マルカントワーヌ・シャルパンティエ (Marc-Antoine Charpentier,1643-1704)作曲の『テ・デウム』 (Te Deum) H.146について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。最後に楽譜・スコアも挙げてあります。
曲名を見て「なにこの曲?有名なの?」と思った人は多いと思います。詳しくは解説で書きますが、シャルパンティエはフランス・バロックを代表する作曲家の一人で、冒頭の前奏曲は有名です。テ・デウムというと長そうな感じもしますが、この曲はリズミカルに進んでいくので、意外に飽きずに最後まで聴けると思います。
解説
シャルパンティエの『テ・デウム』について解説します。
シャルパンティエはリュリと同じ時代の作曲家での発展させたフランス・バロックをさらに発展させていきます。現在、フランスのバロック・ダンスで使われる音楽として有名なのは、ジャン=バティスト・リュリ、シャルパンティエ、ヘンリー・パーセル(イギリス)などです。
シャルパンティエってどんな人?
フランス・バロックは、イタリアから渡ってきたジャン=バティスト・リュリによってフランス宮廷を中心に、主に社交ダンス(バロック・ダンス)の音楽として発展してきました。
シャルパンティエは生粋のフランス人ですが、彼は逆にイタリアに渡り、ローマに留学します。そこで、バロック初期の作曲家として有名で、オラトリオというジャンルを発展させたジャコモ・カリッシミに師事しました。
帰国後はギーズ公爵夫人マリーに楽長として仕えました。その時から多くの宗教曲を書いています。
1672年ごろにジャン=バティスト・リュリと不和になった、三大劇作家の一人であるモリエールと協力関係に入ります。1680年代はパリのイエズス会系のサン・ルイ教会の楽長、1698年にはサント・シャペルより楽長として、宗教曲を書いています。『テ・デウム』も宗教音楽ですが、その中で書かれました。
イタリア・バロックは庶民も参加する機会がありましたが、フランス・バロックは宮廷内での音楽であり、あまり広い世界ではありません。シャルパンティエはリュリと異なりフランス宮廷には入らず、宗教音楽を多く作曲し、フランス・バロックを盛り上げました。
テ・デウムとは?
テ・デウムとは「賛歌」の一種です。テクストの冒頭の一文“Te deum laudamus”(われら神であるあなたを讃えん)からテ・デウムと呼ばれるようになりました。
キリスト教と言っても多くの流派があり、特にカトリック、プロテスタント、正教会(ロシアなど)では、宗教曲でも種類が大きく異なります。しかし、「テ・デウム」に関しては宗派に関係ありません。他に「テ・デウム」を書いた作曲家で有名なのは、ベルリオーズ(フランス)、ブルックナー(オーストリア)です。
イネガルを知っていますか?
冒頭のファンファーレですが、多くの演奏が付点がついたリズミカルな演奏をしています。しかし、楽譜には付点はついていません。ここがフランス・バロックの面白い所ですが、リズムを活かすために音を揺らします。これを「イネガル」といいます。
ゆっくりな演奏の時にはユラユラと揺らします。例えばバッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタなどで使われます。このファンファーレのようにダイナミックでリズムが強い場合は、強い付点になります。さらにテンポが速くイネガルをつけなくてもリズミカルなら、譜面通りでもOKです。
また、フランス風序曲で、付点音符を2重付点音符にして、鋭いリズムにしますが、これも一種のイネガルです。これは例えばロッシーニの『セビリアの理髪師』序曲などまで影響を与えています。ただ、長さは決まっていません。そこはセンスの問題です。
上のほうに貼ったYouTubeはイネガルがついています。これが現在、一般的です。もっと速くなるとイネガルなしでも十分リズミカルになり、必ずしもイネガルは必要ないです。
昔(バロック奏法以前)はイネガルもなく、遅いテンポでこんな演奏でした。フランス・バロックの場合、昔の演奏はもはや別の曲ですね。懐かしいような気もしますけど、賞状をもらう時によく使う音楽だったと思います。
おすすめの名盤レビュー
それでは、シャルパンティエ作曲『テ・デウム』の名盤をレビューしていきましょう。
ミンコフスキ=ルーヴル宮音楽隊
ミンコフスキはフランス人の指揮者です。ルーヴル宮音楽隊とレ・ミュジシャン・デュ・ルーヴル合唱団を指揮してリズミカルでダイナミックな演奏を繰り広げています。
冒頭の前奏曲(ファンファーレ)は非常に速いテンポでイネガルなしです。ミンコフスキらしい演奏です。テンポよく歌唱に入っていきます。ダイナミックな合唱と時折現れるリズミカルなトランペットとティンパニの伴奏が楽しいです。歌唱は美しいですが、宗教的というよりはスコア通り、リズムを一貫して維持し、その中で歌唱を絡めています。そうすると自然に熱狂的に盛り上がっていき、スリリングな演奏になっています。
カップリングの『真夜中のミサ』は、もう少し宗教的な敬虔さが感じられます。ミンコフスキはいくつかシャルパンティエの作品を録音していますが、宗教的なところはウィリアム・クリスティに比べるとあまり強調していないですね。オペラのように聴こえる所もありますが、リズミカルさとその中でも見事な対位法を良く再現しています。
ニケ=ル・コンセール・スピルテュエル
エルヴェ・ニケとル・コンセール・スピルテュエルの録音です。上のYouTubeに前奏曲を貼りましたが、それと同様イネガルなしの軽快なリズムで始まります。
ニケは『王宮の花火の音楽』で、オリジナル通りの管楽器を使った演奏で有名ですが、個性的なだけではなく、クオリティも高いです。古楽器は本物の古楽器を使っているように聴こえます。テ・デウムの前奏曲に続く、合唱の音楽もそれぞれが上手く表情付けされ、テンポも速いだけではありません。最初から最後まで快速で通す演奏もありますが、それはそれで一気に聴けて自然に盛り上がるので良さはありますけれど、ニケはテンポの緩急を大きく付け、それでとても自然な音楽を作り上げています。独唱や合唱も含めて、フランス・バロックに相応しい名演で、味わい深く聴けます。
カップリングは、テ・デウムの前に凱旋行進曲H.547が入っており、雰囲気を盛り上げてくれます。
クリスティ=レザール・フロリサン
ウィリアム・クリスティとレザール・フロリサンは、早くからシャルパンティエに取り組んできました。『真夜中のミサ』、牧歌劇『花咲ける芸術』ほか、いくつかの録音が残されています。
まず、『テ・デウム』の前奏曲の前に、『ティンパニによる行進曲(フィリドール)』が入っています。前奏曲はイネガルをつけて演奏しています。そして歌唱の部分に入っていきますが、細部までとても丁寧に演奏している所に好感が持てます。独唱も非常に美しく、宗教音楽としてまとめていることがよく分かります。
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楽譜・スコア
シャルパンティエ作曲の『テ・デウム』の楽譜・スコアを挙げていきます。バロックの譜面の場合、IMSLPのほうが却って信頼できる場合があります。バロック以前の譜面は、スラーやスタッカートなどが書いてあっても意味が違うことがあります。
スコア
電子スコア
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