アーロン・コープランド (Aaron Copland,)作曲のバレエ『アパラチアの春』 (ballet appalachian spring)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。ワンストップでスコアと楽譜まで紹介します。
解説
コープランドの『アパラチアの春』について解説します。
マーサ・グラハムとグラハム舞踊団
マーサ・グラハム(1894-1991)はアメリカのモダン・ダンスを作った女流ダンサー兼振付師で、グラハム舞踊団を率いていました。コープランドとグラハムの関係は1931年にコープランドのピアノ変奏曲を、グラハムが舞踊作品として発表したことに遡ります。その時、コープランドはマーサ・グラハムの芸術性の高さを知り、いつか一緒に仕事をしたい、と思っていました。
作曲の経緯
1942年、コープランドは、マーサ・グラハムの依頼とパトロンのエリザベス・クーリッジ夫人の委嘱より、バレエ音楽を作曲を始めました。
グラハム舞踊団のためのバレエ音楽で、作曲を開始した当初は台本もなく、題名もありませんでした。マーサ・グラハムとコープランドは手紙のやり取りを通じて、バレエの構想を練っていきます。しかし、筋書きは二転三転していきます。コープランドはとりあえず「マーサのためのバレエ」と名付けて、作曲を進めていきました。
最終的にバレエの舞台は1800年代のアメリカのペンシルベニア州アパラチア高原の村となりました。アメリカ開拓民達が新しいファームハウスを建てた後の春の祝典となり、新婚の夫婦、隣人、復興運動の説教者とその信徒たちが物語を展開していきます。
『アパラチアの春』と命名
題名は、初演の1カ月ほど前になって、グラハムがハート・クレインの詩の一節である『アパラチアの春』という案を出し、それに決まりました。ハート・クレインの詩はこのバレエと関係なく、また音楽もアパラチアの春とは関係ありませんが、そんな流れで決定したのでした。
舞台がアパラチア山脈なのでバレエとしては相応しい命名かも知れません。しかしコープランドはアメリカの民謡を素材として使っていましたが、アパラチア山脈の自然美などを音楽にしたわけではなかったのです。
バレエ音楽はフルート、クラリネット、ファゴット、ピアノ、ヴァイオリン×4、ヴィオラ×2、チェロ×2、コントラバスの13人で構成される室内楽オーケストラのために作曲しました。
その後、オーケストラ組曲が編纂されました。
初演
1944年10月30日ワシントンD.C.のアメリカ議会図書館において初演されました。ょうど、太平洋戦争の真っただ中であり、ドイツとの戦争も終わっていません。舞台セットは日系アメリカ人の彫刻家イサム・ノグチ(1904-1988)によりデザインされました。バレエの舞台は非常にシンプルで抽象的です。その中で物語が繰り広げられます。
1945年には『アパラチアの春』はピューリッツァー音楽賞を受賞しました。
バレエ『アパラチアの春』はコープランドのバレエ音楽の代表作であり、現在でもグラハム舞踊団の主要演目として上演されています。
シンプル・ギフト
シェーカー派(キリスト教プロテスタントの一派)の讃美歌による変奏曲が5つ登場します。
クラリネット・ソロにより演奏される主題は「シンプル・ギフト(Simple Gifts)」と呼ばれる曲で、この『アパラチアの春』で使用されてから有名になりました。コープランドは歌曲集「古いアメリカの歌」第1集の4曲目にこの曲を取り上げています。
シンプル・ギフトは、組曲の第7曲目ですが、コープランドはこの部分を独立させて、吹奏楽やオーケストラ作品としました。TVコマーシャル等で使用され、有名になりました。チェリストのヨーヨー・マの演奏を聴くことが出来ますが、オバマ大統領の就任式でも演奏されたそうです。
組曲の編纂
コープランド自身により、1945年にオーケストラ組曲が作成されました。演奏時間は約25分です。
