フレデリック・ショパン (Fryderyk Chopin,1810-1809)作曲のピアノ協奏曲 第2番 ヘ短調 Op.21 (Piano Concerto no.2 f-moll Op.21)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。ピアノ協奏曲第1番に次いで親しみやすく人気のあるピアノ協奏曲で、第1番と第2番でカップリングのディスクも多いですね。
お薦めコンサート
🎵山田和樹(指揮)バーミンガム市交響楽団
■2023/6/29(木) サントリーホール
ショパン(ピアノ協奏曲第2番ヘ短調)/エルガー(交響曲第1番変イ長調)[独奏・独唱]チョ・ソンジン(p)
解説
ショパンのピアノ協奏曲第2番について解説します。
作曲の経緯
ショパンはピアノ協奏曲第2番 へ短調 Op.21の作曲を1829年に開始し、1830年に完成させました。実はピアノ協奏曲第1番よりも早く作曲され、実質的にショパンの初めてのピアノ協奏曲です。
パリのデルフィーヌ・ポトツカ伯爵夫人に献呈され、出版は1836年でLeipzig, Paris and London社から出版されました。
ロマン派風ピアノ協奏曲のパイオニア
19世紀前半であり、まだピアノも今で言えば古楽器が主流だった時代です。ベートーヴェンが5曲のピアノ協奏曲を残してしており、このような曲を目指したかも知れません。しかし、ロマンティックで流麗なメロディやポーランドの寒さを感じさせるエキゾチズムなどがあり、華麗な技巧を見せつけるようなピアノ協奏曲であり、ショパンはロマン派風のピアノ協奏曲のパイオニアである、と言えます。
一方、カルクブレンナーの「ピアノ協奏曲第1番ニ短調」Op.61の影響を受けたともいわれています。カルクブレンナーはピアニストとして成功し、ヨーロッパ各地で演奏活動を行い、また後進の指導にも実績を上げました。実際、ショパンは1931年ごろにカルクブレンナーに弟子入りすることを本気で考えていました。カルクブレンナーはピアノの腕はトップクラスでしたが、作曲に関しては自身を
モーツァルト、ハイドン、ベートーヴェンのような古典派作曲家の生き残り
といっていて、特に革新的な作品は残していません。
他にはメンデスルゾーンのピアノ協奏曲第1番は1931年作曲で、ショパンとほぼ同じ時期です。
フランツ・リストのピアノ協奏曲第1番は1849年であり、ロベルト・シューマンもピアノ協奏曲の作曲は1845年ですし、ブラームスのピアノ協奏曲第1番は1857年であり、グリーグやチャイコフスキーはもっと後になります。少なくとも今演奏される、ロマン派ピアノ協奏曲で圧倒的に古い部類に入ります。
オーケストレーションの貧弱さ
ピアノ・パートはショパンが自身で書きましたが、オーケストラは他の詳しい人に協力してもらったようです。ですが、オーケストレーションの貧弱さが良く指摘されます。とはいえ、まだ1830年なので、まだロマン派風の重厚なオーケストレーションではありません。むしろ、ピアノも古楽器に近いもので、18世紀オーケストラが主要なレパートリーにしている位です。
曲の構成
ピアノ協奏曲第2番はトータル約30分程度の演奏時間です。第1番より少し短い程度です。
第1楽章:マエストーソ(Maestoso)
協奏風ソナタ形式です。とはいえ、確固とした形式は持っておらず、推移部のピアノの鮮やかな装飾を重視しています。展開部もオーケストラはゼクエンツを繰り返し、その上でピアノが即興的で技巧的な演奏を繰り広げていきます。再現部は第2主題の調性が提示部と同じであるため、調性的な対立を残したままコーダに入ることが特徴です。そのため、本楽章は3部形式である、という人もいます。
第2楽章:ラルゲット(Larghetto)
三部形式の緩徐楽章です。コンスタンツィヤ・グワトコフスカへの想いを表現したと友人宛の手紙で書いています。
第3楽章:アレグロ・ヴィヴァーチェ(Allegro vivace)
