フランシス・プーランク (Francis Poulenc,1899-1963)作曲の『グローリア』 FP177 (Gloria FP177)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。
解説
プーランクのグローリアについて解説します。
『グローリア』はフランシス・プーランクが作曲した宗教曲であり、プーランクの代表作の一つです。ただ、宗教と関係なく聴いても十分楽しめる作品です。
プーランクは『田園のコンセール(チェンバロ協奏曲)』やバレエ『牡鹿』のような新古典主義的な作品が知られていますが、晩年になるとそれまでの軽妙なオーケストレーションを活かしつつ、宗教音楽を熱心に作曲するようになりました。その代表は歌劇『カルメル派修道女の対話』であり、『スタバト・マーテル』も人気があります。
作曲と初演
セルゲイ・クーゼヴィツキーにより委嘱され、作曲は1959年に行われました。
初演は1961年で、ミュンシュの指揮によりボストン交響楽団の演奏で行われました。この時期、ボストン交響楽団は同じ時代の作曲家の作品を多く初演しています。
曲の構成と編成
ソプラノ独唱、合唱とオーケストラにより演奏されます。演奏時間は約25分です。
歌詞はミサ通常文のラテン語版が使われています。
第1曲:天のいと高きところには神に栄光 (Gloria in excelsis Deo)
第2曲:ラウダムス・テ (Laudamus te)
第3曲:神なる主、天の王 (Domine Deus, Rex caelestis)
第4曲:主なる御ひとり子 (Domine Fili unigenite)
第5曲:アニュス・デイ (Domine Deus, Agnus Dei)
第5曲:父の右に座したもう主よ (Qui sedes ad dexteram Patris)
ソプラノ
混声合唱
フルート×2,ピッコロ, オーボエ×2,イングリッシュホルン, クラリネット×2, バスクラリネット, ファゴット×2, コントラファゴット
ホルン×4,トランペット×,トロンボーン×3,チューバ
ティンパニ, バスドラム, スネヤ, テナードラム,グロッケンシュピール,タンバリン
チェレスタ, ハープ
おすすめの名盤レビュー
それでは、プーランク作曲グローリアの名盤をレビューしていきましょう。
小澤征爾=ボストン交響楽団
小澤征爾とボストン交響楽団の録音です。小澤征爾はプーランクを非常に得意としていて、この『グローリア』も定番のディスクです。ボストン交響楽団はこの曲を世界初演したオケですので、特別なコンビですね。録音も良く透き通った音質でプーランクの色彩的な響きを再現しています。
第1曲の冒頭のファンファーレは輝かしく、その後も速めのテンポでインスピレーションに満ち、現代的なプーランクの演奏スタイルです。合唱は小澤氏の手兵とも言えるタングルウッド祝祭合唱団で歌唱のレヴェルも高いです。第2曲は速めのテンポでリズミカルで、冒頭のトロンボーンもとても上手く、その後、合唱が入って盛り上がります。スピード感のある弦の音色もスリリングです。第3曲は透き通った残響のある空間で、ソプラノのキャスリーン・バトルの美声が響き渡ります。オケも色彩的で、ホルンのソロなど繊細です。
第4曲は小澤氏らしいリズム感で躍動感が心地よいです。第5曲はボストン響の管楽器がプーランクらしい和声を奇麗に響かせて、独特の世界を作り上げます。小澤氏の耳の良さで不協和音も奇麗に聴こえます。バトルの歌唱も天上の歌声と言える位です。テンポは速めですが、響きの美しさが素晴らしく、味わいも十分です。第6曲はモダンな合唱の響きから始まります。小澤氏のインスピレーション溢れる絶妙なテンポで、充実した音楽を聴かせてくれます。後半はテンポを落とし、味わい深く聴かせてくれます。
リズムの取り方もスリリングで、クレッシェンドでの盛り上げ方も上手いですし、表現はインスピレーションに溢れています。小澤⁼ボストン響の大きな遺産の一つといえる名盤です。少なくともオルフの『カルミナ・ブラーナ』と同等の素晴らしい名演です。
プレートル=フランス国立管弦楽団
ジョルジュ・プレートルはプーランクと親交があり、いくつかの作品を初演した指揮者です。フランスのエスプリを持つ近年では数少ない名指揮者でした。この録音はプーランクの監修で行われました。フランス国立管弦楽団は、この時期はフランス的な演奏スタイルを良く残しています。プーランクと同時代のフランスのコンビによる貴重な録音です。音質は今聴いても十分良いです。
第1曲は冒頭のファンファーレが終わった後、クレッシェンドしていくときのテンポ感が独特で、プレートルらしいです。速くもなく遅くもなく、独特のリズムでしっかり演奏していき、プーランクの音楽にあるエスプリを思い切り引き出しています。合唱もスケールが大きく、質も高いですね。第2曲は金管のソロに個性があり楽しめます。その後、軽快なリズムでスケール感もあり、充実した演奏です。
第3曲ではソプラノのロザンナ・カルテリが非常に深い感情表現で味わい深いです。第4曲はオケの色彩感が良く出ています。スリリングさもあって良いですね。
第5曲は独特なテンポ取りとプーランクらしい和声で、少し遅めでじっくりと演奏されています。ソプラノや合唱が入るととても味わい深さが出てきます。オケには重厚さもあり、宗教音楽らしさのある演奏です。第6曲は合唱のスケールが大きく、オケは重厚です。ソプラノが入ると豊かな世界観になり、味わい深くじっくり聴くことが出来ます。
これだけの深みのある演奏を出来る指揮者はプレートル以外居ないと思います。作曲者プーランクが監修した録音なので、プーランク自身もこういう演奏を期待していたのかも知れません。
パーヴォ・ヤルヴィ=パリ管弦楽団
パーヴォ・ヤルヴィがパリ管弦楽団と録音した新しい名盤です。録音は新しいだけに音質は良いです。
第1曲の冒頭のファンファーレは金管が健闘していて力強いです。速さは標準的で、リズムは奇をてらった表現は無く、スコア通りで聴きやすいかも知れません。合唱も奇麗に響き、クオリティが高いです。第2曲の金管もレヴェルが高いです。第3曲でのソプラノは録音の良さもあり、透明感のある歌声ですが、バトルやカルテリより繊細な表現です。第5曲は和声の響きが整理されていて、P.ヤルヴィらしいです。ソプラノは少し線で、繊細で丁寧な表現です。第6曲の冒頭は合唱がまとまった響きで、この合唱団のクオリティの高さを感じます。適度な残響で心地よいサウンドです。後半のオケの響きやソプラノの表現は素晴らしく、とても味わい深いです。
パリ管も既にフランスのエスプリを失って久しいですが、パーヴォ・ヤルヴィの元、質の高い演奏を繰り広げています。逆にフランス的なもう少し濃い表現を期待する人には物足りないかも知れません。特筆なのはカップリングの『黒い聖母への連祷』で、素晴らしい名曲の名演です。
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楽譜・スコア
プーランク作曲のグローリアの楽譜・スコアを挙げていきます。
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