アーロン・コープランド (Aaron Copland,1900-1990)作曲の市民のためのファンファーレ (Fanfare for the Common Man)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。
解説
コープランドの市民のためのファンファーレについて解説します。
戦争とファンファーレ
指揮者ユージン・グーセンスの委嘱により、コープランドが1942年に作曲したファンファーレです。金管と打楽器のための作品です。グーセンスは第1次世界大戦の時にイギリスの作曲家に対してファンファーレの作曲を委嘱し、イギリスの作曲家たちはファンファーレをいくつか書いています。そこで、第2次世界大戦ではアメリカの作曲家にファンファーレを依頼することにしたのです。グーセンスは当然戦争に参加する兵士のためのファンファーレを作ることを考えていました。
しかしコープランドは戦争のためのファンファーレではなく、『市民のためのファンファーレ』を作曲しました。グーセンスは驚きましたが賛同し、1943年3月12日の納税日に初演することを提案し、コープランドも同意しました。
ファンファーレの歴史
これまでのファンファーレはオペラなどの作品の冒頭で良く使われてきました。R.シュトラウスの『ツァラトゥストラはかく語りき』の冒頭や、デュカスのバレエ『ラ・ペリ』のファンファーレなどは、作品の開始を飾る音楽です。シャルパンティエの『テ・デウム』は宗教音楽の開始を告げるファンファーレです。バロック期のモンテヴェルディのオペラ『オルフェオ』のファンファーレはオペラの開始を告げるものです。
ちなみにオルフェオのファンファーレは実際はモンテヴェルディが仕えていた貴族、ゴンザーガ家を讃えるファンファーレを使ったものです。ゴンザーガ家は1328年にマントヴァ侯となり、以来その地位を世襲してきました。中世の貴族は同じようにトランペットを使ったファンファーレを持っていて、宮廷に入場する時や式典の際に演奏させていました。
20世紀ではファンファーレ単体だと、主に各国の軍隊で使われ、兵士を鼓舞するためのものでした。『市民のためのファンファーレ』はファンファーレ単体で作曲され、軍隊を鼓舞するものではなく、どちらかと言えば平和のためのファンファーレです。もちろん愛国心が根底にあることは変わりませんけれど。
これはファンファーレの歴史を考えると画期的なことと言えます。戦後はオリンピックのファンファーレの基になりました。
おすすめの名盤レビュー
それでは、コープランド作曲市民のためのファンファーレの名盤をレビューしていきましょう。
大植英次=ミネソタ管弦楽団
大植英次とミネソタ管弦楽団による演奏です。ミネソタ管弦楽団は最近、ヴァンスカが指揮者となり、その高い演奏レヴェルはシベリウスの全集によって知れ渡りました。しかし、大植英次が音楽監督だった時代にレヴェルが向上し、このCDはとても素晴らしい演奏です。録音の音質も非常によく、透明感があります。
スケールが大きく、同時にしなやかで繊細さのある演奏です。冒頭のパーカッションは銅鑼が大きめに演奏され、独特の雰囲気で始まります。トランペットはしなやかで誇り高さが感じられます。この透明感は少し神々しさを感じる位で、アテネのギリシャ神殿のようです。ホルンとの掛け合いも奇麗にはまっています。後半は力強くなっていきます。パーカッションも低音までしっかり収録されていて、迫力があります。
カップリングの『アパラチアの春』、交響曲第3番も素晴らしい演奏です。
ドラティ=デトロイト交響楽団
ドラティとデトロイト交響楽団の演奏です。ドラティの演奏はこの曲の良さを十分伝えてくれるスタンダードです。これだけ丁寧にしっかりと演奏した、クオリティと情報量の多い演奏は、他にはなかなかありません。
パーカッションのバランスの良さ、低音までしっかりと録音されています。トランペットはとても上手く、音色も艶やかです。ホルンとの絡みも丁寧で音程の良い演奏で、響きの面白さを伝えてくれます。その後の和音になる所も、音程が良く丁寧に色彩的な響きで、和音の面白さを聴くことが出来ます。後半はスケール大きくダイナミックに盛り上がります。
目下、廃盤なので、アマゾンミュージックに入会して聴くか、MP3をダウンロードですね。ドラティのコープランドは名盤だと思うのですが、他の曲も表情豊かで新しい発見も多いので、聴いていない人には是非一度は聴いてほしいですね。
ウィルソン=BBCフィルハーモニック
ウィルソンとBBCフィルハーモニックの演奏です。意欲的な企画で、コープランドのCDが4枚リリースされています。その一枚目です。二枚目以降は、かなりマイナーな曲が多く、交響曲の全集を目指しているんだろうか、と思えます。
遅めのテンポでスタンダードな演奏です。パーカッションは銅鑼も結構派手に聴こえます。トランペットは誇り高い響きで安定しています。ホルンとの掛け合いも良いです。シャンドスの録音は、最近の高音質な録音と比べると残響が長いせいか少し濁りますが、演奏は丁寧で和声進行の面白さも堪能できます。後半はダイナミックになり、盛り上がって曲を締めます。
バティス=メキシコ・クイダード・フィルハーモニカ
バティスとメキシコ・クイダード・フィルハーモニカの演奏です。メキシコ・クイダード・フィルハーモニカはメキシコのオーケストラです。この曲はアメリカを讃えたファンファーレなのでメキシコ人が共感するものではない、と思うのですが、自国を讃えるファンファーレのように演奏しています。
バティスの指揮はテンションが高く、少し乾いたドラムの音がシャープに響きます。最初のトランペットのファンファーレからは良い緊張感と誇り高さが感じられます。その後出てくる金管楽器群もしっかりしたダイナミックな演奏です。特に粗さがある演奏ではありません。技術レヴェルは高く、アメリカのオケが演奏しているような雰囲気です。
このCDは色々な演奏家が演奏しているのですが、総じて軽快でエネルギッシュな演奏が多く楽しめます。
ドナルド・ヨハノスとダラス交響楽団の演奏です。ダラス交響楽団の金管のレヴェルの高い演奏が聴けますが、最初のパーカッションの部分から個性的で面白いです。
冒頭のパーカッションは銅鑼を思い切り派手に鳴らしています。テンポはキビキビとしており、シャープでハリのある演奏です。トランペットはダイナミックでとても上手いです。ホルンとの掛け合いも面白いです。ダラス交響楽団のドライな響きが妙に『市民のためのファンファーレ』に合っています。パーカッションも後半に行くとさらに派手になり、ラストはダイナミックに盛り上がります。
カップリングは『ビリー・ザ・キッド』『ロデオ』です。テンポが速くリズミカルな演奏です。
コープランド=ロンドン交響楽団
コープランドとロンドン交響楽団の演奏です。『市民のためのファンファーレ』はシンプルな割に色々な演奏があるので、自作自演を聴くと当初の意図が分かるかも知れません。
テンポは中庸です。パーカッションは意外に派手で、野性的ともいえる位、荒々しいものです。トランペットは力強く演奏され、勢いがあります。ホルンもそうですね。楽器が増えてくるとどんどん盛り上がり、ユニークな和音や掛け合いなどと強調するよりは、ファンファーレとしてダイナミックで勢いのある方向に盛り上がります。
何かもう少し神々しさや誇り高さなどが聴けるかな、と思ったのですが、意外にスタンダードな演奏です。
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演奏の映像(DVD,Blu-Ray,他)
コープランド=ロサンゼルス・フィル
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楽譜・スコア
コープランド作曲の市民のためのファンファーレの楽譜・スコアを挙げていきます。
電子スコア
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