ポール・デュカス (Paul Dukas,1865-1935)作曲のバレエ『ラ・ペリ』 (La Peri)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。最後に楽譜・スコアも挙げてあります。
バレエ『ラ・ペリ』は、冒頭のファンファーレがとても有名で、バレエというより、ファンファーレとして単独演奏される機会が多いです。多分、聴いたことありますよね?
バレエ本編のほうが中心ですが、デュカスは曲の素晴らしさに対して、あまりにも知名度が低く、評価も不当だと思います。『魔法使いの弟子』の印象が強すぎるのかも知れません。そういう曲は、当サイトで積極的に紹介していきます!
解説
デュカスのバレエ『ラ・ペリ』について解説します。
デュカスは『魔法使いの弟子』ばかり有名ですが、実は優れた才能を持った作曲家でした。交響曲も作曲しています。晩年のバレエ『ラ・ペリ』は名作です。
作曲
舞踏詩『ラ・ペリ』はロシアバレエ団(バレエ・リュス)の依頼により作曲が開始されました。ちょうど作曲家として円熟期でした。ところが、作曲している最中にロシアバレエ団内で、妖精ペリの役をめぐってトラブルが起こり、トゥルハノヴァがペリ役を演じることに不満を持ったディアギレフにより上演は延期されてしまいます。デュカスはそのことを知っていましたが、曲は1912年に完成させました。トゥルハノヴァはデュカスの愛人だったと言われています。
初演
初演はトゥルハノヴァが妖精ペリ役として、1912年4月22日にパリ・オペラ座で行われました。結果は大成功でした。ちなみに、その時には冒頭のファンファーレは、まだありませんでした。
ファンファーレの作曲
デュカスが生前、出版した最後の作品となりました。その後、デュカスが自作の整理をしているときに、『ラ・ペリ』を見つけ、前奏用ファンファーレを追加して作曲しました。ファンファーレは近代のファンファーレの中でも名作で、ギリシャ神話を思い起こさせます。(『ラ・ペリ』の舞台はペルシャですが)
このファンファーレは、バロックのオペラなどで使用された様式で、モンテヴェルディのオペラ『オルフェオ』のファンファーレは有名です。オペラが始まる合図として、お客さんが客席に着く前に、予ベルのような位置づけで演奏されます。『ラ・ペリ』のファンファーレも同じ位置づけです。
その後の上演
小さなバレエ作品で、ファンファーレ以外は忘れられたかと思いきや、何度か振付を変えて再演されています。優れた筋書きと音楽によるものだと思います。
1931年にロンドン・マーキュリー劇場でバレエ・ランバートによりフレデリック・アシュトンの振付によるものが上演されています。アシュトンは1956年にはロイヤル・バレエ団のために新たな振付を行っています。
あらすじ
『ラ・ペリ』の台本は、古代ペルシャの神話を題材としたものです。登場人物は、妖精ペリと王イスカンデルの2人です。蓮の花、というと仏教を思い出してしまいますけれど、古代ペルシャの話ですね。
王イスカンデルは「運勢が衰えている」との宣託を得ます。そこで不老不死の「蓮の花」を探してペルシャ(現在のイラン)をさまよい歩き、地の果てまでやってきました。アフラ・マズダーの神殿に通じる階段にペリ(仙女)が胸にリュートを抱き、手にエメラルド色に輝く、蓮の花を持って眠っているのをみつけます。
イスカンデルはペリが起きないよう、そっと蓮の花を奪います。しかし、ぺリは気づいて目覚めます。イスカンデルはペリの美しさに一目惚れしますが、蓮の花は赤くなり、ぺリはイスカンデルの欲望に気づきます。蓮の花はペリのものであり、イスカンデルがそれを持っている間、蓮の花はイスカンデルの欲望、物欲を示すのです。
ぺリは妖艶に踊りだし、イスカンデルに近づくと、イスカンデルは思わず花を手放します。すると蓮の花を奪い返したぺリは光の中に消えていきました。イスカンデルは、自分がこのまま往生する定めであることを悟ります。
おすすめの名盤レビュー
それでは、デュカス作曲バレエ『ラ・ペリ』の名盤をレビューしていきましょう。
ブーレーズ=ニューヨーク・フィル
このブレーズの「ラ・ペリ」は名演ですね。ニューヨーク・フィルの金管楽器が最初のファンファーレで見事な技量を見せつけてくれます。フランスのオケだと金管が弱いことも多いので、このファンファーレは素晴らしいです。ラ・ペリのファンファーレはチューバが入っていて意外と高音域を使います。和声も独特です。
その後のバレエ音楽としてもブーレーズのシャープな指揮と、安定したニューヨークフィルのサウンドでとても充実した演奏となっています。この演奏は録音が良く透明感があって、この曲の持っている面白みをそのまま再現してくれます。色彩感のあるオーケストレーションもしっかり再現しています。ある意味、フランス風のベールを外したような演奏でもあります。
エキゾチックさや妖艶さ、フランスらしさを求めるなら、少し古くてもアンセルメやマルティノンあたりをお薦めしたい所ですけど、廃盤が多いですね。
デルヴォーはフランスの指揮者です。プーランクやサンサーンスの作品の録音を多く残しています。録音は1956年で良いとは言えませんが、色彩感も感じられる必要十分なものです。