ロンド形式です。ポーランドの民族舞踊マズルカのリズムに乗って軽快な演奏が繰り広げられます。弦はコル・レーニョ奏法で舞曲のリズムを強調しています。
フルート×2、オーボエ×2、B♭管クラリネット×2、ファゴット×2
F管ホルン×2、B♭管トランペット×2、バストロンボーン
ティンパニ
弦五部
おすすめの名盤レビュー
それでは、ショパン作曲ピアノ協奏曲第2番の名盤をレビューしていきましょう。
ピアノ:ブレハッチ,セムコフ=ロイヤル・コンセルトヘボウ管
2005年ショパン・コンクールで優勝した当代屈指のショパン弾きブレハッチのピアノによる演奏です。伴奏はセムコフとコンセルトヘボウ管という一流オケです。ライヴですが、完璧な演奏ですね。第1番も名演ですが、第2番もこの曲を代表するような演奏を繰り広げています。
第1楽章は少し重厚さと色彩感のあるコンセルトヘボウ管の伴奏で始まります。ブレハッチは技巧的なパッセージを明るさと秋を思わせるような枯淡のある音色で弾いていきます。即興的なパッセージはスリリングさがあり、中間部では良く盛り上がっています。
第2楽章はブレハッチの真骨頂です。伴奏は少しクールで透明感のある音色で支えています。ピアノは爽やかさのあるメロディを軽妙に弾いていきますが、少し影のある表現でとても感情が入っています。「コンスタンツィヤ・グワトコフスカへの想いを表現した」という通りに美しいメロディを絶妙に弾いていきます。
第3楽章はマズルカの複雑なリズムで盛り上がります。ピアノは細かいパッセージですが、マズルカ風の舞曲としてちゃんと聴こえてきます。高音質だからか、弦のコル・レーニョもよく聴こえます。木管とピアノの掛け合いも色彩感があります。ホルンのファンファーレも印象的で、そこからピアノはさらに盛り上がっていきます。
ピアノもオケもレヴェルが高く、現在もっともスタンダードで優れた名盤と思います。
ピアノ:ベンジャミン・グロヴナー,チャン=ロイヤル・スコテッシュ管弦楽団
ベンジャミン・グロヴナーのピアノ独奏と女流指揮者のエリム・チェン、ロイヤル・スコテッシュ管の伴奏です。録音は新しく、透明感があり低音までしっかり収録しており、高音質です。グロヴナーは透明な音色で、重厚な響きを持つピアノをダイナミックに弾いていき、爽快で気分よく聴けます。
第1楽章は冒頭から透明感があり、哀愁のあるオケの音色と生き生きとした演奏に引き込まれます。2019年録音だけあって、各楽器がとても有機的にアンサンブルしている様子が良く分かります。ピアノは強いアクセントをつけて入ってきます。強弱の幅も大きくダイナミックでメリハリのある演奏です。テンポの緩急の差が激しく、とても情熱的です。哀愁を帯びたメロディは少しテンポを緩めて、味わい深く聴かせてくれます。オケとの息もぴったりでピアノが力強くクレッシェンドしていくと、そのままオケが引き継いでスリリングな演奏を繰り広げます。情熱的で圧倒的な演奏で第1楽章を締めくくります。
第2楽章はスケール大きく始まり、ピアノは甘美にメロディを弾いていきます。小さな色彩感のある音色から華麗な音色まで幅広いボキャブラリーで楽しめます。中間部はさらに盛り上がり、シリアスさと情熱が発散されていきます。
第3楽章は速めのテンポでロマンティックに始まり、マズルカのリズムに乗って演奏していきます。ピアノもオケも情熱的でスリリングです。ピアノの技巧も素晴らしいです。後半、テンポを自由に動かして、木管との絡みも上手く、様々に大きく表現が変化し、飽きさせません。ピアノとオケの絡みは素晴らしく、ホルンソロから盛り上がっていく所など、凄い一体感です。
高音質で、繊細なpからスリリングでダイナミックなフォルテまで、多彩なメリハリのある表情を持つ名演です。こういう演奏は他には少なく、新しい発見もあります。
ピアノ:ツィメルマン, ジュリーニ=ロサンゼルス・フィル
ピアノ独奏はクリスチャン・ツィメルマン、ジュリーニとロサンゼルス・フィルの録音です。音質はしっかり安定したものです。
