イーゴリ・ストラヴィンスキー (Igor Stravinsky,1882-1971)作曲のバレエ『プルチネルラ』 (Ballet “Pulcinella”)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。ワンストップでスコアと楽譜まで紹介します。
『プルチネルラ』はストラインスキーとしては、シンプルな作品です。バロック時代の作品を元にしており、親しみやすい音楽が続きます。組曲は普通のオーケストラで演奏でき、アマチュアオーケストラでも演奏されます。
解説
ストラヴィンスキーのバレエ『プルチネルラ』について解説します。
作曲と初演
ディアギレフは1919年にストラヴィンスキーに、バロック期イタリアの大作曲家ペルゴレージの音楽から18曲選び、ストラヴィンスキーに管弦楽への編曲を依頼します。ペルゴレージはスターバトマーテルで有名ですが、当時のストラヴィンスキーにとって知らない作曲家でした。ストラヴィンスキーはペルゴレージの作品を気に入り、編曲以上のことを行い、ペルゴレージの曲を元に作曲された作品、とされています。1920年4月に作曲されました。
初演はロシアバレエ団により、1920年5月15日にパリ・オペラ座で行われました。指揮はエルネスト・アンセルメ、振付はレオニード・マシーン、衣装と舞台セットはパブロ・ピカソと、バレエ『三角帽子』と同じ布陣で行われました。
新古典主義最初の作品
『プルチネルラ』は、当時ペルゴレージの作品とされていた音楽を元に作曲されました。実際はイタリアの他の作曲家の作品も紛れ込んでいました。
新古典主義と言っても、やはり作曲した部分は少なく編曲に近いと言われています。詳しくはホグウッド盤を聴けば、比較ができますが、確かに多くの曲はそのまま編曲した感じですね。古い作曲技法や素材を使用していれば、新古典主義と書いていますが、ストラヴィンスキーはこの後、バロック以前の作曲技法を研究し、また新しい12音技法なども取り入れつつ、新古典主義を代表する作曲家の一人になっていきます。
あらすじ
全曲版のあらすじです。プルチネルラとは17世紀イタリアの喜劇の主人公で、ずんぐりむっくりの道化です。全曲で聴いてもそれほど長い曲ではなく、音楽だけでも十分聴きごたえがありますが、一度バレエ版を見ておくのもいいと思います。
町の娘たちは皆プルチネルラに惚れており、プルチネルラの恋人であるピンピネルラはそのことでプルチネルラと喧嘩になる。
プルチネルラに嫉妬する町の若い男たちはひそかにプルチネルラを殺す。しかし実際にはプルチネルラは死んでおらず、フルボに自分の扮装をさせて死んだふりをさせる。人々はプルチネルラの遺体を見て嘆くが、そこへ魔術師に化けた(本物の)プルチネルラがやってきて、(にせの)プルチネルラを生き返らせる。
プルチネルラを片付けたと思い込んだ男たちは、意中の娘をものにするために自らプルチネルラに変装してやってきたためにプルチネルラだらけになって混乱するが、最終的に正体のばれた男たちは娘たちと結婚し、(本物の)プルチネルラもピンピネルラと結婚する。
(Wikipediaより)
全曲と組曲
『プルチネルラ』には、全曲版と組曲が存在します。全曲版は小編成で独唱が入ったものです。組曲版は1924年に編曲され、オーケストラのみで演奏できます。編成の問題で、組曲のほうが演奏しやすく、かつ演奏時間も23分とちょうど良いため、組曲のほうが演奏機会が多いです。ただ、組曲は大編成オーケストラで演奏されることも多く、バロック的な軽快さがない場合も多いです。ですので、小編成の全曲版のほうが『プルチネルラ』の音楽をより自然に表現できます。
全曲の場合、1,2分の曲が沢山並びます。テンポ指示しかない曲も多いですね。CDによってはトラックの割り振りが異なります。
序曲
セレナータ(テノール独唱)
スケルツィーノ
アレグロ
