デュトワの「ダフニスとクロエ」(全曲版)、ラヴェルは本曲を交響曲に比定しており、全曲版は1時間ちかい大曲である。柔和なモティーフがいくども繰り返されることから、心地よき一種の睡眠効果があり、緊張感をもって最後まで惹きつけるには、並々ならぬ求心力がいる。
ミュンシュ
ラヴェル:ダフニスとクロエ(全曲)
の歴史的な名演が知られているが、ここでは各楽器の特性を前面に、”名手の饗宴”といったアラカルトな魅力を出していた。対して、デュトワは純音楽的に、全体の<物語を紡ぐ>といった表題性をいかしたアプローチで、バレエというビジュアルな要素がなくとも、聴き手の想念の世界を刺激するような<真正面>からの取り組みである。
ラヴェルの最高傑作について、デュトワは自信をもって表現にいどんでいる。緻密な音楽構成のもと、微妙なニュアンスの変化に聴き手の神経の波動がセットされれば、その照準のまま最後まで音楽的な満潮・引潮に乗って曳航していく。それによって陶然としたラヴェルの世界に引き込むことは十分に可能と考えているのではないか。その試みは見事に成功していると思う。