第1楽章の冒頭はジュリーニの枯れた伴奏ではりまります。第1楽章の冒頭はジュリーニの音楽が良く合います。ツィメルマンの繊細で小気味良い情熱的な演奏で、しっかりした伴奏の上に音楽を作っていきます。第2楽章は落ち着いた伴奏の上で、小気味良く弾いていきますが、とても味わい深い演奏です。伴奏の雰囲気作りが素晴らしく、とても爽やかな秋の情景を思い出してしまいます。ツィメルマンのピアノもそういう味わい深さがありますね。第3楽章は速めのテンポですが、伴奏は少し枯れた音色を響かせています。ツィメルマンはリズミカルに颯爽と入ってきて、民族舞曲的なリズムに乗って鮮やかな演奏を繰り広げます
なおツィメルマンには後年ポーランド祝祭管弦楽団を振り弾きしたディスクもあり、こちらも名盤です。ジュリーニの枯れた味わい深さを取るか、ベテランとなったツィメルマンとポーランド祝祭管弦楽団の小気味良い演奏を取るか、どちらも素晴らしい名盤です。
チョ・ソンジンのピアノ独奏に、ジャナンドレア・ノセダとロンドン交響楽団が伴奏を担当した録音です。
アヴデーエワ,ブリュッヘン=18世紀オーケストラ
2010年ショパン国際ピアノコンクールで優勝したユリアンナ・アヴデーエワが1849年製のエラールのピアノを弾いたピリオド演奏です。女性ピアニストの優勝はアルゲリッチ以来とのことです。初演が1830年なので、オケはピリオド奏法といっても完全な古楽器奏法とは違うと思います。18世紀オケも恐らく、弦は逆ぞりの弓ですかね。
第1楽章は18世紀オケの演奏で始まりますが、ブリュッヘンはベートヴェンのように力強く演奏していきます。トラベルソ(木管フルート)の音色がとても合っています。ピアノは昔のピアノなので、木の音色がします。アヴデーエワはこのピアノを使って、ショパンらしい色彩的な響きを引き出しています。感情表現も情熱的でロマンティックであり、自然な哀愁はモダンのピアノより味わい深いと思います。盛り上がってくるとテンポを速めていきますが、ブリュッヘンと18世紀オケとの息はぴったりで、一緒に激しく盛り上がります。
第2楽章は自然美に溢れる音色で始まります。ピアノはメロディを自然体でロマンティックに弾いていきます。このメロディはやはり当時のピアノを使った方が自然にロマンティックさを表現できるのかも知れません。中間部はとてもシリアスです。当時のピアノの表現力は、現在のピアノには及ばないかも知れませんが、この楽章を弾くなら、当時のピアノにしか出せない自然さのある音色が相応しいと感じました。
第3楽章はアヴデーエワのマズルカのリズム感が素晴らしいです。18世紀オケはダイナミックに、スケール大きく盛り上げます。弦のコル・レーニョの所は、18世紀オケの音色もあって、素朴な舞曲になっています。当時のピアノでも華々しい技巧的なパッセージも弾きますが、やはり素朴さがあるので、現代のピアノでは表現できない物も多いと感じます。
少し長くなりましたが、やはり古楽器での演奏は新しい発見が多いです。ショパンを深く知りたい人には是非聴いてほしい貴重な名盤です。
ルービンシュタイン,スクロヴァチェフスキ=ロンドン新響
巨匠ルービンシュタインのピアノによる演奏です。伴奏は指揮は若い頃のスクロヴァチェフスキとロンドン新交響楽団の組み合わせです。古き良き名盤、という雰囲気に満ちた演奏です。録音の音質も当時としては良く、聴きやすいです。歴史的名盤の位置づけですが、今聴いても新鮮さがあります。
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演奏の映像(DVD,Blu-Ray,他)
ピアノ:エマニュエル・アックス, ハイティンク=ベルリン・フィル
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楽譜・スコア
ショパン作曲のピアノ協奏曲第2番の楽譜・スコアを挙げていきます。