クラリネット×2、バスクラリネット、ファゴット×3、コントラファゴットまたはコントラバス・サリュソフォーン
ホルン×4、トランペット×2、コルネット×2、トロンボーン×3
ティンパニ×3、シンバル、サスペンデッドシンバル、トライアングル、バスドラム、鍵盤付きグロッケンシュピール、ハープ
弦五部
おすすめの名盤レビュー
それでは、デュカス作曲魔法使いの弟子の名盤をレビューしていきましょう。
ロト=レ・シエクル
ロトとレ・シエクルはベートーヴェンなどをやるとかなり大胆な演奏をしてきます。しかしフランスのオケだけあって、フランス物は安心して聴けます。その中でもデュカスは知られざる名作が多い作曲家で力が入っています。
速めのテンポで小気味良く進みますが、恐らく作曲当時も速めのテンポだったと思います。色彩感も十分で、低音域が弱いことによるオーケストラの音色を逆に上手く生かして、淡い音色や柔らかい色彩感のある響きになっています。デュカスのいくつかの作品を聴いてみると、この音色はとてもデュカスにあっていると思います。
作品のストーリーの表現もダイナミックでスリリングで迫真の演奏で素晴らしいです。カップリングはあまり聴けない曲目です。折角なので、デュカス全集でも録音してほしいですね。たった13曲なのですから。
プレートルとフランス国立管弦楽団の演奏です。プレートルがこんなにデュカスを得意としていたとは初めて知りました。
この演奏は独特の切れ味の鋭さがあって、最初の弱音で弦が出てきた段階で、他の演奏とは違うブリリアントさがあります。まさに好調な時のプレートルですね。ファゴットが出てくると少し速めのテンポで進んでいきます。細かい音の粒が立っていて聴いていて心地よいです。この曲は旋律にまとわりつくように細かくて速い動きの副旋律がありますが、とても切れ味が鋭く、なるほど、と思います。アゴーギク(細かいテンポの変化)も絶妙です。盛り上がってくるとさらに速くなり、シャープに盛り上がります。後半はダイナミックでフランス国立管弦楽団がもっと上手ければ、ミュンシュ=ボストン響のような音の渦が生まれたはずです。でも、ダイナミックに盛り上がり、一旦、pになった後、シャープに終わります。
タンゴー=アイルランド国立交響楽団
ジャン=リュック・タンゴーとアイルランド国立交響楽団の演奏です。アイルランドでデュカス?と思われるかも知れませんが、アイルランドはマイクロソフトも開発拠点を置いているIQの高い土地柄です。アイルランド国立交響楽団は響きに透明感があり、パート間のバランスも良く、優れたオーケストラです。フランス出身のタンゴーが色彩的な音色を引き出しています。さすがナクソスが選ぶだけのことはあります。
演奏は、スタンダートで小気味の良さがあります。タンゴーはデュカスのスペシャリストです。録音がよく透明感があって、弱音の部分の繊細さがよく聴き取れます。リズムは溌剌としていて、輪郭がはっきりとしています。メリハリがあり表情豊かです。技術的にも透明感、色彩感もフランスのオケに引けを取りません。
ミュンシュ=ボストン交響楽団
ミュンシュと実力派オケのボストン交響楽団の演奏です。古めの録音ですが、ミュンシュらしいダイナミックな演奏です。技術的にもフランスのオケよりボストン交響楽団の方が上ですね。
前半からリズミカルで鋭くリズミカルな演奏です。後半は特に色彩感も素晴らしく、上下の音階が多い部分では音の渦を感じるような迫力のある演奏です。まるで音の洪水が、洪水のような大量の水を表現しています。迫力があるだけではない所がミュンシュの良い所で、他の演奏ではこんな音響は聴けません。
カップリングは『ラ・ペリ』、交響曲ハ長調と、最低限おさえておくべきデュカスの名作が一枚にまとまっていて、『ラ・ペリ』のファンファーレもバレエ曲も名演です。恐らく今、入手できる最も優れたデュカスです。
アルミン・ジョルダンとフランス国立放送フィルの演奏です。『魔法使いの弟子』のみ、スイス・ロマンド管弦楽団ではないですね。
アルミン・ジョルダンはいつも通り透明感のある色彩感を目指して音楽づくりしていますが、フランス国立放送フィルはそこまで透明感があるオケではないのです。その代りフランス的なエスプリが割と残っているオケの一つだと思います。良い演奏ですが、指揮とオケの一体感がスイス・ロマンド管に比べると、今一つかなと思います。フランス国立放送フィルなら金管も強いですし、もっとダイナミックな演奏の方が得意だったかも知れません。
レーグナーは東ドイツの指揮者です。ベルリン放送交響楽団は東西にありましたが、東側のオケです。録音はシャルプラッテンであまり音質が良いとは言えませんが、十分聴ける音質です。ドイツ音楽のスペシャリストと思いきや、少しユニークで軽快な演奏をする指揮者で、ブルックナーも得意ですが軽快さが目立つ演奏なのです。そして、意外に色彩的な音楽が得意で、特に『白鳥の湖』は優れた演奏で味わいもあり、評価が高いです。
デュカスでもフランスのオケの演奏とは少し違った色彩感があり、じっくり聴いて味わい深さがあるものです。技術的にも素晴らしい演奏で、良い掘り出し物ですね。
佐渡裕=フランス放送フィル
佐渡裕がブサンソン指揮者コンクールで優勝した後の録音です。フランス放送フィルを振れるということもあってか、気合いが入った録音で、予想よりいい演奏です。少なくとも『魔法使いの弟子』は快演です。
やはりフレッシュさがあり、フランス放送フィルの響きとも相まって熱気のあるダイナミックな演奏となっています。気合いと緊張感もあって、ミュンシュの名盤を思い起こさせるダイナミックさのある演奏です。
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楽譜・スコア
デュカス作曲の魔法使いの弟子の楽譜・スコアを挙げていきます。
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