イーゴリ・ストラヴィンスキー (Igor Stravinsky,1882-1971)作曲の詩篇交響曲 (Symphony of Psalms)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。最後に楽譜・スコアも挙げてあります。
『詩篇交響曲』は、1930年に作曲した合唱つきの交響曲です。新古典主義時代のストラヴィンスキーの代表作です。他にも人気のある作品はありますが、『詩篇交響曲』は良く演奏されますし、本当に人気があります。
解説
ストラヴィンスキーの詩篇交響曲について解説します。
新古典主義で一番の人気作
3大バレエを書いて、特にバレエ『春の祭典』を書いたストラヴィンスキーは、まだ30歳前後です。ですから、これから作曲家として発展していくためには、バレエ『春の祭典』よりも素晴らしい曲を書かねばならないのです。理由は分かりませんが、ストラヴィンスキーはバレエ『春の祭典』以降、新古典主義に鞍替えしました。バレエ『プルチネルラ』などは、全く作風が違うので「カメレオン作曲家」の異名をとることになります。
初演は1930年にエルネスト・アンセルメの指揮でブリュッセル・フィルハーモニック協会により行われました。直後にクーゼヴィツキーとボストン交響楽団がアメリカ初演を行っています。
ギリシア風
新古典主義に鞍替えしても『春の祭典』を超える曲などなかなか書けるものではありません。その中で登場したのが『詩篇交響曲』です。
曲は3楽章構成です。歌詞は旧約聖書の詩篇(ラテン語)から採られています。ラテン語により響きによる格調の高さが出ています。これは既にオペラ・オラトリオ『エディプス王』(1926~1927)で実践されています。
第1楽章 Prelude: Exaudi orationem meam, Domine
歌詞は詩篇39番から採られています。
第2楽章 Double Fugue: Expectans expectavi, Dominum
歌詞は詩篇40番から採られています。
管弦楽と合唱によるドッペルフーガで見事です。
第3楽章 Allegro symphonique: Alleluia. Laudate Dominum
歌詞は詩篇150番から採られています。
リズミカルに盛り上がります。
合唱で人気に
交響曲と銘打ってはいますが、実態は交響曲というよりカンタータに近いです。オーケストラの編成は特殊です。特に弦楽器はヴァイオリンとヴィオラがなく、低音域のチェロ、コントラバスしかないのです。確かに中高音域は合唱の声域に重なりますし、この曲は決して派手なオーケストレーションではありません。つぶやくように歌う場面もあります。ヴァイオリンとヴィオラを使用しないことで、主役が声楽に来るようにしてあるのだと考えられます。
おすすめの名盤レビュー
それでは、ストラヴィンスキー作曲の『詩篇交響曲』のおすすめの名盤をレビューしていきましょう。
デュトワとスイスロマンド管弦楽団の録音です。定番の名盤として高い評価を受けています。
マイケル・ティルソン・トーマスとロンドン交響楽団の演奏です。サンフランシスコ交響楽団のレヴェルを向上させて、名盤を量産する前の時期ですね。しかし、この演奏も素晴らしいです。ロンドン交響楽団のダイナミックさを上手く活かしています。
第1楽章は最初のアクセントから強く打ち込み、合唱も正道を行くような演奏スタイルです。それを高いレヴェルで実現しています。第2楽章は、管楽器の緻密なアンサンブルから始まります。合唱も自然に入ってきて、複雑な管楽器に絡んでいきます。対位法が生み出す響きがとても効果的で、神秘的です。デュナーミク(強弱)もしっかりシャープにつけられています。第3楽章は冒頭からの合唱は非常に神秘的に響いています。リズミカルになると速めのテンポでスリリングに進みます。合唱も発音がしっかりしていてリズミカルです。このテンポでありながらホルンやトランペットなどの金管が入っても透明感があってクオリティが高いです。聴いていて楽しい演奏ですし、クオリティも高いですね。
クオリティが高く、かつ聴きやすい、定番と言うに相応しい名演だと思います。
ブーレーズ=ベルリン・フィル
ブーレーズ=ベルリン・フィルは『詩篇交響曲』に理想的な組み合わせです。
アクセントを弱めにしていて、特別な迫力はないですが、繊細で緻密さがあります。ダイナミックになってきても金管など、綺麗に演奏していて、響きが濁ることはありません。録音は非常に良く、透明感のあるサウンドで、残響は少な目です。第2楽章は、わざと対位法を使用した合唱の各声部の輪郭をはっきりさせず、ブレンドさせていて、神秘的な雰囲気になっています。オケが出る所はダイナミックでメリハリをつけている。第3楽章のリズムはリズミカルに演奏しています。この辺りはベルリン・フィルの機能性が良く活かされています。ただあくまでも、合唱はまろやかにブレンドさせていて、シャープな響きはあまり使っていません。
非常にクオリティの高い演奏です。わざとらしさは全くなく、結果としてレヴェルの高い演奏になっています。ただ、まろやかでアクセントを弱めにしている所は、好みが分かれそうですね。
ネルソンス=バーミンガム市管弦楽団
『詩篇交響曲』ですが、他の演奏はギリシア風だったり、クオリティは高いけれどシリアスで緊張感も高かったりして、名盤でも独特のオリエンタルな雰囲気が強いものが多いです。ネルソンス=バーミンガム市響の演奏は、ロシア風でむしろ温かみがあるのです。
全体的に丁寧に演奏されていて、オケや合唱のレヴェルを超える演奏をしています。ただ静かな場面でもクールになることはなく、ロシア的な味があります。それで自然に聴けるのです。なるほどなぁと思いました。リズミカルな所は、きちんとリズムを刻んで、楽しく聴かせてくれます。
ネーメ・ヤルヴィが珍しくスイスロマンド管弦楽団と録音したディスクです。ストラヴィンスキーの主要な曲を集めた全集としても良いディスクですね。
比較的、残響豊富な会場で録音されています。デュトワ盤に比べるとネーメ・ヤルヴィはどこかロシア的な味わいがあります。また、盛り上がる所では、リズミカルで感情が入って盛り上がりに熱気があります。
それでいて、詩篇交響曲では、ギリシア的な雰囲気も出ていて味わい深く聴ける演奏になっています。
ラトル=ベルリン・フィル
ラトル=ベルリン・フィルによる『詩篇交響曲』は、ベルリン・フィルの全パートの強力さで、しっかりスコアに書かれた音楽を、音化しています。不協和音が多くありますが、音程も良いので、きちんと再現された結果として重層的な響きとなりダイナミックさにつながっています。リズム感もあって演奏聴いていて楽しい演奏です。ライヴでありなかなかの熱演で、合唱もレヴェルが高いです。
しかし、どうも過小評価されている感じがします。これだけしっかりした演奏はなかなか聴けないと思いますけど。残響が少な目で、神秘的な雰囲気はあまり出ていないと思います。ラトルの特徴でもありますがテンポが速めで、じっくり味わいたい人にはブーレーズ盤が良いかも知れません。
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楽譜・スコア
ストラヴィンスキー作曲の詩篇交響曲の楽譜・スコアを挙げていきます。