アンダンティーノ
アレグロ
アレグレット(ソプラノ独唱)
アレグロ・アッサイ
アレグロ・アラ・ブレーヴェ(バス独唱)
ラルゴ(三重唱)~アレグロ(ソプラノ・テノール)~プレスト(テノール独唱)
アレグロ・アラ・ブレーヴェ(※フーガ風な曲)
タランテラ
アンダンティーノ(ソプラノ独唱)
トッカータ
ガヴォットと2つの変奏曲
ヴィーヴォ
メヌエット(三重唱)
終曲
組曲は歌唱がないこと、編成が大きいことなどが特徴です。大事な曲は網羅されていますが、アレグロ・アラ・ブレーヴェ(※フーガ風な曲)が入っていればもっと良かったですね。
序曲
セレナータ
スケルツィーノ
タランテラ
トッカータ
ガヴォットと2つの変奏曲
ヴィーヴォ
メヌエット
終曲
編成
フルート×2、オーボエ×2、ファゴット×2、ホルン×2
トランペット、トロンボーン
弦5部
おすすめの名盤レビュー
それでは、ストラヴィンスキー作曲バレエ『プルチネルラ』の名盤をレビューしていきましょう。
アバド=ロンドン交響楽団 (1947年改訂版)
アバドとロンドン交響楽団の演奏です。あまりバロック音楽の雰囲気は出ていないですが、リズムはしっかりしていて、どちらかというとロンドン交響楽団のダイナミックさが雰囲気を決めている感じです。バレエのストーリーに相応しい音楽づくりで、ベルガンサを中心とした充実した歌唱陣で、オペラを聴いているような感覚に陥ります。また、イタリアの大作曲家であるペルゴレージの曲も入っているので、同じイタリア人のアバドとしては気合いの入った演奏だと思います。
序曲は溌剌としたリズミカルなさわやかさのある演奏です。第2曲「セレナータ」は、リズムも良く情緒もあり、シチリアーナの雰囲気満点です。テノールの歌唱もイタリアらしいです。第3曲「スケルツォ」もリズミカルで楽しめる演奏です。対位法的な動きも上手く演奏しています。「アレグロ・アッサイ」は速いテンポでとてもスリリングです。「ラルゴ」の三重唱は見事で、ほぼイタリアオペラのようですね。「アレグロ – アラ・ブレーヴェ」は、速めのテンポでスフォルツァンドを利かせ、スリリングなフーガ風な演奏となっています。「タランテラ」は細かいリズムを速いテンポで演奏し、タランテラらしい、とてもスリリングな演奏です。「アンダンティーノ」はベルガンサの透明感のある美声が楽しめます。「ガヴォットと2つの変奏曲」は、少し歌謡的で横に流れていますが、イタリア風な主題提示です。変奏もブリリアントなリズムで楽しめます。「ヴィーヴォ」もトロンボーンがユニークで、メリハリのある演奏です。「テンポ・ディ・メヌエット」は遅めのテンポです。イタリアオペラのような豪華な三重唱です。終曲は速いテンポで盛り上がって明るくスリリングに曲を締めます。
『プルチネルラ』は沢山のCDがリリースされていますが、入手しにくい演奏が多い中、アバド盤は名演の『春の祭典』とカップリングされていたりして比較的入手しやすいです。
ブーレーズ=シカゴ交響楽団
ブーレーズ=ニューヨーク・フィル (組曲)
ブーレーズとニューヨーク・フィルの組曲版での演奏です。ニューヨーク・フィルは少し編成が大きく、重厚な音色ですが、ブーレーズは新古典派的な指揮ぶりで、各舞曲も様式通りに演奏しています。1975年ですから、古楽器奏法も普及していませんし、この時期にこれだけの演奏ができるのは、さすが理知的なブーレーズだと思います。
第1曲は溌剌と始まります。テンポは中庸で、ニューヨーク・フィルは少し力強すぎるかな、という感じです。しかし、しっかり演奏されています。第2曲「セレナータ」は、シチリアーナ的な流れのある舞曲として自然な演奏です。第3曲「スケルツォ」はアンサンブルの精度が高い演奏です。ニューヨーク・フィルなので少しクールな響きですが、曲によってはイタリア的な明るさもあります。第4曲「タランテラ」はリズミカルですが、やはりアンサンブルの精度が高いですね。第5曲「トッカータ」はトランペットのソロが絶妙に上手いです。ヴァイオリン・ソロもバロックらしいです。第6曲「ガヴォット」はバロックの舞曲としてはテンポが遅いです。第7曲「ヴィーヴォ」は、トロンボーンのソロがユニークです。終曲は速めのテンポで快活です。