ファンファーレは技術的にも十分クオリティが高く、フランス的な色彩感もある名演です。
バレエに入ると初演したパリ・オペラ座の底力を魅せつけられます。色彩的でエキゾチックな演奏です。弦のトリルが上手く色彩感を生み出しています。こういう色彩感は、単にトリルしている訳ではなく、フランス流の弾き方があるのですが、この時代はまだ古き良きフランスの奏法が残っています。パリのメジャーなオケの中でもパリ・オペラ座管弦楽団はフランス風の弾き方を継承しているオケです。メリハリもとても良くついていて、オケの意気込みが感じられます。
アンセルメ=パリ音楽院管弦楽団 (1958年)
アンセルメ=パリ音楽院管弦楽団の1954年の演奏です。ファンファーレと本体のバレエの部分も入っています。ファンファーレが入っていないCDもあるようなので、よく見てください。
アンセルメの演奏はさすがバレエリュスの指揮者だっただけのことはあり、録音状態が良いと言えなくてもフランス的な芳香な香りがあり、古き良き時代のフランス的な演奏です。このバレエ『ラ・ペリ』の持つ独特のエキゾチックで妖艶な雰囲気に満ちています。また、ペルシャというよりはギリシャ神話のような独特なオーケストレーションを良く生かしています。
アンセルメのCDの中でも素晴らしい名盤です。
ジョルダン=スイス・ロマンド管弦楽団
ファンファーレはセンス良く、各パートとも上手いです。録音も良いのでスラトキン盤と双璧です。バレエ本編はフランス風というよりは、透明感が高くスイスロマンド管弦楽団の響きが良く活かされています。いずれにしてもデュカスのオーケストレーションは上手く再現されており、官能性には少し欠けますが、録音が良いので意外な音が聴こえてきて、やはり名曲だな、と感心します。
アルミン・ジョルダンは職人気質で良い指揮者ですが、アンセルメほど色彩的な演奏ではありませんでした。もう少し評価されてもいい指揮者ですけれどね。また、スラトキン盤に比べると入手しやすそうですね。
ファンファーレはハイレヴェルです。録音の音質も良いため、レヴェルの高い演奏をしっかりと捉えています。ただフランスのオケですが、ファンファーレのみを見るとは、そこまでフランス的とは言えないかも知れません。
バレエの本編に入るとスラトキンらしい、しっかりしたスコアの読みの深い演奏です。フランス的で色彩的なオーケストレーションも上手く再現していて、ふわっとしたエキゾチックさや官能的な響きも上手く再現しています。録音も良いため、色彩的な響きを良く収録されていています。結構、複雑なオーケストレーションなので、1950年代、1960年代の録音だとやはり収録しきれていない部分があります。この演奏を聴くと、新たな響きに気づくので、よく分かります。ブーレーズのようにシャープで明晰な演奏では無く、伝統的なフランスらしさを良く活かしているため、比較的新しいCDの中では、この曲の良さを聴かせてくれる名盤です。
ベンツィ=ボルドー・アキテーヌ国立管弦楽団
ボルドー・アキテーヌ管弦楽団は、フランスの田舎のオーケストラですが、独特の味があります。トゥールーズ市響もそうでしたが、フランスは結構個性的なサウンドを持つオーケストラがあります。
ファンファーレは大分テンポが速めですが、小気味良く演奏されていて良いと思います。
バレエの本編は古き良きフランスのエスプリ、とは行きませんが、フランスの地方オケに残っているフランスらしさが自然に響きに出ています。ボルドー・アキテーヌ管は、まさにボルドーらしい芳醇な音色を持っています。編成が小さめなのか、パリやリヨンの一流オケほどダイナミクスはありませんが、響きは全然違います。『ラ・ペリ』も色彩的でコクのある独特のサウンドで演奏されていて、オーケストレーションとオーケストラの響きが良く合います。リラックスして聴けますし、聴いていて満足感のある演奏です。
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楽譜・スコア
デュカス作曲のバレエ『ラ・ペリ』の楽譜・スコアを挙げていきます。
推薦盤が多数挙げられており、管理人様のデュカス愛がひしひしと伝わってきました。記事にも書いておられましたが、まさに仰るとおりで、デュカス=魔法使いの弟子というイメージは(確かに世間ではそうですが)ちょっとファンとしては残念ですよね。もっと良い曲、もっとすごい曲があるのに!と私も常々思っています。さて、ラ・ペリも勿論大好きな曲で、神秘的で奥深い(ちょっと気だるい?)雰囲気が魅力だと思います。メロディーやハーモニーが素晴らしいのはもちろんなのですが、やはりデュカスの卓抜したオーケストレーションが聴きごたえ満点です。国内盤で出ていたジャン・フルネ指揮オランダ放送フィルハーモニー管弦楽団による録音も、ちょっと落ち着いていますが良い演奏の1つかと思います(ご存知でしたらすみません)。そして、交響曲ハ長調もいつか記事化していただけたら嬉しいです。
ブルタバさん、コメントありがとうございます。デュカスは好きな作曲家で、ラ・ぺりのファンファーレは高校の時から知っていましたが、交響曲ハ長調を聴いて本格的にファンになりました。交響曲ハ長調もそろそろ記事にしたいと考えています。フルネとオランダ放響は名盤の宝庫ですね。