1.非常にゆっくり
光に覆われた中で、ひとりずつ登場人物が紹介されます
2.速く
突然イ長調の弦楽重奏のアルペジオが飛び出し、動き始めます。
関係ないですが『惑星』の木星にこんなリズムがあったような気もしますね。
高揚と厳正さの双方の感情がこの場面の基調となっています。
3.中ぐらいの早さ
花嫁とその婚約者のための二重奏、優しさと情熱の場面
4.かなり速く
復興運動主義者とその信徒たち
素朴な雰囲気の場面。スクウェアダンスの暗示と地元のヴァイオリン弾きたち
5.なおも速く
花嫁が一人で踊る、母性の予感、最高の喜び、恐れ、驚き
6.非常にゆっくり(冒頭と同じ程度)。
冒頭の音楽の追想による移行の場面
7.穏やかに流れるように。花嫁と、農夫である夫の日々の仕事の場面
シェーカー派の主題の変奏曲が5つ登場する。
ソロ・クラリネットにより演奏される有名な主題は、「シンプル・ギフト」と呼ばれる。
8.中ぐらいの早さ。コーダ
花嫁はいつも隣人に囲まれている
最後、夫婦は「新しい家で静かに、力強い」気持ちを抱く
ミュートのかかった弦楽器による静かな祈りのようなコラール
冒頭の音楽の追想で幕が閉じられる
フルート×2(2番はピッコロ持ち替え)、オーボエ×2、クラリネット×2、ファゴット×2
ホルン×2、トランペット×2、トロンボーン×2
ティンパニ、グロッケンシュピール、シロフォン、シンバル、トライアングル、クラベス、ウッドブロック、バスドラム、スネアドラム、テーバー(1本の棒で叩く小型の太鼓))、
ハープ、ピアノ
弦五部
おすすめの名盤レビュー
それでは、コープランド作曲『アパラチアの春』の名盤をレビューしていきましょう。
バーンスタイン=ニューヨーク・フィル
バーンスタインとニューヨーク・フィルの録音です。コープランド、と言えばアメリカ出身のバーンスタインはとても得意としており、自国の作曲家、ということで良く取り上げています。この録音は1961年で少し古いですが、若いバーンスタインの軽快なリズムが心地よい録音です。音質も安定しています。
第1曲は朝のすがすがしさが感じられる木管の響きが美しい演奏です。第2曲はバーンスタインらしい生き生きした軽快なリズムで、シャープなアクセントをつけ、変拍子もスリリングで楽しめます。第3曲は全体的に穏やかながら、段々と不安を感じさ、ニューヨーク・フィルが現代音楽らしい深みのある和音をシャープに演奏しています。
第4曲は速めなテンポで、古き良きアメリカの素朴さの感じさせてくれます。後半は金管中心にダイナミックなリズムを刻み、とても爽快です。第5曲はせわしない、複雑なリズムで快速テンポでとてもスリリングに楽しませてくれます。アンサンブルのクオリティはさすがニューヨーク・フィルです。第6曲は静かに始まり、静かに終わります。
第7曲はクラリネットが有名なメロディをはっきりと主題を演奏します。古き良きアメリカの音楽という風情のある響きです。トランペットの上手さ、コープランドが書き込んだメリハリのあるパート譜を高いレヴェルで再現していて、とても爽快に気分良く聴けます。第8曲はまた静かになり、暖かみと爽やかさのある響きで曲を締めくくります。
バーンスタインらしい速いテンポで軽快な演奏で、コープランド演奏の一つのスタイルを作り上げていると思います。初めて聴く人から玄人まではば広くお薦めできる名盤です。
コープランド=ロンドン交響楽団
作曲者アーロン・コープランドの自作自演です。オケは実力派のロンドン交響楽団で、安定した演奏を繰り広げています。コープランドは指揮も上手く、丁寧にしっかりと曲を作り上げています。録音はしっかりしたアナログ録音です。