ニューヨーク・フィルの爽快な弦楽器と上手いトランペット聴くことができます。第6曲「ガヴォット」のテンポ取りなどは少し違うかな、という気もしますが、ソロの上手さやアンサンブルの精度が高く、安易に懐古主義におちいらず、好感が持てる演奏です。
アンセルメ=スイス・ロマンド管弦楽団 (全曲)
初演指揮者のアンセルメと手兵スイス・ロマンド管弦楽団の全曲版です。さすが初演指揮者だけのことはあり、ツボを押さえた味わい深い名演です。今の古楽器奏法の影響を受けた演奏とは大分違いますが、なかなかリズミカルで、遅いテンポであってもリズムを失っていません。バレエの筋書きに相応しい演奏でもあります。
序曲は色彩的で溌剌としたリズミカルな演奏です。エキゾチックな雰囲気も漂わせています。第2曲「セレナータ」は、遅いテンポですがシチリアーナの雰囲気が出ていて、とても味わい深いです。アンセルメはバロックの舞曲についてもそこまで詳しくないかも知れません。センスでこういう演奏が出来るのだとしたら凄いですね。第3曲「スケルティーノ」はメリハリのある演奏です。バレエのストーリーを上手く表現していると思います。「アレグロ – アラ・ブレーヴェ」のフーガ風な曲も適切なテンポでスリリングに演奏していて凄いです。「タランテラ」もリズミカルです。ただ熱気があるというより、バロック音楽へのエキゾチズムを感じます。また、バレエの踊りやすいテンポというのもあるかも知れませんね。アンセルメのリズム感を感じさせる演奏です。「ガヴォットと2つの変奏曲」もガヴォットらしいリズムがあって良いです。歌謡的なところもありますが、横に流れることはありません。変奏も良いリズム感とテンポ取りです。終曲は他の演奏に比べると遅めですが、しっかりしたリズムのある演奏です。
ハイティンク=ベルリン・フィル (1965年改訂版)
ハイティンクとベルリン・フィルの全曲版演奏です。ヴァージョンは1965年改訂版を使っています。ハイティンクの懐の深い指揮のもと、ベルリン・フィルのメンバーが実力を出し切っていて、クオリティも高く、古典的な雅さと格調の高さも感じられ、充実感のある演奏です。
序曲は溌剌としています。全曲版なので変則的な小編成だと思いますが、この編成のほうがバロック風で良いと思います。ヴァイオリン・ソロなど雅さもあります。1990年代だとピリオド奏法も普及しはじめていたかも知れません。すっきりした透明感の高いサウンドで、親しみやすさと格調の高さの両方をもっています。第2曲も流れるような6/8のリズムでテノール独唱が入りますが味わい深いです。第3曲「スケルティーノ」は、軽快な舞曲風の演奏から始まります。ハイティンクのスコアの読みの深さとベルリン・フィルの超絶技巧で、結構飽きずに聴いて行けます。第4曲「タランテラ」もリズミカルでベルリン・フィルのスリリングなアンサンブルが楽しめます。後半のトランペットの細かいフレーズも上手いです。第5曲「ガヴォットと2つの変奏曲」は、少し丁寧すぎる所もありますが、ガヴォットらしいリズムの演奏です。変奏曲に入ると、ホルンソロなど凄く上手いです。終曲はテンポが速めで、ベルリン・フィルの精密なアンサンブルがとてもスリリングです。
ホグウッド=セントポール室内管弦楽団 (全曲)
ホグウッドとセントポール室内管弦楽団の演奏です。ほぼバロック音楽の編曲のような初期新古典主義の曲は古楽器のフィールドで活躍するホグウッドにとっては、お手の物です。何の迷いもなく、バロック舞曲のテンポで演奏を進めていき、とても自然な演奏です。
