フランツ・シューベルト (Franz Schubert,1797-1828)作曲の『ロザムンテ』、正式には劇音楽『キプロスの女王ロザムンデ』Op.26 (Rosamunde, Prinzessin von Zypern)について、解説とおすすめの名盤レビューをしていきます。ワンストップでスコアと楽譜まで紹介します。
劇音楽『ロザムンテ』は、序曲の演奏機会が多く、全曲が演奏されることはあまりありませんが、美しく親しみやすいシューベルトらしいメロディが多く、有名なメロディがいくつも入っています。有名なのは、ロザムンテ序曲、間奏曲第3番、バレエ音楽などです。
解説
シューベルトの劇音楽『ロザムンデ』について解説します。
作曲の経緯
女流作家ヘルミーネ・フォン・シェジーの戯曲『キプロスの女王ロザムンデ』のための音楽です。ヘルミーナ・フォン・シェジーはドイツのロマン主義の詩人、劇作家です。ウェーバーのオペラ『オイリアンテ』の台本作成とこの戯曲『キプロスの女王ロザムンデ』の作家としてのみ名前を残しています。
シェジーはウェーバーのオペラ『オイリアンテ』の台本を書き、1823年10月に初演されましたが不評でした。そのため、急遽、戯曲『キプロスの女王ロザムンデ』を書き、シューベルトに劇音楽の作曲を依頼します。ウィーンのアン・デア・ウィーン劇場で1823年12月20日に初演されましたが、こちらも一度の上演で打ち切りになってしまいました。
シューベルトはこの戯曲のストーリーを気に入っていたようですが、2カ月程度で作曲したため、速筆のシューベルトでも作曲が間に合わず、流用や転用が多くなっています。しかし、結果としては親しみやすく名曲揃いとなり、初演当時から音楽については評価が高かったようです。
まず、序曲は、初演時には歌劇『アルフォンソとエストレッラ』D732の序曲を転用しています。その後、『魔法の堅琴』序曲 D644から転用に変えられています。また、『未完成』交響曲の第3楽章、第4楽章が転用されていると言われています。間奏曲第1番が第4楽章にあたるという説があります。確かに劇音楽の間奏曲としてはダイナミックな曲です。また、第3楽章も『ロザムンデ』に流用されたと言われています。
あらすじ
『ロザムンデ』の台本は散逸した、とされていました。しかし、発見され1996年に出版されました。
ロザムンデはキプロス王の娘で、彼女が2歳の時に父が死に、父の遺言により貧しい船乗りの未亡人アクサに預けられ18歳になるまで養育された。それを知る市長アルバヌスが、彼女が18歳の誕生日に、長い間死んだと思われていたロザムンデが健在で、キプロスの唯一の正当な統治者であることを布告する。
しかし、それまでの代理の統治者であったフルゲンティアスが、支配者という地位を失わないよう、ロザムンデを自らの妻に迎えようとするが、それに失敗する。すると今度は暗殺しようとする。ロザムンデの暗殺を防いでのはマンフレートという青年で、実は彼はロザムンデが幼少の頃から定められていた婚約者のカンディア王子アルフォンスであった。
フルゲンティアスはロザムンデ暗殺のために用意した毒の罠に誤って自らハマってしまい、自滅してしまう。最終的に、ロザムンデとアルフォンスが結ばれてハッピーエンドとなる。
Wikipediaより
曲の構成
劇音楽『ロザムンテ』は、序曲、バレエ音楽、間奏曲など、劇の合間に演奏される音楽を中心に成り立っています。
序曲
『魔法の堅琴』序曲 D644から転用された序曲です。『ロザムンテ』序曲として有名になっています。
第1曲:間奏曲 第1番 (Allegro molto moderato)
第2曲:バレエ音楽 (Allegro moderato)
第3曲a:間奏曲 第2番 (Andante)
第3曲b:ロマンス「満月は輝き」(Andante con moto)
第4曲:亡霊の合唱「深みの中に光が」(Adagio)
第5曲:間奏曲 第3番 (Andantino)
おだやかで美しい間奏曲で、とても有名なメロディで、BGMなど、様々な所で耳にします。
第6曲:羊飼いのメロディ (Andante)
第7曲:羊飼いの合唱「この草原で」 (Allegretto)
第8曲:狩人の合唱「緑の明るい野山に」 (Allegro moderato)
第9曲:バレエ音楽 (Andantino)
最後の曲ですが、穏やかなバレエ音楽です。このメロディも有名ですね。
おすすめの名盤レビュー
それでは、シューベルト作曲劇音楽『ロザムンデ』の名盤をレビューしていきましょう。
アバド=ヨーロッパ室内管弦楽団、他
アバドとヨーロッパ室内管弦楽団の演奏です。合唱も入っています。ヨーロッパ室内管弦楽団の小編成で透明感のある響きはシューベルトによく合っています。木管のレヴェルの高さもこの曲に相応しいです。曲順は解説で説明したものとは異なっています。
第1曲の間奏曲第1番は溌剌としていてスケールが大きく、『未完成』のフィナーレだった、と言われるこの曲をしっかり演奏しきっています。第3曲「亡霊の合唱」では実際に合唱が入り、しなやかで深みのある雰囲気を出しています。有名な間奏曲第3番はイメージ通りの演奏で、しなやかで透明感があります。小編成ならではの小気味良さも良いですね。木管の音色は高音質と相まって、とても透明感があり、情緒があります。ロマンス『満月は輝き』はメゾ・ソプラノがひんやりした雰囲気を醸し出し、夜のロマンティックな雰囲気満点です。バレエ音楽アンダンティーノは、シューベルトらしい素朴でリズミカルなメロディを繊細に再現していて、とても良い響きです。
初めて『ロザムンテ』全曲を聴く人に文句なくお薦めできる名盤です。
フロシャウアー=ケルン放送交響楽団、他
ヘルムート・フロシャウアーとケルン放送交響楽団、ケルン放送合唱団、他による劇のセリフ付きの貴重な演奏です。このディスクを聴くと、ドイツ語の意味は聴き取れなくても、話しぶりから、どの曲がどのようにセリフに絡めて使われるかがよく分かります。演奏はケルン放送交響楽団の少し重厚でいぶし銀の響きで、なかなか味があります。やはり劇音楽なので、ナレーションが入っているとリアリティがあります。フロシャウアーは速めのテンポ取りで、悲劇的な表情を上手くつけてロマンティックな演奏をしています。
序曲は序奏からロマンティックでダイナミックです。モダンオケをしっかり鳴らしています。主部に入るとシューベルトらしいメロディを小気味良く聴かせてくれます。なかなか力強く情熱的な演奏です。間奏曲第1番は、ロザムンデらのセリフや嵐の音(ティンパニ)が入っていて15分です。曲が始まるとフルオーケストラでの迫力と悲壮感が良く感じられます。確かに場面に相応しい劇的な音楽であることが分かります。音楽にセリフが上手い具合に入ってきます。強弱などもセリフが入る所は弱めになっています。
間奏曲第3番は劇のセリフとかぶって始まります。有名な曲ですが、なるほど、劇の間奏としても効果的な音楽であることが分かります。
『ロザムンデ』はセリフが無いと唐突な感じがする音楽がいくつかありますが、セリフが入っているととてもナチュラルに聴くことが出来ます。ただ、音楽にセリフが被るので、音楽を聴きたい人にはお薦めできないですけど。セリフ(ナレーション)付きのディスクは貴重ですし、演奏もなかなかセンスが良く、ケルン放送交響楽団の実力は折り紙付きです。
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楽譜・スコア
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