第1曲はヴァイオリン・ソロや木管のソロが味わい深いです。フルートのアンサンブルが朝の爽快感を感じさせてくれます。第2曲はしっかり確実なリズムでロンドン響がダイナミックさのある演奏を繰り広げていきます。第3曲は木管のソロがやはり味わいがあります。そこに悲劇的な雰囲気で弦の不協和音が入ってきます。彫りの深さは自作自演ならでは、です。第4曲は速めのテンポで軽快に木管や弦が主題を奏でます。後半に入りダイナミックになってきますが、コープランドの指揮はとても丁寧にリズムをコントロールして、細部まで良く聴かせてくれます。第5曲はスリリングで細かいパッセージを速いテンポですが、しっかり演奏しています。
第7曲は落ち着いたテンポでクラリネットが有名な主題を聴かせてくれます。その後、ダイナミックに盛り上がり、最後はスケール大きく曲を締めます。第8曲は穏やかに段々と落ち着いていきます。フルートの主題も味わい深いです。
コープランドの自作自演は、テンポも中庸でスタンダードな名盤です。自作自演だから当然、と思うかも知れませんが、普通の自作自演でここまでまとまっている演奏は少ないです。
スラットキン=デトロイト交響楽団(全曲盤)
レナード・スラトキンはアメリカの実力派の指揮者です。デトロイト交響楽団はかつてコープランドの名盤を残したドラティがトレーニングしたオケです。スラトキンもドラティと同様職人的なセンスの良い指揮で、デトロイト交響楽団とも相性が良いです。録音は新しいだけあって、透明感があり色彩感も良く録音されています。
第1曲は静かに始まり、徐々に木管やヴァイオリン・ソロが入っていきますが、いずれもとても艶やかで透明感のある音色が楽しめます。スラトキンの指揮はコープランドの自作自演を引き継いだようなスタイルで、クオリティがとても高いです。第2曲はテンポが速く、軽快であると共に、デトロイト響の色彩的な音色が印象的です。アンサンブルもクオリティが高く、立体的なアンサンブルです。第3曲は静かになると繊細な響きの上に、クラやオーボエが非常に艶やかな音色で録音されています。不協和音はそれほど衝撃的ではなく、前後のつながりが自然です。第4曲は深みが感じられる響きで、とてもじっくりと味わえます。第5曲は自然なメリハリがあり、軽快で色彩感があります。
シンプルギフトの個所は、クラがとても小さい音で主題を断片的に演奏して始まります。ヴァイオリンが出てきてそこでシンプルギフトの主題が出てきます。そこから対位法的に色々な楽器が絡み合って盛り上がっていきます。ただ最後にスケール大きく曲を締めることなく、そのまま次の舞曲に進んでいきます。ここから先は組曲版では聴けない音楽です。結構、劇的に嵐のように盛り上がっていったり派手な所もあり、組曲に入っていないのは、もったいないような気もします。そのうちシンプルギフトの主題が戻ってきて、ここでスケール大きく曲を締めてきます。ここまでがバレエ版の第7曲でしょうか。
その後は第8曲とほぼ同じで、静かで落ち着いた音楽になり、フルートやヴァイオリンのアンサンブルが味わい深く演奏されます。
スラトキンとデトロイト交響楽団の録音は、クオリティが高く、高音質で、味わいも深い名盤です。
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演奏の映像(DVD,Blu-Ray,他)
マイケル・ティルソン・トーマスとサンフランシスコ交響楽団の演奏を収録したディスクです。とてもクオリティの高い演奏をする組み合わせです。M.T.トーマスは複雑なリズム処理はとても得意です。ドキュメンタリーも楽しめると思います。
こちらのDVDは『アパラチアの春』が少しだけ出てくるだけです。全体としてコープランドを聴いたり演奏したりする上で、とても勉強になります。
バレエの映像
マーサ・グラハムとそのバレエ団のDVDがリリースされています。
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楽譜・スコア
コープランド作曲の『アパラチアの春』の楽譜・スコアを挙げていきます。
ミニチュア・スコア
大型スコア
電子スコア
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