序曲は速めのテンポでとてもブリリアントでリズミカルです。とても楽しめる演奏です。第2曲「セレナータ」は、シチリアーナ風の流れるような演奏でとても自然です。テノールの歌唱も良いです。第3曲「スケルティーノ」も速めなテンポでリズミカルに進み、合奏協奏曲風のアンサンブルもとても上手いです。「アレグロ – アラ・ブレーベ」は小さめのフーガでホグウッドの本領発揮です。「タランテラ」も速めのテンポで名演奏です。特に最後のアレグロのトランペットは(古楽器ではないと思いますが)上手いです。「ガヴォット」ももちろんきちんと舞曲になっています。終曲もリズミカルで良いです。
カップリングはガロのソナタです。誰それ?という感じですが、これが原曲です。ストラヴィンスキーが作曲したころは全てペルゴレージの作品だと考えられていました。確かにストラヴィンスキーはそのまま取り入れている曲が多いですね。
アシュケナージとアイスランド交響楽団の演奏です。アイスランド交響楽団は知る人ぞ知るハイレヴェルなオーケストラです。新しめの録音で、高音質で透明感があります。レヴェルが高いですが特に管楽器の上手さが光ります。繊細で小気味良いアンサンブルでバロック風な雰囲気が良く出ています。
序曲はアイスランド交響楽団の透明でしっかりした響きを安定感がある上に、弦、管のソロがバロックの合奏協奏曲風なアンサンブルを繰り広げ、変幻自在の音楽を聴かせてくれます。スケルティーノは管のソロの絡みが繊細で、弦の響きもクールな肌触りで透明感があります。タランテラは速めのテンポですが、響きの透明感が失われることなく、クオリティが高いです。ガヴォットの後半では繊細なホルンの上手さが際立っています。ホルンは木管アンサンブルにも良く入りますが本当に木管のような音色です。木管の音色もただ透明なだけではなく、深みがあります。良く録音されていると思います。ヴィーヴォ、メヌエットではトロンボーンが非常に上手く、表情豊かです。終曲も透明感があり、個々の楽器が良く聴こえて、最後まで雑になったり、ダイナミックになりすぎることはありません。とてもクオリティが高いです。
カップリングの「火の鳥」「春の祭典」も良い演奏ですが、「プルチネルラ」は他では聴けないサウンドだと思います。
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バレエのDVD
バレエのDVDも意外に多くリリースされています。ランベール・ダンス・カンパニーのDVDはかなり昔からあったと思います。
ローマ歌劇場バレエ団
この映像は、振付がレオニード・マシーン、装置と衣装がパブロ・ピカソということで、オリジナルの振付、舞台装置の上演です。
ランベール・ダンス・カンパニー
このDVDの振付はリチャード・オールストンによるものです。新しい映像とはいえませんが、それほど古さも感じず、スタジオでの収録されており、画質は悪くありません。レオニード・マシーンの振付がどうだったのか想像もつきませんが、このDVDの振付はシンプルなもので、ダンスもクオリティが高いです。
ムーヴァーズ・バレエ
筆者未試聴ですが、タイトルはバレエ『プルチネッラの秘密』となっています。音楽はストラヴィンスキーですが、振付はブルーノ・シュタイナーです。
ストラヴィンスキーがディアギレフの依頼で作ったバレエ曲「プルチネッラ」が、新たな感性で蘇る。
とのことです。
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楽譜・スコア
ストラヴィンスキー作曲のバレエ『プルチネルラ』の楽譜・スコアを挙げていきます。
ミニチュア・スコア
大型スコア
電子スコア
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解説ありがとうございます。
ブーレーズには、晩年にシカゴとの録音があります。
そちらもコメントしていただけるとありがたいです。